求められる次世代のデジタルアイデンティティ管理モデルSSIと実現手段としてのDID

  • 2023-09-01

急速に高まるデジタルアイデンティティの重要性

社会のデジタル化が急速に進む昨今、人々がデジタル上で過ごす時間が急増するのに伴って、デジタル上で自身を証明するデジタルアイデンティティの重要性が高まっています。

フィジカル世界のアイデンティティの代表例としては、国籍が挙げられます。日本国籍を持つ人は、国内では国籍について特段意識することなく生活できますが、ある日突然自分の国籍情報が抹消されると、途端に生きていくことすら困難な状況に陥ってしまうことは想像に容易いのではないでしょうか。

これは、私たちが生活をする上で欠かせない、移動、身分証明、医療、教育、財産的権利へのアクセス等の自由が国籍というアイデンティティに下支えされてはじめて成り立っているからであり、人生の中で長い時間をかけて取得してきた(あるいは本来持っていた)さまざまな権利やアイデンティティの多くが国籍というものに紐づけられているからに他なりません。

デジタル上で過ごす時間が増え、仕事を含む生活に占める割合が増せば、それだけデジタル空間で自身の存在や資格の証明を担うデジタルアイデンティティの重要性も増し、いずれはほとんど国籍や戸籍等と同等のプライオリティを持つようになることが予測されます。

しかし、その重要なデジタルアイデンティティが本人とは別の巨大な権力によってコントロール可能であるならば、それは安全な状況とは言えません。

こういった背景から現在、第三者の介在なくデジタル上で自身を証明可能なデジタルアイデンティティ管理方法である「分散型識別子(Decentralized Identifier:DID)」が世界的に注目を集めています。

SSIが目指す世界観

具体的には、SSIの実現によってどのような世界が期待できるのでしょうか。

短期的には、図表4のように、デジタル世界において個人情報を自らコントロールし、匿名・仮名・実名を使い分けて「誰か」ではなく「どういう人か」を証明することで、デジタル世界で信頼を得て活動可能な世界が訪れると考えられています。

図表4 SSIの世界観

この世界観の実現手段として注目を集めているのがDIDと検証可能資格情報(Verifiable Credentials:VCs)という技術の組み合わせです(図表5)。

図表5 SSI実現のための構成要素

また、これらの技術の組み合わせによってどのようにSSIを実現するのかを抽象化したのが図表6です。ユーザーであるHolderは自身のデジタルウォレットにVCsを自ら保存して持ち運び、第三者に管理を委託しません。重要なのは必要最低限の情報のみを、自ら選択して送信することができ、受け取った者がその情報を信頼することができるという点です。

この信頼はブロックチェーンに基づいており、証明書を発行するIssuerが倒産等してもブロックチェーン上に残るため永続性もあります。

図表6 DIDによるSSIの実現

SSIに向けた世界の動向

SSIに向けては図表7のように各国で検討や準備が進められています。

例えば日本ではSSIの思想が反映されたアイデンティティのあり方が、首相官邸のデジタル市場競争会議で進められている次世代のインターネットインフラ構想「Trusted Web」の中核となり得るとしてさまざまな実証実験が行われており、EUではSSIの思想を反映した欧州デジタルIDウォレットの全市民への提供義務化を進めています。

また、韓国ではDID/VCsに基づいたモバイル運転免許証の開発が進んでおり、カナダのブリティッシュコロンビア州でもブロックチェーンを活用したDIDとVCsの開発キットの提供を行っています。

このように各国が具体的な準備を進めていることからも、SSIに対する社会的要請がかなり大きいことがうかがえます。

図表7 SSI普及後のエコシステムの仮説

このような潮流の中でSSIに対する企業の向き合い方としては、例えばDIDのインフラ自体を担うことも考えられますが、まずはSSIが普及した際のエコシステムを予測し、自社への影響範囲を整理した上で、どのようなビジネスに着手するべきなのかを慎重に検討することが求められます。

執筆者

丸山 智浩

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

峨家 望

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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