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2022-09-26
オンラインを介した対戦型ゲームで勝敗を競う「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」。その市場規模は年々拡大しており、日本能率協会総合研究所の調査によると、2020年度に60億円だったeスポーツの国内市場規模は2026年度には500億円に達する見込みだという。eスポーツのプロ選手には、高次な瞬発力や判断力が要求される。そんな彼らが高度なパフォーマンスを発揮している時の心身の状態をAI(人工知能)で分析することで、次世代の選手育成やゲームの勝率向上、さらにチームワークの強化に役立てられないか。
東京ヴェルディeスポーツとPwCコンサルティング(以下、PwC)が共同で取り組んだ、AIによる分析で匠の技を再現し、次世代に継承していくプロジェクトは、そんな発想からスタートした。eスポーツチーム「名古屋OJA」のプロ選手として第一線で活躍する鬼木渉氏を「匠」とし、プレイ中の心身のあらゆる状態を可視化することで、新たな知見を得る取り組みだ。そこから見えてきたものは何か。プロジェクト関係者からお話を伺った。(本文敬称略)
参加者
一般社団法人 東京ヴェルディクラブ
理事/東京ヴェルディ eスポーツチームGM
片桐 正大 氏
名古屋OJA
鬼木 渉 選手
PwCコンサルティング合同会社
データアナリティクス 執行役員 パートナー
三善 心平
データアナリティクス シニアアソシエイト
久保 洋量
左から 三善、久保、鬼木 選手、片桐 氏
一般社団法人 東京ヴェルディクラブ 理事/東京ヴェルディ eスポーツチームGM 片桐正大氏
PwC 三善:
最初に東京ヴェルディ eスポーツと名古屋OJAについて紹介をお願いします。
東京ヴェルディ 片桐:
東京ヴェルディ eスポーツは2016年、「若者とのタッチポイントを作ること」と「ボーダーレスで世界進出すること」を目標に、東京ヴェルディのeスポーツ事業として設立されたプロフェッショナルチームです。東京ヴェルディはサッカーチームとして知られていますが、なぜeスポーツチームを設立したかを説明します。
東京ヴェルディの前身である「読売サッカークラブ」が日本最初のプロサッカークラブとして設立されたのは、今から53年前の1969年です。そして、その後の50年間で、スポーツを取り巻く日本の環境は激変しました。その大きな変化の1つが都市化の進展です。都市化が進むと都市には大規模なスポーツを許容する空間がなくなり、同時に人間も忙しくなります。そうした状況下でも楽しめるように、省スペース少人数化されたのがアーバンスポーツです。私たちはスケートボード、3X3バスケットボールなどアーバンスポーツを積極的に取り込み、15種目の総合スポーツクラブになっています。その中でもeスポーツこそが最も都会的で現代的なスポーツであると考え、チームを設立することにしたのです。
名古屋OJA 鬼木:
名古屋OJAも同じく2016年に設立された、プロフェッショナルなeスポーツチームです。主にカードゲームや格闘ゲームのリーグに参戦しており、私は「名古屋OJA BODY STAR」の選手として格闘ゲームのプロリーグに出場しています。
PwC 三善:
PwCは2018年11月に「eスポーツ事業推進室」を設立し、eスポーツチームの立ち上げ支援サービスを開始しました。そして2019年3月に、東京ヴェルディとデータ解析領域でのアドバイザリー契約を締結しました。今回のプロジェクトも、その一環ですよね。
東京ヴェルディ 片桐:
はい。東京ヴェルディeスポーツは2020年から名古屋OJAと共同で「世界一のプロeスポーツチームを作ろう!」というプロジェクトの運営を開始し、メガスポーツクラブを目指した取り組みを行っています。その中にはPwCが提供する分析技術を活用し、トップ選手のバイタルデータやプレイ中の心身の状態を可視化して、知見を得るという取り組みも実施しています。
また、東京ヴェルディは2022年4月に「シブヤeスタジアム(eスポーツ高等学院)」を開校し、未来のプロ選手を目指す人材育成に注力しています。その取り組みの1つとして、データ解析でプロ選手の育成に向けた効果的なコンテンツを特定したいと考えました。トップ選手をロールモデルとしてプレイテクニックのデータを収集・解析し、効果的な基準を設定します。これにより、新規選手の獲得基準にも活用できますし、チーム強化も促進できると期待しています。
