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電力業界が直面する課題・変革に対して、主要エネルギー業界各社のデジタル技術活用が活発化しています。今回はデジタルトランスフォーメーション(DX)を中期経営計画の施策に掲げる関西電力の経営企画室イノベーションラボ次世代エネルギービジネス推進グループ部長の上田 嘉紀氏をゲストにお迎えしました。前編では電力業界の変革とブロックチェーンのもたらす可能性をテーマに、PwCコンサルティング合同会社においてエネルギー産業コンサルタントに従事する佐野 慎太郎と企業経営におけるブロックチェーン導入を専門とする丸山 智浩がお話を伺いました。関西電力の取り組みを通じて、解決すべき課題と展望を洞察し、新しい電力業界の姿を捉えます。(文中敬称略)
(左から)関西電力の上田 嘉紀氏、佐野 慎太郎、丸山 智浩
対談者
関西電力 経営企画室イノベーションラボ次世代エネルギービジネス推進グループ部長
上田 嘉紀氏(写真左)
PwCコンサルティング合同会社 エネルギー産業
ディレクター 佐野 慎太郎(写真中央)
PwCコンサルティング合同会社 エマージングテクノロジー
シニアマネージャー丸山 智浩(写真右)
関西電力 上田 嘉紀氏
丸山:
2019年に発表された関西電力の中期経営計画では「脱炭素化」に加えて、太陽光発電や蓄電池を組み合わせたエネルギーの「分散化」、そして「デジタル化」、「電化」という潮流・変化に対応して、「将来を見据え一歩先へ」と宣言されています。これらのキーワードを中計に盛り込んだ背景や、エネルギー業界の変革へのお考えをお聞かせください。
上田:
背景には時代の変化のスピードに対する危機感があります。過去には2011年の東日本大震災や、2016年の電力自由化などといった出来事がありました。それに伴い会社を取り巻く環境も大きく変化しました。業界地図が大きく変わり、競争も激しくなる中で、社内での危機感の高まりを今まで以上に感じ始めました。また欧米は先に進んでいることもあり、それに触れたわが社の経営陣の意識も高まり、経営層からの推進力を強めたという経緯があります。そのため、DXを推進する組織は社長がトップとなっています。
関電では、ITの専門部署とは別に、各部門内にDXの部署や人員を配置しています。全体を推進するにあたり、現場が納得した上で進めたいと考えており、現場に近いところにメンバーをアサインしています。また2018年には関電グループの業務変革や新規事業の創出を目的にK4 Digital 株式会社(K4 Digital)も設立しました。そのK4 Digital内で人材育成も進めています。分散化していることで、スピードは落ちますが、非常に現場に即したリアルな課題やニーズが見えてきました。
イノベーション関係の取り組みについては、エネルギー分野での新たなチャレンジの切り口として、「グリッド/シティ」、「モビリティ」、「サービス」という3つの領域に分けました。グリッド/シティは送配電網という面、お客さまという個別の点、EVが中心となるモビリティは線となり、社会課題に向き合う中で関電として目指すべき領域を「面・点・線」でカバーしようと考えました。それ以外に社会インフラやライフデザインなど別の領域も設定されています。若手なども交えてこういった領域の議論を重ねて中期経営計画を考えました。
丸山:
電力事業におけるブロックチェーン導入に関しては、欧州が進んでいるという話がありますが、欧州の方法がそのまま日本でも適用できるとは限りません。そのためPwCコンサルティングでは海外事例を参照しながら日本でのあるべき姿を定義しています。
上田:
日本の電力業界は海外からの技術導入を進めていたという過去の経緯・経験から、海外の先進事例に学ぶケースも多いですね。
丸山:
海外事例でも日本にとって良いモデルケースになるものも多くあります。例えばイタリアやスペインなどはROI(投資利益率)を意識せずに進めるケースが多いです。一方、ドイツのブロックチェーンはROIを意識して推進するケースが多く、日本にとって良いモデルケースとなることが多いと感じています。
上田:
電力に関して、ドイツは再生エネルギー政策をはじめ、さまざまな取り組みを実施しており「環境先進国」とよく言われています。ただ、方向性は打ち出されていても、実施には時間がかかり、冷静に見れば、実態はあまり伴っていない側面もあるという印象を持っています。例えばですが、資源を他国に依存する日本としてのエネルギーセキュリティを考えるのであれば、日本と同様に海に囲まれた島国である英国などを事例として取り入れるべきではないかと考えています。
丸山:
