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2022-06-08
日本企業の強みとして真っ先に挙げられるのが、「現場主義」です。特に製造業では生産性向上を目的とした「カイゼン」や、高品質なモノ作りを実現する熟練技術者の「匠(たくみ)の技」が現場を支えてきました。しかし、超少子高齢化による労働人口の大幅な減少で、こうした日本企業の強みは失われつつあります。特に匠の技は暗黙知として継承され、データ化されていないことが多い状態です。その結果、技能継承ができなくなり、企業全体の競争力低下を引き起こす一因となっています。
この課題を解決する手段として注目されているのが、AI(人工知能)の活用です。PwCコンサルティング(以下、PwC)では現在、AIによる分析で匠の技を再現し、次世代に継承していくプロジェクトに、クライアントとともに取り組んでいます。本稿では、2021年12月よりこの匠AIプロジェクトのPoC(概念実証)に取り組んでいるヤンマーエネルギーシステム(以下、YES)に、そのプロジェクト内容について聞きました。(本文敬称略)
参加者
ヤンマーエネルギーシステム株式会社
カスタマーサポート部 コンタクトセンター長
西川 禎昭氏
カスタマーサポート部 コンタクトセンター
デジタルデザイングループ 課長
河井 啓毅 氏
カスタマーサポート部 コンタクトセンター
デジタルデザイングループ
石野 慎二 氏
PwCコンサルティング合同会社
データアナリティクス ディレクター
三善 心平
データアナリティクス アソシエイト
川上 幹男
データアナリティクス アソシエイト
植松 祐人
左から石野氏、西川氏、河井氏、植松、三善、川上
ヤンマーエネルギーシステム株式会社 カスタマーサポート部コンタクトセンター長 デジタルデザイングループ 課長 西川 禎昭氏
PwC 三善:
最初にYESが実施しているデータ活用の取り組みについて教えてください。かねてからYESでは発電機などの稼動データを収集・分析し、機器の状態を把握してアフターサポートに活かす取り組みをされていたと伺っています。
YES 西川:
はい。YESは、ヤンマーグループのエネルギー事業を担う事業会社です。非常用発電機、コージェネレーションシステム、ガスヒートポンプエアコンを中心に、エネルギー関連システム事業を展開し、製品の開発・製造・販売からアフターサービス、更に遠隔監視サービスまで、開発からメンテナンスの全フェーズをワンストップで提供しています。
中でも注力しているのが、機器メンテナンスや遠隔監視といったアフターサービスビジネスです。コンタクトセンターでは、機器から収集したデータを分析し、保全・保安に役立てています。お客様からも「アフターサービスが充実している」と評価いただいています。YESにとってアフターサービスの高度化・充実化は、トッププライオリティなのです。
PwC 三善:
データ分析によるアフターサービスを重視されるYESが、匠AIプロジェクトに取り組まれた背景を教えてください。
YES 河井:
匠AIプロジェクトの目的は、発電機の起動に与える気象条件の影響を詳らかにすることです。両者の因果関係がわかれば、不具合が生じる前に適切な対策を講じられると考えました。
熟練技術者は経験上、夏場――特に雨期――の湿気が内燃機関*1の起動に影響することを知っていました。しかし、そのことを明確に証明する分析は行っておらず、「匠の感覚値」に依存していたのです。
*1シリンダ内でガソリンなどの燃料を燃焼させ、発生した燃焼ガスを用いてエンジンを稼動させる熱機関。
PwC 三善:
まさに「匠の技を暗黙知として継承していた」のですね。
YES 西川:
私も技術者として働いていた経験があるのですが、新米技術者が現場で最初に言われるのは「五感で覚えろ」です。機器の微妙な音の変化や振動を感じ取って判断できるようになれという意味です。しかし継承者がいなければ、こうした“匠の技”は一代限りになってしまいます。ですから、五感の部分をIoTやセンサーを活用して可視化したいという思いがありました。
エネルギーシステムを司る機器は、故障による稼動停止はもちろん、修理中のダウンタイムが発生することも許されません。ですから機器の稼動データを収集・分析して状態を把握し、故障予知・予防保全に努めることは最重要ミッションでした。
これまでもYESでは事後解析で検証したモデルを活用し、アフターサービスに活かしています。たとえば、エンジンの稼働中のオイルや冷却水の温度を分析し、故障が発生する前にメンテナンスを提案するといったサービスを提供しており、IoTデータを使った異常モニタリングと原因分析は高精度に実施できていました。ただし、気象データや屋外/屋内の設置状況など機器を取り巻く周辺データを取り入れて複合的に分析するアプローチは試したことがありませんでした。ですから「気象条件という外部要因が発電機の起動トラブルに影響している」との仮説を立てて分析し、故障予兆の予測精度向上につながる知見が得られるかどうかを実証してみたいと考えたのです。
PwC 三善:
具体的にどのように取り組みを進められたのか、お聞かせください。
YES 石野:
発電機から収集した稼動データと発電機の機種・設置先・主要用途などの詳細データに、発電機が設置されている地点の気温と湿度を組み合わせて初期分析を実施しました。そして、そこから得られたデータを基に現場経験が長い拠点スタッフに匠としての知見をヒアリングし、業務や機器の特性を加味したAIによる分析を反映させるアプローチをとりました。
PwC 植松:
今回のプロジェクトでPwCは、分析アプローチを体系的に進めるという観点から支援させていただきました。