PwC 三善:
「eスポーツ事業推進室」の設立は、PwCのPurpose(存在意義)である「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」を具現化した取り組みでもあります。日本は労働人口が減少しているにもかかわらず、労働生産性は低い。PwCではこの課題解決に、AIが役立つと考えています。高技能者が暗黙的に行っている作業をAIで定量化し、集合知として次世代に継承していくのです。
その1つとして、eスポーツで活躍するトップ選手のパフォーマンスを分析し、形式知化したいという思いがありました。高次な瞬発力や判断力が要求されるトップ選手の脳の使われ方、生活習慣、判断基準を定量化できれば、さまざまな分野に応用できると考えています。
PwC 三善:
AIによる分析で匠の技を再現し、次世代に継承していくプロジェクトにおいて、データ分析は久保さんが担当したのですよね。その内容を教えてください。
PwC 久保:
はい。プロジェクトでは鬼木選手を「匠」として、プレイ中の行動や目線、感情などのデータを収集し、勝敗につながる要因や傾向を、操作するキャラクターごとに可視化しました
具体的には鬼木選手の格闘ゲーム対戦映像を画像解析することで、キャラクター・コマンド操作情報を取得します。その上でアイトラッキングを活用した「視線分析」、表情撮影による「感情分析」、マルチモーダルなデータ分析によりプレイの特徴を詳らかにする「行動分析」を実施しました。そして、これらの分析結果と鬼木選手へのヒアリング内容を掛け合わせ、「総合分析」を行いました。
PwC 三善:
総合分析の結果から、どのようなことが分かりましたか。
PwC 久保:
画像AIで抽出された目線データとプレイデータを組み合わせた分析により、対戦の場面に応じて着目している箇所が可視化されたことで、鬼木選手の戦略の一端が見えてきました。例えば、不利な状況の打開をねらうためには、通常時にはあまり気にしていない特定のゲージ(登場するキャラクターの体力残量を示すグラフなど)を注視するといった行動が見られました。
PwCコンサルティング合同会社 データアナリティクス シニアアソシエイト 久保 洋量
プレイスタイルの可視化(キャラクターの位置情報をプロットし、相手や自分が受けたダメージ量をヒートマップ化したもの)
名古屋OJA 鬼木渉選手
名古屋OJA 鬼木:
分析結果で私が驚いたのは、プロ選手の間で認識している暗黙知が定量化されたことです。例えば、ある対戦ゲームに登場する特定のキャラクターは、対戦相手との間合いをある程度取って戦ったほうが効果的です。プロ選手であれば、こうしたキャラクターの特徴を把握していますが、それをAIが可視化できたことにびっくりしました。
また、プレイ中は感情の起伏を抑えるように心がけているつもりだったのですが、実際のデータを見ると、マイナスな感情が続いているときには勝率が低下しているケースが多々ありました。さらに、勝率が上がると思ってやっていた行動が、統計的に見ると勝率を下げる行動だったこともデータで示されました。こうした気づきは普通にプレイするだけでは得られません。データ分析から勝敗につながる行動パターンもわかりましたので、今後のプレイに活かしていきたいです。
PwC 久保:
そうですね。感情分析で「disgust(嫌悪)」が出たのは興味深い結果でした。プロ選手は冷静にプレイされているように見えますが、非常に不利な局面になると「disgust」の感情が強くなる傾向がありました。一方で「喜怒哀楽」の感情はあまり出ませんでした。こうした特徴は感情を表に出すことが少ないと言われる日本人特有の傾向なのかは注視していきたいところです。
東京ヴェルディ 片桐:
プロ選手が膨大な時間をかけて得た知見と、データ分析により導き出された結論が同じであると確認できたことは大変よかったと思っています。また、これまで全く考えていなかった「感情がプレイに与える影響」という新しい切り口を提示してもらえたことは、大きな収穫です。感情をどのようにコントロールするかといった、新たなトレーニングの必要性や方向性も見出せたので、私たちにとっては有意義なプロジェクトでした。
PwC 三善:
