ドローンガイドラインの活用

2022-06-21

ガイドラインの有用性①:ユースケースの網羅性

現在、ドローンのほとんどのユースケースに対してガイドラインが整備されているため、各事業領域を比較検討する資料として活用することができます。

経済産業省が2017年に「空の産業革命に向けたロードマップ~小型無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備~」を策定して以降、着実にガイドラインの整備は進んでおり、代表的な利用方法である「農薬散布」から、実証段階にある「物流」まで網羅的に整備されてきました。

分野

主なガイドライン・マニュアル・手引き

発行元

全体

無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン

国土交通省航空局

測量

UAVを用いた公共測量マニュアル

国土地理院

農業

無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン

国土交通省

物流

ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン

内閣官房/国土交通省

医薬品配送

ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン

内閣官房/厚生労働省、国土交通省

点検
(プラント)

プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン

経済産業省

点検
(砂防)

砂防設備点検における UAV 活用の手引き(案)

国土交通省北陸地方整備局

災害

災害時におけるドローン活用ガイドライン

NEDO*

鳥獣被害

Let’s ドローンでカワウ対策

水産庁

警備

警備分野における無人航空機の安全な運用方法に関するガイドライン

福島イノベーション・コースト構想推進機構、JUTM**

鉱山

鉱山における無人航空機(ドローン)活用に関する手引き

経済産業省

消防

消防防災分野における無人航空機の活用の手引き

消防庁

* 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
** 日本無人機運行管理コンソーシアム

ガイドラインの有用性②:ニーズが見込まれるサービス内容

ガイドラインにはユースケースに基づいて、今後ニーズが見込まれるサービス内容が記載されているため、自社事業との親和性を検討する際、または参入障壁を把握する際に参考にできます。例えば、医薬品配送事業はドローンで運搬することに加えて、患者に確実に送り届けることが求められるため、配送責任を明確にし、薬剤の配送状況を把握できるようにする必要があります。またガイドラインには、荷物配送では注文を受けるためのインターフェースを整備する必要があることなど、ドローンの飛行だけでなく、そのフライト前後に必要なサービスがユースケースごとに記載されています。こうしたユースケース特有のサービス内容に対して、自社のノウハウをどのように活かしてサービス提供できるのかを検討することで、事業領域の選定に役立てることができるでしょう。

ニーズが見込まれる サービス内容

ガイドラインの有効性③:安全上の要件

ドローンに係るサービスを提供する上で重要となる「安全面」についてもガイドラインに記載されています。ユースケースごとに注意すべき点も記載されており、例えば鉱山で活用する場合には、鉱山保安法令に基づいた危害防止措置を行う必要があります。また、プラント点検に活用する場合には、爆発性雰囲気を生成する可能性があるエリアでの飛行についての対策を施し、屋内活用におけるリスクアセスメントを行う必要があります。

このようにユースケース特有の安全要件をもとに、事業参入およびサービス提供の難易度を把握し、参入領域を選択する際の参考とすることができます。また、既にアセットとしてドローンを保有する企業にとっては、保有する機体が他の分野でも活用可能かどうかを検討するということも、重要な観点となります。

安全上の 要件

ガイドラインの有用性④サービスの事業性

一部ガイドラインには事業性についての記載が含まれています。例えば、鳥獣被害の対策にドローンを活用した場合の費用対効果の試算や、砂防点検にドローンを活用した場合と徒歩で点検した場合の所要時間の比較などが挙げられます。砂防点検の手引きでは、現地での点検作業(外業)と現地で得た情報を整理する作業(内業)にドローンを用いた場合と、徒歩で点検した場合の所要時間を比較しており、ドローンでは外業の労力は削減されるものの、内業が増えるというデータが記載されています。

こうしたデータから、点検においてはドローンを飛行させ、撮影する時間とデスクワークにより、処理する時間の両面から効率化を図ることが重要であるということが読み取ることができます。このような定量的なデータおよび試算の考え方は、ドローンの事業計画を策定する上で重要な参考情報となるでしょう。

サービスの 事業性

ここまで述べてきたように、各種ガイドラインは事業領域の選択や計画策定に有効な材料となり、新規参入や事業拡大の失敗のリスクを低減させることに寄与します。

一方で、ガイドラインはあくまでもサービス開始をサポートする資料であり、全てをカバーしているものではありません。サービスの拡大、付加価値の創出には独自のオペレーションを確立することや、実証実験によるノウハウの獲得、プロモーションの推進、アライアンスの締結を進めることなどにより、他社との差別化を図ることが必要です。

今後レベル4の実現によりガイドラインは更新され、サービスを提供するシーンが増加するとともに、ガイドラインの種類も多様化していくと想定されます。また、場所によって飛行の要件や手法も異なってくることから、ドローンの活用増加に伴い、自治体単位でガイドラインを策定する必要が出てくることも予想されます。

こうした動きの中で策定・更新されるガイドラインは事業者にとっての指針となるだけでなく、許認可プロセスに関連し、規範的性質を持つことが想定されます。そのため、ドローン事業関係者には、ガイドラインを実行性のあるものにするため、そして情報を早期に入手するため、ガイドラインの策定プロセスに積極的に参加し、事業者の目線から提言していくことが求められるといえるでしょう。

ガイドラインを新規参入・事業拡大のきっかけとし、多くの企業がレベル4の実現という新しい動きとともにドローン産業に参入し、この業界がさらに発展することを期待しています。

※本稿で掲載している各種ガイドラインは、いずれもそれらの抜粋であることご了承ください。

執筆者

奥田 浩季

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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