新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変わる監査の現場 繁忙期をリモートワークでいかに乗り切ったか

2020-06-19

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束には至っていないものの、経済活動を再開する動きが加速しています。

PwCあらたは、緊急事態宣言が解除された後も、原則リモートワークという方針を継続しています。リモートワークにおける監査業務を支えているのは、テクノロジーの活用です。特に広く現場で活用されているテクノロジーとして、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)が挙げられます。RPAがどのように監査現場を支えているのかについてご紹介します。

監査現場から切り出された業務を標準化し、自動化する

業務プロセスを自動化する技術の一つが、RPAです。判断を伴わない定型業務などをソフトウェアロボットが実施することにより、業務の効率化に貢献します。PwCあらたは、監査業務において、監査チームから切り出された業務をテクニカル・コンピテンシー・センター(TCC)が標準化し、順次RPAを導入しています。

TCCは、公認会計士などの資格を有していない業務補助者が、テンプレートやマニュアルに従い標準的な方法で集中的に業務を行っています。監査チームから切り出された業務の中には、電子監査調書システム「Aura」のセッティングや、監査契約書をはじめ毎期必ず作成する文書のドラフト作成など、決まったプロセスで大量に処理するものもあります。このような業務はRPAとの相性が良く、特定の種類の文書についてはRPAがドラフトを作成しています。また、今後RPAの導入範囲を拡大していく予定です。

RPAの活躍の場は、TCCに依頼される業務を代替するだけでなく、監査チームからTCCへ業務を依頼するというプロセスにまで及びます。なぜなら、監査チームがTCCに業務を切り出すときに使用する受付窓口にはRPAが活用されているからです。このロボット受付システムはオンライン上に設置されており、いつでも誰でもRPAを通じて業務を手軽に依頼することができます。

監査現場のリモートワークを支えたTCCとRPA

繁忙期である4月から5月は、急きょリモートワークへ切り替わったことにより、監査チームが直面した困難をTCCがサポートする形で解決しながら乗り切りました。例えば、オフィスに保管していた紙面調書などの資料をTCCが電子化することにより、監査チームはいつでも各々のPC上で確認することができました。また、確認状の原本はオフィスに郵送されますが、必要に応じてTCCが確認状の再発送業務を行うことで、監査チームが出社する必要がなくなりました。

監査現場のリモートワークを支えたのは、TCCと言っても過言ではありません。TCCの存在感が監査現場で増したことを、TCCへの依頼件数が大幅に伸びたことからも確かめることができます。そして、大量の依頼を適時に処理できた背景には、ロボット受付システムというRPAの活躍があったと感じています。

ロボット受付システムを通して依頼を受け付けることにより、監査チームから提供される情報に過不足がなくなるとともに、ファイル管理も徹底されます。また、受付完了や作業完了の連絡をRPAが自動でメールするため、連絡漏れや余計なやり取りが発生しなくなりました。ロボット受付システムとTCCの進捗管理システムが連携しており、TCCにおけるリソースの適切な配分や進捗管理の効率化にも寄与しています。

RPAの業務を決めるのは、人

RPAは、決められた方法で処理を繰り返し、時間や場所の制約を受けません。人が休んでいる夜のうちに作業をすることもでき、単純なミスもないため、業務を大幅に効率化させるでしょう。しかし、RPAと相性の良い業務を洗い出すことやその業務の標準的なやり方を整備するのは、人の仕事です。

監査チームがTCCに切り出した業務の中にこそ、RPAと相性の良い業務があると感じています。また、TCCが業務マニュアルを整備していくことで、標準的なやり方が固まり、RPAの導入を促進することにつながっています。

これからは会計や監査の知識だけでなく、テクノロジーに関する知識を身に付け、スキルを向上していくことが求められます。テクノロジーを活用できる業務を見極める力とテクノロジーを導入するまでに必要な工程を具体化できる人財を育て、そのような人財が活きるような組織作りを進めることが重要です。

執筆者

尻引 善博

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

Email

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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