エッセンシャルビジネスの再興支援 第7回 業界再編の主導

2022-09-29

はじめに

縮小均衡局面にある業界で真剣に成長を目指すならば、業界構造自体を能動的に変えるべく、業界再編に取り組むことが不可欠です。その際にポイントとなるのはシェアの高さであり、川上・川下企業に対する交渉力、規模の経済、顧客への顕示効果、ブランドにつながり、優位な立場をもたらします。

国・地域の住民・産業にとって不可欠なエッセンシャルな事業でありながら、縮小均衡局面に入った事業に焦点を当て、その再成長のあり方について検討する連載「エッセンシャルビジネスの再興支援」。第7回となる本稿では、業界再編におけるポジショニングの取り方について、同業他社の吸収合併を例に論じます。

譲渡側経営陣との合意形成

どのようなスキームを組むにせよ、譲渡側経営陣との合意形成は必須です。感情論が先行し破談となるリスクもあるため、当該吸収合併が譲渡側の救済につながること、譲受側が他社と比較しての魅力的であることなどをアピールすることが求められます。また、経営陣の考えも往々にして感情に流されがちです。組織内の力関係や合併に向けての姿勢(好意的・否定的・中立)を汲み取りながら段階的に説得交渉を行い、合併の賛同を得られるまで粘り強く調整を続けることが必要です。

債権者との合意形成

「事業譲渡」または「会社分割を経ての株式譲渡」のいずれの手法を選択するにせよ、譲渡後の企業は債務返済能力を有しません。債権者の同意が得られない場合、債権者に詐害行為取消権を行使される可能性が高く、譲受側が支払う対価を債務返済に充てることが期待されます。

他方で合理的な算定に基づく対価では、債務を返済しきれない可能性が高いと言えます。譲渡側の資産売却などを通じ、譲渡前にどこまで債務返済し得るか検証することが必要です。

株主との合意形成

赤字企業の事業を譲り受ける際、多くのケースでは譲渡前の時点でその事業の株式価値はほぼないと考えられます。しかし、取引先が政策保有のために株主となっている場合、当該事業が譲渡・清算されることで株主としてのガバナンスが失われることへのリスクがあります。株式を政策保有する取引先に対しては取引関係の継続を約束したり、合併後の会社への出資を打診したりするなどして、事業譲渡について合意を得ることが望ましいでしょう。

なお、当該事業譲渡に賛成する理由のない少数株主は、買取請求権を行使する可能性が高いことにも留意が必要です。

従業員の処遇

譲渡側の全従業員を受け入れる場合、譲受側でさまざまな不合理が発生する可能性があります。縮小均衡局面にある業界の「必要不可欠な人材が少なく、それ以外の人材が多い」という傾向が、事業譲渡によりさらに強まると考えられます。

そのため、全従業員を受け入れない方針の場合には、譲渡側において割増退職金の支払いなどを条件に自主退職を勧めることが肝要です。

資金調達

資金を調達するためには、合併に際して投資収益を創出することが重要です。同業を吸収合併する場合、人材・設備・システムなどの共通化により経営の効率化が実現することや、クロスセルのような譲渡後事業のシナジーにより採算性が高まることはアピールしやすいでしょう。また業界再編に取り組み続けることで業界構造が変容し、川上・川下の企業や委託先との力関係が変わり、従来の業界構造における立ち位置では困難であった価格交渉に打って出られるようになる可能性があります。単発の吸収合併の繰り返しの先に、このような世界観があることも見据えるべきです。

なお、業界構造の変容による交渉力の強化は、単発の小企業合併だけでは発生しづらく、その積み重ねの結果、事業規模が一定水準に到達した時点で発生します。吸収合併を継続的に行い続けることが、投資収益確保の前提となることは念頭に置くべきでしょう。

図3:業界構造変容による交渉力強化シナジー 発現イメージ

最後に

本稿では業界再編を主導する際に想定されるケースについて、基本的な論点を整理しました。縮小均衡局面にある事業においては、低収益であるために恩恵を受けている企業の数も多く、現状を維持しようとする圧力が働くことが想定されます。それは譲渡側の経営陣や従業員、債権者、株主も同様です。

逆風の中で業界再編を進めるには、中長期にわたる戦略とコミットメント、細心の注意と粘り強い交渉が不可欠であるのみならず、強力なリーダーシップを持つ人材も必要です。このような人材を自前で育成・輩出することは現実的なのでしょうか。連載の最終回となる次回では、この点について論じます。

主要メンバー

池本 勝紀

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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岡山 健一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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