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「空飛ぶクルマ」をとりまく環境が活発化しています。空の移動革命に向けた官民協議会が議論を深め、企業による公開実験も行われています。現在の開発動向や、活用の可能性、そして将来を見据えたアクションについて、空飛ぶクルマの開発を手掛ける株式会社SkyDrive代表の福澤知浩氏、小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発に携わった航空機開発に詳しいPwCコンサルティング合同会社 顧問(Aerospace&Defense担当)の宮川 淳一、ドローンや空飛ぶクルマ関連の業務・技術支援に携わるPwCコンサルティング合同会社ディレクターの岩花 修平の3人が語りました。
(左から)福澤 知浩氏、岩花 修平、宮川 淳一
対談者
福澤 知浩氏(写真左)
株式会社SkyDrive 代表取締役
東京大学工学部卒業。トヨタ自動車株式会社にて自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンをし、原価改善賞受賞。2014年に有志団体CARTIVTORに参画し、共同代表に。2017年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社を設立。20社以上の経営改善実施。2018年に株式会社SkyDriveを創業、代表に就任し現職。
宮川 淳一(写真右)
PwCコンサルティング合同会社 顧問
40年以上にわたり、主に航空機開発に従事。B7J7(後のB777)主翼空力設計、JRリニア先頭車両形状設計、防衛省先進技術実証機基礎設計等の先端技術開発・製品開発や、民間航空機開発では50年ぶりとなるMRJ(SpaceJet)の事業化、基本設計、海外セールス取りまとめなどで責任者を歴任。三菱重工業執行役員フェローを経て現職。
岩花 修平(写真中央)
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
大手監査法人系コンサルティング会社、外資系統計解析ソフトウェアベンダーを経て現職。前職では、主に電力を中心としたエネルギー、自動車を中心とした製造業の企業に対する統計解析技術、アナリティクスを活用したソリューションの提供やIoTアナリティクスチームの立ち上げなどに携わる。現在は、デジタルテクノロジーを活用した新規事業の推進や企業の業務改善を支援しており、主にドローンや「空飛ぶクルマ」など無人航空機に関連するビジネスやMaaS(Mobility as a Service)などモビリティ関連ビジネス、IoTや人工知能(AI)、データサイエンスなどの領域を中心に従事。
株式会社SkyDrive 代表取締役 福澤 知浩氏
岩花:
空飛ぶクルマをめぐる動きがこのところ活発になってきています。今回の鼎談では、開発の原点や活用法、市場の可能性などについて、大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)への展望から、そこで想定されるユースケース、その後に普及した際、どのような市場や世界が広がっているのかといった将来の展望まで、多角的に理解を深めたいと思います。
まず空飛ぶクルマの開発を手掛けている株式会社SkyDrive代表の福澤知浩さんに、原点である開発の動機やきっかけについて伺います。
福澤:
私はもともとモビリティについて、イノベーションが少ない分野だと思っていました。この何年間かを見ても、IT、またはIoTと呼ばれる分野や、スマートフォンなどの領域ではイノベーションが進んでいますが、モビリティはそれほどでもない。それを残念だと感じていました。ここにイノベーションをもたらしたらどうなるか、というのが発想の原点です。何か画期的なモビリティを作りたいと思い、最初はボランティアで開発をスタートしました。大企業であれば、細分化されたタスクからスタートして、大規模に展開するまでに時間がかかってしまいがちです。画期的なモビリティとはいっても、できるだけ時間をかけずに実現するにはどんなものにすればいいか、といったところから考え始め、そこで空飛ぶクルマが良いのではないかという結果になりました。
岩花:
画期的なモビリティの発想から、空飛ぶクルマが出てきたのですね。その後、海外からも同様の話題が持ち上がりました。
福澤:
そうなんです。そのころにちょうど、空飛ぶクルマを利用する可能性や現実味が世界で広がり始め、盛り上がってきていました。中でもインパクトが大きかったのは、2016年に米国の主要プレーヤーが公表したホワイトペーパーでした。その内容からは、空飛ぶタクシーの稼働率を上げていくと採算が取れるようになり、道路を走るタクシーよりもむしろ安くなる、という展望が読み取れました。スマートフォンなどの普及によるスケールメリットでセンサーやチップ(半導体集積回路)の値段が下がってきていましたし、ドローンが普及して安価に飛べる形が出てきたという時代背景もあります。そうなると、「これはもう事業化するしかない」と考えるようになりました。事業化をするとモビリティだけではなく、人々の生活スタイルも変わっていきます。移動に地上のインフラを使い、遠回りをして渋滞に巻き込まれたり、満員電車を我慢したりする生活は、もう必要ではないのではないか。そう思い始めました。
