ESG 10 minutes Vol.11

  • 2024-06-14

What’s New & Update(2024/2~2024/5)

2024年6月(本号は2024年5月31日までの情報に基づきます)

日付

主体

内容

2024年2月6日

SSBJ

サステナビリティ基準委員会を開催(2/19、3/4、3/21、4/4にも開催)

2024年2月21日

ISSB

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がボード会議を開催(3/13、4/23、5/16にも開催)

2024年3月6日

SEC

気候関連事項のリスクと影響に関する公開企業の開示を強化する最終規則を採択

2024年3月26日

金融庁

金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」を開催(第2回を5/14に開催)

2024年3月29日

SSBJ

サステナビリティ開示基準(サステナビリティ開示ユニバーサル基準およびサステナビリティ開示テーマ別基準1号・2号)の公開草案を公表

2024年4月4日

SEC

2024年3月6日に採択した気候関連開示規則の施行を一時停止

2024年4月17日

金融庁

「主要国のサステナビリティ情報等の開示・保証の動向に関する調査」報告書を公表

2024年4月23日

ISSB

今後2年間のリサーチプロジェクトを「生物多様性および生態系及び生態系サービス」および「人的資本」とすることを決定

2024年4月24日

EU

欧州議会がコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)を採決

2024年5月2日

IFRS財団

EFRAG

IFRS財団とEFRAGが共同でIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の相互運用可能性ガイダンスを公表
2024年5月27日 中国財務部

「企業サステナビリティ開示基準(基本基準)」*1 の公開草案を公表

2024年5月28日

IFRS財団

ISSB基準採用のための法域適用ガイドを公表

*1 基準名はPwCによる仮訳

1. SSBJによるサステナビリティ開示基準の公開草案の公表

  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2024年3月29日に、日本におけるサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の公開草案(SSBJ基準案)を公表しました。
  • SSBJは2024年7月31日までSSBJ基準案に対するコメントを募集し、2025年3月末までに確定基準を公表する予定です。
  • 適用対象および適用時期については、プライム上場企業を最大枠とした段階的導入案を金融審議会にて検討中です。

SSBJ基準案の公表

SSBJは2024年3月29日、次の3つのSSBJ基準案を公表しました。

  1. サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」(以下「適用基準案」)
  2. サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」(以下「一般基準案」)
  3. サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」(以下「気候基準案」)

SSBJ基準案は、2023年6月に最終化されたグローバルベースラインであるIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準:IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」およびIFRS S2号「気候関連開示」)と整合するように開発されています。

具体的には、ISSB基準のすべての要求事項を取り入れたうえで、日本固有の選択肢を一部追加しています。日本固有の選択肢を適用した場合、SSBJ基準に準拠した開示が、必ずしもISSB基準に準拠しない開示となるわけではなく、ISSB基準に準拠することになる場合もあれば、しないことになる場合もあると考えられます。

また、SSBJ基準案の一部の定めはISSB基準に追加して開示を要求していますが、追加の要求は、ISSB基準に基づく開示の作成過程で入手する情報で作成できるものに限定されています。

なお、サステナビリティ開示は財務諸表を補完する情報を提供しますが、ISSB基準と同様に、SSBJ基準案も、いずれの会計基準に準拠して作成された財務諸表であっても適用できるように開発されています。

ISSB基準については、ESG 10 minutes Vol.8を参照してください。

これらの基準案に関して、SSBJは2024年7月31日を期限として、日本固有の要求や選択肢の必要性などに関する意見を募集しています。その後、2025年3月末までに確定基準を公表する予定であり、確定基準公表日以降に終了する年次報告期間から基準の任意適用を可能とすることが提案されています。

SSBJ基準案の構成

SSBJ基準案は、分かりやすさを考慮して、IFRS S1号のうち、重要性などの基本的な事項を定めた部分と、コアコンテンツを定めた部分を分けて、別個の基準として開発されています。なお、コアコンテンツは、金融安定理事会の「気候関連財務開示に関するタスクフォース(TCFD)」による提言を基礎とする、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4要素に関する開示要件で構成されています。

