
保険業界におけるWeb3.0の動向と影響
近年日本でも新たなマーケットプレイスとしてLife Settlement(保険の買取ビジネス)が期待を集めているといった動向も踏まえ、本レポートでは、改めてWeb3.0に着目し、Web3.0関連技術の活用による変革の機会を見据えた今後の論点などを解説します。
電力業界が直面する課題・変革に対して、主要エネルギー業界各社のデジタル技術活用が活発化しています。ゲストにお迎えしたのはデジタルトランスフォーメーション(DX)を中期経営計画の施策に掲げる関西電力経営企画室イノベーションラボ次世代エネルギービジネス推進グループ部長の上田 嘉紀氏です。後編は、ブロックチェーンをはじめとしたDXが電力業界に与える影響、そして関西電力が描く未来像をテーマに、PwCコンサルティング合同会社においてエネルギー産業コンサルタントに従事する佐野 慎太郎、およびブロックチェーンを専門とする丸山 智浩がお話を伺いました。(文中敬称略)
(左から)佐野 慎太郎、関西電力の上田 嘉紀氏、丸山 智浩
対談者
関西電力 経営企画室イノベーションラボ次世代エネルギービジネス推進グループ部長
上田 嘉紀氏(写真中央)
PwCコンサルティング合同会社 エネルギー産業
ディレクター 佐野 慎太郎(写真左)
PwCコンサルティング合同会社 エマージングテクノロジー
シニアマネージャー丸山 智浩(写真右)
丸山:
関電の中期経営計画では3カ年700億円のデジタル投資を計画されています。これらの取り組みの現状と課題についてお聞かせください。
上田:
3カ年で700億円というのは各部門から抽出して積み上げた数字です。効果があるものをK4Digital(関電グループの業務変革や新規事業の創出を目的に2018年に新設した子会社)やIT戦略室などで選別しています。これができた暁には、年間数百億円の効果が出ると見込んでいます。既に400件ほどプロジェクトの種をまいていますので、芽がそろそろ出てくるものもあります。多種多様ですが効果は出てきています。
例えば、火力部門は、ロールモデルの役割を果たしているところがあります。発電所のライフサイクルに応じた課題解決と価値創造をご提案するK-VaCS(ケイバックス:Kansai-Value Creation Service)というサービスを提供しています。例えば、海外の発電所に対して遠隔監視を大阪の中之島で行っています。このような成功事例が社内のDX戦略委員会で紹介され、他の部門のデジタルに対する取り組みを牽引しています。現在、生産性向上に対する効果が大きい取り組みを中心に、各部門において検討され、進められています。
丸山:
700億円の積み上げはデジタルが中心なのでしょうか。イノベーションはまた別軸になりますか?
上田:
デジタルのみでの積み上げです。
丸山:
ブロックチェーン周辺はイノベーションに該当するのでしょうか。
上田:
イノベーションに該当します。ブロックチェーンは、高度かつ先進的な取り組みであることから、技術研究所が所管して進めているプロジェクトが多いです。デジタルについては、自社の課題を探すと、生産性向上に行き着きます。例えばRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)では既に100台ほどのロボットが稼働していますが、取り組みとしては現行業務の置き換えです。その先には、お客様への付加価値向上、新しいサービスの提案につなげるのが次のステップになると認識しています。それを行う際には、データをどう整理し、活用していくかがポイントとなります。
丸山:
効率化で言えば、ブロックチェーン周辺では契約関連の領域で実施可能ですよね。その先は支払いなどに導入でき、現場をサポートできます。PwCコンサルティングの場合、クライアントのエクスペリエンス(Experience)を創造し、ペルソナになりきり、どういった価値を提供できるかを議論しています。ビジネスの課題の他、お客様の立場になったときにどういったエクスペリエンスを提供できるかについて支援していますが、クライアントの潜在需要は高いと感じています。
上田:
スマートコントラクトによる契約については、ブロックチェーンをツールとしてうまく活用することを考えなければならないと感じています。環境価値や、どこの発電所の電気かといったトラッキング、その証明方法などを組み合わせて、どんな価値を提供できるか考える必要があります。スマートフォン上の取引などはブロックチェーンの特性を利用した暗号資産で決済するのもいいと思いますが、あくまでもツールであるため、どの場面でどういった利用方法があり、スマートコントラクトの仕組みをどこに入れるかを精査する必要があります。最終的には、ユーザーに技術を感じさせない仕組みを提供することが重要だと考えています。
丸山:
PwCコンサルティングでは契約自動化について、金融取引の削減によるコスト削減などへの適用も検討可能です。
上田:
金融取引ではありませんが、取引コストを下げるという点では、電気事業においてトレーサビリティについて厳しい要求を課すところがあります。そのようなところにブロックチェーンを応用できると、コストが下がるとともに、安心感も増す可能性があります。例えば、原子力発電所で用いられる製品は、品質記録に改ざんのないことはもちろんのこと、それらの記録をたどっていける必要があります。ブロックチェーンを用いれば、そうしたトレーサビリティが確実・簡単かつ迅速に実現できるという大きな期待があります。
