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2021-06-04
日本においても新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まりました。奇しくも東京、大阪などへの3回目となる緊急事態宣言とタイミングが重なり、“アフターコロナ”といわれる新たな社会に向けた期待がますますワクチン接種に寄せられた状況といえます。ワクチン接種開始に向け、未曾有の事態に立ち向かうべくさまざまな尽力があったことは言うまでもなく、関係者、関係各所へ畏敬の念を抱くとともに、日本独自の「現場力」があらためて見えてきました。
COVID-19対応では、想定外の事態にも多く直面しました。直近では、ワクチン接種の予約開始直後において、ワクチンにかかる期待を読み切れず、なかば争奪戦ともいえる混乱が起きた地域もあったのではないでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)では今年2月に「新型コロナワクチン接種業務支援室」を立ち上げ、複数の自治体に、二人三脚の支援を実施しています。「希望する高齢者への接種を7月末までに完了」「1日100万回接種」といった、新型コロナワクチン接種に関するキーワードが飛び交う中、接種は高齢者の次の対象者へ、そのまた次へと続いていきます。不安、またはその裏返しの期待から発生するさまざまな疑問に対し、本コラムシリーズでは以下の3点について、私たちの考察を述べます。なお、これらは執筆時点の想定であり、何かを決定づけるものではなく、あくまで参考という位置づけとなります。
人口100万人都市、接種目標85%という前提で、新型コロナワクチン接種完了までどのようなタイムラインになるかをシミュレーションしてみます。
図表1:目標値85%達成に向けた成り行きシミュレーション
*1回接種のみの人口が多い場合は接種率目標達成に必要なワクチン総接種回数は増加する。
*ワクチンを1回のみ接種する人が多い場合は、2回接種完了者が85%に到達するまでに必要な総接種回数がさらに多くなり、接種完了時期も後ろ倒しになる。
*接種実施回数は予約可能枠を想定しているため、接種希望者がおらず予約枠が余る場合は、接種完了時期は後ろ倒しになる。
*個別接種は一般診療所での実施を前提に試算。
*大規模接種会場が3カ月で終了する場合は、接種完了時期は後ろ倒しになる。
*目標接種率85%や個別接種実施医療機関数は、自治体からのヒアリングを基に、現在の混乱を踏まえシビアなシナリオとして設定し試算。
図表1の前提で2021年5月17日週をワクチン接種の開始日とし、個別接種と集団接種を主とした場合の高齢者に対するワクチン接種の終了は2021年9月1日、若年者・中年者の接種完了は2022年5月26日、そこに大規模接種を加えることで、高齢者に対するワクチン接種の終了は2021年8月19日、若年者・中年者の接種完了は2022年4月9日というタイムラインが算出されます。
これは、2021年5月25日現在で7月末での高齢者へのワクチン接種完了を実現するためには、上記の条件を上回る施策を検討する必要があることを意味します。もちろん、地域によっては医療機関や集団接種会場での接種件数や接種可能施設数がシミュレーションよりも多く、結果的にワクチン接種が早く完了する自治体も存在します。上記の変数の中で接種件数に大きな影響を与えるのは、「ワクチン接種可能医療機関数」と「1施設あたり接種件数(週間)」です。この指標に関しては、PwCコンサルティングが独自調査を行い、医療機関において収益が大きく下がらず、現場の負担も考えた上で「継続的に接種を実施できる数値」を設定しています。一過性の努力よりも中長期的目線で継続的に支援を得られることが重要だと考えるからです。
今回は100万人規模の自治体でのシナリオの一つとしてシミュレーションしました。次はワクチン接種早期化の実現に向けた、職域でのワクチン接種について考察します。
インフルエンザのワクチン接種同様、職域(仕事場)におけるワクチン接種が実施される見通しが出てきました。確かに、職域における接種は、接種を受ける側からすると利便性が高いことから、新型コロナワクチン接種を後押しする施策の一つになり得る可能性があります。実施が限定的になる可能性もありますが、新型コロナワクチン接種に関してどの程度の貢献になり得るのかを図表1の条件に加える形でシミュレーションします。
図表2:職域での接種を実施した場合のシミュレーション