図表 1

※1 サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準の公開草案を公表(サステナビリティ基準委員会)
https://www.ssb-j.jp/jp/domestic_standards/exposure_draft/y2024/2024-0329.html

ユニバーサル基準公開草案(適用基準案)

適用基準案は、サステナビリティ関連財務開示を作成し報告するための基本的な事項を定めています。主な要求事項は以下の図表1のとおりです。IFRS S1号のうちコアコンテンツ以外の部分を取り入れたものとなっており、IFRS財団が公表する、産業別のサステナビリティ開示に関するガイダンス(SASBスタンダード)の参照と適用可能性の考慮を求める定めも含まれています。

図表1:適用基準案における主な要求事項

報告企業
  • 関連する財務諸表と同じ報告企業
報告期間・タイミング・記載場所
  • 財務諸表と同じ報告期間で、財務諸表と同時に財務諸表とあわせて開示
リスクと機会の識別
  • サステナビリティ関連のリスクおよび機会の識別にあたり、以下が要求される
    (1)SSBJ基準の適用
    (2)SASBスタンダードにおける開示トピックの参照と、その適用可能性の考慮
開示要求の識別
  • 開示要求の識別にあたり、以下が要求される
    (1)SSBJ基準の適用
    (2)SSBJ基準がない場合、SASBスタンダードに含まれる開示トピックに関連した指標の参照と、その適用可能性の考慮
重要性がある情報の開示
  • 企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスクと機会に関して重要性がある情報を開示
コネクティビティ
  • 情報が関連する項目間、サステナビリティ開示内、サステナビリティ開示と財務諸表におけるつながりを理解できる情報を提供
比較情報
  • すべての数値(有用ならば説明的および記述的情報も)について、前報告期間に係る比較情報を開示(経過措置あり)

(出典:SSBJ解説資料を元にPwC作成)

SSBJ基準案とISSB基準との主な差異は図表2のとおりです。

図表2:適用基準案におけるISSB基準の要求事項との差異

SSBJ基準が追加で開示を要求する部分

  • サステナビリティ関連財務開示の公表承認日と承認した機関または個人の名称の開示
  • 法令の要請に基づきSSBJ基準に従った開示を行う場合のその法令の名称の開示

SSBJ基準独自の取り扱いを選択できる部分

  • 温室効果ガス(GHG)排出以外でも、法令の要請で報告する指標の算定期間とサステナビリティ関連開示の報告期間が異なる場合、一定の条件を満たすことを条件に、その指標の算定期間を用いて報告することができる

(出典:SSBJ解説資料を元にPwC作成)

テーマ別基準公開草案第 1号(一般基準案)

一般基準案は、IFRS S1号のコアコンテンツの部分を取り入れており、主要な利用者の意思決定に有用なサステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報を開示するための要求事項を定めています。IFRS S1号と同様に、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4要素からなります。

SSBJ基準案とISSB基準との主な差異は図表3のとおりです。

図表3:一般基準案におけるISSB基準の要求事項との差異

SSBJ基準が追加で開示を要求する部分

  • 報告期間ごとにレジリエンスの評価の実施を求める定め(前報告期間における評価結果に基づく開示を許容する規定あり)

(出典:SSBJ解説資料を元にPwC作成)

テーマ別基準公開草案第 2号(気候基準案)

気候基準案には、気候に特化したリスクと機会に関して企業が開示すべき要求事項が定められています。主な要求事項は以下の図表4のとおりであり、IFRS S2号の要求事項と同様に、コアコンテンツを中心に、産業横断的および産業別の指標、気候関連の目標などの開示が求められる内容となっています。

なお、SSBJ基準案には産業別基準に相当する内容が含まれませんが、気候関連のリスクと機会の識別および開示に係る産業別の指標を決定するにあたっては、ISSBが公表する「産業別ガイダンス」を参照し、適用可能性を考慮することが求められます。ISSBが産業別ガイダンスを強制適用とした場合にSSBJ基準に取り入れるかどうかは、今後検討予定であるとされています。