岩花:
米国の企業は既存のライドシェア事業を活用した陸と空の移動の連携も構想しているようです。SkyDriveにはそういったユースケースのイメージはありますか。また、連携できそうな事業者と相談することはあるのでしょうか。
福澤:
あります。ただ、当初は妄想段階だったので「いつかこんなことにも使えると思う」というレベルでした。リアルなPL(損益計算書)を作るよりも、「確かにコストパフォーマンスは良さそうだよね」という程度の感覚でさまざまな事業者に相談していました。ボランティア時代にいろいろな企業とタイアップをすることもありましたので、そうした相談をする機会も多かったと思います。
岩花:
そこからどうやって具体化させていったのですか。
福澤:
ボランティア時代に1/5スケールを最初に作った時には、DIY・ものづくり系の展示会などに出展していました。専門業者だけでなく、個人も出展できるのですが、さまざまな人が見に来てくれて、とても有意義なフィードバックをいただきました。専門家は「事業化なんて絶対できない」で終わってしまうのですが、個人の方々は「できるかどうかはわからないけれど、おもしろいね」と言ってくれました。投資家の方は「このレベルにしないと事業化は難しいよ」というアドバイスを下さったり、大学教授の方は専門的な見地から感想を述べたりと、いろいろな意見をいただきました。
岩花:
幅広くお話を聞かれたのですね。
福澤:
はい。また、当時は自動車会社に勤めていたので、そこでハイブリッド車など画期的なクルマを生み出した主要メンバーから、どうやってそれらを生み出したのかを聞くことができました。そういった話の中に、こう進めると新しいモビリティができるのか、と腹落ちしたことはあったと思います。
岩花:
次に今後の方向性について伺います。大きな節目として2025年の大阪・関西万博に向けた取り組みを教えてください。
福澤:
万博の前の2023年にサービスの提供を開始したいと考えています。いきなり都会の空を飛ぶのは難しいので、ステップを踏むつもりです。その最初のステップは大阪地域を中心としたサービス展開で、飛ぶ場所は海や川の上に限定します。機体はどこか1カ所故障してもすぐに墜落するものではありません。クリティカルな事象が発生したらすぐに緊急着陸をするという前提で、その場合でも、第三者や生活をしている人たちがいる場所に降りることはなく、海や川の上に着地します。
2023年にサービスインし、2年後の2025年には実用化できている状態で、国内外から大阪・関西万博を訪れた方々に利用してもらえるという姿を目指しています。
岩花:
導入のスケジュールが示されると、一気に現実味も楽しみも高まります。大阪・関西万博では、どのようなユーザーが、どういった目的で使うことを想定していますか?
福澤:
会場のある大阪の湾岸部には大規模施設が集積しているので、各施設を行き来する需要を取り込むことを想定しています。この地域は道路網の利便性に欠ける面があり、2拠点間の移動に時間がかかることがあります。万博に向けて最寄り駅の開設を含めた鉄道整備の話はありますが、空を使えば既存の交通より早く移動できると思っています。車で15分、20分かかるところを、5分程度に短縮できるでしょう。
こうした利便性の向上に加えて、空を飛んで楽しい時間を過ごすといった、移動手段以外の価値も提供できます。空には遊覧の楽しみ方もあります。この地域は景色が良く、すでにヘリコプターなどによる遊覧飛行のサービスが行われています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を除けば、年間に数百万人の来訪者がありますし、その半分がインバウンドです。ここで空飛ぶクルマを使った遊覧飛行サービスを提供すれば、いろいろな方に楽しんでいただけると見込んでいます。料金も最初は数万円ほどと想定しているので、まずはエンタテイメントの一環として使う方々が多いと思います。
将来的には、関西国際空港に到着したら空飛ぶクルマに乗り継ぎ、目的地まで行くといった使い方をしていただき、交通機関として機能させることを目指しています。
世界初披露の機体「有人機SD-03」
PwCコンサルティング合同会社 顧問 宮川 淳一
岩花:
2025年の大阪・関西万博後の普及期でのユースケースのイメージはどのようにお考えでしょうか。
福澤:
空飛ぶクルマは、MaaS(Mobility as a Service)の領域に入ると想定しています。パーソナルモビリティで、かつネットワークにつながっているとなると、定期的な航路で大人数を輸送するよりも、タイムリーな輸送で活躍することが多いでしょう。また、都会と地方のMaaSの使い方には違いがあると思っています。都会では渋滞を回避して、タイムリーに行きたい時に移動を可能にするという需要があります。一方、地方では道路の老朽化が進んでいて、インフラのメンテナンス費用の負担も大きい、といった課題への対策となり得ます。現在インフラに投じている費用を一部転換する方法でもいいかもしれません。MaaSのニーズが高い都会ではビジネスとして、地方ではインフラの一環としてという2パターンがあると感じています。
岩花:
