
財経部門の業務プロセスを変える生成AI活用実証実験の裏側――チャットボットの枠を超えて、真の生成AI変革を実現
業務プロセスの改革を目指す大手商社の三菱商事株式会社とPwC Japanグループは、共同で生成AIを用いた財務経理領域の業務自動化の実証実験を行いました。専門的な知見とテクノロジーを掛け合わせ、実験を成功に導いたプロジェクトメンバーの声を聞きました。
2024-09-05
1年先はおろか、半年後、1カ月後に何が起こるのかさえ予想できない「VUCAの時代」。そのような先の見えない時代を漂う企業は、何をよりどころにして未来に進むべきなのか?日本たばこ産業(JT)は、「心の豊かさを、もっと。」という新たなグループパーパスを羅針盤とし、生成AIなどの先端テクノロジーを活用しながら、社会により良い価値を提供し続けようとしている。
昨日まで平和だった国で突然紛争が起こり、「しばらくはやって来ないだろう」と思っていた大地震が突如発生する。地政学リスクや自然災害リスクが顕在化する頻度とその規模は、年を追うごとに高まっているようだ。
加えて地球温暖化や、テクノロジーの急速な進歩など、ビジネスを取り巻く環境は多方面においてドラスチックに変化し続けており、次に何が起きるのか、全く先を見通せない状況になっている。まさに「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代」だ。
このような先行きの読めない時代に、企業はどんなスタンスで未来と向き合うべきなのか?
「トレンドが目まぐるしく変化する状況に鑑みると、短期的な計画を立てて遂行するだけでは生き抜くことは困難です。自社の“ありたい姿”と“あるべき姿”を羅針盤とした長期視点の改革が不可欠だと言えます」
そう語るのは、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)執行役員 パートナーの三善心平だ。
PwCコンサルティング 執行役員 パートナー 三善 心平
同社が2024年2月に発表した調査結果によると、「現在のビジネスモデルでは10年後に自社は存続できない」と答えた日本のCEOは、調査対象の実に64%にも上っているという。
「何もしなければ激しい時代の変化に取り残され、退場を迫られるのではないか、という日本の経営者の強い危機感がうかがえます」と三善は読み解く。
では、“ありたい姿”“あるべき姿”を羅針盤とする改革とは、どのようなものなのか?
「それは、『会社としてどうあるべきなのか?』というパーパス(存在意義)を明確に定め、経営も現場も、それをよりどころにしながら変化に向き合っていけるような組織を創り上げることです」
そのように語るのは、PwCコンサルティング 上席執行役員 パートナーの三治信一朗である。
PwCコンサルティング 上席執行役員 パートナー 三治 信一朗
「変化に向き合うポイントは、『変わらないもの』『変えられないもの』『変えていけるもの』の3つを考えること」だと三治は指摘する。
「変わらないもの」とは、すなわちパーパスだ。どんなに時代が変化しようと、揺らぐことのない存在意義を確立し、それを守り抜いていく経営の実践が求められる。
そして「変えられないもの」とは、テクノロジーの進化である。
「地政学リスクや自然災害リスクは、いつ顕在化するのかを予想するのが困難ですが、5年後、10年後にどんなテクノロジーが普及しているのかということは、投資や研究開発の状況を基にある程度予想可能です。そして、そのトレンドは変えることができません。必ずやってくる変化に備え、テクノロジーを先取りしていく必要があります」(三治)
一方で、変化に対応しながら「変えていけるもの」もある。それは、社員やチーム、組織などだ。
「『変わらないもの』(=パーパス)を守りつつ、『変えられないもの』(=テクノロジー)の変化に対応しながら、社員やチーム、組織が、自らのマインドセットやスキルセットを『変えていく』。それこそが、『VUCAの時代』に求められる経営変革ではないでしょうか」と三治は提言する。
「VUCA」の時代に求められる経営変革に、いち早く取り組み始めた企業がある。たばこや医薬品、加工食品など、多彩な事業を展開する日本たばこ産業(JT)だ。
JTは23年2月、「心の豊かさを、もっと。」という新たなグループパーパスを発表した。自然・社会・個人の様々なスケールで非連続な変化が起こり、事業環境の不確実性・複雑性がますます高まっている状況の中、JTグループが持続可能であるための方向性を明確にするものとして、パーパスを策定したという。
まさに、どんなに時代が変化しようと「変わらないもの」を、シンプルな言葉で打ち出したのである。
「JTグループが提供する商品・サービスは、すべてが人々の『心の豊かさ』に通じるものです。もちろん、その価値を長期にわたって発揮し続けるには、時代とともに変えていかなければならないものもあります。新たなテクノロジーを積極的に採り入れていくことは、その最たる取り組みの一つと言えるでしょう」
そのように語るのは、日本たばこ産業 執行役員 IT担当の下林 央氏である。JTグループ全体のIT部門を統括する下林氏は、テクノロジーの領域からグループパーパスの具現化を担っている。
