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第28回世界CEO意識調査(日本分析版)
PwCは2024年10月から11月にかけて第28回世界CEO意識調査を実施しました。世界109カ国・地域の4,701名のCEO(うち日本は148名)から、世界経済の動向や、経営上のリスクとその対策などについての認識を聞いています。
サーキュラーエコノミー(循環型経済:CE)を理解し、「ビジネスの拡大・成長」や「環境配慮」を両立するために必要なアクションとは。2024年8月、PwCコンサルティング合同会社は製造業におけるCEのトレンドや、CEを組織的な取り組みへと進化させる方法などについて自然を守ることで持続可能な社会構築に取り組む国際NGOコンサベーション・インターナショナルのジュール・アメリア氏と意見交換を行いました。(文中、敬称略)
左から藤堂真以、齊藤三希子、鈴木麻美子、ジュール・アメリア氏、茂又弘訓
■登壇者
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン
カントリーディレクター ジュール・アメリア氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター 齊藤 三希子
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター 茂又 弘訓
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー 鈴木 麻美子
■モデレーター
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト 藤堂 真以
藤堂:気候変動や資源枯渇、廃棄物問題など、地球規模での環境課題が深刻化する中、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」という直線型の経済モデルから、資源を循環させるCEへの転換が急務となっています。
特に製造業は、原材料の調達から製品の設計・生産、使用後の廃棄に至るまで、環境に対する負荷が大きく、影響範囲が広い産業として、経済モデルの転換の中心的な役割を担うことが期待されています。
経済モデルの転換で期待される存在である製造業のCEのトレンドについて教えてください。
アメリア:
国内のエアコンメーカーがエアコンのサブスクリプションサービスを始めたり、海外のヘルスケア用品メーカーなどがProduct as a Service(PaaS)を始めたり、自社製品の提供方法が多様化しています。これらは、モノを所有して使うことが当たり前だった従来型のライフスタイルを変える循環経済型のサービスで、廃棄物の削減やリサイクル促進といったCEによる環境負荷の低減効果が期待できます。
藤堂:
製造業で循環経済型のサービスが増え始めた背景にはどのような変化があるのでしょうか。
アメリア:
最も大きな理由は、ユーザーの所有意欲の低下など、ニーズが大きく変化したことにあると考えられます。所有という形ではなく、必要な製品を必要な時に使いたいと考える人たちのニーズが大きくなっています。
鈴木:
私たちが支援する業界では近年、製品の提供方法に変化が見られます。特にB to B市場において、新しいビジネスモデルの一例として、従来は製品販売が中心だった産業機器メーカーが、クライアントの生産性向上を実現するサービスとして提供するケースが出てきています。これは、クライアントが求める価値が「設備を導入する」ことから「より良い結果を柔軟に実現できる」ことへと変化していることを示唆していると考えられます。
藤堂:
人口が右肩上がりで伸びていた時代と違い、今はモノが溢れ人も減っています。消費者の所有欲の変化と、所有することの価値が低下している現実を認識することで、CE分野で新しいビジネスを生み出すチャンスがありそうですね。
アメリア:
価値観の変化を実感として理解できるかが大事だと思います。世代的な特徴もあるのかもしれませんが、例えば、娘を見ていると所有欲や物欲が全くないのだなと感じることがあります。先日、自転車を買う際に「何色が欲しい?」と聞いたら「何色でもいい」という答えが返ってきました。
藤堂:
色のこだわりがないのですか。
アメリア:
それ以前の話で、色を選んだり決めたりするのが面倒と言うのです。これは驚きました。
茂又:
