
コラムシリーズ 自治体経営の未来を考える 第三弾 変革ストーリー守破離
負担費用の削減に向け、共同パートナー開拓の時間的余裕を生み出すための具体的なアプローチと、既存構造を創り変え、整えるための変革のストーリーを紹介します。
2021-06-29
鼎談者
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐
加藤 博之氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
公共事業部 デジタルガバメント統括
林 泰弘
PwC税理士法人 公認会計士 税理士パートナー
国際税務サービスグループ
村上 高士
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
三島 明恵
※本文敬称略
(左から)林 泰弘、加藤 博之氏、三島 明恵、村上 高士
三島:前編では日本での電子インボイスの標準仕様についてお話を伺いました。後編では海外におけるインボイス制度(適格請求書等保存方式)の現状に焦点を当てます。日本では2023年10月1日より「インボイス制度」がスタートする予定ですが、EUではすでに運用が開始されていますよね。
村上:EUでは一定の記載要件を満たした請求書(インボイス)は、「課税事業者が仕入税額控除をとるために必要となる書類」とされています。つまり、金銭と同じ価値を持つと言われるほど、重要なものと捉えられています。
そして、2010年に改正されたVAT(付加価値税)指令(EU指令2010/45)では、電子インボイスの利用促進が明文化され、電子インボイスは紙のインボイスとまったく同じ効力を持つことになりました。これによって、納税者は電子インボイスを交付できることとなり、企業における業務の効率化が図られたと言われています。実際にEUの報告では、電子インボイスの導入により、事業者のコスト削減効果の総額は2015年から2017年の間で10億ユーロに達したと試算されています。
加藤:紙のインボイスと電子インボイスの関係は、日本の消費税制度においても、EUと同様です。電子インボイスは、紙のインボイスに代わり提供される「請求書等」と位置づけられ、それを電子帳簿保存法に準じた方法で保存することで仕入税額控除の適用を受けることが可能となります。
林:企業側の業務効率化に向けた努力が結実したのですね。課税当局の徴税業務への影響はいかがですか。
村上:EUのこれまでの取り組みは、電子インボイスに対する各国間の規制を統一化し、効率化を目指すものでした。一方、電子インボイスの発行自体は任意であったため、税務当局の徴税業務への影響は限定的だったとの指摘もあります。
なお、日本と同様に「Peppol(Pan-European Public Procurement Online)」をベースにした電子インボイスの標準化を進めたシンガポールでも、電子インボイスの発行自体は任意です。しかし、最近はこうした動向に変化が見られます。つまり、電子インボイスの義務化や、インボイスを含めた税務関連情報の電子データによる税務当局への提供義務が加速しているのです。
三島:具体的な事例を教えてください。
村上:例えば、イタリアでは2019年より、電子インボイスの義務化(Mandatory e-invoicing)が開始されています。また、中国では金税工程(Golden Tax Project)と呼ばれるシステムの下、一定規模の取引について電子インボイスの交付が義務付けられています。同システムでやり取りした情報は、速やかに課税当局のデータベースにアップロードされなくてはなりません。
韓国でも一定規模の取引には電子インボイスの交付が義務化されており、その電子インボイスには当局が発行する電子署名を付ける必要があります。さらに、フィリピンでは韓国から資金援助を受け、韓国の制度をモデルとした電子インボイスの運用義務化が実施される予定です。
その他にも、スペイン、ポルトガル、ドイツ、スウェーデンでは、政府関連調達の請求で一定の要件を満たす場合には、電子インボイスの発行が義務付けられています。このように、電子インボイスが義務化されている、または義務化が予定されている国は多数あります。これらの電子インボイスの情報は、課税当局のシステムを通じて取り交わされ、課税当局の発行する電子署名が付されるなど、課税当局がリアルタイムにそのやり取りを把握できるのです。
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐 加藤 博之氏
三島:インボイス制度の導入で、課税当局は取引の情報をリアルタイムに把握できるのですね。
村上:はい。PwCではこうした動きを「リアル・タイム・レポーティング」と呼んでいます。特に、消費税、付加価値税、物品サービス税といった間接税は取引単位で課税が行われるため、取引情報を正しく把握できないと、課税漏れなどの発生を見逃すことになってしまいます。実際、OECD(経済協力開発機構)が2017年に公開したレポート 「Technology Tools to Tackle Tax Evasion and Tax Fraud」によると、2011年単年におけるEU加盟26カ国の付加価値税徴税不足金額は、1,930億ユーロに上っています。
付加価値税の課税漏れは各国の課税当局にとって悩みの種です。ですから、電子インボイスの義務化は自然な流れといえるでしょう。課税当局は膨大な取引情報を申告のタイミングではなく、取引の発生と同時に、リアルタイムで把握できます。また、デジタル情報として処理することで、効率的かつ効果的に課税漏れなどを検出できます。つまり、正確な申告の確保・徴税漏れの防止というメリットがあるのです。
林:電子インボイスに限らず、さまざまな取引情報や税務関連書類をオンラインで当局へ提出することは、義務化が図られているのでしょうか。
村上:はい。英国では税のデジタル化(Making Tax Digital for Business:MTDfB)が、2019 年4月より段階的に導入されています。この制度の下では、企業は税務記録の作成、保存および提出を電子的に行うことが求められます。現在、付加価値税については、課税売上8万5千ポンド超の事業者が適用対象となっていますが、2022年4月からは、8万5千ポンド以下の事業者にも適用される予定です。また、一定の個人事業者の申告は、2023年4月より導入予定です。法人税についても、2026年以降の全面導入が予定されています。
MTDfBで納税者は、英国歳入関税庁のシステムと互換性のあるソフトウエアを使用し、同庁のシステムと連携して、申告に必要な情報をデジタルで提出することになります。
