暗号資産(仮想通貨)・ステーブルコインの発展の足跡と最新動向

サトシ・ナカモトがビットコインに関する論文を発表した2008年から10年余り、ブロックチェーンを活用した暗号資産はいくつかの高騰やブームを経て、その課題も明らかになりつつあります。

今回は、暗号資産課題対応の足跡を振り返りつつ、暗号資産の中でも特にステーブルコインの持つ意義や暗号資産の行方について展望します。

アジェンダ

  1. 暗号資産(仮想通貨)に関わる課題対応の足跡
  2. ステーブルコインの意義
  3. 暗号資産(仮想通貨)の近年の動向と今後の行方

1.暗号資産(仮想通貨)に関わる課題対応の足跡

ここでは、暗号資産の定義や発展の足跡について簡単に振り返った後で、暗号資産が通貨が持つ本来の機能を果たすためにどのような試みを行ったのかご紹介します。

暗号資産(仮想通貨)とは、日本銀行の定義によると①代金の支払いや法定通貨の交換に利用できる、②電子的に記録や移転が可能な、③法定通貨ではない通貨を指します。よく交通系ICカードをはじめとした電子マネーと混同されがちですが、電子マネーは円を含む法定通貨を用いた決済手段を指しており、法定通貨ではない通貨を指す暗号資産とは異なるものです。2020年4月に施行された改正資金決済法では、仮想通貨ではなく暗号資産という名称を使用しています。

暗号資産が最初に電子的に実装された例は2009年のビットコインであり、サトシ・ナカモトの論文により生み出されたブロックチェーン技術をもとに実装されています。ビットコインは、発行者が特定されない円やドルのような法定通貨以外の通貨であり、2010年5月22日に最初にピザの代金支払いとして利用されました。

日本国内でも2014年に暗号資産取引所が開設されると、暗号資産を決済手段として採用する大手企業が出てきました。近年の暗号資産ブームによる高騰や下落を経験した後でも、自動車メーカーやクレジット会社のような大手企業による暗号資産の購入や決済手段としての採用が行われるなど、暗号資産は引き続き利用され、暗号資産への投資は広く認知されつつあります。

果たして暗号資産は、このまま広く社会に浸透して、既存通貨の代替となっていくのでしょうか。ここで、通貨の持つ一般的な機能について見ていきましょう。

通貨には一般に①交換機能、②価値保存、③価値尺度という3つの機能があることが知られています。最初に①交換機能とは、通貨の価値が一般の人々に広く理解されることでモノやサービスとの交換ができることを指します。次に②価値保存とは、通貨を保存しておくことで利用者が将来にわたって購買力を保持できることを指します。最後に③価値尺度とは、あらゆるモノやサービスの価値を通貨の数量で表示できることを指します。

図表1. 一般的な通貨が持つ3つの機能

図表1 一般的な通貨が持つ3つの機能

暗号資産については、①交換機能としては、現在の交換レートをもとにして一定の企業が決済手段として採用しています。一方で、数か月の単位で暗号資産の価格が大きく上下するため、現金と比較すると暗号資産で②価値保存や③価値尺度としての機能を果たすことは難しくなっています。つまり、価格の変動(ボラティリティ)の低減を行うことが、暗号資産が通貨の持つ役割を果たす上での課題となっています。

既存通貨よりも利便性を高めつつ通貨としての役割をいかに果たしていくのかという課題に対して、これまで暗号資産の業界ではブロックチェーン技術による非中央集権、耐改ざん性、スマートコントラクトなどの特性を生かしたさまざまな挑戦が行われてきました。

図表2. 暗号資産(仮想通貨)の課題対応の足跡

図表2 暗号資産(仮想通貨)の課題対応の足跡

例えば、DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)は一般に公開されたブロックチェーン上で取引を行い、個人間で相互に監視することにより、中央の管理者なしに金融資産の取引を可能にしています。インターネットでアクセスできるため世界中から誰でも参入でき、またサービスの維持に必要なコストも低く抑えられることから、国境を越えて全ての人が必要とする金融サービスにアクセスできる状態(金融包摂)を実現する技術として注目されています。

ガバナンストークンのような投票権を発行して投票によるサービスの運営を行うDeFiも出てきています。しかしながら、通貨としてより安定性を高め広く一般に普及させていくためには、ベースとして使用している暗号資産が持つボラティリティの低減に取り組む必要があります。

3.暗号資産(仮想通貨)の近年の動向と今後の行方

近年では、エルサルバドルのように暗号資産を法定通貨として採用する国家も出てきています。貧しい人々への金融サービスへのアクセス性(金融包摂)や、外国からの送金に対するコストメリットが背景にあると言われています。国内初の暗号資産取引所が設立された2014年と比較すると、マネーロンダリングをはじめとした不正利用に対する国内外の規制も強化されつつあります。暗号資産の不正利用防止は今後も継続して議論していくべき論点ですが、もしアルゴリズムにより通貨の信用が低コストで担保できるのであれば、発展途上国における経済の安定をもたらし金融包摂の流れを強めることができるかもしれません。

本稿では通貨が持つ機能に着目し、既存の法定通貨の代替となるかという観点を中心に、暗号資産、特にステーブルコインについて見てきました。金融包摂は1つの例ですが、それ以外にも現代金融システムが抱えている課題には、所得の格差の拡大、繰り返される金融危機、発展途上国における政府や中央銀行への不信感といったものがあります。

一方で、今後はメタバースやデジタル化が進展して、時空を超えて仮想空間の中で過ごす時間も増えていく可能性があります。ユーザー数の増加や法整備が進むにしたがって、現実世界の企業が仮想空間の世界に参入したり、仮想空間の中で生産活動を行うためのコミュニティが設立され、その中でコミュニティが規定する仕事を行うことで報酬を得たりすることも可能になるでしょう。

アルゴリズム型のステーブルコインは少ないコストで信用創造を行い、企業やコミュニティ同士の経済活動を安定的に継続して行う手助けをすることができます。また、経済活動はブロックチェーン上に改ざん不可能な形で記録されるため、契約の特性に応じてステーブルコインを運用する発行者から報酬を追加で支払うこともできます。その場合、企業の利潤を前提とした現実世界の経済活動では解決困難な課題に対して、賛同する企業が共同出資によってアルゴリズム型のステーブルコインを発行することで、契約の特性により経済活動を制御できるようになり、課題を解決するための手段の1つとなり得るかもしれません。

図表5. デジタル化の進展と暗号資産

図表5 デジタル化の進展と暗号資産

本節の冒頭で述べた暗号資産の不正利用の防止は、メタバース利用における法整備とともに、こうした未来を実現するために必要な最初のステップの1つと位置づけることができます。マネーロンダリングやテロ組織への資金供与といった不正を着実に防止することで、KYC*3基盤の整備や暗号資産による経済活動の安定性といった次のステップに進むことができます。暗号資産を決済に用いる通貨として日常の中で利用可能とするために、現在、暗号資産はこうした法整備や仕組みづくりの中でさらに技術を成熟させつつあるのです。

*3 「Know Your Customer」の略称。サービス提供者が顧客に対して本人確認を行うプロセスを指します。

執筆者

中山 大輔

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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丸山 智浩

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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西田 宏之

パートナー, PwC税理士法人

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Haydn Jones

ディレクター, PwC英国

Minhua Bao

コンサルタント, PwC米国

Kaushik Das

ディレクター, PwCインド

Pramod Mishra

シニアマネージャー, PwCインド

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