モノの機能を本質的に理解しているのでしょうね。自転車は移動手段であり、それ以上でもそれ以下でもないという捉え方をしているため、所有欲やこだわりが生まれないのかもしれません。
アメリア:
若い人たちが全てそうだとは思いませんが、私とは違う感覚を持つ人たちがこれからの市場の主体になっていくのだなと感じました。
齊藤:
年代による所有の意識差は私も感じることがあります。例えば、非常に多くの色やデザインから選べる学用品があるとして、そこまでの選択肢は必要ない、と感じる人が増えているのではないでしょうか。
藤堂:
ターゲット層である子どもたちの間でモノへのこだわりが薄れているとすれば、そのニーズとは戦略と言えるかもしれません。
齊藤:
私たちや、それ以上の年代の発想と学用品の購入者の世代の価値観に相違があると考えられます。学用品の所有者は、アメリアさんの娘さんのように、選ぶことや自分のお気に入りを探すことを面倒と感じている可能性があります。CEをビジネスと結びつけるためには、世代の壁を越えて消費者の価値観を理解する必要性を感じます。
藤堂:
価値観の変化は製造のプロセスにどのような影響を与えますか。
アメリア:
リサイクルやリペアも、サブスクリプションやPaaSも、CE推進という点では共通点があります。それは、製品の長寿化につながることです。メーカーは、マーケティング戦略として新製品への買い替え需要を意識する必要があり、「計画的陳腐化」の観点でものづくりをしなければならない側面がありました。しかし、サブスクやPaaSで収益を得るためには、できる限り長くユーザーに使ってもらうことが重要です。つまり製品を長持ちさせることを目指して、設計、製造、デザインに取り組む必要があり、ものづくりの姿勢が大きく変わるのです。
鈴木:
製品の長寿化は、単なる環境配慮だけでなく、新たなビジネスモデル構築の機会にもなります。例えば、サブスクリプションモデルの導入により、安定的な収益を確保できる可能性が広がります。また、修理サービスの提供は、顧客との長期的な関係構築にもつながり、新たな価値創造の機会になると考えられます。
藤堂:
長く使える製品を作ることは、作り手としては正しい姿勢といえますね。
アメリア:
そう思います。買い替えのサイクルが長くなるほどリサイクルできない廃棄物などが出にくくなるため、環境保全の面でもCE推進の面でも、このようなトレンドはものづくりの「あるべき姿」に近づいている変化だと思っています。
茂又:
ビジネスの観点では、サブスクやPaaSなどはCE分野の取り組みが新たなビジネスの創出につながることを証明する実例といえます。若いメンバーがそのようなアプローチで企業の成長の方向性を考えることは、企業の未来をつくる上で健全といえます。未来創造に貢献する仕事や企業には人も集まるため、製造業全体にとっても良い変化です。
藤堂:
CEとビジネスとの紐づけでは、収益性や企業の価値向上といった効果を具体的に示すことが難しいという課題がありますが、その点をどう企業は捉えるべきでしょうか。
茂又:
環境保全の面では一定の効果を生み出している取り組みでも、事業モデルが不完全だったり、収益化の計画ができていなかったりすることによって事業として立ち行かなくなる事例もあります。CEのビジネス化は数多くのケースがあり、成功と失敗の事例も過去から学習できるため、それらの情報をフィードバックとして活用しながらビジネスの観点で収益性や事業性を正しく評価することが重要です。
藤堂:
目に見える成果や数字だけでなく、中長期での効果や、数値化しにくい効果などにも目を向ける必要がありますね。
茂又:
ビジネスでは短期間での成果が求められることが多いのですが、時間軸を変えると、地政学リスクの点で事業のレジリエンスが向上した、中長期では経済合理性があるといった効果が見えることがあります。異なる視点で効果を可視化することで評価が全く変わり、新たなビジネスチャンスが見えることもあると思います。
藤堂:
PwCコンサルティングとしても、こうした変化に対して多くの企業に貢献していきたいと考えています。
図表1:CE実現に向けたサーキュラーデザイン
藤堂:
CEの実現に向けて、テクノロジー業界はどのような役割を果たせるのでしょうか。
鈴木:
各業界が循環型経済へ移行する中で、テクノロジー業界には大きな期待が寄せられています。AIやIoT、ブロックチェーンといった技術は、この移行を加速させる重要なツールとなるでしょう。
アメリア:
テクノロジー業界として、具体的にはどのような貢献ができるのでしょうか。
鈴木:
