第14回 なぜ今、エコシステムビジネスが必要なのか。経営者が知るべき理由

2025-04-10

自社のサービスや製品のみで顧客を満足させることが難しくなってきた――。こうした悩みを抱える企業は少なくありません。背景にはさまざまな要素があります。市場のデジタル化やグローバル化が加速しているほか、ディスラプター(破壊者)や新たな技術の台頭によって顧客の期待が高まり、価値基準も多様化していることなどが挙げられるでしょう。

打開策の一つとなるのが、異業種間連携を前提としたエコシステムの形成です。効率化や規模の経済の追求といった点にとどまらず、次世代の競争優位性を確立し、業界リーダーとしての存在感を発揮する土台となる可能性も秘めています。

エコシステムの形成自体は目新しい手法ではなく、これまでにいくつも実践例が見られます。ただ、業界や顧客、市場が大きく変化し、ともすれば業界の垣根もあいまいになりつつある現在においては、注意するべき点があります。「DX加速」「イノベーションの多様化・分散化」「持続可能性と規制強化」の3つを的確に取り込むことです(図表1)。これらをおざなりにしたままエコシステムの形成に動いても、かえって競争優位性を失いかねません。

成功のカギは、多様なプレイヤーとの連携で新たな価値創造の範囲を設定・拡大し、まだ見ぬ市場機会を捉えることです。すでに他社との連携に動き出している企業がエコシステムの効果を十二分に発揮させるための手立てを、具体例もひも解きつつ考察します。

図表1:世の中の潮流を踏まえた企業の動向とエコシステム事例

異業種との連携を加速させるパターン

これまでの異業種間によるエコシステムは、主導する企業に不足している資産やケイパビリティを補完する観点から検討されたケースが目立ちます。結果として不足要素は埋まるものの、有機的に連携して新たな価値を創出するところまで踏み込めないことが少なくありませんでした。

本来目指すべきエコシステムの機能(図表2)は、複数企業による連携で相互の強みを磨き、協調領域を見いだすことにあります。サービスや製品の規格や部材で標準化を進め、複数企業が参画できる構造を生み出すほか、1社では実現できない価値の創出、課題解決、競争優位性/競争ルールの実現につなげることが極めて重要です。

図表2:これまでのエコシステムと今、求められているエコシステムの概観

では、どのようなエコシステム戦略の事例があるのでしょうか。世の中のニーズ・課題に対して、いち早くエコシステムを形成し、市場を獲得した事例を紹介します。

オープンなエコシステム形成事例:スマートファクトリーに係るIoTエコシステム

具体例として、スマートファクトリーを実現した製造業の取り組みがあります。受発注や生産、在庫管理までの全体把握が可能であり、生産工程における効率化を大きく高めたところまではよくある話です。それだけではなく、IoTプラットフォームのAPIを公開し、デジタルプロバイダーやサービスプロバイダーなど多様な企業が参画できるプラットフォームを戦略的に構築する事例が登場しています(図表3)。システムの標準化と業界団体との連携も強化したことで、スマートファクトリーのデファクトスタンダードを確立し、プロバイダー企業への販売にもつなげて新たな収益機会を得ているのです。

図表3:スマートファクトリーに係るIoTエコシステムの事例

このように、IoTエコシステム化により、製品から継続的にデータ収集が可能となることにより、製品の稼働状況や使用環境の詳細な把握が可能となる、従来の「モノ売り」から「コト売り」へのビジネスモデル変革が促進されます。

エコシステム形成戦略を「選択肢」ではなく「必須条件」として捉える必要性

市場で優位なポジションに位置する企業の多くは、エコシステムによる他社との協業を競争優位性の核としています。市場における存在感の確立と長期的な競争力の創出を目指すには、今後もエコシステム形成を自社の中心に据える戦略に向き合わざるを得ないでしょう。

やや踏み込んで言うならば、エコシステムの形成は現在において「選択肢」ではなく、すでに「必須条件」の条件となりつつあります。「持たざる」企業はやがて孤立し、市場変化に迅速に対応できなくなるリスクを抱えかねません。

世の中の潮流・変革に迅速に対応できる企業だけが、次の時代を切り拓くリーダー企業として生き残ることができるのではないでしょうか。

執筆者

源田 真由美

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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「デジタルエコシステムの最前線」コラム

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「デジタルエコシステムの最前線」コラム 第14回 なぜ今、エコシステムビジネスが必要なのか。経営者が知るべき理由

企業が継続的に新たな価値を提供し、存在意義を発揮しながら成長し続けるためには、何が必要か。異業種間連携を前提としたエコシステム形成が一つの選択肢になり得る理由を、考え方やプロセス、事業化に向けた取り組みの観点から解説します。

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