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テクノロジー・メディア・情報通信における世界のM&A動向:2025年の見通し
AIブーム、テクノロジーとビジネスモデルの継続的なディスラプションに伴い、テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)分野のM&Aは2025年も活発に行われる見込みです。
「ビジネスの拡大・成長」と「経済活動における環境配慮・保護」を両立し、企業の持続可能性を実現するためにはどのようなアクションが必要となるのか。2024年8月、PwCコンサルティング合同会社はサーキュラーエコノミー(循環型経済:CE)をテーマに、自然を守ることで持続可能な社会構築に取り組む国際NGOコンサベーション・インターナショナルのジュール・アメリア氏と意見交換を行いました。(文中、敬称略)
(左から)藤堂真以、齊藤三希子、鈴木麻美子、ジュール・アメリア氏
■登壇者
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン
カントリーディレクター ジュール・アメリア氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター 齊藤 三希子
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー 鈴木 麻美子
■モデレーター
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト 藤堂 真以
藤堂:
CEは、カーボンニュートラル(CN)、生物多様性、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)といった今後の企業活動における重要なアジェンダに対して、廃棄物削減や再生可能エネルギーの活用、新しいビジネスモデルの創出をはじめとしたさまざまな取り組みを通じて環境への負荷を軽減しながら、経済成長と持続可能性の両立を目指す取り組みです。循環型経済という大きな概念であるCEをどう捉えていますか。
齊藤:
私たちは、CEは環境負荷軽減につながると同時に、新規ビジネス創出およびさまざまなビジネスの課題を解決する手段でもあると捉えています。主な効果として企業の資源調達の課題を解決することが期待され、とくに少資源国である日本では積極的に取り組む価値がある新しい経済活動だと考えています。
藤堂:
自然・環境分野からの視点では、CEとビジネスをどのように認識されていますか。
アメリア:
自然とビジネスの根本的な関係として、健全な自然環境が確立している状態で社会、経済、ビジネスが成立します。日々のビジネス活動では忘れられがちなのですが、きれいな空気や水があり、気候が安定しているからこそ生態系が正常に維持され、食料をはじめとするさまざまな原材料が安定して入手でき、ビジネスが行われ、経済活動が成り立ちます。
CEは、背景にある自然環境を考慮し、ビジネスを行うための重要な概念であると理解しています。
齊藤:
たしかに目先のビジネスを行っていく際に、その背景にある自然環境について考えるケースは少ないかもしれませんね。クライアントの支援においても、中長期の調達リスクに対策するために、代替できる原材料を探す、サプライチェーンを変えるといった課題は認識されていますが、自然環境の維持・保護といった事については、目の前に迫った危機ではないため重要な経営課題と捉えている企業はまだ少数であると感じます。
アメリア:
ビジネス起点では人が自然を支配していると考えがちですが、実際には、社会活動や日々の生活まで含めて、あらゆる人間の未来は、自然の健全性に深く依存しています。つまり経済は環境の「完全子会社」であるわけです。そのような視点を持ってビジネスや経営のトランスフォーメーションを推進していく企業が、この先の市場で生き残っていく企業になると思います。
アメリア:
私たち国際NGOは、生物多様性がグローバル規模で急速に失われていることを注視しています。WWF(World Wildlife Fund:世界自然保護基金)が発表している「Living Planet Report(生きている地球レポート)」は、1970年代頃からの経済発展と都市開発などによってさまざまな地域で生態系が破壊され、生物の生息地が汚染されてきたことをデータで示しています。また、CE社会への移行を目指すNGOのエレン・マッカーサー財団によると、失われた生物多様性の90%は資源採掘など経済活動によるものであるというデータがあります。
齊藤:
経済活動が自然環境に影響を与えていることは多くの人が認識しています。次のステップは環境負荷軽減のための施策を実行に移していくことだといえますね。
アメリア:
はい。生物多様性の危機の実感が薄い今は、まだCEのイノベーションの余地があると思っています。言い換えると、日々の仕事や生活で危機を実感できるような状態になってしまったら末期で、手遅れだということです。その状態になる前に、見えにくい危機を意識し、ビジネスを変革していくことが大事です。