循環型社会の実現には、製品の設計段階からライフサイクル全体を考える必要があります。テクノロジー業界には、この課題を解決するソリューションを提供する役割があります。また、デジタル技術を活用することで、リサイクルや再利用の新しい取り組みを作り出すことができます。業界全体で知見を共有し、イノベーションを促進させることが重要です。
茂又:
具体例としては、植物由来素材の複合技術を活用し、農産物加工で生じる副産物を原料とした環境配慮型の生活用品を開発する取り組みなどが見られます。こうした試みを通じて未利用資源を有効活用し、従来にない植物性材料の配合を実現することで、環境負荷の低減と新たな付加価値の創出を同時に達成することなどが可能となります。また、地域の産業と連携することで、循環型のものづくりモデルを構築することができます。また、デジタル技術を活用したモビリティシェアリングや、機器の「所有」から「利用」へのシフトも進んでいます。例えば、IoTを活用した電動自転車のシェアサービスや、冷凍冷蔵設備を月額で提供するサブスクリプションモデルの展開などが挙げられます。製品設計段階から再生材料の活用を考慮し、使用済みの製品の回収・リサイクルシステムを構築すれば、資源の循環利用を実現できます。このように、サービス化と環境配慮型製品開発を通じた、CEの実現に向けた取り組みは着実に進展しています。
藤堂:
CEは、テクノロジー業界にとって新たな事業機会でもありますね。環境課題の解決と経済成長の両立に向けて、業界全体で取り組みを加速させていく必要がある中、国内でも電機メーカーなどがCE型事業の創出を積極的に推進しています。シェアリングサービスの導入や、照明器具の所有ではなく照明機能の提供を行うモノのサービス化、工場排出物をクリエイティブなデザインにより全く別のプロダクトとして新たな価値を創出するリバリュープロジェクトなどが行われています。国内のCEをリードする企業が増えてきており、業界の中でCEが活性化されることが予測できます。
藤堂:
サプライチェーン上では、気候変動によって原料や素材を調達できなくなるリスクが存在します。事業継続のリスクからCEの重要性を認識することもできますね。
茂又:
それも有効なアプローチです。事業継続の危機を出発点とすることで、改めて事業活動による環境負荷や、原料輸入のコスト増に目が向くようになり、新たな対策を考えるきっかけになります。原料や素材の調達は取引先にも影響する課題ですので、リスクを正しく共有することで、サプライチェーン全体でCEの意識を高めることができます。
齊藤:
私たちは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応の情報開示なども支援しています。中には長期的な計画の中で、平均気温の上昇が事業にどのような影響を与えるかをシミュレーションし、公表しているメーカーもあります。気温上昇が進んだ場合、その影響によって原料調達ができなくなり、製品の販売が減ることも想定されます。そうした情報を企業が自ら開示することは意識の変化の現れと受け取れます。
藤堂:
気候変動によって自分たちの事業が成立しなくなることを自分たちで明らかにしているわけですね。
齊藤:
リスクと積極的に向き合い、数値化して分かりやすくまとめれば、グループ内の危機感を喚起し、CEや環境保全の取り組みを加速させることにつながります。非財務情報開示では、こうしたシミュレーションを各社が主体的に行うことが重要だと思います。気候変動が事業リスクとなることは他の企業も同じはずです。危機感の共有は環境を意識した行動へと変えていく1つのきっかけになると思います。
鈴木:
気候変動への対応において、企業活動と環境への配慮を調和させることが重要な課題となっています。環境負荷を把握し、継続的な改善を進めることが、企業の持続可能性を高めることにつながります。環境負荷の低減に向けた取り組みは、リスク管理の観点からも重要です。より実践的な管理体制への転換を通じて、社会と調和のとれた事業活動が可能になると考えています。
アメリア:
とても良い取り組みですね。環境関連の活動は、事業リスクを抑える一方で、ビジネスチャンスにもなります。危機感と希望のバランスをとりながら事業の成長シナリオを考えることで、気候変動の時代を生き残っていく戦略が見えやすくなり、イノベーションも生まれやすくなると思います。
藤堂:
CE推進は、ビジョンや理念に基づく全社的な取り組みと原料調達などのリスク・危機感を出発点とする現場主導のアプローチがありますが、どちらが望ましいでしょうか。
