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DXが叫ばれる中、各企業にはアジリティのある業務・組織変革が求められています。
「業務に合わせてシステム作る」ことから「システムに業務を合わせて使う」ことが求められていく中で、ITシステムの導入にあたっては、経営戦略に基づいて標準化する領域と、個別最適化する領域を明確に区別することが重要であり、経営層にはそのためのビジョンを指し示すことが求められます。
基幹システム(ERP)とCloudソリューションをテーマに、PwCコンサルティングでEnterprise Solutionをリードするパートナー岡部仁志、Cloud Transformationをリードするパートナー中山裕之と、マネージャーN.U.がプロジェクト成功の秘訣について語り合いました。
対談者
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation/パートナー
岡部 仁志
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation/パートナー
中山 裕之
リード
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation/マネージャー
N.U.
(左から)岡部 仁志、中山 裕之、N.U.
N.U.:
ES(Enterprise Solution)とCT(Cloud Transformation)のそれぞれの組織のミッションについてお聞かせ下さい。
岡部:
私が所属するES(Enterprise Solution)は、クライアントのあるべき姿を実現するためのシステムを構築し、SAPソリューションを軸にサービスを提供している組織です。ご存じのとおりSAPに代表されるERP(企業資源計画)ソリューションは、企業の根幹を支えるシステム基盤です。ですから、クライアントのビジネスでどのようなシステム基盤が必要なのかを把握することから、基本構想の策定、運用保守を行うまで一貫して支援しています。
ES(Enterprise Solution)の強みは、SAPの知見を有するメンバーだけでなく、業務知見や各業界ドメインに特化したプロフェッショナルを擁しているところにあります。また、ESの中にCenter of Excellence(CoE)も立ち上げています。CoEは、クライアント共通の課題をソリューション化することや、メンバーの育成、標準化、さらに難易度の高いクライアントの課題に対応することを担う組織であり、提案からデリバリー(運用保守含む)まで、全ての領域の品質を維持・向上させることをミッションとしています。
さらに、プロジェクト管理に焦点をあてたPMO(Project Management Office)CoEも立ち上げています。SAP導入のプロジェクトは規模の大きさに比例して難易度が増しますが、大規模プロジェクトをリードした経験を持つ人材の希少性は高く、IT企業やコンサルティングファームの中においてそれほど多くはいません。そのため、大規模なプロジェクトでもマネジメントし、リードできる人材をPwCのマネジメント方法論をベースに育成、強化しています。ET(Enterprise Transformation)では、マネジメントのスペシャリスト、SAPのスペシャリスト、業種・業界・業務のスペシャリストが一体となってクライアントを支援する体制を構築しています。
中山:
私が属するCT(Cloud Transformation)は、文字通りクラウドを活用して企業のデジタル化を支援する組織です。
デジタル系のスタートアップがユニコーン企業へと飛躍する背景を見てみると、市場の変化に高速かつ柔軟に対応することにより、従来では考えられないスピードでビジネスを成長させていることが分かります。それを支えているのがクラウドテクノロジーであり、彼らは単に「クラウドを使う」のではなく、「クラウドを使いこなす」ことにより成功を収めています。彼らに共通しているのは、「スピード」を重視し、進化し続けるクラウドを自社のビジネスに最適な形で取り入れていることです。
振り返ってみると、これまでの日本企業のIT戦略は、1980年から1990年代に導入したメインフレームのメンテナンスに注力する「守りのIT」が中心でした。そのため、小さなカラム変更や機能追加といった作業にも膨大な時間とコストがかかり、俊敏性に欠けていました。例えば、地政学的な危機が発生して調達プロセスを変更したい場合でも、すぐにシステムが対応できません。その結果、他社に後れを取ってしまっていたのです。
CT(Cloud Transformation)ではクライアントが抱えるこうした課題に対し、「ビジネスを加速させるうえで、最適なシステム基盤は何か」を軸にクラウド活用を促し、支援しています。今後は「進化するクラウドをいかに使いこなすか」が、経営の大きなポイントになることは間違いありません。
N.U.:
いずれの組織もITシステムの基盤構築を通じ、クライアントのビジネス全般を支援する立場なのですね。
中山:
ITシステム基盤は単なるインフラではなく、従業員の働き方やビジネスのあり方を変える存在です。これまでのITシステムは「標準化」を重視してきました。言い換えれば「画一的」だったのですね。しかし、ビジネス環境が急速に変化し、顧客ニーズの多様化に柔軟かつ迅速に対応するには、システムの中に「個別最適化」する部分を設け、価値を最大化しなければなりません。
岡部:
SAPソリューションは企業のITシステム基盤にとってグローバルで実績のある“万能薬”のような存在です。あらゆるニーズ(症状)に対応できますが、どうしても必要な個別ニーズ(万能薬では効かない症状)については、プラスアルファの追加開発を行うことで対応が可能となります。とはいえ、できる限り万能薬で対処し、自身の体力を強化することを考えて、プラスアルファの部分を少なくすることが重要です。プラスアルファの部分を多くすると、時間もコストもより必要になってしまいます。
ただ、そうは言っても“万能薬”の効き方は、業界によって異なります。各業界には特有の業務プロセスやプロトコルに起因する課題がありますから、万能薬にプラスアルファで専門的な特効薬を投与しなければなりません。つまり、SAPの導入によりIT基盤を刷新するには、「標準的なシステムで対応できる部分」と「業界特有・各社個別の事情を加味すべき部分」を見極めることが重要なのです。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/パートナー 岡部 仁志
N.U.:
「標準化」と「個別最適化」について深掘りさせてください。両者のすみ分けはどのように考えればよいでしょうか。
中山:
一見、2つは背反しているように見えますが、ビジネスを行ううえでは共存が不可欠です。例えば、売上計上基準やKPI(重要業績評価指標)は全社で統一する必要があります。ですから、これらを管理するシステムは標準化されていなければなりません。
岡部:
一方で現場での顧客対応や工場の製造ラインでは、現場が作業しやすく、オペレーションミスが起きにくいプロセスに変更したほうが効率かつ効果的です。現場は「良い接客や良い製品により価値を高める」という視点で働いていますから、それを支えるシステムも個別最適化したほうがよいと思いますし、そこに差別化のポイントがあると思っています。
中山:
「何を標準化し、どこから個別最適化すべきか」は、業界によっても、クライアントが置かれている環境によっても異なります。そのためES(Enterprise Solution)では、業界ごとに共通している業務プロセス部分を切り出してテンプレート化し、業界独自の文化を加味したうえで、最適な業務アプローチをナレッジとして提供しています。
例えば、個別最適化の部分でも「どの機能をクラウドで開発すべきか」「どのような技術を採用すべきか」をクライアントと確認をしながらアジャイルに作り上げています。これは通常のSAP導入プロジェクトとは異なるアプローチです。ただし、「どこを個別最適化し、自社ビジネスの強みとするか」は経営戦略であり、それを判断するのは経営層の役割です。
岡部:
私も同じ考えです。経営層が的確に判断するには、「いま自分の会社で何が起きていて、何が問題なのか」を把握する必要があります。その手段を整備するのはIT部門の役割ですが、IT部門だけでできることではありません。経営とIT部門、そしてビジネス部門が密にコミュニケーションをとり、情報を共有し、お互いの立場や業務の現状を正確に理解することが不可欠です。これまでのシステム構築は多くの場合において経営判断で推進され、運用のフェーズになるとIT部門に任せっぱなしになってしまい、経営陣の関与が不足しています。今後は経営陣全員が、IT構築の推進者として組織体制を構築し、推進していく必要があります。経営会議やステアリングコミッティを開くだけでは、実行部隊との距離がどんどん離れてしまい、良い結果にはつながりません。
N.U.:
SAPで標準化し、クラウドを活用して個別最適化を図るというアプローチを実現するためには経営とIT部門、そして業務部門が密に連携する必要があるのですね。ただし、実現するには多くのハードルがありそうです。
岡部:
そうですね、ハードルは非常に高いです。SAPの導入は、大きくなると何十億円から何百億円規模の一大プロジェクトとなります。多くの経営陣は導入決定の判断を下しますが、その後は報告を受けるだけで積極的に前面に立った参画ができていません。実際にプロジェクトを推進するのは、ほとんどがIT部門であり、多くのケースは現状の保守業務を担うばかりで、ビジネス戦略の立案、企画に時間を割けているわけではありません。そのため「標準化」と「個別最適化」のすみ分け判断が難しくなっています。この状態でプロジェクトを推進すると、結果的にSAP導入は情報システムの置き換えということになってしまいます。
また、企業によっては「経営会議でSAP導入が決まりました。あとの作業はコンサルティング会社やSIerにお任せします」と外注に丸投げするケースもあります。断言しますが、これでは失敗する可能性が高くなってしまいます。「自分の武器は自分で作りあげ、最強の武器にする」という考えを持ってほしいと思います。コンサルティングフィームはクライアントのビジネスの成長・成功を支援しますが、ビジネスの方向性を最終的に決めるのは各企業になります。
中山:
そもそもビジネスの方向性が決まらない状態では「標準化」と「個別最適化」の見極めは不可能です。この部分を曖昧にしたままSAP導入プロジェクトを進めても、スケジュールが後ろ倒しになって、中断せざるを得なくなるのが関の山です。1回ストップしてしまうと、再スタートにはさらにコストがかかります。また、プロジェクト期間が長くなればなるほど、現場担当者たちは「何のためにSAPを導入するか」がからなくなってしまいます。そして最終的にはプロジェクトそのものが空中分解してしまうのです。
岡部:
先にも述べましたが、ITは競争に打ち勝つための“武器”です。武器を持たないまま戦うことは負け戦をしているようなものですよね。しかし、多くの日本企業は、「どのようなIT(武器)で戦うか」という戦略を練ることが苦手です。そのため後手を踏んでしまい、とりあえず手持ちの古い武器を利用しているような状態になっています。これでは最先端の武器を持ったライバルには勝てません。
