コーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出~改訂コーポレートガバナンス・コード(2021年)の公表を受けて~

2021-06-15

改訂コーポレートガバナンス・コードが2021年6月11日に東京証券取引所から公表され、同日付で施行されました。これに伴い、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領が2021年6月版に更新されました。今回は、新市場区分におけるコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において開示すべき原則、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出時期について紹介します。

新市場区分におけるコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲

コーポレートガバナンス・コードはコンプライ・オア・エクスプレインを採用しています。コンプライ・オア・エクスプレインとは、「原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか」ということです。基本原則、原則、補充原則の中に、会社の事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことが想定されています。

現在の市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用対象は、市場第一部(東証一部)および市場第二部(東証二部)の上場企業については全原則、マザーズおよびJASDAQの上場企業については基本原則のみとなっています。これに対して、2022年4月4日に移行予定の新市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用対象は、図表1の通り、プライム市場の上場企業については全原則(プライム市場上場会社向けの原則へのコンプライ・オア・エクスプレイン含む)、スタンダード市場の上場企業については全原則(プライム市場上場会社向けの原則を除く)、グロース市場の上場企業については基本原則のみとなっています。各市場区分のコンセプトにおいて、プライム市場では「より高いガバナンス水準」を、スタンダード市場では「基本的なガバナンス水準」を備えることが求められており、改訂コーポレートガバナンス・コード(2021年)では、プライム市場上場会社に対してコンプライ・オア・エクスプレインを求める内容が明示されています。

現在、基本原則(5原則)のみが適用対象となっているマザーズおよびJASDAQの上場企業が、新市場区分におけるプライム市場またはスタンダード市場を選択する場合、対象範囲が大きく拡大することとなり、改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づいて、原則(31原則)および補充原則(47原則)への対応が必要となります。

図表1 新市場区分におけるコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲

対象

基本原則

原則

補充原則

プライム市場


(プライム市場上場会社向け原則含む)


(プライム市場上場会社向け原則含む)

スタンダード市場

グロース市場

-

-

コーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出時期

上場会社は、遅くとも2021年12月30日までに、改訂後のコーポレートガバナンス・コードに対応したコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出することが求められます。ただし、プライム市場上場会社向けの原則に関する実施状況については、遅くとも2022年4月4日以降に開催される定時株主総会の終了後に提出することが求められます。

例えば、新市場区分としてプライム市場を選択する3月決算会社の場合、2021年6月頃に開催される定時株主総会の終了後における例年の更新では、改訂前のコーポレートガバナンス・コードに沿った記載とし、改めて2021年12月30日までに改訂後のコーポレートガバナンス・コード(プライム市場上場会社向けの原則を除く)を踏まえた更新を行うことが想定されます。その際、改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づいて記載している旨を明記するなど、分かりやすく記載することが求められています。さらに、改訂後のコーポレートガバナンス・コードのうち、プライム市場上場会社向けの原則に関する実施状況も含めたものは、2021年内に提出することは妨げないものの、遅くとも2022年4月4日以降に開催される定時株主総会の終了後には提出することとなります。

このように、各企業は複数回にわたりコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出することが想定されていますが、改訂後のコーポレートガバナンス・コードの原則について段階的に対応することを予定している企業は、どの原則が改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づいて開示を行っているかが読者に伝わるよう、以下のように対象となる原則の冒頭にその旨を明示することが必要です。

【補充原則4-11① 取締役会の多様性に関する考え方等】

2021年6月の改訂後のコードに基づき記載しています。

また、プライム市場を選択する上場会社が2022年4月4日以前にプライム市場上場会社向けの原則を先行して対応する場合においても、以下のように対象となる原則の冒頭に、プライム市場向けの内容を含めた改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づく開示である旨を明示することが求められます。

【補充原則3-1③ サステナビリティについての取組み等】

2021年6月の改訂後のコード(プライム市場向けの内容含む)に基づき記載しています。

コンプライ・オア・エクスプレインについて考える

コーポレートガバナンス・コードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」を採用していることから、コンプライ(実施)しない場合には、エクスプレイン(説明)することが求められており、コンプライしていることが必ずしも合格点であるというわけではありません。そのため、コンプライしていない会社に対して機械的に不合格点を与えることのないような姿勢が投資家には求められます。また、企業側は、拙速にコンプライすることばかりを考えるのではなく、企業が置かれている現状や今後のガバナンスの在り方を十分に検討した上でエクスプレインすることが、投資家との建設的な対話に向けて、むしろ望ましい場合があることも十分に認識することが必要です。現状はコンプライすることが難しいものの、コンプライできるよう今後対応準備を進める場合には、いつコンプライできる見込みなのか、その予定を開示することも有用です。

また「コンプライ・アンド・エクスプレイン」、すなわちコンプライしている原則についてもエクスプレインすることが推奨されます。コーポレートガバナンス・コードが求める企業と投資家との建設的な対話においては、コーポレートガバナンスに対するトップマネジメントの考えが反映されるよう、企業には自らの言葉で語ることが期待されています。単にコンプライしていると記載するのではなく、どのようにコンプライしているかエクスプレインすることで、会社のコーポレートガバナンスに対する考え方を利害関係者に積極的に示す姿勢が企業には求められています。

執筆者

PwCあらた有限責任監査法人 コーポレートガバナンス強化支援チーム
シニアマネージャー 足立 順子

※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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