エネルギー業界の変化を踏まえ、2017年頃から各社でブロックチェーンを活用した取り組みが活発化し、P2P電力取引、VPP(仮想発電所)などが主な取り組み領域となっています。関西電力でも、積極的な実証・研究が行われています。発電設備からの配送という、中央集権的なアーキテクチャから、太陽光発電や蓄電池による電力の地産地消が非中央集権的な変化を連想させ、ブロックチェーンとの親和性が話題になっていますね。多様な電力ニーズがある中で、各種取り組みの背景や狙い、今後について紹介いただければと思っています。
太陽光発電で生じた余剰電力のプロシューマー(生産消費者)、コンシューマー(消費者)間売買をブロックチェーンで実証実験されていると伺っています。こちらの背景と実証で得られたもの、今後の課題はどのように考えていますか。
上田:
この実証実験はブロックチェーンでは何が実現できるのか?というところからスタートしています。日本のエネルギーシステムは長い間、電力会社が管理する「地域独占」が基本でしたが、電力自由化により再生可能エネルギーをはじめとした分散化によって一般企業や消費者が主体となっていくことを考えると、ブロックチェーンは有用な技術だと考えます。なぜブロックチェーンが電力業界で今注目されているのかといった理由は、ブロックチェーンを導入すれば電気自体を供給するだけではなく、それらの電力消費量、電源の由来、価格決定に対し、正確にひもづけが可能になるからだと考えています。関電では、技術研究所が主体となって実証実験をやっていますが、実際に、そうした取り組みは実現可能だという検証結果があがってきています。
丸山:
基礎研究としては成功しているということは、この先の実用化にも期待ができますね。
また、関西電力ではオーストラリアのパワーレッジャー社と共同してブロックチェーンに関する実証実験を進めていますが、グローバル連携や実行に伴う背景はどういったものでしょうか。
上田:
私たち関電は、国際事業本部を設け、北米・欧州・アジアなどに事業展開しています。オーストラリアからLNG(液化天然ガス)の輸入も行っていることもあり、政府関係のルートを通じて、同国でブロックチェーンに取り組んでいるパワーレッジャー社との関係がスタートしました。
パワーレッジャー社との実証実験ではブロックチェーン技術を活用した環境価値取引の実現を目指しており、一定の効果も出ています。脱炭素化の流れから、環境価値取引という点でブロックチェーンは有益だと考えます。環境価値は、ダブルカウントしてはいけませんし、環境の十全性も担保すべきということが求められています。ブロックチェーンが導入されれば、改ざん防止やトレーサビリティの観点でも非常に有効です。しかも、事業の運営を全て再生可能エネルギーで調達することを目標とするイニシアチブである「RE100」が登場するなど世界の潮流から考えても、電力消費量などを、リアルタイムではなくとも後で説明・証明できるブロックチェーンが活用される幅は広がっていくと考えます。
丸山:
国内においても、イオンと提携してブロックチェーンとEVを活用したVPPの実証をされていますが、背景を伺えますか。
上田:
EVと家庭用太陽光発電設備が普及してきたことを受けて実証が始められています。家庭において太陽光発電をした電力を地域で受け入れる仕組みの構築を目的としています。太陽光パネル・EVなど設備として準備できているところが対象となりますので、全国的に拡大するにはまだ課題があると理解しています。ただし、EVの普及とともに、将来の電力利用モデルとしては可能性があるのではないかと考えています。
丸山:
大規模設備を使った供給方法とは異なる領域であるため、実際に運営するとなると難易度は高そうですね。
佐野:
こうした仕組みを構築するためには、一般家庭におけるEVの普及は大きな命題となりますが、この場合のユーザーのメリットはどうお考えですか。
上田:
ユーザーとしては、EVだとガソリンスタンドに行く必要がなくなり、代わりに安価な電気代で済みます。ただし、現時点ではEVはガソリン車よりも本体価格は高額です。現在は、その支払いができるユーザーが導入していると理解しています。EVが想定以上に増えて、充電によって電力使用量のピークが立ちすぎると話が異なりますが、現在は充電容量も大きくないので、EVが普及することについては当面問題ないと理解しています。
丸山:
EVですが昼間は自動車で利用し、余った電力は家庭で利用するといった方法もあります。
上田:
BCP(事業継続計画)を運用する上での具体策としてEVのバッテリーを利用するということはケースとしてあるでしょうね。
丸山:
ブロックチェーンはマイクロペイメントや小口決済で利用されることも多く、充電や細かい計量で課金するというのは十分チャレンジすべき領域として理解しています。使用量をどのように証明するか、真正性の証明という点では活用の見込みがあると考えます。ポイント流通システムでもブロックチェーン活用が考えられますが、どこまで踏み込んでいますか。