サービスの形態としては、オンデマンドでその都度料金を支払う場合もあれば、プライベートジェットのように自家用機として購入する場合もあると思います。空飛ぶクルマを駐車できる住宅を考えている住宅メーカーもあると聞いています。いずれは「一家に一台、空飛ぶクルマ」といった世界が来るのでしょうか。
福澤:
多くの人が何を求めるのかはなかなか読みづらいものですし、どんどん変わっていきます。COVID-19の影響も受けるかもしれません。私たちはオンデマンドも自家用機もどちらもあり得ると思っていますが、最初のサービスは機体販売よりも、都度払いの定期航路にするつもりです。その方が安全の確保もしやすいのです。その後は所有していただくパターンもありますし、あくまでもサービスのみというパターンもあります。現時点では両方想定していて、ニーズに合わせて臨機応変に対応できます。個人的には販売はハードルが高いのではないかとは思っています。リースやレンタルという選択肢もありますね。最終的には、スマートフォンで呼び出せば機体が充電基地から飛んで来て、それに乗って移動するという形を思い描いています。
岩花:
富裕層向けの高額サービス、あるいは大衆向けのサービス、どちらかに特化するといった考えはありますか。
福澤:
最終的には大衆車向けサービスを目指していて、一般の方に日常的に使っていただけるようにしたいです。乗用車の価格もかつては月給20数カ月分だったところから徐々に下がった経緯がありますし、初期段階では必然的に高所得者層が利用することが多くなるでしょう。モノの購入ではなくサービスの利用であることを想定していますので、例えば万博に出かけた際のように特別なハレの日であれば、1回2万円といった多少高額の料金でも利用されることがあると思います。富裕層以外の方にも「私たちには関係ない」というものにはせず、多くの方が利用できるもの、もしくは、5年後には乗れるかもしれないと思っていただけるものにしたいです。
宮川:
機体の開発者の立場から話をすると、欧米ではまず富裕層に購入してもらい、機体をカスタマイズしたりといった段階を経て、その後コモディティ化して市場を伸ばしていくという方法をとりがちですね。
福澤:
そうですね。高級な自動車メーカーがタイアップしているのはまさにそのような富裕層の購入を狙ったケースですね。また、オーストラリアのある会社はレースに特化していて、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing:電動垂直離着陸機)レース用の機体を作って、レースを開催しています。私たちは、まずは安全に飛ぶ技術をきちんと確立するのが第一で、富裕層に購入をアピールするのはそれからかなと考えています。
宮川:
今後の市場発展のステップの話はとても興味深いですね。現在の取り組みでは、万が一機体が落下しても地上被害が起きないように水上での飛行のみとする、その後の展望としてエンタテイメントや観光としての運航を考えているという点で、市場の照準の定め方としては非常に地に足がついていると思います。ただそこから、最終的に都心の上空をくるくると飛ぶ将来構想フェーズ、その先のコモディティ化の話とのギャップが大きいとも感じます。その中間段階をより具体的に示せるとおもしろいのではないでしょうか。
例えば、過疎地や離島での活用などです。過疎地や離島は人口も経済力も大きくはないので、それほどスケールメリットは出ませんが、だからこそそこでの活用によってこの先のステップを描いて、みんなが手の届く世界であると納得してもらえれば、爆発的に市場が拡大するのではないでしょうか。私はこの中間段階の絵を描くことがとても重要だと思っています。
福澤:
そうですね。ドローンはそれに近いですよね。最初はホビーとして使われていましたが、その後、点検や監視などの用途で産業に広がりが出て来ましたね。空飛ぶクルマの場合は、物流がこの中間段階にあたると思います。都心部の第三者上空での物流が次に目指すところです。それが実現できれば、視界が広がってきます。
宮川:
なるほど。
福澤:
また、エアモビリティとしてどう発展させていくかという話もあります。大阪で取り組みを始めることのメリットは、エアモビリティでA地点からB地点にモノを運ぶのが比較的容易な地形であることと、移動に困っている地域であるためニーズがあることです。東京にもそういうところがありますよね。お台場を含めた港湾部は移動が難しかったり、公共交通機関の料金が割高だったりします。単なるホビーではなく、役にも立つ。そういった角度から開拓していくべきですし、移動を担うサービスとして使われるポテンシャルは高いと感じます。
その場合も、まずはクリティカルではない移動で使われ始めて、徐々に通勤手段に代わり、新幹線に代わりといったように、レベルを上げていくことになるでしょう。最初は比較的人が少ないところや、海上、川上を飛ぶ。そこから少人数がいる場所を飛ぶようになって、最後に人が混雑している場所を飛ぶ、という3段階だと思っています。レベル1、レベル2、レベル3、と非連続に切り替わるよりも、連続的に変わっていくイメージです。
宮川:
なるほど。面白いですね。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 岩花 修平
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。