
次世代型需要予測が織りなす製造業/小売業の未来 第3回 製造業/ニーズ多様化時代における、ロングテール品需要予測
消費者のニーズの個性化や多種多様化などにより、重要性を増す「ロングテール領域」の課題へのアプローチなどについて解説します。
2020-12-23
売り切り型からサブスクリプション型へ、”モノからコト”といった消費スタイルの変化から、自動車や生産設備、複合機といった製造業のサービス化が着実に進んでいます。多くのユーザーの価値観が従来の「所有」から「利用」へと変わってきたのが一因ですが、これに敏感に反応してサービス展開へとつなげることを可能にしたのが、世の中のあらゆるものに取り付けられるセンサーと、そこから得られるデータです。私たちが利用可能なデータは日々、加速度的に増え続けています。
製造業においては、従来の「製品の差別化」に加えて「サービスの差別化」が、今日における重要な課題となっています。今こそ求められる、アフターマーケットにおけるサービスの差別化による顧客満足度向上および顧客ロイヤルティ維持に有効なデータ活用の在り方を解説します。
売り切り型のビジネスからサブスクリプションモデルへの移行、”モノからコト”へのトレンドにより消費者の行動が変わる中、収益性の高さと顧客満足度への直接的影響などから、アフターマーケットの重要性が広く認識されています。昨今は乗り換え費用・手間の低減などにより、ユーザーがサービスを乗り換える(ブランドスイッチ)のがますます容易になっています。そのため、顧客満足度向上・顧客ロイヤルティ維持は、企業にとってより重要かつ喫緊の経営課題となっています。バリューチェーン上では、いわゆる「スマイルカーブ」における下流工程(流通・販売、アフターサービス、ブランド)の収益基盤の確立が必要であり、アフターサービスは既存顧客の維持および新規顧客獲得の両面を実現する工程として、その重要性が日増しに高まっています(図表1)。
製造業においても、前述の製品のサービス化はもちろんのこと、短ライフサイクル化による部品生産打ち切り時期の早期化、デジタル化による新種のデジタル部品の登場など、消費スタイルの変化やテクノロジーの進化による影響が少なくありません。こうした背景により、需要数量の予測難易度は上がり続けています。しかしながら、依然として従来型の単純な計数や勘・経験に依存したやり方を踏襲しているメーカーは少なくなく、現在の事業環境から求められる対応すべき課題のレベルとのギャップが大きくなっています。
顧客満足度への影響が大きい部品および単価が高い部品については、特に精度の高い予測・在庫計画が要求されます。また、保守期間終了(EOSL:End of Service Life)までを見越した正確な「生涯需要予測」を実現し、生産打ち切り後の非常に高額でのイレギュラーな調達を回避することは、利益確保の上で最も重要なポイントの一つとなります。
グローバル規模で広範囲に製品を展開している場合は、事がより複雑です。各国・地域により製品の使用条件(気候、道路・電力などのインフラ整備事情、工場内環境、車検などの法制度、エンドユーザー特性など)はさまざまに異なります。また同じ部品でも、使用される本体モデルが異なると、摩耗・故障は異なった形で現れてきます。さらに、本体モデルの展開数がマーケットごとに異なる場合は、それに紐づく部品の種類・数もさまざまに発生し、各々へのきめ細かな対応が必要となってきます。
こうした中で注目を集めるのが、コネクテッドデータです。コネクテッドデータは、ネットワークに常時接続する製品から得られるデータのことで、製品の販売・出荷後も状態や使われ方を、製品個体別にリアルタイム/セミリアルタイムで継続的に観測可能とするものです。これが登場する以前は、製品を一度販売・出荷してしまうと、その後の状態はメーカー側からは見えなくなるのが一般的でしたから、企業と顧客を結ぶデジタル時代ならではの画期的な産物と言えるでしょう。以下に、具体的に活用が期待される分野を紹介します。
製造業のサービス業化、あるいは”Product as a Service”において、コネクテッドデータは、エンドユーザーへ向けた新サービス開発(サブスクリプション型利用提供、故障予知、アクティブメンテナンス、損害保険、操作アドバイス、アラートなど)で活用できると考えられます。また、スマートシティをはじめとする社会や都市全体の最適化、フリートマネジメント系の複数個体の連携による最適化で活用することで、新規ビジネス領域の開拓の志にもつながります。
顧客維持のためには上記に加え、従来の生産計画や在庫計画、調達の業務品質向上、そしてそれによるアフターマーケット領域でのユーザー向けサービスの品質向上(部品欠品の減少、対応リードタイム短縮、メンテナンス費用抑制、可動率向上)の検討・施策立案が必要です(ここで言う顧客とは、オーナーユーザー、サブスクリプション利用ユーザー、企業ユーザーのいずれをも意味する)。従来のデータを用いつつ、段階的に新しいアルゴリズムを適用し、また段階的に新種のデータ(コネクテッドデータ)を適用していきます。従来の枠組みの中でのオペレーション改善に効果を発揮するため導入効果を出しやすいと言えるでしょう。特に災害やパンデミックなどにより新サービス実施予算を確保しづらい状況においては、コネクテッドデータを活用して現行ビジネスに対するB/S、P/L、キャッシュフローの改善を行いながら、同時に新サービスを立ち上げていくというような組み立てが望ましいでしょう(図表2)。
最後に、アフターマーケット向けの「補修部品需要予測」に特化したアルゴリズムを活用した需要予測ソリューション(Multidimensional Demand Forecasting<MDF>)を開発した筆者が考える、コネクテッドデータ活用の先にある世界を紹介します。
前述の通り、高度化には以下の段階的なアプローチを踏むことを前提とします(図表3)。
従来からのデータに新アルゴリズムを適用することで、以下が可能になります(図表4)。
上記のアプローチにコネクテッドデータを活用することで、さらなる高度化が可能となります。具体的には以下のような事柄を実現することができるようになります。
出荷前段階や出荷初期段階に需要量を算出するのみならず、継続的に入手できる実績データを用いることで、 EOSLまでの需要予測量は、より確かなものになります。一般乗用車を例にするなら、それがどの国や地域で乗られているのか、またどういったドライバーによって運転されているのか(安全運転タイプ、ラフ運転タイプなど)により、各部品の交換需要発生の傾向は著しく変わってきます。コネクテッドデータを活用し、データに基づいた適正なグループ化をすることで、初めて、実態によりフィットした故障発生=交換需要発生の確率を捉えることも可能になるでしょう。
コネクテッドデータの最大の特徴である「出荷後の製品の状態・使われ方を継続的に観測」できることは、アフターマーケットをはじめ、新サービスの立ち上げや従来型アフターサービスの高度化といった領域にも有効に活用できる、大きなポテンシャルを秘めています。
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