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「エンタテイメント&メディア ダイアログ」では、さまざまな分野のプロフェッショナルとの対話を通じて、変化が激しいエンタテイメント、メディア業界の不易流行を見極め、未来志向のアジェンダを設定し、健全に業界を発展させる取り組みを行っています。今回は、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の森永真弓氏とPwCコンサルティングの平間和宏が、今後、社会の中核となるZ世代がリードするメディア、コンテンツの接触行動について語り合いました。
平間:2030年以降、世界の人口の半分以上はZ世代となり、彼らの価値観、行動が社会の中核になると言われています。私たちの課題意識の1つに、「受け手の行動、価値観変容」がありますが、マスメディアを中心としたブロードキャスティングから、受け手の変化によって、今後どのようにコミュニケーション手段に影響が及び、送り手や作り手は何を意識する必要があるのか、を大変重要視しています。
それを考えるときに、特にカギとなるのがZ世代特有のコンテンツ受容行動についてです。デジタル、そしてソーシャルメディアネイティブの彼らと他の世代、地域間などで差異があるのか?私たちもさまざまな調査を試みています。同時に、その上のX世代、Y世代といわれている層との比較も試みていますが、単なるデモグラフィック区分よりも解像度を高めた量的、質的な分析、議論が必要と考えています。
そこで今日は、長年メディア環境について研究され、近年ではZ世代動向にも造詣の深い森永さんに、Z世代の情報やメディア、コンテンツ消費行動についての見識を伺いながら、今後の「受け手」の行動変容に対する示唆を提示できればと考えています。
森永:ありがとうございます。当社でも、メディア企業がSNSを重視し始めているという意識の高まりは認識しています。実際に、私たちが企業向けのSNSの勉強会の講師として呼ばれる機会も増えています。
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員 森永真弓氏
その際に、やはり受け手の状況変化を把握しておくべき、というのは私も同感です。当社でも若年層の情報収集と行動について調査をしていますが、例えば「話題のニュースを見るときに主要なSNSを使いますか」という質問に対する答えでは、Z世代を中心とした10代~20代では半数以上が「Yes」であるのに対して、30代より上の世代ではぐっと下がっており、大きなギャップが存在します。Z世代の半数以上が、ニュースをチェックするメディアは新聞やテレビではなくSNSとなっており、明確な世代間格差がある点に注目しています。
SNS利用者の世代格差は年々縮まっているが、SNSをニュースのチェックに使う率は10~20代が高く、30代以上は低い。10~20代と30代以上の世代間ギャップが浮き彫りになっている。(出典1)
さらに、若年層の多くは隙間時間、ながら時間などにおいて、まずはスマホを手に取り、最初にSNSのタイムラインを開く「タイムライン常駐者」であるということがはっきりと示されています。また、社会の中心にいるはずのシニアの男性が、SNS中心のコミュニケーションや情報環境が「日常である」という感覚から取り残されていることに、私も少し驚いています。
Z世代の特徴は、スマートフォンを手にしたときにまずタイムラインを開くこと。何をするにもタイムラインが起点となる「タイムライン常駐者」であることが分かる。(出典1)
調査では、シニア層の男性にも、約25%はSNSからの情報をメインにしている人が存在しています。ただそれを除いた層は、「情報収集はニュースサイトで、SNSはコミュニケーションのツール」という固定概念に縛られていて、それでいいと思っている可能性が高いです。
平間:近年、「SNS疲れ」なども話題となり、一部のユーザーを除き発信率の低下が指摘されていました。一方で、報道機関やメディア、企業や影響力の強い文化人、タレントなどによる積極的なSNS活用により、「受動的なメディアとしての役割」が浸透してきている、ということが分かりますね。
森永:そうです。新しい情報はSNSのタイムラインの中にあり、それを高速かつ大量にスクロールすることで、世の中の動向、空気感をつかんでいます。それを「今の若者はSNSばかりでニュースを読まない」と結論づけるのは間違いです。能動的にはニュースを取りに行っていないかもしれませんが、受動的に受け取れる環境、タイムラインを作り上げているのです。自分のタイムラインに流れるニュースをしっかりとチェックし、さらにはソースも確認しに行っています。ファーストウィンドウとなっているSNSの情報から、活発に他のメディアへ飛び、そしてまた戻ってくることをひたすら繰り返しているのです。事実、国内の主要なテレビ局がSNSで配信しているアカウントからの誘導で、ニュースサイト本体やニュース動画チャンネルのアクセスは好調だといいます。
平間:SNSのタイムライン上には自身の興味関心の強いであろうサムネイルや予告編、切り抜き動画などが頻繁にポスト&シェアされるため、“タイムラインのファーストウィンドウ化”の傾向はプロモーション設計時などでも大変重要な視点ですよね。
SNSは報道機関と比べると、フィルタリングやレコメンデーション機能により、自分の嗜好によるバイアスが掛かるため、情報の信頼性が低いという意見もあります。
