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中小企業庁のガイドラインや実証事業を通してPMIのスタンダードを確立へ M&A戦略の策定からPMIに至るまで一貫した支援で企業の成長や価値創造に貢献する
中小PMIガイドライン策定やスタンダード構築の支援をしているPwCコンサルティング合同会社 X-Value & Strategyチームのメンバーが、PMIを含めたM&Aの最新動向について話しました。
2022-09-15
縮小均衡局面にある事業を再興させるための中長期的成長戦略の方向性が固まり、経営層がその実行を決断すれば、企業が取るべき施策が見えてきます。縮小均衡局面にある業界で成長するためには、中長期的には業界構造を変えることが視野に入ります。しかしその前段として、自社および自事業の枠内で改善できる余地があれば、徹底して行う必要があります。
国・地域の住民・産業にとって不可欠なエッセンシャルな事業でありながら、縮小均衡局面に入った事業に焦点を当て、その再成長のあり方について検討する連載「エッセンシャルビジネスの再興支援」。第5回となる本稿では、自社で実行すべき改革について検討します。
日本企業の長所の1つとして、「現場力の強さ」が挙げられます。縮小均衡的な事業も例外に漏れず、多くのケースにおいて現場は与えられた任務を完遂し切る職人集団の様相を呈し、日々の改善や磨き上げにはすさまじいものがあります。
一方で、各現場の裁量や努力だけでは処理し切れない部分に課題があります。人材不足に伴う経営機能の弱さ、高齢化に伴う一部現場の聖域化、自前主義へのこだわりなどが、企業や部門を横断した連携を阻害しています。代表的な課題と解決策を以下のとおり示します。
「設計と製造が一体運営できていない」「事業収支に対する責任分担が曖昧である」「間接部門にコストがかかりすぎている」「新規開拓が手薄である」といった課題は、現場の努力だけでは解決できません。経営陣がリーダーシップを発揮し、トップダウンで改革を推進する必要があります。
例えば、「事業部制や地域本部制などの組織体制を見直す」「評価体系を見直す」「エース人材の配置を転換する」「子会社化する」「システム導入により業務プロセスを刷新する」といった施策を推進するには、経営陣の決断が不可欠です。
縮小均衡局面にある事業においては、赤字の商品・サービス・商流がそのまま放置されているケースが散見されます。多くはバーターや業界保護の名目で始まり、辞め時を失ったまま今日まで続いているものです。また「管理会計の不備により赤字が認識されていない」「赤字製品を許容することが設備の稼働率維持や黒字製品の調達・製造原価低減に貢献している」などの理由から、問題視されていないというケースも見受けられます。
赤字の商品・サービス・商流には、過去の因習に過ぎないケースや、当該取引を主導した元社員への配慮から辞め時を見失っているだけのケースも多くあります。そのため、思い切って辞めてみたところ、川上・川下の企業の担当者も既に代替わりしており、何の反応もなく拍子抜けしたというようなケースもあります。
不採算取引を正しく認識し、過去の因習にとらわれず、適切に判断することが肝要です。
川上の調達先は「業界再編が既に進行している」「供給が不足している」「高い製品力を持つ」などの理由から、往々にして優位なポジションに位置します。価格交渉に対しては仕入数や価格を調整して対抗してくるため、1対1の交渉は不利になります。調達力を向上させるには、1対1の枠組み自体を変えることも必要です。
その最たる取り組みとして「他者との共同調達」が挙げられます。関連プレイヤーを増やし、交渉力を高めるのです。調達は高度な交渉ごとなので、調達担当者の力不足が想定される場合は専門家に委託することも有効でしょう。
また、川上企業の出資を受け入れ、長期保有株主として協調関係に持ち込むことも有用です。
販売店・代理店・物流会社などの委託先に対し、長年の慣習や業界保護の名目からマージンを払いすぎている場合もあるため、見直す必要があります。また、縮小均衡局面の事業から委託を受ける中小零細企業は専業であるケースも多く、マージンの見直しは深刻な影響を与えかねないため、抵抗が想定されます。
中小零細企業に対して交渉力を発揮することも手段の1つとして考えられますが、ハードな交渉を行うだけでは離反リスクもあります。彼らが抱えている後継者不足・商圏縮小・設備の老朽化・赤字の慢性化などの課題に対する解消策を併せて提示し、長期的視点に立った協業のあり方を模索することも重要です。
安直な値上げは消費者の反感を買い、またその性質から国内に長年にわたるデフレをもたらしました。原材料費が高騰したとしても、値上げに対して消費者の支持を得ることは難しく、各社は地道なコスト削減を通じて何とか採算性を確保しています。
縮小均衡局面にある事業は供給過多状態にあり、かつ差別化要素が低いため、単純な値上げ交渉は取引先の離反につながるリスクが高いと言えます。そもそも多くの取引先にとっては、当該事業が低収益であることが自事業成立の前提であり、値上げを許容するということは、自らの収支悪化につながります。「真っ当に交渉し、分かってもらう」との姿勢で臨むにはリスクがあります。
価格交渉は業界再編、サービス向上などの施策に取り組み、出資を受け入れることも検討した上で、交渉力およびスイッチングコストを最大化した上で行うべきです。
縮小均衡局面にある事業で収支改善を図るためには、人事制度改革も視野に入れるべきです。
当該事業では長年、採用を抑制することで人員調整を行う傾向が見られました。その結果、現在の高齢化がもたらされました。高齢化は若手および中堅の負担増やキャリア形成の阻害につながります。また業務内容に変動が少ないため、他社や他事業での活躍が難しい社員の受け皿となりがちです。彼らは社内業務に没頭し、業務プロセスを複雑化させる傾向も見られます。
その結果「必要な人材が少なく、それ以外の人材が多い」状態に陥ってしまいます。そこで、「それ以外の人材」に対しては早期退職制度の導入や、職位・給与水準の見直しなどを検討する必要があります。また、官民がそれぞれ主導するリカレント事業や人材マッチング事業に参画し、退職候補者に新たな活躍の場を提供することも求められます。
企業や部門を横断した領域にこそ、収支改善の余地があります。ここが手付かずになる理由の1つに、改革の推進役を担うべき現場リーダーの不在が挙げられます。
縮小均衡局面にある事業の多くは、採用力および育成力に限界があり、改革を推進できる人材は非常に限られています。一部に有能な人材がいたとしても、現業で逼迫していることでしょう。
リーダー人材は重要な任務を抱え続ける宿命にあり、社内の層が薄いほどその傾向は顕著です。そのような状況下で変革を推進するためには、リーダー人材の負担を極小化する体制を構築することが求められます。
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