ドローンの通信技術の展望

2022-04-07

ドローンにおける通信技術の役割

まず、ドローンビジネスにおける技術的な構成要素全体のうち、通信技術が担う役割について検討します(図1)。

基本的なIoT関連システムの考え方に則り、ドローンをエッジデバイス(端末装置)と見立てた場合、通信技術はドローンに搭載するカメラやセンサーで取得したデータを、クラウドなどに実装されるストレージ(記憶装置)やデータ解析機能に送る役割を果たしています。仮にこの通信経路で伝送可能なデータの種類が限られてしまうと、解析に活用できるデータも限定的となり、結果としてユーザーに提供する付加価値に影響します。機体のデータ取得機能や解析技術もさることながら、それらの橋渡し役となる通信技術も、データから価値を抽出する上でとても重要な役割を果たしています。

図1 ドローンにおけるネットワークの役割

ドローンの通信技術の展開

次に、過去から未来に至るまでのドローンの通信技術の展開について触れます(図2)。

ドローンの通信には主に2.4GHz帯のドローン用無線通信が利用されており、操縦系とデータ・映像の伝送系の2系統に用いられています。通信モジュールは機体に組み込まれており、主要メーカーの機体は購入時点で無線による通信が可能となっています。ただし、これらの通信は出力が抑えられているため電波の伝達距離が短く、地形・建物などの遮蔽による影響を大きく受けます。また周波数帯のチャネル幅が限定されており、高速大容量通信の手段としては必ずしも適切ではありません。

従前の無線通信では技術的な限界があるというメーカー側の課題、またレベル3、4と呼ばれるドローンの目視外飛行に対して長距離通信を実現したい、画像・映像などの大容量データを機体から高速伝送したいというユーザー側の課題を解決する手段として、セルラー通信の利用が注目されています。携帯電話事業者は既に自社の無線ネットワークを活用したドローンのパッケージサービスを提供していますが、そこで用いられる標準的な通信技術はいわゆる4G LTEです。国内の主な携帯電話事業者が提供する4G LTEの国内人口カバー率は100%に近く、全国的に利用可能となっています。この通信を用いると、当然ながら各事業者のカバーする広範なエリアでの通信が可能となり、映像などの大容量データも品質次第ですが比較的高速に伝送することができます。また、従前の無線通信とは異なりインターネットへの接続が可能となりますので、取得したデータを直接クラウドに伝送することも可能となります。

ただし、4K・8Kといった高精細な映像を伝送したい場合や、データを遅延なくリアルタイムで可視化したい場合には4G LTEの通信性能は十分でない可能性があります。また、そもそも4G LTEは地上での利用を想定してエリア展開されており、上空は基地局からの距離が離れており、また遠方飛来する電波による干渉の影響を受けるため、私たちが普段携帯電話で使用している通信環境よりも不安定になることが想像されます。ドローンでのセルラー通信の利用は実用化の途上にあり、また携帯電話事業者として優先されるべきは地上での無線通信なので、携帯電話事業者による上空の無線通信品質の改善・最適化は今後検討されるべきテーマと言えます。

現在、地上の無線通信は4G LTEに加え5Gのエリア拡大が進んでいます。国内では2020年3月から一般向けのサービスが開始されており、既に私たちの持つ携帯電話の高速通信を実現していますが、4Gのコアネットワークを使用するNSA(ノンスタンドアローン)から5GC(コア)の利用を前提とするSA(スタンドアローン)へと移行することで、4G LTEを大きく超える高速大容量(規格上は下り最大20GbpsでLTEの約20倍)、低遅延(同1ms以下でLTEの約10分の1)、大量接続(同100万台/㎢でLTEの約10倍)が可能になると言われています。5Gが上空でも利用可能となれば、ドローンによって伝送されるデータの量・質の拡充やリアルタイム性の向上、大量のドローン接続の実現などにより、ユースケースの拡大が期待されます。ただし、4G LTEと同様、上空における無線品質の課題を解決する必要があります。特に5Gに利用されているsub6(4.6~4.8GHz)、ミリ波帯(28.2~29.1GHz)などの高周波数は遮蔽などに弱く、電波の到達距離が短い傾向があり、4G LTEよりも上空での品質向上の難易度が高くなることが想定されます。

