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中小企業庁のガイドラインや実証事業を通してPMIのスタンダードを確立へ M&A戦略の策定からPMIに至るまで一貫した支援で企業の成長や価値創造に貢献する
中小PMIガイドライン策定やスタンダード構築の支援をしているPwCコンサルティング合同会社 X-Value & Strategyチームのメンバーが、PMIを含めたM&Aの最新動向について話しました。
2022-09-22
縮小均衡局面にある事業の多くは、長期間にわたって同一の業態・業容が継続しています。経営者も従業員も現業に手一杯であり、リスク回避的性向が見られます。
当該事業の成長余地は「同一業界内のシェア向上」「コスト削減」に限られるのでしょうか。国・地域の住民・産業にとって不可欠なエッセンシャルな事業でありながら、縮小均衡局面に入った事業に焦点を当て、その再成長のあり方について検討する連載「エッセンシャルビジネスの再興支援」。第6回となる本稿では、新たな成長機会に参画する可能性について論じます。
縮小均衡局面にある事業でも、一部で別の事業を手掛けているケースがあります。多くは顧客や取引先からの要請を受けて始めた事業や、過去のM&Aに伴って引き継いだ事業、先代以前の経営者が突発的に始めた事業などになります。
このように別事業を手掛けることになった背景には、顧客・取引先からの要請には極力応えたいという職人根性や、過去の経営判断への敬意、撤退することを決められない経営姿勢などがあります。その結果、突発的に始まった事業が残置されているわけです。
こうした事業は戦略的意図が欠けた「受け身の新規事業」であるため、本業とのシナジーは期待できず、不採算性も顕著です。しかしながら、目新しさや前向きなメッセージを内外に打ち出しやすく、そのプレゼンスの高さゆえ不採算であっても社内では聖域化されてしまう傾向にあるのです。
縮小均衡局面にある事業で「攻めの新規事業」を行うことに勝ち筋はあるのでしょうか。
当該事業が所属する業界の多くは、業界構造およびその関係性が硬直的であり、突発的に新規事業を仕掛けたところで勝ち目はあまりないでしょう。業界の外の新規領域で戦うにしても、ケイパビリティが不足しているケースがほとんどです。
一方で、業界構造は中長期的には必ず変化するものです。例えば卸売で見た場合、図1のような変化が想像できます。不変のバリューチェーンは存在せず、川上・川下の企業は社会の潮流の影響の受けやすく、ダイナミックに変化します。この変化に先回りし、新規事業の機会を見つけることができれば、バリューチェーン内で優位なポジションを抑えることができます。
しかし、縮小均衡局面にある事業にとって「攻めの新規事業」の障壁は高いと言えます。その理由は以下のとおりです。
最大のネックは人材不足です。繰り返しになりますが、現業逼迫からリーダー人材は動くことができず、それ以外の人材の能力は限られています。事業内の人材および体制を見渡した際、新規事業の発掘・推進をイメージすることは現実として困難だと考えられます。
縮小均衡局面にある事業のサービスや製品はコモディティ化し、当該事業は商材の差別化要素を持つことはほぼありません。新規事業は自社の強みを基点として展開させるものですが、長年の取引関係・顧客基盤を除けば、当該事業には強みはほぼないと考えられます。
業界構造を変えようとする取り組みが明らかになると、川上・川下の企業からの圧力も想定されます。取引に制限をかけられたり、古くからの伝手により役員や既に退職している元従業員を通じて苦情を入れられたりすることが想定されます。
近年では、事業内のケイパビリティ不足を補うためにコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を立ち上げ、構造変容を事業機会と捉えるベンチャー企業への出資を通じて新規事業を立ち上げる形も想定できます。しかしながら、やはり人材不足や業界における立ち位置の低さなどから、縮小均衡局面にある事業にベンチャー企業を支えるほどのケイパビリティが備わっているとは考えにくいです。力のあるベンチャーであれば川上・川下の有力事業者と早い段階でコンタクトを取っている可能性もあり、当該事業は相手にされないかもしれません。
新規事業に取り組む上で重要な要素の1つとして、新規事業担当者の「熱意」があります。ここまで論じてきたとおり、現状の延長線で考えると縮小均衡局面にある事業には新規事業担当者の熱意を阻害する要素が溢れています。
新規事業に真剣に取り組むのであれば、少なくとも現業が持つネガティブな要素を極力排除すべきです。
経営層が新規事業を展開する領域を決断する必要があります。往々にして経営層は現場担当者が考える新規事業を受け入れられず、批評家になりがちです。まず経営層が中長期の業界構造変化を見据え、事業機会と参入方針の大局観を持つことが大事です。
新規事業を展開する領域の大枠を決めた後は、その進め方の議論に移ります。しかし、取引先の心証や反応を気にし、既存事業側からのブレーキがかかるケースが多々見受けられますし、クレームが入るケースもあります。別会社を立ち上げることや、ベンチャー企業へ少額出資して社員を出向させるに留めることなども含め、経営層が穏便に新規事業を進められる方法を決めることが望ましいでしょう。
既存事業からの影響行使を排除すべく、新規事業部門を可能な限り独立させるべきです。そのためには「別会社を新設する」「人事や投資について裁量権を持たせる」「評価基準を本体と別に設ける」などといった手段が考えられます。
既存事業に新規事業を開発するケイパビリティがない場合、外部人材を採用することが有用です。外部オンリーの体制とする場合、「既存事業とのシナジーが希薄になる」「価値毀損につながる」などの弊害も想定されるため、外部と内部の人材による混成部隊を組成することが望ましいでしょう。なお、既存事業から新規事業に参画する人材には、新規事業の検討を阻害せず、シナジーを発揮すべく既存事業と正しく結び付けられる能力が求められます。
新規事業を推進する上で、IT・デジタルの活用は間違いなく前提となります。
川下の法人・個人がデジタルツールを活用する場面は一層増え、その行動様式に合わせ業界全体は変容します。縮小均衡局面にある事業は、川上・川下産業も比較的高齢者層から構成されIT・デジタル化が遅れているケースがみられます。それでも世代交代が進むにつれ、やはりIT・デジタル化は進むと推測されます。
ECやデジタルマーケティング等、特に川下のデジタル領域に先行参画し、シェア確保することは、縮小均衡的な業界に一石を投じるアクションといえます。
縮小均衡局面にある事業において、経営層における理解不足やリード人材の不足からIT・デジタルは軽視される傾向にあります。しかしながら、シェア奪取のキーがIT・デジタルにあることを経営層が肚落ちできれば、話は進展すると考えられます。またテクノロジーの急速な進展はIT・デジタルの導入/運用コスト・障壁を急速に押し下げており、経営層の肚落ちを後押しするでしょう。
IT・デジタルをあくまでインフラとして見做すのでなく、トップライン向上・シェア奪取のキーとしてみることが重要です。
縮小均衡局面にある事業では、新規事業に対して過度な警戒感を持たれてしまう可能性があります。その背景には、経営層から現場に至るまで、日々取引先から圧力を受け、低利益に慣れ、現状維持を優先し、拡張意欲を失っているという実態があります。そして、この拡張意欲の無さが事業の縮小均衡を加速させています。
新規事業への取り組みは、単にトップラインを伸ばすことに留まらず、営利団体が本来持つべき健全な拡張意欲を組織に呼び起こします。縮小均衡局面に陥っているからこそ、新規事業を検討すべきではないでしょうか。
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