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これからのデータ利活用 - データ流通のユースケースと成功のポイント
企業においてデータ利活用の取り組みが進む中、さらなるデータ利活用の可能性としてデータ流通が注目されています。今回のコラムでは、社会におけるデータ流通のユースケースを紹介し、そこから考えられるデータ流通成功のポイントを解説します。
社会におけるデータ流通を加速させる基盤として「データ流通プラットフォーム」が注目されています。本コラムでは、事業者間でのデータの売買やそれに係る機能の提供をサポートするなど、データ流通の仲介を担うデータ流通プラットフォームの日本における具体例と、内閣府が主体となって開発を進めている「分野間データ連携基盤」の現状と課題について解説します。
日本国内では、すでに多様な分野においてデータ流通プラットフォームが整備・運用されています。ここでは、日本国内で既に稼働されているデータ流通プラットフォームをいくつか紹介します。
農業データ連携基盤(WAGRI)は「データに基づく農業」を実現するためのプラットフォームを目指しており、このプラットフォームには公的機関が取得した気象、農地、地図などのデータから、民間の企業や団体が保有するICTのセンサーデータや生育予想データまで幅広いデータが提供されています。データ保有者ごとにその形式がバラバラであるといった流通上の課題に対しても、共通のデータ提供形式を設けるなど一定のルールを設けています。
WAGRIはデータ流通プラットフォームとして2つの主要機能を有しています。
取引・仲介機能
データやプログラム(提供データの加工、変換など)をAPIという形式で提供しており、各参加者はAPIを通して、データ共有やシステム連携を行うことが可能です。また、WAGRI上にはデータやプログラムを有償提供する機能も提供されています。
データサービス機能
データやプログラムの利用者(農業団体、農機メーカー、ICTベンダーなど)はWAGRIで提供されるデータやデータ変換用のプログラムを用いることで、提供データを扱いやすい形で利用することが可能です。
データやプログラムの利用者はWAGRIで連携されたデータを元に農業者が求める新たなICTサービスを創出することが可能となり、農業者はデータやプログラム、ICTサービスを活用することで生産性の向上や農作物の安定生産が期待できます。また、データを有償提供する仕組みを活用することで、民間企業や農研機構等公共団体はデータやプログラムをWAGRI上で流通させ、収益を得ることもできます。
SIP4Dは東日本大震災発生時に各関係機関がデータや情報を共有する際に生じた課題を踏まえて開発が進められたプラットフォームであり、組織を越えた防災情報の相互流通を担う基盤的ネットワークシステムです。
SIP4Dはデータ流通プラットフォームとして2つの主要機能を有しています。
取引・仲介機能
情報共有の仲介者として、災害時に多数の機関(都道府県、市区町村、指定の公共機関、SIPにおける研究開発された防災システム、民間企業など)が発信するさまざまな情報(気象情報、病院情報、道路情報、避難所情報、災害被害推定、車両通行実績データなど)を集約するために、データの自動取得機能やデータベースとの連携機能を持ち、災害発生時にはデータを活用したい側に適した形式で配信することが可能です。
データサービス機能
集約されたデータを、災害発生時に必要としている組織がすぐに利用できる形式に加工・変換して提供する機能を有しています。
利用者は、災害発生時にSIP4Dから配信されたデータを利用して被害把握や人命救助、避難所対応、物資対応を効率的に行うことが可能となります。
実際に2018年の北海道胆振東部地震や平成30年7月豪雨などの災害時において活用されており、道路通行情報や避難所の状況、給水拠点・入浴支援拠点の位置情報、空中写真・衛星画像などを電子地図に取りまとめて情報共有が行われました。
国土交通プラットフォームは、国土に関するデータ、経済活動に関するデータ、自然現象に関するデータを検索、表示、ダウンロードが可能なデータ流通プラットフォームです。データを基にフィジカル空間(実際の地形)をサイバー空間に再現するデジタルツインを用いることで、災害や経済活動のシミュレーションを行うことを目的に開発が進められています。
国土交通プラットフォームはデータ流通プラットフォームとして2つの主要機能を有しています。
取引・仲介機能
国土交通プラットフォームは既存のデータベースを束ねるプラットフォームであり、インフラデータ、地質データ、工事・業務データ、その他のデータベースのデータを地図上の画面で確認しながら検索、取得することが可能となっています。
データサービス機能
現在研究開発中の機能として、構造物(橋やトンネルなど)の2次元CAD図面から3次元モデルを自動作成する技術のほか、電子成果品のメタデータ(さまざまなファイルの属性や内容をまとめたデータ)を自動作成する技術があります。
今後、各種データ(インフラ、地質、工事・業務、その他のデータ)とAPI連携し、データ連携を順次拡大していく予定となっています。
ここまで紹介してきたように、日本では分野ごとに特化されたデータ流通プラットフォームがそれぞれ開発・運用されてきました。しかしながら、管理する団体や業界は行政、自治体とさまざまであり、データの連携における競争領域と協調領域が明確に区分けされていない状況です。そのため、データを広く流通させるための仕組みがないこと、それによるデータ流通のモチベーションが弱い傾向にあることが、日本のデータ流通推進における課題となっています。
このような背景を受けて、近年では既存のデータ流通プラットフォームの枠組みを生かす形で、複数のプラットフォーム同士を連携させ、組織間を跨いだデータ連携を実現するという試みが行われています。ここでは、最近の分野間データ連携基盤について、日本の国家としての取り組みを紹介します。
第2期SIP事業(2018年-2023年)において、データカタログ検索機能、データ交換機能、データ連携契約機能などを含むデータ連携技術として、「分野間データ連携基盤技術」(CADDEコネクタ)が開発されました。なお、2023年度以降本データ連携基盤技術の開発・運営を一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)が「DATA-EX」という名称で引き継いでおり、日本における分野間データ連携の社会実装が予定されています。