「IT標準化や事業間シナジーといった短期的なコスト削減による財務への貢献だけでなく、グループの中長期的な社会課題解決に資するテクノロジーの活用によって、『心の豊かさを、もっと。』というパーパスの具現化に貢献していかなければなりません。たばこ、医薬、食品に続く新規事業創出に対してテクノロジーをどのように掛けていくのか、戦略を策定し、将来を見据えた検討を始めています」(下林氏)
日本たばこ産業 執行役員 IT担当 下林 央 氏
新たなテクノロジーを積極的に採り入れ、活用していくためには、社員の意識や行動を変えることが不可欠だ。そこで、下林氏が管掌するIT部門では、パーパスを実現するためにテクノロジーを活用して行動できる理想の人物像を「Futurist(フューチャリスト)」として定義し、育成に取り組んでいる。
「Futuristとは、『日常の小さな出来事や対象を未来につなげて考え、行動できる人』のことです。IT部門では期限の決まっているプロジェクトが多く、そのデリバリーを中心に考えがちですが、感受性豊かに、高い視座から周りを見渡してみると、未来の『心の豊かさ』につながるいろいろなアイデアやヒントが見つかるものです」(下林氏)
例えば、スマートフォンが誕生してからすでに20年が経過しているが、実は電話やカメラ、液晶タッチパネルなどの部品はその前から存在しており、“世紀の発明”と呼ばれた製品も、それらを組み合わせただけにすぎなかった。
下林氏は、「未来を創るカケラのようなものは、今もあちこちに落ちています。それらをいかに組み合わせ、自ら将来を形作ることができるかが問われているわけです」と語る。
下林氏は、「社員一人ひとりが心豊かなFuturistとなり、『心の豊かさを、もっと。』というグループパーパスに沿った未来をそれぞれに創り上げてくれることが理想」だと話す。
このJTの取り組みについて、PwCコンサルティングの三治は、「個の力を高め、ミッションやパーパスの下で個と個がつながり合う『ティール組織』の構築を実践されているように感じます」と語る。
「個のパワーを増強するには、すべての活動をガバナンスやルールで縛り付けるのではなく、新しいテクノロジーを積極的に活用できるように許容範囲を持たせることも重要です。ミッションやパーパスが許容範囲の外枠となり、目指すべき方向を緩やかに指し示すわけです」(三治)
数ある先端テクノロジーの中でも、JTが目下、社内普及に力を入れているのがAIだ。
「まずは、社員がAIになじみ、業務への活用を考えることができる状態になることが重要です。すでに機械学習ツールやRPAは社内で利用可能になっており、23年3月には、生成AIをセキュアな状態で利用できる『JT Group AI Concierge』を社内リリースしました。生成AIを使った業務変革の社内公募も実施し、現在50件ほどの実証実験が行われています」(下林氏)
生成AIの基盤整備や実証実験については、PwCコンサルティングの支援を受けているという。
同社の三善は、「未来がどうなるのかを完全に予測するのは難しいものですが、生成AIは変化の予兆を察知するツールとしても活用できるはずです。JTのように、多くの社員がAIや生成AIを使いこなせるようにすることを目指せば、変化にも対応しやすくなるのではないでしょうか。『不確実性をエンジョイ』することで、『変化は敵ではなく、チャンスなのだ』という発想も生まれるかもしれません」と語る。
また、AIや生成AIに限らず、あらゆる最新テクノロジーのトレンドを常に捉え続け、変化に対応するための武器として使いこなすことも、これからの経営においては不可欠だ。
三治は、「最新テクノロジーへの投資は、継続し続けることが重要です。短期的には成果が表れなくても、続けることで、長期的には必ず業績や企業価値の向上につながります。PwCは、今後10~20年間に社会実装と普及が見込まれ、大きな社会インパクトをもたらす革新的テクノロジーとして、脳科学、量子技術、食品変革、宇宙関連技術、エネルギー変革の5つを選定しています。これらの領域についても、時代を先取りして、継続的な投資を行っていくことを提言したいですね」と語る。
PwCは、企業がこれらの最新テクノロジーを採り入れ、生産性向上のみならず、「新たな価値創出」や「新規事業創出」を実現するためのDX支援も行っている。
パーパスを土台としながら最新テクノロジーを積極的に活用していくことが、「変化に強い企業」になるための条件と言えそうだ。
生成AIに関するPwC Japanグループの提供サービス。「事業化支援」「社内導入支援」「リスク管理支援」の3つのサービスを提供し、クライアントの生成AI利活用を支援する
※本稿は、日経ビジネス電子版に掲載されたPwCのスポンサードコンテンツを一部変更し、転載したものです。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
業務プロセスの改革を目指す大手商社の三菱商事株式会社とPwC Japanグループは、共同で生成AIを用いた財務経理領域の業務自動化の実証実験を行いました。専門的な知見とテクノロジーを掛け合わせ、実験を成功に導いたプロジェクトメンバーの声を聞きました。
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