ES(Enterprise Solution)×CT(Cloud Transformation)

DXが加速する中でのERP(Enterprise Resource Planning)とクラウドの融合による新たな価値の創造

「標準化」と「個別最適化」が必要な理由

N.U.:
「標準化」と「個別最適化」について深掘りさせてください。両者のすみ分けはどのように考えればよいでしょうか。

中山:
一見、2つは背反しているように見えますが、ビジネスを行ううえでは共存が不可欠です。例えば、売上計上基準やKPI(重要業績評価指標)は全社で統一する必要があります。ですから、これらを管理するシステムは標準化されていなければなりません。

岡部:
一方で現場での顧客対応や工場の製造ラインでは、現場が作業しやすく、オペレーションミスが起きにくいプロセスに変更したほうが効率かつ効果的です。現場は「良い接客や良い製品により価値を高める」という視点で働いていますから、それを支えるシステムも個別最適化したほうがよいと思いますし、そこに差別化のポイントがあると思っています。

中山:
「何を標準化し、どこから個別最適化すべきか」は、業界によっても、クライアントが置かれている環境によっても異なります。そのためES(Enterprise Solution)では、業界ごとに共通している業務プロセス部分を切り出してテンプレート化し、業界独自の文化を加味したうえで、最適な業務アプローチをナレッジとして提供しています。

例えば、個別最適化の部分でも「どの機能をクラウドで開発すべきか」「どのような技術を採用すべきか」をクライアントと確認をしながらアジャイルに作り上げています。これは通常のSAP導入プロジェクトとは異なるアプローチです。ただし、「どこを個別最適化し、自社ビジネスの強みとするか」は経営戦略であり、それを判断するのは経営層の役割です。

岡部:
私も同じ考えです。経営層が的確に判断するには、「いま自分の会社で何が起きていて、何が問題なのか」を把握する必要があります。その手段を整備するのはIT部門の役割ですが、IT部門だけでできることではありません。経営とIT部門、そしてビジネス部門が密にコミュニケーションをとり、情報を共有し、お互いの立場や業務の現状を正確に理解することが不可欠です。これまでのシステム構築は多くの場合において経営判断で推進され、運用のフェーズになるとIT部門に任せっぱなしになってしまい、経営陣の関与が不足しています。今後は経営陣全員が、IT構築の推進者として組織体制を構築し、推進していく必要があります。経営会議やステアリングコミッティを開くだけでは、実行部隊との距離がどんどん離れてしまい、良い結果にはつながりません。

N.U.:
SAPで標準化し、クラウドを活用して個別最適化を図るというアプローチを実現するためには経営とIT部門、そして業務部門が密に連携する必要があるのですね。ただし、実現するには多くのハードルがありそうです。

岡部:
そうですね、ハードルは非常に高いです。SAPの導入は、大きくなると何十億円から何百億円規模の一大プロジェクトとなります。多くの経営陣は導入決定の判断を下しますが、その後は報告を受けるだけで積極的に前面に立った参画ができていません。実際にプロジェクトを推進するのは、ほとんどがIT部門であり、多くのケースは現状の保守業務を担うばかりで、ビジネス戦略の立案、企画に時間を割けているわけではありません。そのため「標準化」と「個別最適化」のすみ分け判断が難しくなっています。この状態でプロジェクトを推進すると、結果的にSAP導入は情報システムの置き換えということになってしまいます。

また、企業によっては「経営会議でSAP導入が決まりました。あとの作業はコンサルティング会社やSIerにお任せします」と外注に丸投げするケースもあります。断言しますが、これでは失敗する可能性が高くなってしまいます。「自分の武器は自分で作りあげ、最強の武器にする」という考えを持ってほしいと思います。コンサルティングフィームはクライアントのビジネスの成長・成功を支援しますが、ビジネスの方向性を最終的に決めるのは各企業になります。

中山:
そもそもビジネスの方向性が決まらない状態では「標準化」と「個別最適化」の見極めは不可能です。この部分を曖昧にしたままSAP導入プロジェクトを進めても、スケジュールが後ろ倒しになって、中断せざるを得なくなるのが関の山です。1回ストップしてしまうと、再スタートにはさらにコストがかかります。また、プロジェクト期間が長くなればなるほど、現場担当者たちは「何のためにSAPを導入するか」がからなくなってしまいます。そして最終的にはプロジェクトそのものが空中分解してしまうのです。

岡部:
先にも述べましたが、ITは競争に打ち勝つための“武器”です。武器を持たないまま戦うことは負け戦をしているようなものですよね。しかし、多くの日本企業は、「どのようなIT(武器)で戦うか」という戦略を練ることが苦手です。そのため後手を踏んでしまい、とりあえず手持ちの古い武器を利用しているような状態になっています。これでは最先端の武器を持ったライバルには勝てません。

こうした事態を避けるためには、経営陣が戦略を練り、従業員に対して明確な方向性を示し、現場の士気を高めることが大切です。さらに、ビジネス部門とIT部門が同じ方向を向いて一丸となれる環境を準備すること。これは経営層の重要な責務です。

PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/パートナー 中山 裕之

PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/パートナー 中山 裕之

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主要メンバー

岡部 仁志

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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中山 裕之

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