
財経部門の業務プロセスを変える生成AI活用実証実験の裏側――チャットボットの枠を超えて、真の生成AI変革を実現
業務プロセスの改革を目指す大手商社の三菱商事株式会社とPwC Japanグループは、共同で生成AIを用いた財務経理領域の業務自動化の実証実験を行いました。専門的な知見とテクノロジーを掛け合わせ、実験を成功に導いたプロジェクトメンバーの声を聞きました。
2021-12-24
「AI(人工知能)経営」における大きな課題の一つであるDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の不足。他方、三菱マテリアル株式会社は2023年までに100人以上のデジタル人材を、社内人材の育成によって確保する予定だという。同社 DX推進部 データサイエンス室 室長の片倉賢治氏にその詳細を聞きつつ、PwCコンサルティング合同会社 三善心平と共にDX人材育成の重要性について議論した。
―昨今の企業の課題をどのようにご覧になっていますか。
三善:急速なデジタル化や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による事業環境の変化とともに、DXの推進や、AI、データの利活用が急務となっています。PwCコンサルティングに対する企業からの依頼も、以前は「AIとは何か」「AIを活用することで何ができるのか」というリサーチやフィジビリティスタディのご相談が多かったのですが、最近ではAIの業務組み込みと効果刈り取りなど、導入と活用を前提とした、より実践的なご相談が増えてきました。
実践フェーズにおいて問題となるのが、DX推進やAI・データの利活用を担う社内人材の不足です。社内に適任者がいないので、外部から優秀なデータサイエンティストを中途採用しようとする企業も少なくありませんが、企業文化や仕事の進め方の違いなどになじめず、短期間で離職してしまうケースも目立ちます。外部の人材を探すだけではなく、自社の業務や文化を熟知した社員をDX人材として育成することが、人材不足の解決には有効だと考えます。
実際、PwC Japanグループが発表した「2021年AI予測(日本)」の調査結果でも、AIを本格導入する際の課題は、社員のAI利活用導入スキルが1位、社員の開発/設計スキルが3位となっており、社員の育成が喫緊の課題であることが分かります。調査はAIに関するものですが、データ活用についても同様のことが言えます。
片倉氏:全く同感です。三菱マテリアルは同じ考え方の下、外部採用だけに頼るのではなく、データサイエンティストなどのデジタル人材を社内育成する取り組みを始めています。
三菱マテリアル株式会社 DX推進部データサイエンス室長 片倉賢治氏
―DX人材の育成は、現在あらゆる企業が課題を抱えているところですので、後ほど詳しくお聞かせいただきたいです。その前に、そもそも三菱マテリアルではどのような指針でDXの取り組みを進めているのでしょうか。
片倉氏:当社は2020年4月にDX推進本部を設置し、「MMDX」(三菱マテリアル デジタル・ビジネストランスフォーメーション)というデジタル化戦略を始動させました。
当社は、18年からガバナンス強化の取り組みの一つとして、SCQDE(Safety & Health/Compliance & Environment/Quality/Delivery/Earnings)という、業務遂行における判断の指針(優先順位)を制定し、徹底を図っています。さらに、事業領域と組織能力の不釣り合いといった課題を解決するために、事業構造改革(事業ポートフォリオの最適化)に加え、“4つの改革”に取り組んでいます。それが、グループ経営形態改革(CX)、人事制度改革(HRX)、業務効率化、そしてDX推進を図る「MMDX」です。
―「MMDX」では、どのような変革を進めているのでしょうか。
片倉氏:事業競争力を高めるため、とくに「事業特性に合った施策によるスピード感、柔軟性のある経営」「競合他社に対する遅れに追いつく」「ものづくり力の強化」に関係が深い変革を進めています。キーワードとしては、「顧客との距離を縮める」「競合に追いつきグローバルで勝っていく」「経営基盤を強くする」などを掲げ、全社横断で21テーマにわたるDXを推進しているところです。
―そうした「MMDX」の取り組みを推進する上で、先ほどお話に上がった、データサイエンティストや各事業部門のデータ活用ができるDX人材は欠かせませんね。人材の社内育成にも力を入れているとのことですが、具体的にどのような取り組みを進められているのでしょうか。
片倉氏:デジタル人材の社内育成には、私が室長を務めるデータサイエンス室が一翼を担っています。
データサイエンス室は20年度に立ち上がりました。当社はものづくりの会社なので、生産技術については、ものづくり推進部やスマートファクトリー推進センターが、材料開発を高効率化するマテリアルズ・インフォマティクスなどについては、中央研究所がすでに変革の取り組みを行ってきました。
データサイエンス室は、これらの活動をいっそう加速させ、全社の至るところで「実務で生み出されるデータを使いこなす、データでものを言う」という文化を醸成し、「データ駆動型経営」を実現するというミッションを掲げて活動を行っています。
具体的には、クラウドデータ基盤の構築とBI(ビジネスインテリジェンス)の導入・普及活動に加え、データサイエンティストや、各業務部門におけるデータ活用人材(BI人材)の育成、全社に対するデータ分析リテラシーの教育展開の検討を進めています。
すでに10人弱がデータサイエンティストの研修を受講しており、学んだ知識に基づくデータ分析をOJTとして実践中です。この専門教育プログラムは非常に好評で、様々な部署から「自分も受けてみたい」という要望が寄せられています。
こういった取り組みを通して、今後2~3年をめどに、100人以上のデジタル人材を社内で育成したいと考えています。
―さらに三菱マテリアルでは、専門のデータサイエンティストの他に、データサイエンスの知識と各業務部門の知識を兼ね備えた「ビジネストランスレーター」という人材定義を検討しているとうかがいました。
片倉氏:ビジネストランスレーターは、データ分析リテラシーと業務知識の両方を生かして、データサイエンティストと各業務部門の“橋渡し役”を担うスペシャリストです。こうした人材や、各業務部門でBIを使いこなせる人材を増やさなければ、真の意味での「データ駆動型経営」は実現しません。現場だけでなく、マネジメント層も含めて、全社的にデータ分析スキルやリテラシーを高めていきたいと考えています。
―興味深い取り組みですね。PwCではDX人材の育成で悩まれている企業と触れ合う機会は少なくないと思いますが、三善さんはこうした課題にどのようなアプローチが有効だと思われますか。
三善:事業課題の解決にデータを利活用するためは、事業に関する知識とデータ分析能力の双方を兼ね備えていることが望ましいのは言うまでもありません。
「自社にはそんな能力を持った人材がいない」と話す企業もありますが、実際はそんなことはなく、学ぶ機会や活用する機会が与えられないために能力を発揮できないだけである場合が多いのです。データ分析スキルの研修に加え、人材を適材適所に配置する仕組みを作れば、社内でも十分に育成が可能だと思います。
PwCコンサルティング合同会社 データアナリティクス ディレクター 三善心平氏
―最後に、今後DX人材育成に挑む企業へ向けてメッセージをお願いします。
片倉氏:デジタル人材を社内育成するのは、決して簡単なことではありませんが、今後ますます国際競争が激しさを増す時代においては、危機感を持って取り組まないといけません。競合他社に負けないように、スピード感を持って進めていきます。
三善:PwCでは、データ分析スキルを身に付けた人材に、過去の事例に基づいたワークショップや、実際の業務課題解決のためのデータ利活用プロジェクト企画、伴走者としてのプロジェクト推進支援など、実務でデータを利活用する実践的なプログラムを提供することで企業を支援しています。DX人材育成は企業にとって急務であるということを自覚し、知識と実践の両面から積極的に取り組んでいただければと思います。
※本稿は日経ビジネス電子版に2021年に掲載された記事を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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