新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変わる監査の現場 緊急時にも安心してデータを取り扱うために

2020-05-15

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が世界中に影響を及ぼす中、監査の現場では働き方が変わりつつあります。未曽有の危機に直面する社会において、監査法人ができることとは何か。私たちは日々、その答えを模索しながら監査業務に当たっています。今回は、リモートワークにおいても安全にデータを取り扱うための試みを紹介します。

リモートワークはセキュリティリスクと隣り合わせ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による社会的な要請を受けて、多くの企業が在宅勤務(リモートワーク)の導入に踏み切りました。押印の電子化、会議のオンライン化など、リモートワークへの切り替えに伴い、多くの方々が、今まさに業務のやり方を新しい働き方に合わせて変えていこうとされているのではないでしょうか。

特にリモートワークでは、データのやり取りが増える分、メールの誤送信などによる情報流出リスクが高まることに注意が必要です。ファイルにパスワードを設定して送信する方法もありますが、セキュリティを十分に担保できているとはいえません。

さらに、容量が大きいデータはメールで送れない場合があります。従来は容量の大きいデータをUSBメモリやCD-Rなどでやり取りしていましたが、データを保存したメディアを郵送する必要があり、リモートワークとの相性がよいとはいえません。

監査業務では、被監査会社から提供される多種多様なデータを扱います。その中には仕訳データや業務システムから出力される明細など、容量の大きいものも多く含まれます。監査手続ごとに必要なデータが異なるため、被監査会社にとってデータの抽出および受け渡しは大きな負担となっています。

安全なデータ運搬を実現する専用ツール

そこでPwCは、被監査会社のデータを安全に運搬する専用のデータ取得ツール、「Extract」を開発しました。監査人は、Extractを使い被監査会社のERPシステムへ接続し、抽出したデータをインターネット経由でPwCのデータプラットフォームに格納します。Extractを導入すれば、遠隔でERPシステムからデータを抽出できるようになるため、監査人も被監査会社の担当者も出社する必要がなくなります。

Extractは、データの抽出プロセスを完全自動化するため、データの抽出と送信にかかっていた被監査会社の時間を削減できます。また、一度環境を構築した後は、あらかじめ設定したデータ取得条件に従い、わずか数回のマウスクリックでツールを実行できます。これは、必要なデータが不足していることにより何度も抽出をし直すという無駄を防止することにもつながります。

会議のオンライン化や文章の共同作業を実現するコラボレーションシステムの導入など、リモートワークの推進をさまざまなクラウドシステムが支えていますが、監査現場ではExtractがその一翼を担います。COVID-19が終息した後も、在宅での業務が一般的となる可能性があります。データの取得を自動化し、安全なデータの運搬を実現するExtractは、リモートワークを行う被監査会社と監査人の円滑な業務遂行に貢献します。

執筆者

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

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小宮 和寛

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変わる監査の現場

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