齊藤:
消費者視点で見ると、2024年は世界的にオレンジが大不作に見舞われ、スーパーマーケットやコンビニからオレンジジュースが消え、みかんジュースに代わりました。その背景にも自然環境の変化があるのですが、消費行動が変わるほどのインパクトは生まれませんでした。
アメリア:
CE推進は消費者ではなく企業が危機感を持つかどうかが重要です。そもそもサステナビリティに取り組むためには経済的、時間的な余裕が必要です。それを持ち合わせているのは企業であり経営者であるため、彼らがCEに関心を持ち、勉強することが重要です。
藤堂:
CEの推進にあたっては中長期での成果を見据えつつ、短期的に投資の対象をどう判断するかが重要となります。短期的な視点と中長期的な視点で事業、企業の成長を考える必要がある点に難しさがあるように感じます。
アメリア:
企業は中期経営計画などを踏まえた短期的な収益を追いかけますが、一方では、未来の利益の源泉となる新しい工場を建てたり、新たな市場に参入したり、R&Dに予算を使ったりといった取り組みも行っています。短期的な収益を追いかけながらも、中長期の成長を考える視点はもともとあると思っています。
また、企業にとってのCEは、取り組み始めた当初はコストの負担増となるケースがほとんどです。ただ、ここ数年でESG経営が浸透し、コストの扱いだった各種取り組みが将来のための投資と捉えられるようになりました。企業の非財務情報などを見ても、ESG関連の投資がグローバルで伸びていることが資料や調査で確認できます。
藤堂:
CE推進は、取り組み方次第で企業価値向上や新たな市場への参入に結びつくチャンスになります。ビジネスを通じてCEを推進していくためには何が必要なのでしょうか。
アメリア:
ビジネスと自然の関係性について理解を深めることが一歩目だと思います。例えば、エレン・マッカーサー財団はCEには3つ原則があるといっています。
1つ目は、LCA(Life Cycle Assessment)によって商品のライフサイクルを通じた環境負荷を定量的に評価し、生物にとって脅威となるゴミが出ない商品やビジネスを設計することです。
齊藤:
脱プラスチックが分かりやすい例ですね。海に流出したりマイクロプラスチックとなったりする根源を減らすことで資源の無駄を抑えることができ、生物多様性の保全にもつながります。
アメリア:
2つ目は、素材や製品を質の高い形で循環させることです。例えば、ファストファッションは流行に関心がる人たちから支持されています。しかし、短期売り切り型の大量生産と大量廃棄のビジネスモデルは多くの原材料を消費し、世界人口や中間層の増加に応じて綿などの生産地を拡大し続けなければなりません。このトレンドを変えていくためにはリユースやリペアのマーケットを作り、活性化するといった取り組みが求められます。
齊藤:
リユースやリファービッシュ、リマンに対応する新たなビジネスモデルを設計することで、生物多様性を保全しながらビジネスを持続していくことができるわけですね。
アメリア:
3つ目は、ネイチャーポジティブの取り組みです。ネイチャーポジティブは、生物多様性の損失を止め、自然環境を回復軌道に乗せていくことで、環境団体による保全の取り組みに加えて、持続可能な生産と消費の仕組みを構築し、実行していかなければなりません。ビジネスの観点では、自然の再生を意識することによって従来のビジネスモデルとは異なるチャンスとリスクが見えてきます。
齊藤:
企業側では、原材料の調達リスクが高まっていることや社会的な脱プラスチックの流れを踏まえて既存の素材や原料を別のものに代える検討が始まっています。身近なところでは、昨今は食料品の価格が高くなり、食品業界の各企業が原料調達の危機を感じています。また、生物多様性やファストファッションの課題とは別の要因として、世界的に製品価格が高騰しているため、中古品を買ったり、長く使える製品を選んだりする消費者の意向が増しているように感じます。
アメリア:
新たなビジネスモデルを構築していく中でCEが強く意識されるようになったことは大きな変化だと思います。
藤堂:
CEを含むSX(Sustainability Transformation)の取り組みは、投資効率や収益性の悪化などによって中止になったり規模を縮小したりするケースがあります。また、そういう企業を見て投資に後ろ向きになる企業もあります。CEを中長期で成功させていくポイントはどこにあると思いますか。
アメリア:
CEの取り組みを継続できている企業を見ると、経営者や経営層が強い使命感を持っている、また、その内容を社内に伝え浸透させているという共通点があります。規制対応だけを目的とすると負担が大きい作業になりますが、社会、環境、世の中のためという大きな目的意識を持ち、それを現場の従業員が咀嚼できるようにすることで、モチベーションが高まり、全社で取り組める状況が作れると思います。
齊藤:
事業部主体でCEを実現するのはハードルが高いといえます。経営者の強い意志が問われますね。
藤堂:
CEの取り組みは、CNや生物多様性の取り組みなどを総合的に組み合わせシナジーを生み出すことが理想だと考えています。取り組みの中でどういった課題がありますか?
