東京都の新しいソーラーパネル義務化:「日本はドイツの太陽光発電の落とし穴を避けられるか」

  • 2025-04-11

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東京都は2025年4月から、再生可能エネルギーの利用を促進するため、新築戸建住宅の屋根にソーラーパネルを設置することを義務付ける制度を導入しました(東京都建築物環境報告書制度)。この新しい制度は、大規模ハウスメーカー(年間2万m²を超えるプロジェクトを請け負うハウスメーカー)に対し、延床面積2,000m²未満の新築住宅やその他の建物にソーラーパネルを設置することを義務付けるものです。本制度は、大規模な再生可能エネルギーを設置するスペースが限られている都市部において、住宅用の太陽光発電システムの利用率を大幅に高めることを目的としています。また、東京都の目標(2050年までに炭素排出量ネットゼロの達成)や、国の目標(2040年までに再生可能エネルギーの割合を40~50%に引き上げる)*1 を支援するものですが、住宅価格への潜在的な影響以外に、送配電網の安定性にも関連しています。

技術的および市場的課題

ドイツでは、大規模な太陽光発電所や風力発電所とは異なり、通常の家庭では発電の制御や抑制ができません。そのため、送配電網の安定性に課題が生じ、特に、発電量が多い時間帯において、需要が供給を下回ることがあります。大手太陽光発電デベロッパー2社(Enpalと1Komma5)によると、太陽光発電設備に対する規制を早急に実施しなければ、2025年春の祝日に、ドイツ国内のある地域で停電が発生するだろうと警告しています*3

図表2:ドイツEPEXスポットにおけるネガティブプライスの時間

Figure 2

短期的な影響として、スポット市場で電力価格がマイナスになる時間帯が頻発していることが挙げられます。2024年、ドイツでは457時間のネガティブプライスが記録されましたが、これは年間の約5%に相当し、この傾向は現在も続いています(図表2)*4
2023~2024年に極端なネガティブプライス(マイナス100ユーロ/MWh以上)が発生した時間帯には、再生可能エネルギー(15GW)や従来型発電所(8GW)*5ではなく、太陽光発電設備(34GW)の発電容量が大半を占め、太陽光発電設備が弾力性の無い発電設備であることを物語っています。

一部需要家(産業用消費者、家庭用蓄電池のある家庭、ダイナミックプライシング契約を結んでいる家庭など)は、このような状況から恩恵を受けるかもしれませんが、現在の市場設計では、価格が非常に低い、あるいはネガティブプライスとなる期間は、エネルギー供給コスト全体を大幅に増加させてしまいます。系統運用者は、市場価格に関係なく、晴れた日に余剰電力を売らざるを得ないことが多く、このような損失は、国から補償されます。2024年、ドイツ政府は、再生可能エネルギーの固定価格保証と実際の市場収入とのギャップをカバーする目的で系統運用者に185億ユーロを提供し、その大半は太陽光発電の所有者に支払われています*6

日本のエネルギー政策への教訓

このように、ドイツの経験は、容量拡大の成功を証明する一方で、太陽光発電が増加し卸売電力市場が不安定になるなど、日本が避けるべき落とし穴を浮き彫りにしています。ドイツから得られる主な教訓は以下のとおりです:

  • 太陽光発電システムが制御可能で、余剰電力となる際に抑制できること
  • 小規模なシステムでも市場価格シグナルを報酬政策として取り入れること
  • 太陽光発電システムと家庭用蓄電池の併用を推進すること
  • ダイナミックプライシングに対応するスマートバッテリーの導入(例えば、市場価格が低いときに充電し、電力需要が高いときに送配電網に供給するなど)
  • 系統運用レベルにおいては、系統用蓄電池への投資と、系統需要のピークを太陽光発電期間にシフトさせることを長期的に促すこと

次回は、「電力取引市場の流動性」について解説します。

主要メンバー

森 一慈

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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シュルツ フリードリヒ

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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