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一般財団法人行政管理研究センター(IAM)は「AIガバナンス自治体コンソーシアム」の活動を開始しました。同コンソーシアム設立の狙いはどこにあるのか。また、どのような成果が期待されているのか。IAM 公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹の箕浦龍一氏、大阪市CDO補佐監・CIO・CISO デジタル統括室長の鶴見一裕氏、コンソーシアム事務局のPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)執行役員 林 泰弘が意見を交換しました。
参加者
大阪市CDO補佐監・CIO・CISO デジタル統括室長
鶴見 一裕氏
一般財団法人行政管理研究センター 公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹
兼 立教大学 法学部 特任教授
箕浦 龍一氏
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー デジタルガバメント統括
林 泰弘
(インタビュアー)
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 公共事業部
谷井 宏尚
(左から)林 泰弘、鶴見 一裕氏、箕浦 龍一氏
―― 「AIガバナンス自治体コンソーシアム」(主査:筑波大学 岡田幸彦教授)が行政管理研究センターで発足しました。その背景としてまず、国におけるAI(人工知能)の利活用を含めたDXの進捗状況について、PwCコンサルティングの林さんに紹介いただきたいと思います。
林 AI関連技術は日々発展を見せ、利用機会と可能性は拡大の一途をたどっています。産業におけるイノベーション創出や社会課題の解決に向けても活用が期待されています。さらに自治体においても、生成AIを含むAIの活用は活発になっています。
期待が高まる一方で、AI特有のリスクも指摘されています。政府も対応を進めており、これまで、総務省主導の「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」(2017年)と「AI利活用ガイドライン~AI利活用のためのプラクティカルリファレンス~」(2019年)、経済産業省主導の「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドラインver1.1」(2022年)などのガイドラインがそれぞれ運用されてきました。
2024年1月には、これらを統合する「AI事業者ガイドライン案」が政府のAI戦略会議から公表されました。最新のガイドラインの大きな特色は、AIの事業活動を担う立場を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに大別している点です。自治体においては、「AI提供者」「AI利用者」が対象になるでしょう。職員の皆さんが事務でAIを活用すれば「利用」、そして住民向けにサービスを提供される中にAIを組み込んでいけば「提供」になってくると思います。
―― 箕浦さんは本コンソーシアムを発足させた行政管理研究センターにおいて、オフィス改革やDXなどに関係する企業と公務部門従事者から構成される「公務部門ワークスタイル改革研究会」の研究主幹も務めていらっしゃいます。自治体におけるDX進捗状況やAI取り組み状況はいかがでしょうか。また、自治体が抱える課題に対し、「地域の変革に向けた自治体DX」はなぜ必要なのでしょうか。
箕浦 自治体DXが足元の4、5年で注目されていますが、10年、20年遅れと言わざるを得ません。自治体の中にも大阪市のようにデジタル活用をきちんと進めているところもありますが、多くの自治体はそれができていません。
確かに、デジタル技術の著しい進展によって、人々のライフスタイルやビジネスの標準が大きく変わりました。それにも関わらず、ほとんどの公務組織が旧態依然たる業務のやり方から抜け出せていないのですが、その大きな理由の一つとして、国による全体的なカバーができていなかったことが挙げられます。例えば、自治体が行っている事務のほとんどの制度自体は国が作っているにも関わらず、クラウドの利活用や、個別の業務システムの開発・改修のための仕様書作成や調達などの多くの業務を、自治事務だからという理由で自治体側が負担していました。多くの自治体では、デジタルリテラシーを備えた職員も不足する中、国の様々な制度改革に振り回される形で現場が疲弊してきました。このような状況がこの20年間ずっと続いてきたのです。
