
コーポレートガバナンスを考える シリーズ28:取締役会の実効性評価における第三者利用の類型
取締役会の実効性評価において第三者が実際にはどのように利用されているのか、開示から把握できる範囲において類型化しました。
2021-06-15
改訂コーポレートガバナンス・コードが2021年6月11日に東京証券取引所から公表され、同日付で施行されました。これに伴い、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領が2021年6月版に更新されました。今回は、新市場区分におけるコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において開示すべき原則、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出時期について紹介します。
コーポレートガバナンス・コードはコンプライ・オア・エクスプレインを採用しています。コンプライ・オア・エクスプレインとは、「原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか」ということです。基本原則、原則、補充原則の中に、会社の事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことが想定されています。
現在の市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用対象は、市場第一部(東証一部)および市場第二部(東証二部)の上場企業については全原則、マザーズおよびJASDAQの上場企業については基本原則のみとなっています。これに対して、2022年4月4日に移行予定の新市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用対象は、図表1の通り、プライム市場の上場企業については全原則(プライム市場上場会社向けの原則へのコンプライ・オア・エクスプレイン含む)、スタンダード市場の上場企業については全原則(プライム市場上場会社向けの原則を除く)、グロース市場の上場企業については基本原則のみとなっています。各市場区分のコンセプトにおいて、プライム市場では「より高いガバナンス水準」を、スタンダード市場では「基本的なガバナンス水準」を備えることが求められており、改訂コーポレートガバナンス・コード(2021年)では、プライム市場上場会社に対してコンプライ・オア・エクスプレインを求める内容が明示されています。
現在、基本原則(5原則)のみが適用対象となっているマザーズおよびJASDAQの上場企業が、新市場区分におけるプライム市場またはスタンダード市場を選択する場合、対象範囲が大きく拡大することとなり、改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づいて、原則(31原則)および補充原則(47原則)への対応が必要となります。
図表1 新市場区分におけるコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲
対象 |
|||
基本原則 |
原則 |
補充原則 |
|
プライム市場 |
〇 |
〇 |
〇 |
スタンダード市場 |
〇 |
〇 |
〇 |
グロース市場 |
〇 |
- |
- |
コーポレート・ガバナンスに関する報告書において、特定の事項を開示すべきとする原則がこれまで11項目ありましたが、今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂に伴い、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載要領も更新されました。その結果、図表2の通り3項目(補充原則2-4①、補充原則3-1③、補充原則4-10①)が新設、1項目(補充原則4-11①)が加筆され、開示すべき原則の数が14項目となりました。これらの項目は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の「コードの各原則に基づく開示」の欄に直接記載する方法の他、有価証券報告書、アニュアルレポートまたは自社のウェブサイトなどにおいて該当する内容を開示している場合には、その内容を参照すべき旨と閲覧方法(ウェブサイトのURLなど)を記載することも許容されています。
図表2 コードにおいて特定の事項を開示すべきとする原則
※太字は今回の改訂で追加された開示の内容
原則 |
項目 |
内容 |
|
原則1-4 |
政策保有株式 |
・政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針 ・保有の適否の検証の内容 ・政策保有株式に係る議決権の行使に係る適切な対応を確保するための具体的な基準 |
|
原則1-7 |
関連当事者間の取引 |
・取引の重要性やその性質に応じた適切な手続の枠組み |
|
新設 |
補充原則2-4① |
中核人材の登用等における多様性の確保 |
・女性・外国人・中途採用者それぞれについて、中核人材の登用等の「考え方」、自主的かつ測定可能な「目標」及び「その状況」 ・多様性の確保に向けた「人材育成方針」及び「社内環境整備方針」並びにその実施状況 |
原則2-6 |
企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮 |
・運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みの内容 |
|
原則3-1 |
情報開示の充実 |
・会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画 ・コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針 ・取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続 ・取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続 ・取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明 |
|
新設 |
補充原則3-1③ |
サステナビリティについての取組み等 |
・経営戦略の開示にあたって、サステナビリティについての取組み ・人的資本や知的財産への投資等 ・【プライム市場のみ】TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示 |
補充原則4-1① |
経営陣に対する委任の範囲 |
・経営陣に対する委任の範囲の概要 |
|
原則4-9 |
社外取締役の独立性判断基準及び資質 |
・独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準 |
