2017-07-24
フランスでは2016年11月にコーポレートガバナンス・コードの改定が行われました。日本では2017年3月にCGSガイドラインが公表されました。今回は役員報酬を例にとり、2つ国のコードの違いについてご紹介します。
ゴールデンパラシュートという言葉を聞いたことがある方は多いかと思いますが、少し説明しますと、ゴールデンパラシュートとは、会社の買収のあと、買収された側の役員が解任された場合に大幅に割増された退職金を支給させ、結果的に会社の価値を低下させる買収防衛策です。フランスではこれをパラシュットゥ・ドレ(Parachute doré)と言い、直訳すると「金箔を塗った落下傘/黄金の落下傘」ということになります。
今から10年ほど前、まだ日本にコーポレートガバナンスという言葉がそれほど浸透していないころ、私はふつうのフランス人の家庭にホームステイをしていました。そこのマダム(お母さん)に、「パラシュットゥ・ドレって知っている?今フランスではこの話題で持ちきりなのよ」と言われ、恥ずかしながらその言葉を知らなかった私は、その言葉のイメージから金塊を背中に背負ってパラシュートで降下する姿を思い浮かべ、そんなことをしたら落っこちてしまうのではないか、と漠然と思った記憶があります。
ゴールデンパラシュートの狭義は上述のとおりですが、広義では(少なくともフランスでは)単純に、役員が、時に大した功績も残さず、高額の報酬をもらい企業を去っていくことを意味します。2007年の大統領選挙にて、ニコラ・サルコジはゴールデンパラシュートを規制することを公約としてかかげ、大統領に就任してすぐに法律化(TEPA法/2007年8月制定(※1))しました。選挙の公約に入れるほど、役員の高額報酬については国民の関心が高かったことがうかがえます。フランス企業における役員の退職金の最高額の例としては、2002年の20.5百万ユーロ(約27億円)、2005年に29百万ユーロ(約38億円)などがあります。日本企業とは桁違いであることが分かります。
それから10年近く経ち、2016年11月に改定された「フランスのコーポレートガバナンス・コード」(※2)には、次のような原則が組み込まれました。
一方、2017年3月に日本で公表された「コーポレートガバナンスに関する実務指針(CGSガイドライン)」(※3)では、相談役や顧問の制度に関するアンケート調査結果や見直しが話題となっています。日本でなぜそういった特有の制度が残っているかという理由の1つに、現役の役員報酬の低さが挙げられると言われています。この顧問制度への反対派には、制度をなくすために役員報酬を引き上げてはどうか、という意見があるようです。
日本とフランスのコードが、役員報酬を正反対から見ていることを興味深く思いますが、共通している課題は「透明性を高めること」です。フランスのコード改定では「なぜ高額の報酬を払うのか?」という従来不透明だった点について、開示の強化を行うことを決め、日本のCGSガイドラインでは「相談役・顧問とはなにか?」という、長い間アンタッチャブルであった領域に対する質問を投げかけています。いずれにしても、手法は同じで、政府やコードの策定主体が、国民の関心ごとを見極め、それをコードやガイドラインに反映し、その実態を明らかにする方法を提案しています。こうした対応が、企業の透明性の向上、ひいてはガバナンス力を高めることにつながっていくのだと思います。
※1 労働・雇用・購買力法:Loi n° 2007-1223 du 21 août 2007 en faveur du travail, de l'emploi et du pouvoir d'achat
※2 私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会がAFEP/MEDEFコード(Code de gouvernement d'entreprise des sociétés cotées novembre 2016)を策定している
※3 経済産業省より公表
阿部 環
PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム
※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
今後も引き続き、両国のCGコードの違いや、どう進化していくのかを、コラムの中でご紹介していきます。