*職域接種は現在検討中のため、会場数や1日あたりの実施回数、実施日数は不確定である。本シミュレーションは、中小企業基本法の解釈における大企業に対し職域接種を実施しなかった場合に若年者・中年者の接種完了想定期間である8カ月間を軸に、必要な週あたりの接種回数で試算した。
職域接種を含めると、高齢者に対するワクチン接種の終了は2021年8月19日、若年者・中年者の接種完了は2022年3月9日にまで短縮されます。
図表3:大規模接種、職域接種を実施した場合の若年者・中年者接種完了時期のシミュレーション
100万人都市における職域での接種を、7会場で営業日ごとに約100件(1時間14件×7時間)実施した場合のシミュレーション結果が図表3です。職域接種は若年者・中年者接種の加速化に向けた施策となる可能性が高いことから、「高齢者接種の完了タイミング」への影響は小さいと見られます。
一方、「接種対象者への完了タイミング」に対し、約1カ月の時間短縮というインパクトを与える可能性があります。そのため、早期のワクチン接種完了の実現を目指す場合、職域接種という新たなプレーヤーの登場は、現在選択可能なアプローチの一つだと言えます。また、職域接種の推進は接種完了の早期化のみならず、異なる生活圏の人との交流を限定的にしながら集団接種を実施できるというメリットもあります。
しかし、より早期のワクチン接種完了に向けて「接種の担い手」がボトルネックであることに変わりはなく、抜本的な見直しを迫られています。
これまで、基本的な接種体制で検討をした場合、接種目標達成までに1年程度の時間を要すること、大規模接種を行うことでこの時間を1.5カ月、さらに職域接種を行うことで約2.5カ月の短縮が可能であることを示しました。一方で、接種目標の早期達成に向け、新たな接種チャネルの拡大が不可欠です。ここでは、接種チャネルの拡大に向け「実施体制が持続可能であること」「効果の発生までのスピード」に着目し、新たな打ち手を検討します。
第一に持続可能かつ即効性が期待できる施策として、前項で取り上げた職域接種における接種チャネルの拡大が挙げられます。例えば、健康診断時にワクチンを接種することで「接種の担い手」を新たに調達せずに接種を行えます。どのシナリオも接種完了までに時間を要することから、従業員とその家族が定期的な健康診断を行う機会は十分にあります。接種券なしでのワクチン接種を容認する政府の発言からも、実現可能な施策と言えるでしょう。
時間はかかるものの、既存の規制などを変更し、接種の担い手を増やすことで持続可能性を高める施策もあります。例えば、政府の発言にあるようにワクチンへの理解があり、接種、採血などの経験がある職種(歯科医師や救命救急士、臨床検査技師、獣医師など)を接種の担い手として加えることで、担い手の不足を解決できる可能性があります。しかし、この施策の実現に向けては時間を要することが想定されます。当該職種の本来の業務範囲を逸脱するため、規制緩和に向けた調整が求められることに加え、実務トレーニングなども必要となるからです。いずれにしても、COVID-19との戦いは長期戦よりも平常化が想定される中で、規制緩和による接種チャネルの拡大は欠かせない選択肢であると考えられます。
また、仮に効果発揮までの期間のみに着目した場合、現有の基本体制の接種能力を高めることも考えられます。論理的には、基本体制の接種能力が倍増すれば、接種目標までの期間は半減します。しかし、接種目標の早期達成のみに着目することは、ワクチン接種の安全性への懸念や医療崩壊の加速などの新たな問題を引き起こすリスクとなり得るでしょう。
以上を踏まえ、接種目標の早期達成のために「職域接種の拡大」および「新たな担い手の確保」に向けた検討を進めることが必要不可欠だと考えられます。これらの施策は従来の一般的なワクチン接種では実施されておらず、チャレンジングな内容であることから、国民への丁寧なコミュニケーションが求められます。
日本全体で集団免疫を獲得することは、誰しもの願いであり、国民が一致団結すべきテーマです。PwCネットワークの海外のメンバーファームからは、新型コロナワクチン接種の取り組みを通して見られる日本の一体感や協働性について質問を受けることが多くあります。これらの質問には、日本の一体感や協働性が「ステークホルダーが連携して社会課題解決を図る先行モデル」のように見えるという趣旨が含まれています。日本国内では当たり前と考えられているようなことが、他国から見た時には大きな強みとなり得ます。
現在は日本のワクチン接種の遅れが強調されることが多いものの、日本のチャレンジに世界は注目しています。日本が世界に誇れる取り組みを推進しその背中を見せることは、COVID-19の終息に向けた世界の前進を加速する可能性があることを忘れてはいけないでしょう。