|
新設 |
補充原則4-10① |
独立した指名委員会・報酬委員会の設置による独立社外取締役の適切な関与・助言 |
・【プライム市場のみ】委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等 |
加筆 |
補充原則4-11① |
取締役会の多様性に関する考え方等 |
・取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方 ・経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせ |
補充原則4-11② |
取締役・監査役の兼任状況 |
・取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合の兼任状況 |
|
補充原則4-11③ |
取締役会の実効性評価 |
・取締役会全体の実効性について分析・評価を行った結果の概要 |
|
補充原則4-14② |
取締役・監査役に対するトレーニングの方針 |
・取締役・監査役に対するトレーニングの方針 |
|
原則5-1 |
株主との建設的な対話に関する方針 |
・株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針 |
出所:東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領」(2021年6月改訂版)を基に筆者が作成。
上場会社は、遅くとも2021年12月30日までに、改訂後のコーポレートガバナンス・コードに対応したコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出することが求められます。ただし、プライム市場上場会社向けの原則に関する実施状況については、遅くとも2022年4月4日以降に開催される定時株主総会の終了後に提出することが求められます。
例えば、新市場区分としてプライム市場を選択する3月決算会社の場合、2021年6月頃に開催される定時株主総会の終了後における例年の更新では、改訂前のコーポレートガバナンス・コードに沿った記載とし、改めて2021年12月30日までに改訂後のコーポレートガバナンス・コード(プライム市場上場会社向けの原則を除く)を踏まえた更新を行うことが想定されます。その際、改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づいて記載している旨を明記するなど、分かりやすく記載することが求められています。さらに、改訂後のコーポレートガバナンス・コードのうち、プライム市場上場会社向けの原則に関する実施状況も含めたものは、2021年内に提出することは妨げないものの、遅くとも2022年4月4日以降に開催される定時株主総会の終了後には提出することとなります。
このように、各企業は複数回にわたりコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出することが想定されていますが、改訂後のコーポレートガバナンス・コードの原則について段階的に対応することを予定している企業は、どの原則が改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づいて開示を行っているかが読者に伝わるよう、以下のように対象となる原則の冒頭にその旨を明示することが必要です。
【補充原則4-11① 取締役会の多様性に関する考え方等】 2021年6月の改訂後のコードに基づき記載しています。 |
また、プライム市場を選択する上場会社が2022年4月4日以前にプライム市場上場会社向けの原則を先行して対応する場合においても、以下のように対象となる原則の冒頭に、プライム市場向けの内容を含めた改訂後のコーポレートガバナンス・コードに基づく開示である旨を明示することが求められます。
【補充原則3-1③ サステナビリティについての取組み等】 2021年6月の改訂後のコード(プライム市場向けの内容含む)に基づき記載しています。 |
コーポレートガバナンス・コードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」を採用していることから、コンプライ(実施)しない場合には、エクスプレイン(説明)することが求められており、コンプライしていることが必ずしも合格点であるというわけではありません。そのため、コンプライしていない会社に対して機械的に不合格点を与えることのないような姿勢が投資家には求められます。また、企業側は、拙速にコンプライすることばかりを考えるのではなく、企業が置かれている現状や今後のガバナンスの在り方を十分に検討した上でエクスプレインすることが、投資家との建設的な対話に向けて、むしろ望ましい場合があることも十分に認識することが必要です。現状はコンプライすることが難しいものの、コンプライできるよう今後対応準備を進める場合には、いつコンプライできる見込みなのか、その予定を開示することも有用です。
また「コンプライ・アンド・エクスプレイン」、すなわちコンプライしている原則についてもエクスプレインすることが推奨されます。コーポレートガバナンス・コードが求める企業と投資家との建設的な対話においては、コーポレートガバナンスに対するトップマネジメントの考えが反映されるよう、企業には自らの言葉で語ることが期待されています。単にコンプライしていると記載するのではなく、どのようにコンプライしているかエクスプレインすることで、会社のコーポレートガバナンスに対する考え方を利害関係者に積極的に示す姿勢が企業には求められています。
PwCあらた有限責任監査法人 コーポレートガバナンス強化支援チーム
シニアマネージャー 足立 順子
※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
取締役会の実効性評価において第三者が実際にはどのように利用されているのか、開示から把握できる範囲において類型化しました。
改訂コーポレートガバナンス・コードが2021年6月11日に東京証券取引所から公表され、同日付で施行されました。 コーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出時期や開示における留意点について紹介します。
「コーポレートガバナンス・コード」および「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂案(2021年)が公表されました。改訂にはプライム市場上場会社を対象とした一段高いガバナンス向上を求める項目も含まれます。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、企業は決算発表の延期や株主総会開催日の変更の検討を余儀なくされています。これを契機に、企業開示制度や株主総会の実務について、諸外国と比較しながら考えます。