図表4:気候基準案における主な要求事項

コア
コンテンツ
  • TCFD提言の構造(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4要素)に基づく開示
  • 気候関連のリスクと機会に係る企業の取り組みを開示する
  • 戦略にはシナリオ分析に基づくレジリエンス評価を含む
産業横断的指標など
  • 以下の産業横断的指標カテゴリーに関連する情報の開示
    (1)スコープ1、スコープ2、スコープ3のGHG排出
    (2)移行リスク
    (3)物理的リスク
    (4)機会
    (5)資本投下
    (6)内部炭素価格
    (7)報酬

GHG排出

  • 原則としてGHGプロトコルを用いることが要求されるが、法域の法令などでGHGプロトコルと異なる測定方法が要求される場合は、当該方法の利用が認められる

スコープ2

  • ロケーション基準に加え、次のいずれかを開示
    (1)契約証書を有している場合は、利用者の理解に必要な当該契約証書に関する情報
    (2)マーケット基準によるスコープ2 GHG排出量の開示

スコープ3

  • カテゴリー別にスコープ3 GHG排出量を開示
  • 資産運用、商業銀行、保険のいずれか1つ以上を業として営むことについて法律等により規制を受けている場合、ファイナンスドエミッションについても開示
産業別の指標
  • 産業別の指標のうち、主なものを開示
  • 開示する産業別の指標を決定するにあたり、ISSBの「産業別ガイダンス」を参照し、その適用可能性を考慮(適用自体は要求されない)
気候関連の目標
  • 気候関連の目標がある場合、当該目標に関する情報を開示(GHG排出目標を含む)

(出典:SSBJ解説資料を元にPwC作成)

SSBJ基準案とISSB基準との主な差異は図表5のとおりです。

図表5:気候基準案におけるISSB基準の要求事項との差異

SSBJ基準が追加で開示を要求する部分

  • スコープ1、スコープ2、スコープ3のGHG排出の絶対総量の合計値の開示
  • GHG排出の表示単位に関する定め
  • GHGプロトコルとは異なる用法で測定することを選択したGHG排出量に重要性がある場合、GHGプロトコルにより測定した排出量と異なる方法で測定した排出量の内訳の開示
  • スコープ3 GHG排出のカテゴリー別の内訳の開示
  • ファイナンスドエミッションに関する資産運用・商業銀行・保険に関する活動の定義

SSBJ基準独自の取り扱いを選択できる部分

  • 地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づいて測定したGHG排出量をサステナビリティ関連財務開示において報告する場合、公表承認日において当局に提出済のデータのうち、直近のものを用いなければならない(報告期間の差異が1年を超える場合は、追加の開示を行う)
  • スコープ2 GHG排出については、ISSB基準で要求している契約証書に関する情報に代えて、マーケット基準による排出量を開示することができる
  • 気候関連の移行リスク、気候関連の物理的リスク、気候関連の機会に関連して、資産または事業活動の数値およびパーセンテージに代えて、資産または事業活動の規模に関する情報を開示することができる
  • 役員報酬において、気候関連の評価項目とその他の評価項目が区分して識別できない場合、評価項目全体について開示することができる

(出典:SSBJ解説資料を元にPwC作成)

適用対象企業と適用時期

SSBJ基準案は、グローバル投資家との建設的な対話を中心に据えたプライム上場企業に適用される想定で開発されていますが、その他の企業も任意で適用可能です。制度開示における具体的な適用対象や、企業規模(時価総額)による段階的適用、経過措置、保証などについて、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(金融庁)で現在検討中です。

2. SEC気候関連開示規則の最終化

米国証券取引委員会(SEC)は、2024年3月6日に気候関連事項のリスクと影響に関する公開企業の開示を強化する最終規則を採択しました。登録企業のタイプによって、2025会計年度より順次適用されます。