齊藤:
そうですね。しかし、実際にはトレードオフの要素もあります。例えば、CN実現では化石燃料による発電を再生可能エネルギーや原子力発電へと移行していくことが有効な手段ですが、陸上風力や太陽光パネルの設置のために森を切り拓くことによってその場所に生息していた生物が住み処を失います。こうした課題に対してどこで折り合いをつけるかが非常に難しい気がしています。
資源調達を目的としてサプライチェーンを変えることによって、生物多様性や人権などに対してネガティブな影響が出る可能性があります。SXに関する一つの取り組みのみを見るのではなく、複数の観点からホリスティックに評価していくことが重要ですね。
藤堂:
企業では、部署や事業をはじめ、さまざまな人がそれぞれの立場で経済活動を行っていますが、同じ視点で物事を進めることは容易ではありません。CEを全社の取り組みとして推進していくためには、材料が調達できなくなることや、商品が提供できなくなる状況を想像すること、同じ目的やビジョンを共有することが重要なのではないでしょうか。
齊藤:
リスクを真剣に考えてシナリオを作ることが重要だと思います。企業の未来予測は、こういう未来を作ろう、こういうふうに変えていこうといった「プラス」と「オン」の発想で考えていくことが多いのですが、この資源がないと商品が作れなくなる、ビジネスが立ち行かなくなるなど、「マイナス」と「オフ」の視点で切羽詰まった設定を想定してみることも大事だと思います。
鈴木:
気候変動が事業に対してもたらす機会やリスクの分析については、シナリオプランニングの方法をとって行われることが多いのですが、今後は分析だけでなく、どのような社会になりうるのか、どのような生活者の変化が生まれるのかといった、未来創造の視点を入れていくことが重要となってきます。省資源化によって事業にどのような変化が生まれ、またどのような新たな価値を生み出すことができるのか、これらを同時にみていくことで、自社にとってのCEのあり方がみえてくるのではないでしょうか。未来像を描いてくことで今から何をすべきか、まさにバックキャストによる取り組みが必要だと感じます。
アメリア:
CE、CN、生物多様性がそれぞれ影響し合っているように、材料や製品も単独で存在しているのではなく、サプライチェーン上で結びつき合いながら市場に提供されています。モノが提供されなくなるとビジネスだけでなく生活にも影響を及ぼし、社会不安や金融市場の混乱といったより大きな危機にもつながっていきます。
齊藤:
その危機を差し迫った危機として捉えることも大事ですよね。例えば、50年後に化石燃料がなくなるという前提ではなく、明日なくなったらどうするかといった前提で考えると、手持ちの技術をどのように生かせるか、代替となる材料はあるかといった検討が始まり、ビジネスモデルそのものを見直すきっかけになるでしょう。それくらい大きな危機感を共有することで現場の人たちもCEを自分ごととして捉えやすくなると思います。
藤堂:
大気、水、土壌などの保全、自然環境への影響も顕在化しづらいですが、リスクとして、社会全体に影響を及ぼす要因となり得ますね。生産・消費・分解といった根源的な循環を意識し、社会や人間はどう関わっていく必要があるのかという視点を持ってビジネスを行うことがCE推進において、必要ではないでしょうか。
藤堂:
CEの推進ではサプライチェーンのみならず、既存のビジネスそのものを再構築するケースもあります。その際のポイントはありますか?