遅ればせながら、2021年にデジタル庁ができて、全国の自治体の基幹システムの一本化などに取り組んでいるわけですが、自治体にとってはこれまで独自に行ってきたやり方を変える必要があり、なかなかDXが進まない状況にあります。ただでさえ通常業務に忙殺されている多くの自治体の現場では対応に苦慮するところも多く、想定されていたスケジュールも危ぶまれています。巡航軌道に乗るまでにはまだ数年かかるでしょう。
ただし、自治体にとっては大変ですが、今回これをやらなければ5年後、10年後に世界から選ばれる国・地域にはなりません。政府は時間をかけてでも、丁寧に支援しながら、標準化・共通化、統一化などの基盤を整えていく必要があります。
―― 今、箕浦さんからもご紹介がありましたが、大阪市では生成AIを含むAIの利活用を早くから進めているそうですね。
鶴見 大阪市は今、政府の自治体システムの標準化と並行して、大阪市独自のDX戦略を1年あまり前に策定し、DXの取り組みを進めているところです。悩ましいのは、自治体システムの標準化は、まさに自治体のバックオフィス業務ですが、DXという潮流の中で、住民、あるいは事業者が求めているのは、どちらかといえばフロント側のサービスの利便性や高度化です。フロントとバックが繋がれば、さらに便利なサービスの提供が実現する可能性がありますが、両者のタイムラグなどもあり、バランスを取りながら進めているのが現状です。
また、生成AIの活用も勧めており、今後の住民サービスの向上や業務の効率化など、行政の大きな変革への起爆剤になると感じています。本市における利活用の可能性を調査するために、2023年4月にはデジタル統括室の中に生成AIの調査活用検討チームを設置し、生成AIに関する技術動向、国や他の自治体あるいは先進的な民間企業における活用状況などの情報収集・分析を行いました。一部職員による試行利用なども行いながら本格利用を目指した検討を約1年間進めてきたところです。
利活用のユースケースの発掘はこれからですが、文書の要約・作成・添削、企画案のたたき台の作成といった汎用的な業務については効果的に活用できるという実感を得ています。2024年4月には職員の利用ルールを定めたガイドラインを作成するとともに、クラウドプラットフォーム上で提供されるAI利用環境を整備したところです。
―― 大阪市において、AI活用で意識している点や課題があれば教えてください。
鶴見 生成AIには大きな可能性がある一方で、ハルシネーション(誤答)や情報漏洩、著作権の侵害などのリスクも指摘されています。本市の職員の利用では特に個人情報の取り扱いなどに留意する必要があることから、本市専用の共通クラウド内の閉塞した領域内で生成AIを利用するような環境を構築し、リスク対策を行っています。それ以外の生成AIの利用は禁止しています。
また、生成AIからの回答をそのまま利用するのではなく、根拠や裏付け、表現の偏りなどについては、確認を必須とするとともに、生成AIの回答結果を対外的に利用する場合には、その旨を上席者と共有の上、組織的に意思決定をするといったルールを定めたガイドラインを作成して利用を進めています。
大阪市CDO補佐監・CIO・CISO デジタル統括室長 鶴見 一裕氏
―― 大阪市では独自のガイドラインを作成しているとのことですね。冒頭に林さんからも紹介がありましたが、国におけるAIガバナンスの整備状況はどうなっているのでしょうか。
林 先ほど紹介した「AI事業者ガイドライン案」は2024年1月に公表され、利用が始まりつつあります。このほか、経済産業省傘下の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2024年2月、AIの安全性の評価手法の検討等を行う機関として、「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」を設立しました。信頼できるAIの確保に向けた検証などを進めていくと聞いています。
もちろんこれらの仕組みは有効ではあるものの、民間の事業者を主な対象としており、自治体の職員にとってはあまり使い勝手のいいものになっていないという印象を受けます。また大阪市は先進的な取り組みを進めていますが、全国1,700余りの自治体はまだまだこれからといったところです。今回の「AIガバナンス自治体コンソーシアム」の発足の背景には、これらの自治体の職員の皆さんが安心してAIを利用できるようなガイドラインを作成するという目的もあります。
PwCコンサルティングは2023年9月、「自治体における生成AI導入に向けたガイドブック」を作成し、無償での提供を開始しました。多くの自治体から反響を得ており、ニーズが高いと認識しています。本コンソーシアムでも貢献したいと考えています。
