SAP導入プロジェクト×品質管理

会社規模によって難易度が飛躍的に高まるSAPプロジェクト。品質管理の課題とポイントを紐解く

「クライアントサイドを含めた事前準備の徹底」が大規模プロジェクトには必須

M.Y.:
中小規模の案件に比べて難易度が各段に高まる背景については、よくイメージすることができました。ではプロジェクトの質を高めるためには、どのような点を意識すべきでしょうか。

浦:
前提として、プロジェクトが大規模であるが故に、何か特別なことをしなければならないという訳ではありません。むしろ「本来やるべきことをより網羅的に、丁寧かつ粘り強く徹底すること」を意識すべきです。

私の経験則によれば、プロセス、システム、対象ユーザーの数によってプロジェクトの難易度は2倍、3倍ではなく、2乗、3乗に高まります。その困難さのハードルを下げるポイントの1つに「事前準備の徹底」があります。

私の場合、まず計画という観点ではPwCのSAP導入方法論に基づき、生じうるタスクや工数をしっかりと積み上げることに専念しています。もちろん構想策定段階において全ての業務プロセス数を把握することは困難です。それでも類似事業などから試算して、なるべく緻密なシミュレーションを行うよう心掛けています。

またプロセス数だけでなく、発生しうる課題に対してもセッション数を見積ると同時に、大・中・小と規模を区分けして定義しています。その後、結果として業務プロセスや課題が増えたのか、それとも減ったのか「計画と実績の差分」の確認に注力します。

M.Y.:
当初の計画を柔軟に更新できるように、予実管理を行いながら観察と分析作業を継続する。すなわち「計画し続けるスタンス」が大規模プロジェクトにおいて重要になるのですね。

浦:
そのとおりです。また準備段階で「プロジェクトの羅針盤」を設定して、プロジェクトメンバーが「あるべき姿」に対する認識を常に保持していくこともポイントになります。

大規模プロジェクトでは、経営改善や業務効率化などを目的に据えて要件定義を行いますが、フェーズが移行していくにつれて、当初定義した「あるべき姿」が形骸化してしまいがちです。展開対象となる部門・ユーザーに数々の無理難題を受け入れてもらうことで導入プロジェクトは前進していきますが、プロジェクトメンバーの意識が曖昧となっては、交流やコミュニケーションを円滑に進めることができなくなります。

形骸化とその悪影響を防ぐためにも、クライアント側の役員、管理職、キーユーザーを含めたプロジェクトメンバーが、プロジェクトの必要性、考え方、「あるべき姿」を、要件定義から稼働まで認識し続けることが必須です。そしてそのための羅針盤が必要です。これまでの案件ではプロジェクトの方針書などを作成して、プロジェクトメンバーのみならずユーザーにも徹底的に周知するように努めてきました。

M.Y.:
大規模プロジェクトになると期間も長期化します。冒頭に方針書を作成して周知しても、継続的に意識を向けてもらうのは難しいイメージがあります。長期プロジェクトにおいて初期の方針を最後まで保つためのポイントはありますか。

浦:
例えば直近の案件では、資料をプロジェクトのポータルだけでなく全社に展開しています。ユーザーにも理解いただくために、目的、アプローチ、スケジュールの全てを公開していますし、変更があれば都度更新します。全社的に意識を共有する仕組づくりが上手くいけば、ユーザーの皆様はしっかり確認してくれますし、フィードバックや情報提供もしてくれます。

M.Y.:
プロジェクト関連資料の公開範囲をプロジェクト内に留めるのではなく、全社展開する資料として位置づけることが欠かせないのですね。

では、クライアントがSAPを導入する背景の1つに、業務のルールおよびプロセス、データの標準化があると思いますが、現状調査の重要性についてはどうお考えでしょうか。

浦:
「SAPを導入するから現行調査はいらない、または徹底調査する必要がない」と考えるクライアントは少なくありません。しかしそれは大きな誤解です。SAPを導入すれば業務のルールやプロセスを自動的に標準化できる訳ではありません。

先に「20%の売上に対する業務プロセスは固有業務プロセスとならざるを得ない」と説明しました。要件定義フェーズでは現行のプロセスおよび制約を調査し、標準プロセスの適用可否を1つずつ判断し、適用できないものは固有プロセスを定義することが必要となります。なお、20%の固有業務プロセスを理解するためには、それぞれの制度、業務のルールおよびプロセスを司る関係者やユーザーをしっかり巻き込む作業が欠かせません。

それでも実際は、要件定義フェーズで全ての業務プロセスを網羅することは難しいですし、要件定義漏れのボリュームが多いと、後半の設計フェーズでインパクトが大きすぎて対応できなくなります。

PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/アソシエイト M.Y.

PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/アソシエイト M.Y.

「品質のPwC」をテーマにメンバーの意識向上に注力

M.Y.:
大規模SAPプロジェクトに対するPwCのスタンスと、それを実現するための取り組みについて教えてください。

浦:
私たちの目標は「品質のPwC」と評価していただくことです。品質管理を高めるためにさまざまな取り組みを行っていますが、今回はそのうちの3つをご紹介したいと思います。

1つ目は「提案レビュープロセスの徹底」です。まずクライアントからの引き合いが確認できた時点で、提案のリスクや留意点を評価するオポチュニティレビューを実施します。次に提案書の内容を事前に評価するソリューションレビューを行います。提案前のレビュープロセスで意識するのは、「案件の難易度」「社内体制の構築可否」「提案スコープとスケジュール」の3つです。SAPの提案に関してはETのパートナーとディレクターが必ずペアで実施しています。

2つ目は、「SAP導入方法論の継続的な改善」です。原則としてPwCの導入方法論に則った計画と管理を行っていますが、プロジェクトでの適用を促進するために管理ツールの拡充・改善を継続的に実施しています。

最後に「プロジェクトマネジメントの徹底と意識向上」です。ETではマネージャー以上を対象としたプロジェクト管理および品質管理を討議するワークショップを月次で開催しています。これはプロジェクトマネージャーだけでなく、最前線で日々の作業を計画するチームリーダーやマネージャーまで裾野を広げて、品質管理の意識を向上させていくための活動です。

私たちは方法論も重視しますが、プロジェクト管理に対するメンバーの意識が何より大事だと考えています。そのためプロジェクトマネジメントの徹底と意識向上は、私たちが最も注力している取り組みとなります。

M.Y.:
どんなに良い方法論があっても、意識が高くないと使いこなせないということですね。とても貴重なアドバイスをいただきました。今回の対談で学んだことをプロジェクトに生かしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

インサイト/ニュース

7 results
Loading...
Loading...

主要メンバー

浦 正幸

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

本ページに関するお問い合わせ