さらにその先の未来には5Gの次の通信技術である6Gの実現が見据えられています。6Gのコンセプトには、空、海、宇宙を含む多様な環境に対するカバレッジの拡張といった要素が含まれており、その手法として衛星通信やHAPS(High Altitude Platform Station)といった、上空からの無線通信エリアの構築手段の活用が想定されています。衛星を用いたドローンの通信は現時点でも実証実験が行われていますが、現状の技術では品質、コスト、通信モジュールのサイズ・重量などの要因から、広域での実運用化にはまだ多くのハードルがあります。そのような技術の進展と社会実装が進めば、よりドローンによるセルラー通信の利用が一般化し、多様なユースケースが生まれることになるでしょう。

図2 ドローンの通信技術の展開

ドローン事業におけるセルラー通信活用のアプローチと課題

最後に、ドローンを活用した事業を展開する、あるいは検討している企業として携帯電話事業者の提供するセルラー通信を利用する際のアプローチと課題について検討します。

各企業がドローン事業にセルラー通信を利用する際のアプローチには、自社の取る事業上のポジションに応じて以下3つのオプションが考えられます。

「ユーザー」としての外部ドローンサービスの利用

特定の事業を営む企業は、ユーザーとしての立場から携帯電話事業者をはじめとする他社の提供するドローンのパッケージサービスを利用することで、その一部機能となっているセルラー通信を活用することができます。当該パッケージサービスはインフラ点検、農業などの特定のユースケースに紐づいた内容となっているケースがあり、またクラウドストレージや解析サービスも包含されているため、当該パッケージサービスと自社のビジネス目標やデータ管理ポリシーとの適合性を評価し、選定することが求められます。

「プレーヤー」としての他社プラットフォームへの参加

自社がドローンの機体開発、飛行・安全管理、運行管理、データ解析など、ドローン事業を取り巻くいずれかの機能を有している場合は、他社の構築するサービスプラットフォームにプレーヤーとして参加し、その機能の1つであるセルラー通信と自社サービスとを組み合わせるというアプローチが考えられます。その際は自社の提供価値を明らかにしつつ、携帯電話事業者の提供するセルラー通信との最適な統合手法を検討する必要があります。

「プラットフォーマー」としての自社プラットフォームの展開

自社がドローン産業に一定の影響力を有している場合、各機能の有力なプレーヤーを巻き込み、サービスプラットフォームを自ら構築するというオプションも考えられます。その際にはセルラー通信を提供する携帯電話事業者を自社のプラットフォームに引き込む必要がありますが、携帯電話事業者の多くは既に自社のドローンサービスのプラットフォームを有しているので、各社のドローンビジネスとの両立、棲み分けが可能なコンセプト(特定の領域に特化する、独自技術を活用する、など)に基づいたプラットフォームを検討する必要があります。

今後のドローンの通信技術の展開を見据えると、ドローン関連サービスの提供企業にとってセルラー通信の活用は欠かせない要素となるでしょう。ただし、以下に挙げる課題を認識する必要があります。いずれの観点でも携帯電話事業者との継続的な連携が必要です。

上空のカバレッジの確認

4G LTE、5Gのいずれも地上でのカバレッジを想定したネットワーク設計がなされているため、上空での通信品質は不透明です。地上での無線通信品質は携帯電話事業者が専用のシミュレータを用いて推定したり、現地で電波測定を行ったりすることで検証されており、その結果はエリアマップとして外部公開されています。しかし、上空の無線通信品質はそのような検証の仕組みが十分整備されていないため、飛行地点やルートを選定する際には携帯電話事業者との個別の確認が必要です。

通信モジュールの搭載

上空で4G LTE、5Gを用いるには使用する機体に対応した通信モジュールの外付けあるいは組込みを行わなければなりません。機体側のペイロードを考慮しながら地上の基地局との通信を阻害しない構成で搭載する必要があります。

携帯電話利用の事前申請

携帯電話の無線通信を利用するには、総務省への事前の届け出が原則必要です。携帯電話の上空利用については、総務省による先述のルール整備に伴い、一定の条件を満たせば携帯電話事業者に事前申請することで認められることとなりました。当該手続きは自社のドローン関連サービスの運用フローに落とし込む必要があります。

 

ドローン事業のエコシステムにおいては機体や運行管理システムに注目されることが多いですが、セルラー通信の活用拡大に伴って今後ますます通信技術が担う役割が強まっていくことが予想されます。そのため、ドローン事業に携わる企業はこの領域にどのように向き合っていくべきかを考えていく必要があるでしょう。

執筆者

新居 功介

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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