―― 箕浦さん、鶴見さんにもお尋ねします。自治体におけるAIのガバナンスはなぜ重要なのでしょうか。
箕浦 今後、様々な分野でAIの活用が進められながらビジネスの形や国民生活も大きく変貌を遂げていくことが予想される中、「AI事業者ガイドライン案」でとりあえず民間の事業者向けのものはカバーできていると思います。このような世の中の変化の中で、公務部門だけがAIを活用しない、という形はあり得ないと思いますが、政府だけで行政向けのものを考えてしまうと、自治体業務の実態に合わず、使いにくいものとなったり、却ってセキュリティの抜け道を作ってしまったりすることになりかねません。
従来の自治体向けのセキュリティポリシーにおいても、実際に自治体が使うには硬直的すぎて、現場が疲弊する要因になっていました。特に、コロナ禍でオンラインやリモートでの業務が増え、組織外部とのオンライン会議や情報共有に苦慮する場面が多くなりました。セキュリティは行政の現場の実態やニーズ、業務の特性を理解して構築することが必要であり、公務部門と言えども、進歩するデジタル技術を最大限に活用することが大切です。それにより自治体職員の働き方を改革することが可能になります。
鶴見 自治体の場合、さまざまな法令を遵守したうえで、AIを用いた意思決定のプロセスや結果についての公平性や透明性の確保し、これらに対する説明責任を果たすことが求められます。そのためには、組織のコントロール下においた責任あるAI活用を行う必要があり、その仕組みを構築することが大切だと思います。
一般財団法人行政管理研究センター 公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹 兼 立教大学 法学部 特任教授 箕浦 龍一氏
―― 改めて、「AIガバナンス自治体コンソーシアム」が設立された経緯や目指す姿を教えてください。
箕浦 生成AIなどの利用に関して過度に厳しいルールを作ってしまうと、職員の方が使いづらいものになってしまいます。具体的なユースケースや業務の類型を前提としながら、セキュリティ面も含めて、安心して使えるような指針を示す必要があるのではないかというのがきっかけです。LGWAN(総合行政ネットワーク)にしろ、三層分離にしろ、制限が過剰なために行政の現場は苦労しました。それと同じようにしてはならないという気持ちもありました。というのも、生成AIに限らず新しく登場するデジタルソリューションは、社会全体を絶えず変化されていくのですから、行政においてもこれを前提した業務を行うことは不可避であり、新しい技術を使わないという選択肢はあり得ないと思うからです。禁止や制限だけでなく、どのような形でならAIを使えるか、行政として可能な活用の選択肢をポジティブリストとして示し、安心して行政のサービスの向上や職員の仕事の質の向上につなげていけるように支援したいですね。
生成AIなどは非常に動きが早いので、使えるガイドラインを早く作るためにも活動期限として24年度(2025年3月)末までとし、まずは発足から9月までの間に自治体の皆さんから意見を伺い、議論します。その上で、2025年1月にガイドラインの発表を目指しています。
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー デジタルガバメント統括 林 泰弘
―― すでに大阪市には「AIガバナンス自治体コンソーシアム」の副主査として参加いただいていますが、全国1,700あまりの基礎自治体にとっても、本コンソーシアムに参加する意義やメリットも多そうです。
鶴見 その通りです。本コンソーシアムは、より広い観点でAI活用をどう進めていくのか、多くの知恵を出し合い議論する場です。会員として参加する自治体は、本コンソーシアムを通じて新たな知見を得られるでしょう。また、法令化や制度化がなされるような場合でも、本コンソーシアムに参加することで迅速にキャッチアップし、国全体のスタンダードに円滑に対応していけるようになるでしょう。有識者の方々や各自治体との連携による課題の共有や、AIの提供者である各IT企業の技術情報の収集もできます。一自治体単独ではなかなか得難い有益な知見や情報が得られるところも、メリットとして大きいと思います。
箕浦 AIに限らず、デジタルの恩恵を活用することは世の中を良くし、ひいては人間がより人間らしく生きられる社会に近づいていくことだと思います。本コンソーシアムが立ち上がり、それぞれの自治体が知恵を出し合いながらオールジャパンで進んでいくことは大きな意義があると思います。
コンソーシアム自体は自治体にとって負担の少ない形で参加いただけるものになってますので、ぜひ多くの自治体に仲間に入ってほしいと願っています。