生産領域へのERP導入、PwCの強みとは

ERP導入だけでなく、チェンジマネジメントが重要

M.I.:経営層と現場との温度差がある中で、PwCコンサルティングではどのように標準化とERP導入を進めているのでしょうか。

佐田:ERP導入には、業務改革が不可欠です。また、業務改革を推進する上ではチェンジマネジメントが非常に重要なカギとなります。さらに、チェンジマネジメントの成功には経営層だけでなく、現場を巻き込んだ業務改革のための意識が必要となってきます。システムを勝手に導入して現場に押し付けてしまうと、土壇場になって業務を変えられないといった反発が生まれやすくなります。その結果、使えないシステム、もしくは現行業務の要件を満たすために多大なコストを使ってERP上に作りこみを行うということになりかねません。ERP導入は、IT部門が単独で進めるのではなく、経営層や業務部門と一丸となって進めていくことが大切です。そのためにも、チェンジマネジメントが重要なポイントとなります。

尾中:日本の製造業は特に、先ほどの工場長の話もそうですが、ボトムアップで業務を遂行してきた企業が多いので、いきなり現場の方に「経営側がこう言っているから、やってくれ」とトップダウンで指示をしてもうまくいきません。経営が求めることとは別に、現場が本当に困っていることや求めていることを理解して整理し、ゴールを示すことが大切です。その上で、標準化によって得られることと失われることのバランスを見せて、「標準化により失うものはあるが、この課題は解決できる」と説明し、現場に納得してもらいます。こういった整理をプロジェクトのごく初期の段階で行っておくことが、極めて重要です。

A.T.:経営層と現場とで、課題感がまったく異なっている場合はどうすればいいのでしょうか。

佐田:その企業にとっての強みは何かという議論を深めることが大切です。その議論の中で経営層と現場が「これだけは譲れない」という「強み」について合意ができたら、その部分は無理に標準化せず、アドオン化して残すという判断をする企業も少なくありません。逆にいうと、絶対に標準化したくない「強み」さえ両者の間で共有できていれば、残りは全部標準化しても問題ないという話に持っていけるということです。

尾中:そうですね。よく聞くのは、取引先との関係上、標準化できないという話です。「この商品はある特定のお客様のために特別な作り方で作っている。だから、絶対に譲れない」というものです。社内の問題だけではなく、社外との関係性から標準化できないということです。このあたりの話も、現場の人としっかりコミュニケーションを取ってプロジェクトの初期の段階で把握しておくことが大切です。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 尾中 隆喜

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 尾中 隆喜

成功のカギは「機能配置」。ERPでできることと・できないことの線引きを明確に

A.T.:AIの活用にせよERP導入にせよ、業務とデータが標準化されていないと意味がないということですね。

尾中:そうですね。ただし、何から何まで全て標準化すればいいというわけでは決してありません。データの使い道に応じて標準化するか否かを判断し、標準化のツールとしてERPやPLMといったシステムを使い分けて改革を進めることが大切なのではないでしょうか。標準化する業務としない業務の見極めはとても難しいですが、これは企業の強みを見極めることなので、避けては通れない議論です。逆にこの議論を抜かしてプロジェクトを進めてしまうとERP導入の目的を見失いがちです。ERP導入によって自分たちは何をしたいのかを明確化する意味でも、標準化する業務・しない業務の判断は非常に重要です。また、生産現場の要求を全てERPでカバーしようとするのも、避けた方がよいでしょう。ERP上での作り込みが必要になって、導入コストも運用コストも高くなってしまい、上手な使い方とはいえません。

M.I.:ERPのような基幹システムで開発すべき範囲と、周辺システムでカバーすべき範囲があるということですね。どうやって見分ければ良いのでしょうか。

尾中:見極めるためには、ERPで対応できることを正しく理解する必要があります、例えば、「ERPでの生産の表し方=製造指図でのロット生産」と思い込んで、そのまま導入すると生産現場とシステムの間で大きな乖離が生まれてしまいます。

佐田:システムの機能配置も大きな課題ですね。そもそも、日本企業におけるシステム導入は業務を回すための仕組みというよりも、作業を楽にしたり、効率化したりすることを目的としていたため、小回りが利くことを重視した仕様になっていて、基幹システムに必要のない機能も多いのです。そういった機能をERPに持ち込んでしまうと、標準機能で対応できなかったり、アドオンが大量に発生したりしてしまいます。これを防ぐためにも、基幹システムに持ち込むべきデータを見極め、システムの機能配置を決定することが大切です。