こうした事態を避けるためには、経営陣が戦略を練り、従業員に対して明確な方向性を示し、現場の士気を高めることが大切です。さらに、ビジネス部門とIT部門が同じ方向を向いて一丸となれる環境を準備すること。これは経営層の重要な責務です。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/パートナー 中山 裕之
N.U.:
お話を伺って、経営層のコミットメントが非常に重要であることを理解しました。
中山:
もう1つ、経営層が行うべきは、ビジネスに対するIT部門の貢献度をきちんと評価することです。IT部門のKPIは「保守・運用の効率化によるコスト削減」や「スケジュールに則ったシステムの導入」です。しかし、経営側が明確なIT戦略やビジネスの方向性を示さないまま「ITコストの削減」や「(Slerなどの)外注管理」を任されても、IT部門のモチベーションは上がりません。この課題を解決するには、IT部門と事業部門で共通のKPIを設定することが必要です。
岡部:
事業部門には「新規事業の創出」「売上増加」「業務効率化」などがKPIとして設定されていますが、それを下支えしているのはIT部門です。IT部門のKPIを事業部門のKPIとリンクさせ、改革を推進している企業も多く見受けられます。「デジタル化による業務効率化支援」や「新規事業の立ち上げ支援」を盛り込み、IT部門と事業部門が協力してプロジェクトを推進しているケースでは、良い結果が生まれています。ただ、これは事業単位のケースです。会社全体のIT構築となるとほとんどが良い結果となっていません。良い結果を出すには、各事業部門がどれだけ協力したのか、その結果IT構築にどれだけ貢献したのか、そして経営にどれだけのインパクトを与えることができたのかを役員のKPIとして設定することが重要です。そうすれば、各事業を担当している役員の方々は必死で取り組むはずです。
誤解を恐れずに言うと、日本企業において、IT部門は軽んじられていると思います。CFO(最高財務責任者)やCOO(最高執行責任者)、CSO(最高販売責任者)と同等の発言権を持っているCIO(最高情報責任者)はほとんどいないのではないでしょうか。こうした企業の組織構造自体を変革しなければ、根本的な課題解決にはならないと考えています。これからの時代、「業務改革=IT改革」といっても良いですからね。
N.U.:
では、現場ではシステムの標準化や個別最適化をどのように捉えればよいのでしょうか。担当部門や業務内容によってはこれまでの作業プロセスが変更になったり、新たな業務負荷がかかったりする懸念があります。
岡部:
SAPソリューションの導入を機に「これまでのやり方を一気に変える」と言っても現場はついてきません。そのため、導入前には新システムでどのような課題を解決し、何を実現させたいのかを全従業員にヒアリングするぐらいの下準備が必要です。さらに言えば、職場集会で従業員同士が議論し、全従業員が新システムの導入を「自分ごと」として捉えられるような機運を醸成しなければなりません。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、そのぐらいの時間をかけて、会社として真剣に考えて推進しているということを全社員に示すことも大切だと思います。過剰反応などもあり、判断は難しいと思いますが、何かアイデアを出して、社員に意識づけすることが必要です。
そして、現場が新システムによって得られるメリットをすぐに実感できるような、小さな成功体験を積み重ねていくことが重要です。例えば、「これまで丸一日要していた非効率なレポート作成が10分で済む」や「ルーティンの業務はロボティクスなどでシステムが勝手に対応してくれる」となれば、現場はプロジェクトに賛同しますよね。中には、「自分の担当作業がなくなる」と反対する方もいるかもしれませんが。
現場の感覚から言えば、長年慣れ親しんでいるオペレーションの変更は面倒かつ恐怖ですし、できれば変更したくないのです。しかし、プロセスマイニングやタスクマイニングを行って可視化すれば、無駄な作業や非効率な業務プロセスは一目瞭然です。もっと効率的なオペレーションがあるのに既存のやり方に固執したり、すでに不要になっている作業に時間を費やしたりすることは、会社としても大きな損失です。IT部門はこうした客観データを基に現場とコミュニケーションをとり協力を取り付け、前向きになってもらうことから始めることが大切です。
中山:
まずはアジャイル開発で「Quick Win」「Quick Hit」を目指し、期待どおりの結果が得られないと判断したらすぐに中止をして次の一手を考えます。クラウドを活用すれば、こうしたスピード感で“武器”を整備できます。
岡部:
最後に、改めて申し上げたいことは、経営陣がSAPソリューションを導入すると決めたのであれば、役員の方々一人ひとりがプロジェクトに本気で向き合い、経営的な視点でIT戦略を考えてほしいと思います。私たちES(Enterprise Solution)も、そしてCT(Cloud Transformation)も、クライアントが“最新の武器”を手に入れ、最強の武器にできるようにご支援させていただきたいですし、ビジネスインパクトを最大化できるように、クライアントと一緒になって取り組ませていただければと思っています。それを推進できる体制がここにはあります。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/マネージャー N.U.