インドにおいても、販売・購買の情報は、GST(物品サービス税)申告書と同時に月次で課税当局へ提出する必要があり、いくつかの州においてはインボイスを税務当局のポータルサイトへアップロードする必要があります。
また、ブラジルでは2008年より、公的デジタル記帳システム(Public Digital Bookkeeping System)が構築されており、この中でインボイスは取引の都度リアルタイムで当局へデジタル情報として提出することが必須になっています。
三島:なるほど。課税当局が取引の情報をリアルタイムで把握する仕組みの構築は、世界的な流れなのですね。では、リアル・タイム・レポーティングは納税者にとってどのようなメリットがありますか。
村上:申告・納税の「透明性と信頼性」(Transparent and Trustworthy)という観点から考えれば、納税者にとってもメリットがあると考えられます。
例えば、税務調査への対応を負担に感じている企業は少なくありません。日本でも、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から自宅勤務を推奨しているにもかかわらず、税務調査対応のために従業員が出社しなければならないケースがあります。しかし、リアル・タイム・レポーティングで税務調査も電子的に実行されれば、税務調査への対応負担も軽減されます。
さらに企業はデジタル情報を基に、自社の税制対応システムを検証・改修できます。つまり、課税当局からの指摘を受ける前に、自ら課税漏れを把握し、修正して、正しく税務申告できるのです。
三島:日本の対応はいかがですか。
村上:日本でも税務情報提出のデジタル化は進んでいます。すでに大規模企業での電子申告の義務化は行われています。これにより、大規模企業は税務申告をオンラインで行う必要がある他、勘定内訳明細などの提出もオンラインで行うことになっています。
また、2023年10月1日からのインボイス制度開始を前に、電子インボイスの規格標準化が進められています。PwC税理士法人も電子インボイス推進協議会(EIPA)のメンバーに参加しています。
日本はリアル・タイム・レポーティングを義務化している諸外国と比較すると、デジタル化のスピードはゆっくりという印象はあります。しかし、税務業務のデジタル化は確実に前進していると感じます。
林:諸外国の動向から見ても、徴税のデジタル化や電子インボイスの導入は必然の流れです。そして、この流れの中で忘れてはならないのが、ヒューマンセントリックな視点です。つまり、納税者の視点と実際に徴税を行う職員の視点が不可欠なのです。
三島:それは「実際に運用・操作する利用者が使いやすい仕組みを構築する」という意味ですよね。具体的にどのような取り組みが必要だと考えますか。
林:納税者と税務当局、そしてインボイス制度に関連する人たちのフィードバックを柔軟に反映させられるようにすることです。具体的には利用者が使うウェブサービスはデータ駆動型とし、サービスを利用するユーザーの声を基に継続的に改善していくメカニズムを確立します。この視点は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進にも大きく関係する視点だと考えます。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 公共事業部 デジタルガバメント統括 林 泰弘
三島:最後に、電子インボイスの円滑な運用に向けた取り組みについて教えてください。先ほど諸外国のインボイス制度では、税務当局が全ての取引情報を掌握していると伺いました。これは正しく会計処理をしている/していないという問題とは別に、日本では抵抗感を抱く企業も多いのではないでしょうか。
村上:おっしゃるとおりです。その懸念はあるでしょう。現在、日本で検討が進められている電子インボイスの標準化の議論では、事業者のバックオフィス業務の効率化が目的で、電子インボイスを税務当局へ提出させるといった議論はありません。なぜなら、まずはインボイス制度が円滑に導入され、しっかりと定着することが最優先課題だからです。
加藤:そのとおりです。日本の場合、まずは、事業者の方がインボイス制度に円滑に移行してもらうことが重要だと思っています。そのため、インボイス制度への移行後、免税事業者との取引に係る仕入税額控除について、一定期間ではありますが、経過措置も設けられています。
林:もう1つ、企業は、電子インボイスに対応するために、一定の投資をしています。また、納税者も新たな制度に対応しなければなりません。ですから、電子インボイス導入の初期段階においては、企業や納税者にわかりやすい形でインセンティブを準備することが必要だと考えます。
三島:具体的にはどのようなインセンティブが必要でしょう。
林:現在検討が進んでいる「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」に企業や納税者のためのデータストア領域を確保したり、企業のデータストア(ストレージ環境)の整備に対して費用の一部を助成したりすることです。わかりやすく言えば、インボイス制度や徴税のデジタル化で必要となるデータ保存やその費用への助成などが考えられます。
加藤:さまざまな形のインセンティブを考えていく必要があると思います。先日閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においても、「デジタル庁は標準仕様の管理者となり、関係府省庁と連携の上、業務ソフト等の普及を推進する」とされています。
村上:税務行政のデジタル化は「Tax Administration 3.0」として、OECD税務長官会議(FTA)※1でも議論されており、日本の国税庁も積極的に参加しています。税務行政のデジタル化の流れは、今後もグローバル規模で進むでしょう。そのような状況では行政と納税者が「Win-Win」の関係でなければなりません。
税務業務のデジタル化を推進するには、納税者が税務業務のデジタル化におけるメリットを正しく評価すること。そして、日本のビジネスの慣行を踏まえた議論が行われる必要があると感じています。
PwC税理士法人 公認会計士 税理士パートナー 国際税務サービスグループ 村上 高士
※1 税務行政の幅広い分野にわたって各国の知見・経験の共有やベストプラクティスの比較・検討を行う目的で、2002年に設置されたOECDのフォーラム
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