サプライチェーンにおいてさまざまなプレーヤーが参加する場になればなるほど、それぞれが保有しているデータを連結するときにブロックチェーンの利用価値は高まります。関電にはそれができるポテンシャルがあると思いますが、その際、関西一元のネットワークも活用できればと考えています。
丸山:
日本ではブロックチェーンを活用した貿易コンソーシアムの実証事業などを行っています。複数の事業者が介在する貿易においてブロックチェーン技術を活用して、貨物や手続きなどのデータを迅速に共有できるシステムを構築するプロジェクトです。実現までに時間はかかりますが効果は大きいと考えます。また、インドでのトレーサビリティ事例として、チョコレートに不純物が混入している場合、原料がどこからきているかを追跡し、小売りもどこから仕入れているかなどを追跡できます。そのため、問題が発生しても回収作業や特定が非常に速いのです。RFIDによる管理などはコストがかかりますが、二次元バーコードなどを用いて安価なトレーサビリティの実現などを活用すれば、さまざまな課題を解決できるでしょう。イノベーションという観点では、ドローンを利用したソリューションにも大きな期待が寄せられていますね。電力会社などが持つ大きな建屋の管理にも効果があると考えます。
上田:
送配電の点検や水力発電の現場でもドローンを活用する場面が考えられます。水力発電の現場では、水圧鉄管という非GPS環境下においても飛ばすことができるドローンが必要であることから、パートナー企業とともに開発を行って、活用しています。既に国内企業から受注し、また、海外からも話がきている状況です。
関西電力 上田 嘉紀氏
丸山:
トレーサビリティは電力会社のようなインフラ企業にとって強い味方になると思います。社会システムの基盤となるインフラ企業は失敗が決して許されません。エコシステムを担保しながら運営する社会的な責任が伴います。また、電力に対してグリーンエネルギーを求める社会のニーズがあります。SDGsに対する世界的な関心が高まる中、少し価格が高くても再生可能エネルギーを購入したいというユーザーの潜在需要は根強いと思います。
上田:
日本の場合、非化石価値は小売事業者でないと扱えず、P2Pとは馴染まない世界にあり、制度的な課題があります。
佐野:
そうですね。ただ、こうした再生可能エネルギーに関してはもはや国主導ではなく、各需要家主導で利用が広がっていくと思います。「100%再生可能エネルギーを使っている」「社会に貢献している製品を出している」「消費者として環境にやさしい製品を使っている」。こういった理由で自分は社会に貢献しているという考え方が強まることで、エネルギーに関しても電源の由来を意識した利用がさらに広がっていくと予想されます。
上田:
再生可能エネルギーへの関心の高まりに対してもブロックチェーンはとても有用です。電力は今まで、石炭やLNGといった電源を一体として運用しており、ユーザーに電気を届けるビジネスをしてきました。つまり、電源を指定し「この発電所で発電した電気だから~」といった渡し方はしていなかったのです。トレーサビリティに優れたブロックチェーンを活用すれば電源のひもづけも可能になるでしょう。「この電気は~で発電した」というように電気を届けられれば、電源の希少性を生み出すことにもなり、将来のビジネスモデルを考えていく上で、選択肢を広げる貴重なツールになると考えています。エネルギーを利用している人が、知りたいときにその電気について、例えば再生可能エネルギー由来なのかどうかを証明できます。このように説明できることが、今後は必須になると考えます。会計領域におけるアカウンタビリティに近いですね。その裏で実はブロックチェーンの技術が使われていると生活者目線で認識しておけば十分です。ブロックチェーンなどの技術基盤を利用して情報を可視化する環境を整備しておくことが重要だと思います。
佐野:
電力の価値を可視化する点は非常に有効であると考えています。電力会社がブロックチェーンのトレーサビリティを使って証明し、電力会社が担保するのであれば、消費者主導となった世界観とも親和性があり、安心感があります。循環型社会に貢献する場合には、非常に良いツールですね。
PwCコンサルティング合同会社 佐野 慎太郎
PwCコンサルティング合同会社 丸山 智浩
丸山:
DXを実現するにはこれまでの延長線上にとどまらない将来像を描いていく必要があります。従来の電力供給だけでなく、サービスも提供する企業へと転換しようとしていますが、大幅な組織やケイパビリティの変革が求められると考えています。電力会社はどのような過程を経て変革していくのでしょうか。
上田:
現状は足元をしっかりと築くことが最優先と考えます。エネルギーの提供だけではなく、社会や生活に必要なサービスを提供することにより、存在価値が上がります。付加価値のあるサービスを提供しているから存在意義があり、利益も出る。そういったサービスを提供する中で、誰か一人にでも「最高だね」と言ってもらえることをやっていきたいです。また、既存のビジネスモデルが活動の対象としていないようなり領域、つまり現在「無消費」となっているホワイトスペースを、しなやかな感性とイノベーションにより開拓していくことにも挑んでいきたいです。
丸山:
インフラ企業にとどまらず、価値をどのように創造するかというところに目を向けている点は非常に重要ですね。インフラ企業だからこそこういった高い視点を持つことが、これからの時代ますます重要になりそうですね。
上田:
全体を統合して提供することは、ハードルが高いですが、私たちにはできると考えています。まずはフォーカスすべきレイヤーに対して、推進することが大切と考えます。電気を作るのも変革、届けることも変革、蓄電することも変革です。ビジネスモデルも大事ですが、やはりテクノロジーがついてこないと価値観も大きく変わりません。だからこそテクノロジーの進歩もよく見ていきたいと思います。
佐野:
これまで管理会計、購買・経理など伝統的な領域の支援が多かったですが、2019年は関西電力IT戦略室の方々と私たちPwCコンサルティングで将来のテクノロジー活用に向けた検討など新たな領域に踏み出そうとしています。私たちコンサルティング部門のように、具体的なモノを有していない企業や組織にどんな期待をしていますか。
上田:
モノではなくサービスへの期待が大きいですね。ただ、サービス自体にとどまらず、イノベーションを進める上では、物事の本質や概念をきちんと理解しないと議論が進まないケースがあります。また、社内だけですと物事の見方が偏ってしまいます。例えばDXで言うと、人によって議論の内容がDXではなく、ただのデジタル化の話をしているというケースもあります。そんなとき、第三者から指摘されることで説得力が増します。また、関西電力内での問題意識や構造などを知ってもらっているからこそ、適切なタイミングで適切に指摘できるというところがあり、普段からお互いのことを理解した上で、そのような関係をベースに、コミュニケーションを継続して実施いただきたいです。
佐野:
第三者としてのアドバイザーやコミュニケーションのみではこの時代は厳しいと理解しています。私たちもクライアントとともに価値を創出したいと考えます。そのときにDXを実行するための道筋を具体的に示し、一緒に価値を創出するために貢献できたらと考えます。
上田:
イノベーション領域でのコミュニケーションを増やすことがいいかもしれません。
佐野:
デジタルイノベーションという言葉がありますので、デジタル化を活用して価値が変わる、ビジネスモデルが変わる、ユーザーへの付加価値をどう提供するかという点にフォーカスして、私たちのクライアントとともに価値を創出していきたいです。
上田:
関西電力に対する理解と関西電力のユーザーを理解した上で、データを集約・分析していただけると価値が高まるのではないかと考えています。
丸山:
業界と顧客理解の例として、関西電力でも取り組まれている不動産業の領域では、仲介料がなくなり個人売買が創造されると考えられています。これはDXの一つに、法人から個人へ主体が変化するという流れがあり、その一環で従来の法人仲介ビジネスから、個人間で売買する市場が創造されることが考えられるからです。しかし、いきなりそこに踏み込むのは難しいでしょう。議論の中で出たのは空き家への対応です。空き家の場合に仲介料をなしとし、流通を活性化させるという考えです。デジタルを利用した部屋のレイアウトを可視化させるなど、お客様の状況を理解し、共に考えるという対応を実施した事例もあります。
上田:
業界と顧客理解の例として、最近耳にした損害保険業界の話が参考になりました。とある損保会社は、世界各国に拠点を持っているとのことですが、日本ではマーケットリーダーとして業界秩序を守り、業界自体をディスラプトはしないようです。一方で、欧州をはじめとする海外にはとがった商品やサービスがあるようで、そのような知見を取り入れながら、アジアでは自分たちがディスラプターとなり、イノベーションを進めているとのことです。そして、時間が経過すれば、アジアでのサービスを日本に持ち込んでくることも視野に入れているとのことでした。このように地域と時間を分散させ、顧客のニーズに合わせてイノベーションに取り組んでいるというのはとても面白いと感じました。日本の中でも、どの業界にも、まだまだ開拓されていないスペースがあり、顧客に対する付加価値が出せていないのは、ニーズをきちんと理解できていないという点があると考えます。データを集めつつ、想像力をはたらかせることで、新たなサービスに取り組める領域は多数あると思います。
丸山:
データ収集や分析のアプローチからペルソナも含め案として出しましたが、どういったペインポイントがあるかはともに話をしながらサポートしていきたいですね。
上田さんのお話を伺ったことで、関西電力はP2P電力融通、排出権取引、VPPなど電力業界における最先端の取り組みを行っているだけでなく、ポイント活用などブロックチェーンテクノロジーに対する洞察を踏まえた積極的、多様な取り組みは先進性を持っていることが分かりました。
これまで電力業界を支えてきたプレーヤーたちは単なる電力販売ではなく、業界をクロスしながら新たな社会サービスにおける付加価値を創出していく会社に生まれ変わっていくと考えています。世界149カ国に及ぶPwCのグローバルネットワークに蓄積されているさまざまな知見を生かして、デジタル時代における変革の推進を伴走していきたいと思いました。
PwCコンサルティング合同会社 エマージングテクノロジー
シニアマネージャー 丸山 智浩
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
近年日本でも新たなマーケットプレイスとしてLife Settlement(保険の買取ビジネス)が期待を集めているといった動向も踏まえ、本レポートでは、改めてWeb3.0に着目し、Web3.0関連技術の活用による変革の機会を見据えた今後の論点などを解説します。
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