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2023-05-01
「医療的ケア児」とは、医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)などに長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう使用するなど、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたちのことです。全国の医療的ケア児の数は増加傾向にあり、2021年の在宅の医療的ケア児は推計約2万人に上るとされています。
出典:厚生労働省令和3年度障害者総合福祉推進事業「医療的ケア児について」よりPwC作成
医療的ケア児の支援の充実を目指して、2021年9月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)が施行されました。この法律は、
という2点を目的とし、国や地方公共団体などが果たすべき責務や、保育所の設置者や学校の設置者などの責務、医療的ケア児支援センターにおける支援措置を定めています。今後、都道府県における医療的ケア児支援センターの設置が拡充することで、医療的ケア児の家族らからの相談に対して情報や助言を提供したり、市町村等の地域の支援の現場からの調整困難事例の相談や、地域の医療的ケア児の状況の共有や研修の実施などに総合的に対応できたりするようになることが期待されます。
医療的ケア児の支援に関しては、以下の4つの課題があると指摘されています。
ここでは、「医療的ケア児の人数の把握」「医療的ケア児等コーディネーターの配置」「医療的ケア児支援センターの設置」の3点について、当社が厚生労働省の補助を受けて2021年度に実施した調査研究(以下、調査研究)の結果などを踏まえて、現状や課題を整理します。
医療的ケア児の把握については、障害児福祉計画において把握することが求められています。しかし、身体障害者手帳などから定型的に把握することができず、統一的な調査方法が確立されていないのが現状です。
PwCコンサルティングの調査研究によると、医療的ケア児の人数を把握できている割合は約7割であり、一定程度把握されていることが分かりました(図表2参照)。しかし、把握にあたって、医療的ケア児の網羅性や、実施に際しての負担などに課題を感じている自治体が多いことも明らかになりました。また、医療的ケア児の定義や、医療的ケア児数を把握する際の対象年齢など、自治体によって把握する目的が異なるため、目的に応じて各自治体で工夫しながら定義し、把握していることも判明しました。
出典:厚生労働省令和3年度障害者総合福祉推進事業「医療的ケア児の実態把握のあり方及び医療的ケア児等コーディネーターの効果的な配置等に関する調査研究」事業報告書(https://www.mhlw.go.jp/content/000942476.pdf)よりPwCコンサルティング作成
医療的ケア児等コーディネーターは、第2期障害児福祉計画において、都道府県および市区町村ごとに新たに設置することが規定されました。
調査研究によると、コーディネーターを配置している都道府県は約 35%、市区町村は約10%で、全国的に見るとコーディネーターの配置があまり進んでいないことが分かりました。配置が進んでいない理由としては、予算や人員の確保が困難であることのほか、都道府県と市区町村で役割分担が不明確であることなどが挙げられました。また、配置をしている自治体は、ノウハウの共有や人材育成、必要な知識・スキルを持った人材の確保、必要人数の把握といった点を課題に感じている実態も明らかになりました。
また、コーディネーターの役割は、個別ケースに対するサービス調整のほか、関係機関との連絡調整、協議の場への参画、研修の実施など多岐にわたります。実際に調査研究の結果を見ると、コーディネーターが期待される役割は自治体によって異なっており、地域の支援ニーズを踏まえて、効果が出やすい形でコーディネーターを配置・活用していく必要があると考えられます。
医療的ケア児支援法で規定されている医療的ケア児支援センターについては、相談機能を有することが求められており、医療的ケア児等コーディネーターの配置とも密接な関連があります。
調査研究は医療的ケア児支援法の施行前(2021年9月1日時点)に実施されたものですが、医療的ケア児支援センターに期待される機能を持つ組織や機関を有すると回答した都道府県は約40%、市区町村は約15%にとどまっており、多くの自治体には医療的ケア児支援センターのような機能を持つ組織や機関が存在しないことが明らかになりました。自治体での実装を進めるためには、
などの機能を充実させていくことが求められるでしょう。
またヒアリング調査結果から、医療的ケア児支援センターの設置方法は、
①既存の組織・機関にコーディネーターを配置してセンター機能を付加する方法
②医療的ケア児支援センターを新たに開設する方法
の2つに分類されました。医療的ケア児支援センターと医療的ケア児等コーディネーターで役割分担している場合や、連携している場合など、自治体の実情にあわせてさまざまな形態があることも明らかになりました。
調査研究の結果から、「医療的ケア児の人数の把握」「医療的ケア児等コーディネーターの配置」「医療的ケア児支援センターの設置」の3点について、今後、医療的ケア児の支援を充実させていくために必要な方策も明らかになりました。
前述したとおり、都道府県・市区町村はさまざまな方法を用いて医療的ケア児の実態把握に取り組んでいますが、その目的によって調査方法も変わってくるものと考えられます。
例えば、国が施策を検討するための基礎資料として数を把握したい場合は、なるべく網羅的に把握する必要があり、レセプト情報に基づく把握や、就学時に関する教育関係部局における把握が中心になると考えられます。
一方、国や自治体が具体的な施策を検討する際の参考資料として実態を把握したい場合は、支援機関(医療機関や障害福祉サービス事業所など)や家族に対する調査が中心になります。
そのほか、母子保健部局や教育関係部局などで把握した情報を一元化することで、支援を必要としている医療的ケア児の把握につながることも考えられます。
医療的ケア児等コーディネーターの配置方法については、以下の3点を考慮する必要があると考えられます。
また医療的ケア児を支援する際には、さまざまな領域の関係機関と連携して直接的な支援を行うほか、地域課題の抽出・解決に取り組んだり、地域の医療的ケア児等コーディネーターの活動支援を行ったりする、間接的な支援も役割として期待されています。そのため、都道府県や圏域、市区町村といったそれぞれの単位で、人的資源の状況を踏まえながら、医療的ケア児等コーディネーターの配置や役割を整理することが求められるでしょう。その際、人材育成やノウハウ共有といった観点にも留意することで、より効果的な取り組みにつながると期待されます。
医療的ケア児支援センターの運営を担う組織は自治体によってさまざまであり、自治体が直接設置するだけではなく、医療的ケア児支援についてのノウハウや知見を有するネットワークを持つ法人に委託するなど、地域資源を効率的に活用することも有用です。特に医療的ケア児数が多い場合や、エリアによって偏在している場合は、分散して設置することも効果的です。
医療的ケア児支援センターの業務は医療的ケア児支援法によって規定されていますが、それ以外にも、医療的ケア児等コーディネーターを育成するという重要な機能・役割を果たすことが求められています。医療的ケア児の支援は、医療、保健、福祉、教育と多岐にわたり、他分野の施策と整合性のある支援体制を構築する必要があります。そのため、各都道府県や中核都市などに設けられている難病相談支援センターや移行期医療支援センターとの連携も重要になってくるでしょう。
そのほか、医療的ケア児の支援には、医療と福祉の両面の視点が必要となります。医療的ケア児等コーディネーターの配置と同様、医療職と福祉職など異なる専門性を持つ人材を組み合わせて配置するなど、必要な人材を確保・配置することが望ましいでしょう。
ここまで医療的ケア児を支援するにあたって課題とされている3点を解消するための施策を紹介しました。このような取り組みを充実させていくことで、医療的ケア児支援法で規定されている医療的ケア児支援センターの設置が進み、医療的ケア児の支援がさらに充実していくことが期待されます。