ただし、規則公表以降に規則への訴訟が相次いだことから、SECは2024年4月4日に係争中である法的異議申立の「秩序ある司法的解決を促進する」ため、司法審査が完了するまで、気候関連開示規則を停止しました。

SEC気候関連開示規則

2024年3月6日、SECは気候関連事項のリスクと影響に関する公開企業の開示を強化する最終規則(以下、本規則)を採択しました。

全てのSEC登録企業(米国内および外国)が対象となり、登録企業のタイプに応じて段階的に適用されます。気候関連のガバナンス、戦略、リスク管理、目標と目的、GHG排出に関する開示要求に留まらず、財務諸表への影響に関しても開示を要求している点が本規則の大きな特徴です。

財務諸表以外(年次報告書または登録届出書)における開示

財務諸表以外のセクションにおける主な開示要求は次の図表6のとおりです。

図表6

ガバナンス
  • 気候関連リスクに対する取締役会の監督内容や経営者の役割
戦略
  • 企業の事業、経営成績、財政状態に重要な影響を与えるか、与える可能性が合理的に高い気候関連リスク。当該リスクが戦略、ビジネスモデル、見通しに与える実際・潜在的な影響
  • 気候関連リスクの緩和・適応から生じた重要な支出および財務上の見積りおよび仮定に対する重要な定量的・定性的な影響
  • 気候関連リスクの緩和・適応に係る移行計画、シナリオ分析、内部炭素価格の使用などに関する情報
リスク管理
  • 重要な気候関連リスクの識別・評価・管理プロセス
  • 上記のプロセスが企業の全体的なリスク管理プロセスに統合されているか、どのように統合されているか
目標と目的
  • 企業の事業・経営成績・財政状態に重要な影響を与えるか、与える可能性が合理的に高い場合は気候関連の目標または目的
    ※移行計画、シナリオ分析、内部炭素価格の使用、気候関連の目標・目的にはセーフハーバールールが適用される
GHG排出
  • GHG排出が重要な場合、スコープ1・2に関する情報(スコープ3の開示は不要)
    ※スコープ1・2の開示は年次報告書の提出後、一定期間経過後の報告が認められる
  • 組織境界の決定方法、連結財務諸表の組織境界と著しく異なる場合は差異についての簡潔な説明

(出典:SEC気候関連開示規則を元にPwC作成)

財務諸表における開示

財務諸表の注記における主な開示要求は次の図表7のとおりです。

図表7

異常気象・その他の自然条件の財務諸表への影響

  • 厳しい気象現象およびその他の自然現象の結果として資産計上した費用、発生時に費用処理した支出および損失(最低基準額の閾値設定あり)

カーボンオフセット、

RECs*2

  • 気候関連の目標および目的を達成するために使用したカーボンオフセット・RECsに関して資産計上した費用、費用処理した支出および損失

見積りおよび仮定

  • 厳しい気象現象およびその他の自然現象、開示された目標または移行計画に重要な影響を受けた財務上の見積りや仮定に関する定性的な説明

(出典:SEC気候関連開示規則を元にPwC作成)
*2 Renewable Energy Certificatesの略で再生可能エネルギー証書のこと

保証および適用時期

本規則では、大規模早期提出会社および早期提出会社のスコープ1・2の開示に対して限定保証を要求しており、その後、大規模早期提出会社に対しては合理的保証を要求しています。適用時期は次の図表8のとおりです(表内記載の暦年に開始する事業年度)。

図表8

登録企業のタイプ

開示

スコープ1・2の保証

開示(右記以外)

重要な支出と影響

スコープ1・2

限定保証

合理的保証

大規模早期提出会社

2025年

2026年

2026年

2029年

2033年

早期提出会社

2026年

2027年

2028年

2031年

適用なし

小規模報告企業
新興成長企業
非早期提出会社

2027年

2028年

適用なし

適用なし

適用なし

(出典:SEC気候関連開示規則を元にPwC作成)

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