上田:
関電のポイントサービスである「はぴeポイント」自体は、ICO(Initial Coin Offering)ではありませんが、暗号資産(仮想通貨)という意味ではブロックチェーンと親和性が高いと言えます。ポイント流通の互換性がある中、これはあくまで私見ですが、はぴeポイントがブロックチェーン上で使えるようになれば、その部分での広がりや将来性を感じます。なお、電力関連では「イーサリアム」などと呼ばれるブロックチェーンのプラットフォームが使われることが多いのですが、エネルギーサービスにおけるポイントの流通では、必ずしもそのプラットフォームである必要はありません。
佐野:
そのような将来を見据えたときにポイント流通システムの運営主体はどこになるでしょうか。
上田:
はぴeポイントについては、これまでどおり関電が自ら運営することになると思います。ポイントの互換性については、それぞれの暗号資産や他社のポイントと個別に交換を連携することで実現させることになると思われます。
佐野:
関電が共同で実証実験をしているパワーレッジャー社は、ICOにより、市場取引用のトークン(暗号資産)を独自発行し、さらに、電力取引については価格が固定された別のトークンを発行するというデュアルトークンという仕組みを採用しています。取引スピードの問題と暗号資産の価格変動を避けることをコンセプトとしてうたっています。関電におけるデュアルトークンの活用状況はいかがでしょうか。
上田:
まだそこまでは活用できていません。一方で、私たちもICOについて検討していたことがあります。例えばインフラの地方債を発行する場合、新たに設備を作るときには発行できますが、メンテナンスには利用できないなどの事情があります。このように、既存の資金調達方法を補完するというところで、ICOには可能性があると感じます。ICOの経済圏が広がっていけば、私たちが事業をする地域に根差すという点ではブロックチェーンは親和性があるのではないかと思っています。
佐野:
地域通貨のようなものでしょうか。国以外を信用するというところは価値主義社会(お金などの資本に変わる前の「価値」を中心とした社会)に通じますね。
上田:
そこが好きだからそこに住む。だから、そこのものを使いたい。それでいて、他のものとも互換性があるという状態です。
地域通貨のようなものがあったとして、レートを固定するのか、変動でいくのかという問題があります。ヘッジの仕組みが必要で、セットでサービスしないといけないでしょうね。
佐野:
その実現手段の一つがデュアルトークンだと考えています。
PwCコンサルティング合同会社 佐野 慎太郎
丸山:
実際、商用になるにあたり、どういった壁があるのか、その辺を促進する取り組みはありますか。
上田:
電力の世界でブロックチェーンを本格的に導入するには法規制の壁があります。ただ、計量法の改正などは国や審議会の中でも話を進めており、技術革新のために必要な知見などは出していく想定でいます。
丸山:
こういった課題は、既存ビジネスとのバランスが新たな課題となる認識ですが、いかがでしょうか。
上田:
そこは常に議論の論点となっており、こういったブロックチェーンとは異なる文脈で検討しています。デジタルの文脈では、既存部門がデジタルの取り組みを拡大させ、効率化を進めることで基礎体力をつける一方、お客さまに付加価値をお届けするためのイノベーションについても検討を進めています。既存ビジネスとのジレンマが発生するからやらないかと言うとそれは違います。ジレンマを感じる領域に対しても各事業部と連携して進めています。ただし、実行には時間を要するところはあります。
丸山:
ブロックチェーンがこれから電力業界で導入されていくのは確実だと思いますが、導入に関しては技術的な課題もありますよね。実際に着手して新たに気づかれたこととかありますか?
上田:
技術が特化しているため、手離れが悪い点と処理パフォーマンスの悪さが問題になっています。カード決済と比べると100分の1とか10分の1くらいのパフォーマンスです。
即時性がないというところは、電気との親和性はありません。光の速度で充満していってどこまででもいく電気と、ブロックチェーンのようにあるところの取引の履歴を管理するという技術は、技術自体の性質が全く違います。そこをうまくつなぐようなユースケースをきちんと追求しないといけません。
パブリックとプライベートでどうつなげるかという範囲の問題、処理速度をどう上げるかという問題など、まだまだやるべきことはあります。
PwCコンサルティング合同会社 丸山 智浩
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。