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2020-10-05
前回解説したように、デジタルヘルス・エコシステムは、個人/患者の健康/医療データを中心に、健康・予防・治療・予後・介護のサービスプロバイダーが有機的につながり、データ流通・活用によるサービスが行われるエコシステムです。デジタルヘルス・エコシステムにおけるデジタルの影響は個人/患者の生活・健康データの取得・活用による、パーソナライゼーション精度の向上と、データの活用によるリアル(アナログ)なヘルスケアサービスの高度化が挙げられます。
デジタルによる影響を踏まえると、デジタルヘルス・エコシステムの戦略の方向性は、事業領域・データの利活用の広さの切り口から大きく4つに分けられます。
アプリでの体重管理、バイタル管理や、電子カルテの導入などが該当します。サービスのデータ化はされているものの、それぞれのデータは自分のみあるいは自社/組織にのみ蓄積されます。
単一のサービスや疾患に関わるデータと外部データとを連携させるなど、データの利活用を通じてサービスを高度化していくことが該当します。例えば、生活習慣データやバイタルデータなどの個人データを有する企業が、フィットネスやリハビリなどの健康サービス企業と提携することで、データを活かした個人向けサービスを開発したり、その提供の結果としての健康や体質改善のデータを蓄積し、さらにサービス向上を図ったりといった例が該当します。ここでは、個人の健康データと運動、食事改善などの行動データに基づく予測モデルなどのアルゴリズムも活躍します。
医療・ヘルスケアにおいては、必ずしもデータの流通を前提としない提携も行われています。例えば、地域医療・介護の現場において、地域包括ケアや特定地域内での生活習慣病予防プロジェクトなど、病院や薬局、行政などの地域の医療・ヘルスケアに関連する団体が連携し、患者/個人を中心とした医療や予防が行われています。
上記(2)で形成される単一サービス・疾患における連携関係が他のサービス・疾患に広がる、または(3)で形成されたリアルサービスの提携がデータ利活用に伴いスケールアップすることにより、データ流通において複数のサービスや職種を巻き込んだエコシステムが形成されます。ここでは、医療・ヘルスケア業界にとどまらず、周辺業界のサービスやプレイヤーの参画も想定されます。
デジタルヘルスのエコシステムは、他領域の中央集権的なエコシステム(オーガナイザーに全てのデータが集まる形態)と異なり、カスタマーデータがサービスプロバイダーに分散して保有されているデータ相互活用ネットワーク型として形成されます。そのため、どのようなエコシステムを形成したいのか、その時にどのようなデータを有するプレイヤーを参画させるのかをデザインすることがオーガナイザーの役割であり、その巧みさがKSFとなると考えられます。また、形成したエコシステムを拡大するにあたっては、エコシステム内に保有されているデータとその活用可能性を未参画のプレイヤー(医療・ヘルスケア業界に限らず、周辺業界の企業などを含む)に提示し、参画を促すことが求められます。
人の生活の質(QOL)に直結するというヘルスケアサービスの特性を踏まえると、サービス提供においては十分な実績および医学的・統計学的なエビデンスがあり、カスタマーの信頼を得ていることが前提となります。また、個人の健康/医療データは機微性が高く、漏えいや不正利用が個人に与える悪影響が大きいため、自分のデータが利活用されることに対する個人の心理的な障壁は他領域よりも高いと言われています。サービスそのもの、およびデータの保管・管理・利活用に関する信頼を勝ち取るために、利用者に対し適切に情報開示を行うことや、すでに信頼を得ている企業・団体(行政、大病院、アカデミア、大企業)と提携することで「お墨付き=安心感」を得ることがKSFと考えられます。
(*デジタルヘルス領域では、健康・医療サービスを提供する企業・団体がカスタマーデータを分散保有します)
ウェアラブル、IoT、ブロックチェーン、AI(人工知能)などのシームレスなデータ収集・分析、サービス提供に資するテクノロジーを有していること、かつそれらがヘルスケア領域で適用可能な信頼性・正確性を有していること(医学的・統計学的にエビデンスのある分析ロジックなど)、そのテクノロジーが複数のエコシステムプラットフォームと接続できる汎用性を持っていることがKSFと考えられます。
健康/医療に関わるデータの機微性に加え、ユーザーが24時間365日アクセス可能な状態にする必要があることを踏まえると、セキュリティ認証の取得など、セキュリティの堅牢さやデータ蓄積の増加に耐えうる拡張性および可用性が主なKSFとなります。
デジタルヘルス・エコシステム形成にあたっては、プレイヤーを集めてサービス提供を開始する初期段階では業務提携をベースとし、その後は段階に応じて資本提携やJVなどの他のアライアンス手段を検討していくことが好ましいと考えられます。
デジタルヘルス・エコシステムは、前述の通り国内ではまだ形成の途上にあります。このため、不確実な状況ではありながらも、いち早く立ち上げに着手して試行錯誤しながら、効果が得られるエコシステムを小さくとも確立することが重要です。この時の“効果“は、患者/個人のQOL向上などの社会的意義を達成することはもちろん重要であるものの、それだけではなく、参画企業/団体が金銭的にもメリットを得られること、すなわちマネタイズの実現も必要です。マネタイズができず行政からの補助金頼みとなり、補助金が止まったタイミングで運営できなくなるのでは持続性がありません。また、参画企業にとっては規模が大きい、または拡大見込みであることも重要な要件です。こういった、Social GoodだけでなくEconomical Goodな仕組みも構想して、コスト/利益配分の取り決めを曖昧にせずアライアンスを推進することがポイントです。