
日本のエンタテイメントは資産。権利を守り、世界へ届ける
日本のエンタテイメント&メディア業界はどのようにコンテンツを海外に広げて行けるのか。PwCコンサルティング合同会社ディレクターの藤島太郎に海外展開の現状や課題、PwCが提供できる価値について聞きました。
ストリーミング配信やウェブ漫画の普及に後押しされ、世界中で同時にエンタテイメントを楽しめるようになりつつあるこの時代に、日本のエンタテイメント&メディア(E&M)業界はどのようにコンテンツを海外に広げて行けるのか。PwCのプロフェッショナルは、クライアントと一緒に議論し、その実現に貢献していきたいという熱い想いを抱いています。
インタビュー企画の第8回に登場するのは、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)ディレクターの藤島太郎。前職でニューヨークでの通信サービスの立ち上げに携わり、2015年にPwCコンサルティングに入社。テクノロジーやテレコムのプロジェクトで経験を積み、現在はE&M業界の海外展開を中心とする幅広いコンサルティング業務に従事しています。「日本の資産であるエンタテイメントの権利を守る」という志を持つ藤島に、同じくE&Mを専門とする同社シニアアソシエイトの椿夏葉が、海外展開の現状や課題、PwCが提供できる価値について聞きました。
登壇者
PwCコンサルティング合同会社
TMT E&M ディレクター
藤島 太郎
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
TMT E&M シニアアソシエイト
椿 夏葉
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 藤島 太郎
椿:
藤島さんは現在、E&M業界のグローバル展開に力を入れて活躍されていますが、きっかけは何だったのでしょうか。
藤島:
広告代理店のeスポーツや広告事業の海外展開、またエンタテイメント企業の中期経営計画策定のプロジェクトに携わったのがきっかけで、以降数多くのE&M業界の仕事を手掛けています。海外展開というキーワードが周辺企業で特に大きくなってきたのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック渦中の2021年くらいからでしょうか。日本企業のグローバル展開を支援するためにPwCコンサルティングで働くことを選んだので、日本のコンテンツの海外展開という国・業界・企業の重要アジェンダに携わることができて、大変うれしく思っています。
椿:
藤島さんは子どもの頃、海外で暮らしていた時期もあるそうですが、やはり日本のコンテンツは海外にとって魅力的なのでしょうか。
藤島:
そうですね。日本のアニメのキャラクターや物語は比較的昔から人気がありますよね。ただ、それが北米やアジア、欧州など一部の地域だけでなく、全世界的に受け入れられるようになったのは、配信が一般的になってからではないでしょうか。それまでは本やDVDそのものを自分で頑張って手に入れなければ、見られませんでしたからね。
椿:
ちなみに藤島さんは、当時、海外でどのように日本のエンタテイメントに触れていたのでしょうか。
藤島:
幼稚園から小学校までドイツで暮らしていましたが、日本人街だったので日本のビデオレンタル店があり、そこで作品を借りて見るのが楽しみでした。その後、中学時代に暮らしていたハンガリーは全く違う環境で、日本人も少なく、当時はレンタル店もありませんでした。船便で月に1回、マンガ雑誌や映画・ドラマのビデオが届く日を待っていたんです。もちろん海外の音楽なども聴いていましたが、日本で慣れ親しんだもの、日本の子どもたちが見ているものを見たいし、読みたいという気持ちがありました。
椿:
現在は、アニメは配信で見られますし、漫画もアプリで読めるようになりましたね。
藤島:
すごいことだと思います。いまは権利さえクリアされていれば、日本とほぼ同じタイミングで新しいコンテンツに触れられるのですから。日本で流行っている時に海外でも同じものが配信されて、他の地域の方々も同じように楽しめる方が、企業としてはマーチャンダイジングの戦略も立てやすい。この配信環境の変化は非常に大きいと考えています。
椿:
最近では内閣府や経済産業省などが日本のコンテンツビジネスに注目し、海外に進出する企業を支援する動きもありますが、藤島さんはいまどのようなことに関心を持っていますか。
藤島:
原作者が正当な利益を得られる環境づくりです。生成AIが登場し、IP(知的財産)の模倣が非常に容易になっています。例えば、絵がうまい人のキャラクターを模して描いたり、それを3D化して、フィギュアや玩具、極端に言えばゲームや動画まで作ったりすることもできます。
ただ、世界観やキャラクター設定を壊さない限りは、個人的には二次創作はそれ自体が悪いことではないと思っているんです。二次創作によって、原作者が想像しなかった効果が生まれたり、それがあることで世界に広がっていったりする側面もありますから。しかしそこには、原作者もしくは著作権者が正当な利益を得られる環境があるべきです。
どこで二次的に作られたのか、どう販売されたのかをしっかりトラッキングしていくことで、しかるべき人の元へ利益として還元されるという仕組みが、健全なクリエイティブのエコノミーを作るのではないかと思っています。
椿:
それには日本国内だけではなく、海外の事情も理解する必要がありますね。
藤島:
そうですね。海外の立法や法制度、場合によっては税制などもきちんと理解しておかなければなりません。
本来であればレベニューシェア(売り上げや利益の分配)があるべきものを、煩雑だからと完全に売り切りにしてしまったら、仮にそれが何億円売れたとしても、1回限りの利益になってしまいます。そこから先のあらゆる派生利益に関しては、日本の企業やクリエイターの元に入らなくなってしまうのです。
実際にどのような売り方をするかは各企業のビジネス判断ですが、こうした仕組みを企業やクリエイターがしっかり理解することによって、適正なビジネスを海外で行っていけるようになると思います。それは私がE&M業界のコンサルティングを生業とする身において、大切にしていることです。
特に数兆円のビジネス規模になると、1人の天才がものをつくるだけでみんながハッピーになれるわけではありません。我々のように世界のビジネス事情に精通し、企業・クリエイターの権利をビジネスの側面から守れる・つくれる存在が必要だと思うんです。
椿:
日本には10年、20年続くような人気の漫画やアニメがある一方で、現在は、作品の供給数は増えていても、短命化しているといった声もあります。こちらに関してはどう思われますか。
藤島:
漫画を描いたら、それが自動的に翻訳されて、世界中の人が閲覧可能なアプリ上に載せることができる時代なので、供給される母数が増えているのは間違いない。短命化もある程度事実だと思います。ただ、今は最初から世界に問うことができますよね。漫画の出版とアニメ化、ゲーム化を同じタイミングで考えることができます。日本の人口が減っている中で、日本だけで頑張って長寿のコンテンツ、エンタテイメントを作るというのは、なかなか難しいという気がしています。ある国の人にはこういう風に、こちらの地域の人にはこういう風にと、さまざまな楽しみ方と体験を届ける。いろいろな国の人たちの思考や文化的な背景をしっかりと理解し、根付くような仕組みを、ビジネス的な感覚で築き上げていけば、世界中で愛される長寿のIPを創ることができると信じています。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 椿 夏葉
椿:
現在の日本のE&M業界の海外展開はどのような状況でしょうか。
藤島:
北米やアジアに限らず、広い地域で日本のコンテンツの人気が拡大する中、日本の事業関係各社が自力での輸出を検討している段階であると理解しています。ただ、そこで想定しているのはこれまで日本向けに作ってきたコンテンツがほとんどです。過去にも翻訳版の展開などはありましたが、日本の消費者に向けて作ったコンテンツを、日本で売れたから海外にも持ち出そう、というケースが多かったように思われます。しかし、日本人の価値観が常にグローバルに受け入れられるとは限りません。なので、海外在住の、日本人と近い価値観を持った人や日本のコンテンツの世界観を理解できる人しか楽しめないという状態になっているように感じます。
椿:
そのような状態でもうまく海外展開できる方法はあるのでしょうか。
藤島:
ひとつは、今まで作ってきた多数の過去の作品の中に、海外の消費者を楽しませることができるものがあるかもしれません。漫画や小説など、日本のコンテンツはいろいろな設定、いろいろなキャラクターでクリエイトされているので、日本人の好みではないけれど、海外の人には受け入れられるものが眠っている可能性はあります。そういった作品を掘り出してみるのはありだと思います。
