2018-04-24
イギリスやフランスにおいてはコーポレートガバナンス・コードの歴史が20年以上ありますが、何年かに一度コードが見直されています。日本でも本年3月にコードの改訂案が公表されました。類似点を解説します。
日本で初めてコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が公表されたのは、今から3年前の2015年3月でした。その際、お手本にしたのは、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、シンガポールの5カ国であり、海外の運用状況をまとめた弊法人調査による報告書、「コーポレートガバナンス・コード等に関する海外運用実態調査 [PDF 3,100KB]」が日本取引所のウェブサイトで公表されています。
同2015年より、ヨーロッパでは毎年、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オランダの5カ国のコーポレートガバナンス統治・監督機関の代表が集まり、ヨーロッパにおけるコーポレートガバナンスのあるべき姿について議論を行っています。
以下の代表機関から、代表者が会議に参加しています。
国 | コーポレートガバナンス監督機関名 |
イギリス | 英国財務報告審議会 (UK Financial Reporting Council)議長 Sir Win Bischoff |
ドイツ | コーポレートガバナンス委員会(German Corporate Governance Commission) 委員長Rolf Nonnenmacher |
フランス | コーポレートガバナンス高等委員会(French High Committee for Corporate Governance) 委員長Denis Ranque |
イタリア | コーポレートガバナンス委員会(Italian Corporate Governance Committee) 委員長Gabriele Galateri |
オランダ | コーポレートガバナンス・モニタリング委員会(Dutch Corporate Governance Monitoring Committee)委員長Jaap van Manen |
直近では、2017年6月にロンドンで第3回会合が開かれ、会議の終わりに「5カ国のコーポレートガバナンス監督機関は、ヨーロッパ諸国における長期的価値創造のためのコーポレートガバナンスのベストプラクティスを推し進めていく」という共同声明1を発表しました。
5カ国の代表が集まるこの会議は、ヨーロッパにおけるCGコードの役割に関する非公式の対話式フォーラムとして機能しています。市場の問題や規制・実務慣行の進化について意見や体験談を交換し合い、CGコードの利点やコードの運用を成功させるための必要な条件について話し合いが行われています。各国は、この会議を通じて共通の理解を深めることを目的としているため、この5カ国のCGコードは、総論としては同じ方向を向いているといって良いでしょう。
今回の会議で、5カ国の代表は次の6つの事柄について重点的に議論したようです。
この6つのテーマを見ていると、5.の「さまざまなステークホルダー間の対話」というテーマ以外は、日本において注視されているテーマとそう変わらないことがわかります。
5カ国の代表は、ヨーロッパの資本市場の競争力を強化し、柔軟なアプローチを採りながらコーポレートガバナンス改革を行うこと、そして5カ国共に国際レベルでの競争力向上を目指すことが必要である、ということを確認しました。
欧州委員会と各国の規制当局は、法律、規制、法令とCGコードが採用する「コンプライ・オア・エクスプレイン」の間でうまくバランスが取れれば、ヨーロッパの企業は競争力を維持し向上させることができるとみています。このような理由から、市場構造や事業環境の多様性を尊重しながら状況に応じた規制アプローチを採ることを推奨しています。EU指令「新・株主の権利」2のもとでは、柔軟なアプローチを採り、各国とも法律上・規制上の株主保護を尊重すること、そして会社と機関投資家の双方にとってのCGコードのベストプラクティスが果たす積極的な役割を尊重することが提言されています。
また、5カ国の代表は、主要な規制市場に上場していない大規模なファミリー企業や、多角的取引システム(MTF:Multilateral Trading Facilities)に上場している企業なども、コーポレートガバナンスの原則を企業成長のためのツール、またさまざまなステークホルダーと健全な関係を保つためのツールとして適用すれば、コーポレートガバナンスの実践において品質向上を図ることができると伝えています。
このように、コードの採用から20年を経てなお、より良い姿を模索しているヨーロッパの様子がうかがえます。海外投資家との対話を行う日本の企業は、日本のCGコードを適用しつつ、海外のCGコードの動向についても留意しておくべきと考えます。直接影響がなくとも、海外の機関投資家が企業に何を期待しているか、どういった要件が海外では標準とされているかがわかるからです。
日本では、金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」においてCGコードの改訂に向けた議論が進められ、提言として改訂案が本年3月に公表されました。その中では、前述のヨーロッパで議論されているテーマと同じことが議論されていました。改訂案に対するパブリックコメントを経て、本年5月にコーポレートガバナンス・コード改訂版が公表され、翌6月に東京証券取引所の上場規則等に反映される見込みです。詳しい解説は、第11回コラム:コーポレートガバナンス・コードの改訂(2018年改訂)を参照ください。
阿部 環
PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム
※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
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