2017-06-14
2016年11月にフランスではコーポレートガバナンス・コード(以下CGコード)の改定が行われました。今回はフランスの新大統領が、このCGコードの改定の経緯にどう関連しているかをご紹介したいと思います。
フランスでは今年5月14日にエマニュエル・マクロン氏が新大統領に就任しました。マクロン氏は、大統領選に立候補する少し前までオーランド政権のもとで、経済・産業・デジタル大臣1をしていました。フランス経済は民営化が進んだものの、主要企業にはいまだフランス政府が大株主となっており、マクロン氏は大臣の時代の2015年に、「企業の株を2年以上保有していた場合、議決権が2倍になる」という法律(フロランジュ法/2014年3月制定)2を行使しています。
フランスのCGコードを策定しているAFEP/MEDEF3は、以前からマクロン氏の政策を支持していました。今回のCGコードの改定も、フロランジュ法をベースに役員報酬に関する開示の強化が行われています。
時系列で振り返ります。高い報酬をとる企業経営者や高額の退職金を払う企業の仕組みに対し、以前からフランス国民は猛反発していました。政府としては、国民の声を聞き、CGコードの原則にある【SAY ON PAY】(企業経営者に支払われる報酬(PAY)について、株主が意見表明をする(SAY)という制度)を政府が大株主である企業に対して実行するために、政府が以前から保有している企業の株式の買い増しを行っていました。この買い増した株式をさらに有効なものにするために、「2年以上の株を保有する株主に対し、2倍の議決権を与える」というフロランジュ法をつくったという見方もあります。
ただし企業経営者の高額報酬を阻止するためだけが法律制定の目的ではないようです。企業の持続的成長を促すというコーポレートガバナンスの原則を尊重するという意味において、株主は長期にわたり企業を応援するべきであるという姿勢を、目に見える形で国民に示したわけです。ではCGコードの原則である【株主平等の原則】はどう考えるか?といった議論もあるかと思いますが、株式の数をもって平等とするわけではない。長期にわたり株式を保有し企業を応援している投資家と、短時間で株式を売買したまたま基準日に株主名簿に名前があり招集通知が送られてきた投資家とは同じ扱いではない、という考えのようです。
余談ですが、マクロン法4(2015年8月制定)と呼ばれる法律があり、同法では、観光地の商店では深夜12時まで営業ができるように、また日曜日の営業を年間12回まで増やすことができることとなりました。日本人からすると普通のことのように思えるかもしれませんが、コンビニエンスストアのない彼の国では、便利な日本を「アナザー・プラネット(別の惑星)」と表現することがあります。いろいろな意味で対極にある日本とフランスですが、我が国のコーポレートガバナンスコードの策定に際しては、参考とした国の一つにフランスがあったことを興味深く思います。
今後は両国のCGコードがどういう方向に向かって進化していくのか、コラムの中でご紹介していきます。
阿部 環
PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム
※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。