取締役会の実効性評価における第三者利用の類型

2022-07-04

本稿では、取締役会の実効性評価において第三者が実際にはどのように利用されているのか、開示から把握できる範囲において類型化して解説します。

取締役会の実効性評価の進め方は各社にあわせてテーラーメードされるものであり、第三者の利用もその1つです。コーポレート・ガバナンスに関する報告書における開示を分析すると、第三者の利用方法について一定の類型化は可能であり、第三者が評価を担っていると見られるグループ、会社の自己評価に第三者を利用したと見られるグループ、会社の評価プロセスおよび結果に対する第三者の意見・評価を入手していると見られるグループの3つに分けられます。

4割近い企業が採用する第三者利用

取締役会の実効性評価の進め方は各社にあわせてテーラーメードされるものです。取締役会の実効性評価の進め方の1つである、外部の専門家、つまり第三者を利用する手法も、近年採用する企業が増えてきています。2021年7月31日までに提出されたコーポレート・ガバナンスに関する報告書からは、JPX400を構成する企業の4割に近い企業において第三者を利用していることが読み取れます。本稿では、2021年7月31日までに提出されたJPX400を構成する企業のコーポレート・ガバナンスに関する報告書おける開示を参照して、第三者を利用した取締役会の実効性評価の進め方の類型化を試みました。

なお、各社の取締役会の実効性評価の進め方を直接観察することはできないため、開示で把握できる範囲において分析を行っています。このため、開示内容が実際の実効性評価の進め方を漏れなく正確に説明していない場合には、本分析が実態と乖離する可能性がある点はご了承ください。

また、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りいたします。

第三者利用の各類型の特徴

(1)第三者が評価を担っていると見られるグループ

図1における、第三者の影響度が最も大きいものから順に「1. 第三者が評価し、かつ最終的な評価もしている」「2. 第三者が評価したうえで、その結果を踏まえて会社が最終的な評価をしている(複数の調査方法が併存する場合は、少なくとも1つについて第三者が評価をしている)」の2つの類型は、第三者が何らか当該会社の取締役会の実効性を評価し、その結果を会社に伝えていると開示から読み取れるグループです。

図2 第三者が評価を担うパターン

図2 第三者が評価を担うパターン

(2)会社の自己評価に第三者を利用したと見られるグループ

会社における取締役会の自己評価に際し、第三者を利用したと見られるグループが、2つめの類型の「3. 第三者が手続のみを実施し、会社が当該手続の評価および最終的な評価をしている(複数の調査方法が併存する場合は、少なくとも1つについて第三者を利用している)」ものです。

第三者のサポート範囲は、たとえば取締役・監査役向けアンケートの設計、集計、分析の支援やインタビューの実施、課題の抽出支援であり、取締役会の実効性自体の評価は含んでいないと開示から読み取れるグループです。

図3 会社の自己評価に第三者を利用するパターン

図3 会社の自己評価に第三者を利用するパターン

(3)会社の実施プロセスおよび結果に対する第三者の意見・評価を入手していると見られるグループ

取締役会の実効性評価自体は自社で行うものの、その実施プロセスや評価結果が適切であるかどうかについての第三者の意見を得るという類型が3つめのパターンです。

取締役会の実効性評価の過程や評価については会社で自己完結していますが、その実施方法や評価結果が適切かどうかについて第三者の意見を求めていることが開示から読み取れます。

図4 会社の実施プロセスおよび結果に対する第三者の意見・評価を入手するパターン

図4 会社の実施プロセスおよび結果に対する第三者の意見・評価を入手するパターン

取締役会の実効性を高めるために

取締役会の実効性評価における第三者の利用方法についてもさまざまな態様があることが見て取れます。

どのような態様をとるとしても、第三者を利用することで、独立性・客観性を保ち、新しい視点を取り込むことは、取締役会の機能を高めることに役立ちます。さらに、取締役会の実効性評価に真摯に取り組んでいることステークホルダーに開示することによるメリットも大きいと考えられます。会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を目的として、取締役会の実効性をより高めるために、自社に適した第三者を利用した評価の方法を検討するうえでの参考となれば幸いです。

執筆者

山下 晴子

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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