AIによる分析で匠の技を再現し、次世代に継承していくプロジェクトの最終的な目的は、「匠による技能伝承や業務効率化、さらに他業務への展開やシステム開発への応用」です。先述したとおり、PwCでは今回得た知見をさまざまな分野に応用できると考えています。片桐さんは今回のプロジェクトの結果をどのような方向に発展させたいとお考えですか。
東京ヴェルディ 片桐:
eスポーツはオンラインを介したデジタル上で勝敗を競います。ですから、そこで得られる経験や知見が、現代のビジネスに使えないわけがありません。先ほど三善さんがPwCの存在意義として「社会課題の解決」を挙げられましたが、私たちも社会に貢献したいと考えていますし、貢献すべきなのです。
プロサッカーチームとしての東京ヴェルディが使用しているスタジアムには、多くの税金が投入されています。つまり私たちは国や自治体に育てられている存在なのです。多くのスポーツ事業には、多かれ少なかれ税金が使われています。ですからスポーツを手掛けるビジネスマンたちは、「自分たちが社会に還元できることは何か」を常に考えているのです。そうした観点でeスポーツを考えると、デジタルを中心とした働き方をしている方々や、デジタルによる新たな価値創造をビジネスとしている企業の役に立てると考えています。
PwC 三善:
具体的にはどのようなケースが考えられますか。
東京ヴェルディ 片桐:
一例を挙げると、テレワーク時におけるチームワーク作りです。例えば、オンラインゲームにおける「遠隔地でプレイしているメンバー同士がタイミングを合わせて作戦を遂行する」というアクションは、テレワークで共同作業する際に必須のスキルですよね。また、「オンラインで信頼関係を構築し、それぞれの得意分野を活かして労働価値を最大化するにはどのような環境が必要か」といった知見は、以前から私たちが持っているものです。
さらにプロ選手が高いパフォーマンスを発揮している時の脳の状態はどうなっているかといったデータは、医療の領域でも役立てられる可能性があります。もちろん、バイタルデータは選手の個人情報ですから、開示や利用にあたっては本人の同意が必要ですし、取り扱いにも細心の注意を払う必要があります。しかし私は多くの選手が協力してくれると期待しています。
名古屋OJA 鬼木:
はい(笑)。自分の脳の使い方やバイタルデータが医療に役立てられる可能性があることは考えもつきませんでしたが、そのような形で社会貢献できるのであれば、プロ選手としても嬉しいです。
PwC 三善:
ありがとうございます。ご指摘のとおり、コロナ禍でリモートワークを推進している企業の多くは、コミュニケーション不足や従業員の会社に対する帰属意識の低下といった課題を抱えています。「リモート環境におけるチームワーク形成のノウハウ」は、多くの企業にとって喉から手が出るほど欲しい知見ではないでしょうか。
もう1つ、eスポーツのプロ選手から学べるのはヘルスケアの領域だと考えています。長時間椅子に座って集中力を維持するには、感情のコントロールはもちろん、バイタルサイン(脈拍・血圧・呼吸・体温)の正常値を把握して健康に留意することも重要です。私もそうなのですが、「在宅勤務になってから座りっぱなしで健康診断の結果が悪くなった」という人は多いでしょう。そうした環境の中でいかに健康を維持してパフォーマンスを発揮するかといった研究にとって、プロ選手のバイタルデータは貴重であり、役に立つデータになるのではないでしょうか。
東京ヴェルディ 片桐:
そうですね。eスポーツ選手のバイタルデータを分析し、メンタルヘルスケアやヘルステックサービスの領域で活用するといったことは十分に考えられます。eスポーツは現代的なスポーツで、デジタルとの親和性が非常に高い。今回のプロジェクトでは「デジタル上における人間の行動」をあらゆる角度から解析し、知見を得ました。この知見はあらゆるビジネス領域で活用できると考えています。
PwC 三善:
おっしゃるとおりです。将来はメタバース空間での経済活動が進むと指摘されています。そうした環境下においては、eスポーツが社会に果たす役割はますます大きくなると確信しています。本日はありがとうございました。
※本稿は、Forbes Japanのウェブサイトに掲載されたPwCのスポンサードコンテンツを一部変更、転載したものです。
PwCコンサルティング合同会社 データアナリティクス 執行役員 パートナー 三善 心平