A.T.:持ち込むデータの見極めには、どのような点が重要ですか。

佐田:まず、標準化されたデータである必要があります。ただ、中にはERPを入れること自体が目的になり、KPIの再設定や経営層の合意、適切なデータの取捨選択などがなされないまま、小手先でERPを導入してしまうケースがあります。すると本来やりたかったことができなかったり、改修が必要になったりする状況が起こり、最悪の場合は、過去の負債を抱えた新システムを構築し、それを何年も使い続けなくてはならないという残念な結果になりかねません。特に日本では海外に比べて、「システム=自分の仕事が楽になるもの」という発想があり、「自分の代わりをしてくれないシステム=悪いシステム」という考えに陥りがちです。結果としてアドオンが大量に増えてしまい、失敗するケースもあります。

PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト A.T.

PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト A.T.

鞭だけで人は動かない。必ず「飴」も用意すべし

M.I.:そういった事態を避けるためにも、まずはERP導入プロジェクトの意義を関係者にしっかり周知することが大切だと思いますが、どのように取り組んでいますか。

佐田:これはチェンマネの基本でもあるのですが、まずはスタート時にプロジェクトの大枠の目的を経営層としっかりすり合わせておくことです。それを今度は部長⇒課長⇒現場と共有していくのですが、いきなり私たちのような外部の人間が言ってもあまり効果がないので、クライアント側の社内の上司⇒部下の関係性の中で伝えてもらいます。上司が部下に自分の言葉で説明し、「よし、やるぞ」と声をかけてくれると、部下の皆さんは動いてくれるものです。あとは、先ほどの話にもあったように、キーマンを見つけることです。基幹システムに限らず、何かを「変える」には多くのエネルギーが必要で、リスクもありますが、それを乗り越えるパワーの持ち主を見つけることが大切です。

尾中:本当にそうですね。加えて、飴と鞭でいうところの「飴」をちゃんと用意しておくことも大切です。現場にとって基幹システムの導入は「鞭」が多い業務なので、なかなか積極的に動いてくれません。分かりやすくいうと、例えば「システムに導入で人員が不要になって、自分がクビになるかもしれない」と思わせてしまうと、動いてくれません。そうではなく、「これまで古くて使いにくいシステムを使ってこなしていたルーチンワークも、これからはRPAのような最新ツールを使ってスマートな仕事になる」といった未来や期待感を「飴」として共有して、腹落ちしてもらった上で進めることが大切です。

製造業へのERP導入、PwCのケイパビリティはテンプレートと実績

A.T.:さまざまな課題がある中で、製造業へのERP導入においてPwCにはどのようなケイパビリティがあるのでしょうか。

佐田:PwCコンサルティングは繰り返し生産型のSAPテンプレートを持っており、これを活用して標準化を推進できる点に優位性があります。ただし、このテンプレートを全ての企業にそのまま使ってもらうということではなく、あくまでもこのテンプレートをベースにすることで、標準化をスムーズに推進できるという意味です。また、チェンマネのプロジェクト実績が豊富な点もPwCの強みの一つです。先ほど、チェンマネは経営層の理解を得た上で、ITと業務の両輪で行うべきと言いましたが、その経験・実績も豊富です。さらに、ホームページで紹介しているとおり、特殊業務とされる自動車産業向けJIS/JITの領域についても業界固有のテンプレートを持っており、複数の企業に提案をしています。引き続き、これらの強みを活かして日本の製造業における機関システムの刷新を後押しするとともに、今後は、DSCMとしてPLM/MESの連携領域において最新技術を活用した取り組みにも力を入れていきたいと考えています。

M.I.:貴重なお話をありがとうございました。私は入社以来、SAP導入支援に従事してきましたが、製造業界を担当した経験がないので、大変勉強になりました。また、プロジェクトにおいても「理解を得る」ことが大切であるということを、改めて実感しました。今後の業務に生かして、私もERP導入推進に貢献していきたいと思います。

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主要メンバー

佐田 桂之介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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尾中 隆喜

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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