アメリア:
「自然はムダを出さない」という原則に立ってビジネスの仕組みを考えることができます。自然のシステムには食物連鎖や栄養循環などがあります。動物の死骸や枯れた植物をバクテリアが分解し、それが新しい命のエネルギーに変わるといった完全循環は、その過程でゴミが出ることなく再生をもたらしています。ビジネスも同様に、資源をムダなく再生できるCE構築が求められています。これは業界や業種を問わずイノベーションのチャンスだと思います。
藤堂:
自然を参考にするイノベーション創出の具体的なアプローチはありますか?
アメリア:
例えば、バイオミミクリー(生物模倣)という考え方があります。生物の「Bio」と模倣を意味する「Mimicry」の造語で、自然界の仕組みをまねて技術開発に活かすという意味です。生物の体の構造をまねて製品のデザインを考えたり、効率よく動く形を考えたりするもので、新幹線の先端部分のデザインはカワセミのクチバシの形状を参考にして作ることで、列車より静かでエネルギー効率が向上されたと言われますよね。
藤堂:
同じ考えでCEのイノベーションも考えるということですね。
アメリア:
米国にはヤモリを参考にした接着剤を使わないカーペットや、森を参考にしてデザインしたカーペットを開発した事例があります。森は自然のものですので配色や柄は全てランダムで規則性がありません。その構造をまねることによってカーペットに使う糸や染料を減らしたそうです。こういう発想も自然にはムダがないという原則にひもづくもので、CEのブレイクスルーに結びつくと思います。
齊藤:
規制対応だけを考えるCEでは、このような発想は出ないでしょうね。自然からヒントを得たアイデアが自然環境の保護につながるのは興味深いと感じます。また、健全な自然環境の中で健全なビジネスが成り立つことを理解し、環境の変化の兆しをどれだけ敏感に察知し、対策できるかが大事ですね。
藤堂:
CE推進では、経営と現場、国内と海外といった多岐にわたるさまざまなアプローチがあります。事業戦略に組み入れることはもちろん、CE推進が本格化していくタイミングの前に、いち早く環境の変化の兆しを察知し、ビジネスに変革をもたらすアクションを起こせるかが、今後のビジネスの成長・拡大において重要ではないでしょうか。
PwCでは、国内はもちろん、欧州をはじめとした各国で生物多様性や資源のリスクを前にしたサーキュラーエコノミーの実現に向けて、開示情報への対応とは別の一歩踏み込んだサステナビリティにおけるアプローチとして、サーキュラーエコノミーの支援を拡大しています。
その取り組みの一つとして、PwCコンサルティングでは、目の前に差し迫った危機に対応し、イノベーションを起こし、ブレイクスルーに結びつけるため、サーキュラーデザインの概念を取り入れビジネス、エクスペリエンス、テクノロジー、サステナビリティの4つの視点・考え方を合わせ、持続可能な環境・社会に求められる独自のアプローチをより早く生み出すことで、リスクを機会に変える支援を行っています。
その取り組みにおけるポイントの一つとして、リスクシナリオのみならず、持続可能な環境・社会に関する未来シナリオを未来創造の専門家とともに導出することで、事業開発における新たな視点を獲得します。
二つ目のポイントは、人間中心設計に加えて、自然環境の視点を取り込んだ今までにない体験設計です。PwCグローバルネットワークで活用されるフレームワークを用いて、バイアスを取り払い、ブラインドスポットを見つけることで、クライアントのビジネスの成長・拡大、信頼獲得につながるアイデアを創出します。
新しいサステナビリティ関連ビジネス(CE含む新規事業など)の立ち上げの支援、未来を見据えたサステナビリティ戦略の策定をはじめとした多様なアプローチを用意し、クライアントのビジネスの成長・拡大、信頼獲得につながる支援し続けていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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