分野間データ連携基盤としてのDATA-EXの特徴は、既存のデータプラットフォームとの親和性を持たせるという設計思想にあり、中央に集中型のデータ基盤を持たず、連邦型(分散型)のアーキテクチャを採用しています。DATA-EXでは、あらゆる分野・種類のデータに対して、どの企業・大学・国からでもアクセスできる安全・安心なデータ連携をするためのセキュリティを担保しつつ、既に市場にあるデータ流通プラットフォーム(自治体、スマートシティ、民間企業、SIP各分野のデータプラットフォームなど)との整合性を保つことが重視されています。データの発見と交換を効率よく行うため、分野ごとの語彙を定義できるサービスや、データカタログを検索できるサービスまたはツールなどを備えたデータ連携基盤を構築することでデータ流通の課題を解決し、データ流通を促進することが目的とされています。
このようなデータ流通プラットフォームの取り組みは各国で活発化しており、欧州ではGAIA-X5、インドではIndia Stack6という取り組みが進められており、中国はデータプラットフォームをデータ取引市場として展開しています。
DATA-EXでは、コネクタと呼ばれるAPIの接続仕様(機能やデータなどが必要に応じて呼び出される)によって、データ連携を実現しています。DATA-EXでは、分野間のデータ流通を実現するために、「分野間データ連携サービス」「データカタログ横断検索サービス」「来歴管理サービス」「データ取引市場サービス」の4つが提供される予定です。
「分野間データ連携サービス」とは、データ交換に必要な環境や機能が一体となったものであり、DATA-EXの運営事業者が提供する主要サービスです。データ交換機能によりデータの連携を行う参加者の正当性を保証する認証機能や、適切なアクセス制御を実現する認可機能を有しています。
「データカタログ横断検索サービス」とは、データ提供者の作成したカタログを用いて、活用したいデータの発見をサポートするサービスです。
「来歴管理サービス」とは、DATA-EXを介したデータの収受・供与の来歴を記録管理し、DATA-EX参加者の要望に応じて、その来歴を提供するサービスです。
「データ取引市場サービス」とは、DATA-EX支援サービス提供者が、DATA-EX参加者の契約に基づいて、データの提供と便益の交換を支援、管理するサービスです。
これらの機能により、DATE-EXは既存のデータ流通プラットフォームを効果的に連携させ、高い信頼性を有したデータ流通を実現することが期待されています。
DATA-EXは信頼性の高い基盤(開発予定の拡張モジュール群により実現)であり、IDSA7やGAIA-Xなどとの国際連携も可能となることが期待され、今後、国際的なデータ流通との接続検証を進めていくことが予定されています。また、異なる分野間でデータ連携を行うに当たっては、データやプラットフォームとしてのトラスト(組織、システム、データなどの信頼性)が重要になるため、DATA-EXではトラストの構築のためにトラストサービス基盤(外部認証局による利用者認証、eシール、電子署名、タイムスタンプなどを想定)と連携する予定です。
ここまで述べてきたように、日本でもさまざまなデータ流通プラットフォームに係る取り組みが企業、自治体で進められています。そのため、データ流通プラットフォームが一極集中で統合されるのではなく、今後も個々のプラットフォームにおいてデータ流通が行われると想定されます。その中で、各分野が持つデータを別の分野へと流通させるニーズも出てきており、国が提唱するDATA-EXへの期待が高まっています。DATA-EXは今後、データ連携の統合的な機能を提供する予定のため、自社開発が不要となり、企業間の流通促進が期待できます。
データの国際流通についても、2023年に日本で開催されたG7デジタル会合での主要テーマ(DFFTの推進)となっており、政府への期待も高まっています。
新たなプラットフォームが生まれ、整備されていく中で、データ流通をさらに促進させるためには、どのデータを流通させることで、新規のビジネスモデルが生まれるのかという、具体的なユースケースについてのアイデアが必要です。また産業界においても、協調領域としてデータ連携を行うに当たっての旗振り役の登場や、データの取り扱いに係るルールの策定が求められます。
このようなデータを扱うことに関する障壁は取り除かれる方向へと確実に進んでおり、今後のデータ流通に期待ができるとともに、企業としても備えが必要となっています。
1 https://wagri.naro.go.jp/
2 https://www.sip4d.jp/
3 https://www.mlit-data.jp/platform/
4「2022年度 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術/分野間データ連携基盤の在り方等に関する調査・検討」NEDO調査報告書((別添1)分野間データ連携基盤の技術仕様書 P14∼32, 57∼58)より引用
5 ドイツ政府とフランス政府が2019 年10 月 29 日に発表した、 EU 規模でのデータの共有や利活用を支援するためにクラウドサービスのインフラを構築する構想(GAIA-X プロジェクト)。GAIA-X は、認証や契約手続に基づいてデータへのアクセスを制御し、データ主権を保護しつつ、さまざまなクラウドサービスとの相互運用性を確保する技術的な仕組み(出所:デジタル庁、包括的データ戦略)
6 インド政府が2015年から進めているDigital Indiaを目指したDX政策に係る取り組みの一環で、個人識別番号を基にしたプラットフォームの総称。API形式で個人認証や個人情報などの機能が提供されている。 https://www.indiastack.org/.より引用
7 ドイツのフラウンホーファ研究機構が立ち上げた産業データ交換に関する構想とソフトウェア技術である、IDS(International Data Spaces)の推進団体(出所:デジタル庁、包括的データ戦略)
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