分析にあたっては、まず適切なゴールを設定することが重要になります。分析で得られた知見を活用する場面を想定し、どんな体験を得たいかを考え、スコープを定めます。その上で、どういったデータを扱うかを検討するために、ターゲットとする事象につながる仮説を一覧で整理し、匠である現場の職員の方との対話で得られた発見や知見を参考にしながら、扱うデータを絞り込みます。
PwC 川上:
AI化を進める上では、最初にアルゴリズムを選定します。そして、対象データをAIに学習させ、毎週の定例会議で予測精度とその精度に寄与したデータを共有し、改善を行っていきました。AIの精度を上げるには、現場の職員の方から匠としてのフィードバックを定期的にいただきながらアジャイルにPDCAを回していくアプローチをとりました。
PwCコンサルティング合同会社 データアナリティクス ディレクター 三善 心平
(左から)ヤンマーエネルギーシステム株式会社 カスタマーサポート部コンタクトセンター デジタルデザイングループ 課長 河井 啓毅 氏、カスタマーサポート部コンタクトセンター デジタルデザイングループ 石野 慎二 氏
PwC 三善:
日本の製造業が抱える課題として、エンジニアリング領域のデータ分析には長けている反面、分析したデータをビジネスに活用したり分析プロジェクトを管理したりするマネジメント領域は手薄であることが指摘されています。
YES 河井:
ご指摘のとおりです。YESのデータ分析は、データ分析専任1名とIoTデータ内容に精通した担当者(兼務)1名の2名体制で運用していますが、ビジネス系スキルを有する要員は配属されていません。
ここでも課題の根底にあるのは人材不足です。ビジネスに精通しているデータアナリスト人材は、グローバルで争奪戦になっています。ですから、かぎられた人員でも成果が出せるようにするには、効率的なデータ分析が必須です。そのためにはデータ分析プロセスのすべてを内製化するのではなく、社外組織とコラボレーションし、足りない部分を良い形で補っていくことが大切だと考えています。
もちろん、すべての作業をアウトソースし、YESが報告を受けるだけの立場になってしまえば、データ分析に関するナレッジの蓄積はできませんし、ROI(投資収益率)を最大化するという視点も欠落してしまいます。PwCとのプロジェクトで心がけていたのは、YESとPwCが「成果を出す」という同じゴールに向かって協業し、Win-Winな関係を構築して成果を上げるノウハウを身につけることでした。
YES石野:
実データを使用したAI分析は、YESにとって有意義な機会でした。プロジェクトに参画したメンバーたちは、すでに実施できていた分析についてはその精度をブラッシュアップできました。同時に、データ分析・AIのプロジェクト管理といったこれまでできていなかった領域はPwCから知見をもらうことができました。今回の匠AIプロジェクトはYESのデータ分析業務の改善点を見つけるという意味からも、学びが多かったと受け止めています。
PwC 三善:
ありがとうございます。では、データ分析の視点からはどのような成果がありましたか。
YES 石野:
いちばんの収穫は、これまで熟練技術者の暗黙知だった「匠の技」が定量化できたことです。発電機のエラーに寄与する特徴の上位20項目の中に気象に起因するものが3項目あり、気象が発電機の起動に影響することがデータで裏付けられました。
また、「どの項目のデータがエラー発生前に上下(変化)するか」「AIの予測値と比較し、どのデータの予測値が、どのくらいの確率で合致しているか」といった知見も得ることができました。
過去の分析で明らかになっている要因も含め、匠にとって「当たり前のルール」をAIが捉えたことから、今回構築したAIモデルは信頼性が高いと判断できました。今後は匠AIプロジェクトで得た分析結果を基に新たな仮説を導き出し、さらに分析精度を向上させたいと考えています。
YES 河井:
興味深かったのは、エラーに寄与する特徴として想定していなかった項目が、AIの分析で判明したことです。一方で、発電機周辺のピンポイントの気温に関するデータも取得していかなければ、精度の高い予測は難しいこともわかりました。
PwC 三善:
データ利活用プロジェクトを推進する担当者は、技術的な分析スキルを磨けばよいわけではありません。アジャイルなアプローチで仮説検証を重ねるという「分析プロジェクト特有の進め方」を理解する必要があります。そのうえでさまざまな役割を持つメンバーを束ねながらステークホルダーとの調整を図り、プロジェクト全体をリードしていくのです。
そうしたポテンシャルを持った人を適材適所に配置することはもちろん、多面的なスキルセットを擁した人材を企業に定着させることも重要です。これはすべての日本企業が抱えている課題だといえるでしょう。
PwC 三善:
最後に今後の取り組みの方向性について教えてください。今回の匠AIプロジェクトで得た知見を、YESではどのように活用していく計画でしょうか。
YES 石野:
匠の知見とAIとを組み合わせ、エラーに対するよりよい判断の仕組みを構築していきたいです。
とはいえ、今回の取り組みで構築したモデルが、すぐに業務で適用できるとは考えていません。今後も継続してAIモデル改善や業務でのトライアル、予測の仕組化などに取り組み、さらに精度を向上させる必要があります。こうした取り組みが結実し、構築モデルがほかの事業にも展開できるようになれば、業務での適用フェーズに移行できると考えています。
PwC 三善:
PwCも、「匠×AI」の相乗効果で両者が切磋琢磨しながらより精度の高い分析ができるよう取り組んでいきたいと考えています。本日はありがとうございました。
※本稿は、Forbes Japanのウェブサイトに掲載されたPwCのスポンサードコンテンツを一部変更、転載したものです。
(左から)PwCコンサルティング合同会社 データアナリティクス アソシエイト 川上 幹男、データアナリティクス アソシエイト 植松 祐人