また、これから新しく日本向けに作り出されるものを海外に輸出する方法でも、一定の売り上げは見込めるでしょう。少なくともあと10年ぐらいは有効だと考えます。ただ、日本の人口がどんどん減り、将来、例えば2040年に生産年齢人口が6,000万人を切るころには、国内の消費者をファーストターゲットとしたコンテンツ作りだけでは行き詰ってしまうと思います。
椿:
そうした未来を見据えて、どのような取り組みをすべきだと思われますか。
藤島:
これから先、ずっと日本国内で、日本人が手掛けるものだけが日本のコンテンツかと言えば、そうとは限らないと思います。日本の漫画に精通した海外の編集者を起用したり、海外の作家や漫画家がコンテンツを作ったりする可能性もあると思うんです。海外の消費者や日本のコンテンツを理解できる人がいれば、クリエイティブの現場がどんどんグローバル化し、現地化してもいいのではないでしょうか。米国や欧州、インドや南米で作った日本風のコンテンツが、世界で売れてもいい。海外にクリエイターが流出するという捉え方をする人もいるかもしれませんが、日本のコンテンツの裾野が、世界に広がっているという風にも言えると思います。
世界中にファンを広げたいという思いは誰しも持っています。ただ、時代に合わせた戦略を立てずに「世界に行こう!」という号令だけかけても絶対にうまくいきません。国や企業がクリエイティブを支援し、世界に問えるような体制を作らなければならないと思います。
椿:
これから海外に日本のエンタテイメントを届けるには、データの利活用に時間とコストをかけて取り組むべきでしょうか。
藤島:
グローバルで各国市場の特徴を捉えるには、データは絶対に欠かせません。例えば、日本で育った人が海外へ行ってエンタテイメントのテレビのショーやゲームに触れた時に、「何が面白いんだろう」と感じることがあると思います。
その人が今までに経験してきた教育や文化的な背景、コンテンツの種類によって、楽しめるもの、楽しめないもの、笑えるもの、笑えないものなどは全然違いますから。
当然、その国の宗教や価値観によって受け入れられないものもありますし、子ども時代の体験などによっても好きなコンテンツの種類は違うと思うんです。日本人はこういう展開やキャラクターが好きだけれど、もしかしたら中東の方は違うものが好きかもしれない。米国でうまくいったからアフリカやインドでもうまくいくとは限らず、どうしても現地のことを知らなくてはなりません。編集者や漫画家、プロデューサーがスーパーヒットコンテンツを生むのは、嗅覚や勘としか言いようのないこともあると思うんです。それもすごく大事。ただ、少なくとも「流通」や「経営」は、嗅覚や勘ではダメです。もちろん、データを活用すれば確実にうまくいくわけではありませんが、一定の確率以上にすることはできます。
各地のユーザーやセールスなどに関するさまざまな種別のデータがあり、それらを目的に応じて組み合わせていく。「日本人に売れるものを持って行ったら売れるに違いない」ということは、さすがにありえません。データをどれだけ抱えられるかというのは、海外展開にとっての生命線だと思っています。
椿:
ありがとうございます。では最後に、海外展開を考えているE&M業界の企業にどのようなメッセージを伝えたいですか。
藤島:
海外展開は、今日思い立って明日できることではありません。誰かがSNSで発信したことでバズり、一時的にどこかの国で盛り上がることもあるかもしれませんが、その偶然は何度も起こるわけではないですし、それでは持続性がありません。
コンテンツが世界に浸透するまでに数十年かかるのと同じように、企業がIPと一緒に成長する経験も、ある程度の年月が必要だと思います。ただ、PwCのさまざまなプロフェッショナルと協力すれば、数十年かかるところを、できるだけ短期間で成功に導くことができます。
エンタテイメントは、その国の人の記憶に残って、根付くことが大切だと思うんです。大人になった時に思い出したり、子どもに見せたい、読ませたいと思ったりするものは、「ひと夏の思い出」のようなものではなく、人生や価値観に影響を及ぼすようなものだと思います。
日本が生み出してきたコンテンツは、企業にとっても、作家にとっても資産。その資産を大切にしながら、これまで培ってきた知見でさまざまな角度からビジネスを見渡し、恩返ししていく。それが私にできることです。
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