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2018-11-01
2018年6月に公開された改訂版コーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」)に基づくコーポレートガバナンス報告書は、2018年12月末までに提出することが求められています。2018年10月現在、改訂事項/新設事項にどのように対応していくかを検討している企業が多いことと思われます。
社長・CEOや経営陣幹部の「解任」に関する開示もその1つであり、このテーマを今回は取り上げます。
原則3‐1(iv)や補充原則4‐3(1)~(3)は、改訂前のコードでは、社長・CEOや経営陣幹部の「選任」の方針や手続きを定めるものでしたが、改訂コードにより「解任」が追記されました。解任の方針や手続きを社内でどう対応するのか、その内容をどう開示するのか、多くの企業で議論されています。
取締役会、とりわけ社外取締役が担う重要な任務の1つは、社長・CEOや経営陣幹部に対する評価、そして選任・解任です。社長・CEOや経営陣幹部が、企業価値の維持・向上や毀損防止のため、「不適切な経営トップは解任する、解任しうる」というメカニズムは、健全なコーポレートガバナンスのために不可欠であり、金融庁 スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議等においても、以下のような問題提起がなされました。
・一般的に、業績が不振・芳しくない等にもかかわらず、経営トップが責任を何ら取ることなく、社長・CEOや経営陣が居座り続けるケースが多いことはガバナンス上の問題である
・CEOの選解任はすごく大事なイシューであり、コーポレートガバナンス・コードを改訂すべき
・取締役会で一番重要な役割は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと、その中に「CEOの選解任」も含まれる
・経営環境の激変期を担うタフな経営者を選抜していく上で、社外取締役の幅広い知見、視野をフル活用しながら、より客観的で透明なプロセスで選抜、鍛練、選解任を行うことが非常に重要
・CEOの選解任手続に係る独立した監視、監督が重要
・CEOの選解任は非常に重要なポイント、この独立した指名委員会ないし指名諮問委員会の活用が必要 等
(金融庁 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議議事録より抜粋)
本年のコード改訂において、「解任」というメカニズムが明記されたことで、社長・CEOや経営陣幹部の評価と人事に関する透明性・公正性・客観性が高まり、コーポレートガバナンスが機能することが期待されています。
コード上で求められているものは何か、その定義についても、実務上は大きな議論があります。改訂コードの原則3‐1(iv)や補充原則4‐3(1)~(3)においては、解任の「基準」との文言は用いられず、解任の「方針」や「手続き」を求める内容となっています。
しかし、コードの改訂は、新たに解任基準を求めるもの、つまり、特定の要素・事由が成立した場合に、解任の効果発生条件となるもの、と明示的に規定し、その概要を開示する例も見られます。
2018年10月現在、コーポレートガバナンス報告書上の開示を見る限り、取締役会や指名委員会に諮る際の、提案基準(議論にかける基準)として、「解任基準」という言葉を用いられる例もいくつか見受けられました。また、この点をあえて明確化するため、解任提案基準という表現を用いている開示もあります。
これまで、解任基準を有していた企業は、どの程度だったのでしょうか。2018年1月に東証1~2部の上場企業に対して実施されたコーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果(2018年版)において、社長・CEOの解任(任期途中での解任時)に関する基準については、約18%の企業が有していたとの調査結果があります(図1参照)。経営陣幹部等の人事に関する基準の中でも、解任基準を有する企業が相対的に少ないことが分かります。
【図1】東証1~2部上場企業 経営陣幹部等の人事に関する基準の有無(2018年時点)
社長・CEOや経営幹部の解任について、主な開示は以下の5通りです。一方、開示上はコンプライしているものの、その中身について一切触れていないケースも少なからず見られます。
(1)重要な検討課題として検討中である(エクスプレイン対応)
(2)運用が硬直化するため、そもそも策定は適切でない(エクスプレイン対応)
(3)指名委員会等の解任/解任提案の手続き・方針がある(コンプライ対応)
(4)解任/解任提案の基準がある(コンプライ対応)
(5)解任/解任提案の手続きを示す社内ガイドラインや規程類がある(コンプライ対応)
社長・CEOや経営幹部の解任基準(解任提案基準)として、一般的な定性基準を示している事例が見られます。中には、定量面の考慮事項として、「業績目標を考慮する旨」を掲げているケースもわずかながら見られました。
実務においては、解任基準ないし解任提案基準は、仮にあったとしても、機微に触れる詳細については基本的に「開示しない」とするスタンスが一般的との見方があるようです。なお、改訂コードを契機として、現時点では明確なものが無いものの、新たに、策定に向けた議論を始める事例も少なからず見られます。
解任と合わせて議論されているテーマの1つとして、経営者のサクセッション・プランニング(後継者計画)があります。解任は、そもそも後継者がいるか否かの議論とも密に関連するため、サクセッション・プランニングと並行して解任基準/解任提案基準の策定を検討しているケースも見受けられます。
社長・CEOや経営陣幹部の解任と同様に、サクセッション・プランニングも、センシティブな性質を含み、外形上は、なかなか検討状況が分かりづらいですが、社内で比較的経営陣幹部に近い実務・現場の担当者ですら、その内容を共有されない、知ることができないケースも数多く見受けられます。
今後、解任に関するルール(基準、方針・手続き)やサクセッション・プランニングについて、企業ごとに、どのように内容や検討状況について、開示等を通じてステークホルダーと共有・対話していくのか、この点は注目すべきと思われます。
2018年12月末時点で、各社が改訂コードに基づく開示が出そろった以降に、全体の傾向を改めて分析したいと思います。
河合 巧
PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム
※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。