森永:その考えは、7、8年前でしたら通用したと思いますが、今ではもっと自然に、活用が進んでいます。タイムライン上で速報のニュースが流れ、しばらくすると自分の知り合いやフォローしているインフルエンサー、関係する企業などのコメントが次々と流れ込んできます。自分自身は興味がなかったとしても、他人が興味を持ったことは流れてきます。そして全体の傾向を見せるトレンドやキーワードランキングがSNS側に実装されています。それらを見ながら、自分に「馴染む」情報として理解を深めていきます。偏った情報だけで判断してはいません。
この「馴染む」は、非常に重要なキーワードです。なぜなら、情報収集だけでなく、行動を起こすきっかけも、馴染んでいるかどうかが基準になるからです。例えば、コンテンツなどの情報も、オフィシャルな告知などのシングルソースだけで判断せず、知人の評価や反応、SNS全体の動向を示すトレンドワードやランキングワード、気になる言葉があれば別途検索してそのワードに関わる人々の反応を見るなど、マルチソースで自身の閾値を超えることで初めて行動、参加しようと思うようになってきています。
マーケティングとしては、もはや公式チャネルからの1種類のアテンションで消費者を動かすことは難しく、アダプテーション、つまり違った角度からの情報をいかに付け加えていけるかにかかっている。そして、その主戦場は、個別最適された馴染み深い「タイムライン」ということです。
平間:SNSの位置付け、役割が変化している点は大いに共感します。その上で、受け手が各々にパーソナライズされた状態の「タイムライン常駐者」であるとするならば、今までのマスメディアを通じた同一、かつ一方的な伝送手段では“どこか他人ゴト”で興味喚起され難い、ということですよね。「タイムライン常駐」という新たなメディア行動が台頭しており、これまでマスメディアが担っていたキュレーション機能、世論形成リードという役割が薄れているという論点もあります。
森永:予告編や、個別のメディアの情報だけでは薄すぎて、判断できないのだと思います。一部を切り出してそこからコンテンツの本編に誘導するだけでは足りない感覚になっているようなのです。誰かのおすすめする視点が複数入ってくるとか、ニュースメディアで評論される視点が複数存在しているかなどを総合的に眺めて自分がコンテンツを見るべき理由を求めています。加えて、メディア各社の背景や傾向に先入観を持っていないため、ニュートラルに1つの情報として接しています。そして一回興味を持ち、そのコンテンツ本編に触れた結果「面白い」と思えばむしろ、同じ作品を何度も鑑賞するといったケースも増えています。
平間:タイムライン上では、既にある程度、興味や関与の高まった情報がメインで構成されている状態とも言えます。昨今、アテンションゲットに特化したコンテンツが増え、タイムパフォーマンス(タイパ)を気にする受け手も多いと考えますが、森永さんはこのトレンドをどのように解釈されますか?
森永:彼らは、決してすべての時間を有効活用したいという強い効率意識を持っているわけではありせん。冗長なものが嫌い、というよりも「だるい」だけなのです。よく「最近の若い人は長いものを見ないから短尺動画をたくさん作らないと」というマーケティングサイドの声を聞きますが、そういうことではないのです。彼らは、たとえ30秒の短尺でも「冗長」と感じれば飛ばし見します。逆に1時間尺でも全く飽きなければ等速のまま観るのです。彼らに対して、単純に短い尺でなければ受け入れられないと考えることこそが、短絡的です。自分にとって残るものであれば、何度でも観ます。長さではなく、動画の作りが冗長に感じられたり、無駄なシーンが多いように感じられたりしてしまうかのほうが、気にするべき観点と言えます。
その「これは最後までちゃんと見た方がいい」と納得した状態があちこちで発生して、それぞれの所属コミュニティに伝播し、コミュニティ同士が共振を起こすと、爆発的なアクセスを巻き起こすことにもつながります。昔はメディアを使って強制的に振り向かせることで生み出していた爆発的ヒットが、納得の積み重ねによる刺激しあいが閾値超えすることによって生まれる状況に変わっています。これは企業が仕掛けてもなかなかできないことで、やれることといえば、タイムライン上に現れることに対して拒絶されない、存在を許してもらうぐらいのことしかないように思っています。
平間:受け手からすれば、興味喚起されたが、期待の閾値を超えるような共振が起きないと、次のアクション、例えば実際のコンテンツ視聴や映画館に足を運ぶなどの行動を後押しできない。そのハードルが上がっている、とも言えますね。
森永:見るほうの眼が非常に肥えている、「見方のプロ」が育っていると言えます。ですから、手を抜いたり、制作側の情熱が薄かったりするとすぐに見抜かれます。そしてそういったものにはユーザーの反応も乗っかりにくい。制作サイドの熱量が高いものほどSNSでのユーザーの反応が多くなります。ということは、反応が少ない、もしくは冷めた反応が多いということは「何かあるんだろうな」と察知されて、コンテンツの面白さを類推され、視聴を後回しにされる傾向もあります。
平間:「評価」も厳しいですよね。「推奨」してくれるような状態に昇華させないと、タイムラインを有効活用したポジティブなサーキュレーションが起きにくいですね。受け手にポジティブな推奨者、ファンになってもらうにはどうすればよいとお考えですか?