齊藤:
理念を掲げ、売上やコストを見ずに取り組むのも1つの方法だと思いますが、現実にはビジネス面の考慮も必要です。社会貢献とビジネスの両立が重要です。
アメリア:
理念なしにはCE推進は難しいです。現場が目的を理解できないと、取り組みは途中で頓挫してしまうでしょう。
茂又:
国内では、大手メーカーの経営層の中でもCEへの理解は徐々に広がっていますが、人的資本の価値に対する認識が不十分な人や投資対効果を懐疑的に見る人もいます。そうした方々にいかにコミットしてもらい、中長期的な視点を持って投資を適切に判断するかが重要です。
藤堂:
理念を中心とする組織的な取り組みをどのように構築すればよいでしょうか。
茂又:
トップダウンで、ソーシャルグッドの姿勢を示し、CEへの誇りを持つ組織風土を創ることが重要です。
藤堂:
企業のSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)のアプローチも有効と考えられます。企業が目的やビジョンを定め社内外に浸透させていく中で、CEを推進していくことも有効と考えられますね。
藤堂:
理念浸透には具体的な施策が必要ですね。
アメリア:
現場のメンバーが理念や価値を咀嚼して理解しなければ行動は生まれません。
齊藤:
そこはCE推進の大きな課題ですね。私たちが支援をする中でも、本社方針としてCE推進に力を入れていることを理解しつつも、自分たちの行動や成果が評価に反映されないことに不満に感じているという現場の声を耳にすることがあります。
藤堂:
協力しても成果を出しても評価が変わらず、インセンティブが働かないわけですね。
齊藤:
インセンティブを目的に仕事をすることが良いとはいえませんが、サステナビリティ方針には、人事評価との連動が不可欠です。
茂又:
人事評価制度とともにKPIを設定することもCEを推進する上で重要だと考えられます。具体的な目標が定まっていない場合、部署や個人の「循環型社会を確立したい」「環境負荷を抑えたい」といった想いを原動力とするしかありません。もちろん想いは大事ですが、KPIがあれば組織内で誰が何に取り組むかが明確になり、より多くの人が責任を持って関わりやすくなります。
齊藤:
部門長やリーダーもKPIの達成状況を見ながら具体的な指示を出しやすくなり、組織としても取り組みやすくなりますね。
茂又:
グループ企業内での連携も成果に応じたインセンティブが重要です。KPIと非財務情報を連動することによってグループ全体としてのCEの取り組みも分かりやすくなります。
藤堂:
理念や想いを表現するメッセージを掲げるだけでなく、KPIの設定や活動状況のモニタリングといった細かな点を仕組み化することでCEの施策も機能しやすくなりますね。
図表2:PwCコンサルティングのSX支援内容
そのような知見を生かしながら、CEを通じたクライアントの生産性と企業価値向上を支援していきたいと思います。本日はありがとうございました。
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PwCは2024年10月から11月にかけて第28回世界CEO意識調査を実施しました。世界109カ国・地域の4,701名のCEO(うち日本は148名)から、世界経済の動向や、経営上のリスクとその対策などについての認識を聞いています。
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自然を守ることで持続可能な社会構築に取り組む国際NGOコンサベーション・インターナショナルのジュール・アメリア氏に、サーキュラーエコノミーをテーマに製造業における企業の持続可能性に必要なアクションについて伺いました。
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テレコム業界の企業にとって、グループの経済圏の覇権を争う中核となる「通信×金融決済」領域の事業サポートを担うプロフェッショナルが、現状と今後の方向性について語りました。
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シリーズ第2回では、テレコム事業者におけるネットワークインフラの運用保守改善の必要性や、改善すべきポイントに焦点を当て論じます。また、次世代ネットワークインフラをどのように実装していくべきか、段階ごとに切り分けて考察します。