森永:「ポータブル性」が1つのカギと考えています。コンテンツをある程度SNSの中で使ってもらいやすいように切り出したり、編集できるようにしたりすることも重要です。いわばユーザーに「委ねる勇気」が求められています。楽曲の二次創作を許可して、「歌ってみた」をどんどん共有してもらったり、スポーツのハイライトを12秒間切り出しOKにしたりする動きなどが注目され、それらによって結果的に大ヒットとなっている事例は数多く存在します。しかしそれらも「切り出しOKになったから盛り上がった」というよりは「切り出したい、そしてその切り出し素材で語りたいと思っているユーザー側の声に答えたから盛り上がった」と理解するほうが現実に即しているかなと思います。つまり、コンテンツそのものが「語りたい」ものになっている必要が何よりもあるということです。
企業がZ世代に向けたコミュニケーションで重視すべきことは、コンテンツのポータブル性を重視すること、タイムラインの活性化に委ねることなどを通じて、日常的に馴染む存在として受け入れてもらえることだという。(出典1)
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 平間和宏
平間:今までのお話を通じて、SNSのタイムラインがZ世代にとってファーストウィンドウ化しており、そこで興味喚起され、期待値を超える=馴染む状態になると、実際にコンテンツ視聴へのアクションへ移行するという、新たなプロセスが垣間見えてきました。さらに私たちは、作品への没入や情動の振れ幅による「感動」や「余韻」形成がストック型の価値を生み出し、事後の評価、推奨意向に深く関与しているというコンテンツ受容におけるサーキュレーションモデルの仮説を持っており、このメカニズムの解明に向けて、アカデミックなアプローチも踏まえた取り組みも進めています。
タイムライン上に表示されるマスメディア経由やオフィシャル配信などの情報、さらにフォロワーや知人の推奨情報によりコンテンツ接触前(事前段階)の興味が喚起され、期待値が醸成されると、実際のコンテンツ受容(事中段階)へ移行。その際、没入度合いや情動の振れ幅などにより「余韻」が形成され、これが評価、特に推奨やファン化という事後行動に影響を与える。これらのリアクションがSNS、マスメディアを再循環していくプロセスがZ世代特有の新たなコンテンツ受容モデルと言える。
平間:Z世代の行動変容を勘案した場合、「変えるべきこと」について話してきましたが、「変わらないもの」はあるのでしょうか?Z世代に対して「作り手」「送り手」が意識すべきこととして、深い情動から感動、余韻を形成するための「作品性」は大変重要ですし、それが、高評価や他者への推奨を生み出す要因だとすれば、作り手にとって、より重要視されるべきことになるとも言えます。そして、この潮流はアテンションゲットに特化したカジュアルなコンテンツが溢れる昨今、バックラッシュ(揺れ戻し)が起きている可能性があると考えるべきでしょう。
森永:私も、これまで欧米で言われていた世代の分類は、日本の市場にはどうもピタリとあてはまっていないという肌感覚がありました。しかし、Z世代になって初めて、グローバルと共通の視点、尺度を持っていると感じています。彼らは先入観を持たず、いいものはリバイバルも含めて素直に受け入れます。小手先でなくしっかりした作品を作りつつ、一方で、スマートフォンで見られている韓国発の「縦型マンガ」のような、送り手の工夫も見落とさないようにしたいですね。
平間:新たなタイムラインを軸としたコミュニケーションの浸透など、受け手のスタイルが変化するのは必然だと言えますよね。お互い、課題意識や視点視座が近いことも分かりましたし、今後も「受け手」の変容などについて共同研究などでご一緒できればと思っています。グローバルを舞台に日本の作り手が活躍できる環境整備を進めていきたいですね。本日はありがとうございました。
博報堂DYメディアパートナーズ
メディア環境研究所 上席研究員
森永真弓
通信企業から博報堂に入社し、現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想・構築。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化、若者研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行う。WOMマーケティング協議会理事。著作に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(共著)がある。
出典1 必要なのは「ポータブル性」「ゆだねる勇気」「おもてなし継続性」タイムライン生活者のメディア行動とは @メ環研フォーラム2022年冬 フォーラムレポート(博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所、2023年1月6日)
https://mekanken.com/contents/2657/
E&M業界の企業に対するビジネスコンサルティングサービスを提供してきた経験と知見を生かし、本シリーズではE&M業界からさまざまなゲストをお招きし、対話を通じてE&Mの未来に向けたインサイトをお届けしていきます。