
中部電力パワーグリッド株式会社:“解”なき前人未踏のシステム変革に挑み続ける
中部電力パワーグリッド株式会社のシステム部長佐藤 雅弘氏をお迎えし、安全・安心を守るインフラ産業のシステムに対するこれまでの取り組みや今後の見通しなどについて、PwCコンサルティングの上席執行役員パートナーである立川 慎一がお話を伺いました。
2023年4月、札幌で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合の閣僚声明で原子力エネルギーをベースロード電源と評価するなど、原子力の位置づけは着実に変化してきています。そうした中、日揮グループの一員である日揮グローバル株式会社は、小型モジュール式原子炉(SMR)の技術開発を行うNuScale(ニュースケール)社への出資を決断するなど、原子力事業への取り組みを積極的に進めています。日揮グローバル株式会社 サステナブルソリューションズ バイスプレジデント 兼 原子力エネルギー本部長である執行役員 木村靖治氏を迎え、これまでの原子力事業への取り組みや今後の見通しなどを、PwCコンサルティング合同会社の執行役員パートナー・エネルギー産業事業部の小飯田章が聞きました。
※本取材は2023年4月に実施されました。
(文中敬称略)
登壇者
日揮グローバル株式会社
サステナブルソリューションズ
バイスプレジデント兼原子力エネルギー本部長 執行役員
木村 靖治氏
PwCコンサルティング合同会社
パートナー 執行役員
小飯田 章
(左から)木村 靖治氏、小飯田 章
小飯田:日揮ホールディングス株式会社が2021年に発表した長期経営ビジョン「2040年ビジョン」では、ネットゼロの実現に向けたオイル&ガスの低・脱炭素化とクリーンエネルギーの拡大を目指すエネルギートランジション領域の売上を2040年までに60%にするとしています。担当執行役員となられた木村さんから、そこに向けた取り組みと貴社、ならびに貴社グループの原子力事業の位置づけをお伺いできますでしょうか。
木村:オイル&ガスに依存してきたビジネスモデルを、脱炭素へトランジションをしていくために、2022年9月に水素・燃料アンモニアと原子力事業を元の組織からスピンアウトし、「サステナブルソリューションズ」というユニットとし低・脱炭素事業を加速しています。
日揮では原子力発電所事業は決して中心的な事業ではなかったのですが、出力が小さく、簡素化した構造で安全性も高まるSMR発電所が脱炭素社会に貢献する事業となることを予見し、SMR開発企業に出資を決めたことは、会社の本気度の表れだと思います。
小飯田:これまでの原子力事業への取り組みをお聞かせください。
木村:日揮は40年以上にわたり国内外の原子力施設における放射性廃棄物処理・処分に取り組み、使用済核燃料の再処理設備の設計・建設の実績があります。私自身は15年程前にリアクター(原子炉)メーカーが海外原子力発電所新設に向けた国際ビッドに参加した際に、一緒に協業参画したのが最初の原子力発電所新設案件でした。日揮は大型オイル&ガス設備新設プロジェクトのEPC(Engineering、Procurement、Construction=設計・調達・建設)コントラクターとしてトップクラスのプロジェクト遂行実績を有していましたが、この時の協業参加を通じて、リアクターメーカーにとっても、EPCコントラクターの日揮にとっても、海外原子力市場に進出するには両者がワンチームでプロジェクト遂行できるパートナリング組成が重要であることを認識してもらうきっかけになりました。
このビッドでのリレーションから、日揮はEPCコントラクターとして英国での原子力発電所建設に携わりました。こうした経験がその後、SMRリアクターを作る米国のニュースケール社とのEPCビジネスモデルへの挑戦へとつながっていきました。同社のSMR発電所建設プロジェクトを、同社の親会社である米国の大手エンジニアリング会社・フルア社とともにEPCコントラクターとしてサポートすることになったのです。
小飯田:原子力事業全般の現状と今後については、どのようにお考えですか。
木村:原子力事業は時代や情勢に左右されるビジネスです。日本は1960年代から継続して原子力発電所を建設してきましたが、2011年の震災が変化点となり、低迷期を迎えました。その後の変化点は、「脱炭素」への流れが起きたことで、その実現には原子力が必要だという認識が強くなりました。そして高コストが課題だった原子力発電所新設の救世主となったのがSMRでした。小型化により事業投融資がしやすいと注目を集めたのです。
もう一つの変化点はエネルギー安全保障です。ロシアのウクライナ侵攻を機に西側諸国、特に米国では、ロシアの影響下にある地域に先に原子力発電所を建設したいというドライブがかかってきました。
小飯田:ニュースケール社への出資にあたっては、PwCコンサルティングも支援をさせていただきましたが、出資を決断された経緯と理由をお聞かせください。
木村:日揮のエネルギーに関するビジネスモデルはオイル&ガスが中心でしたが、これをトランジションしないと将来はないという危機感から、新しいポートフォリオとして水素・燃料アンモニア、そして原子力SMRが位置づけられました。SMRに注目したのは、これまでの活動を通してリアクターメーカーだけでは発電所は建設できず、私たちのようなEPCコントラクターのニーズがあると理解していたことと、そのリアクターメーカーと協業経験をした現役のエンジニアが社内にいたからでした。もちろんニュースケール社のSMRテクノロジーが安全で米国の原子力規制委員(NRC)の設計認証(DC=Design Certificate)を取得済みであることも大きかったのですが、PwCコンサルティングから提供してもらった、SMRの市場規模や売上予測、ニュースケール社のバリュエーション評価などの情報が出資をする判断につながりました。
小飯田:出資後のニュースケール社の状況や、同社のユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)のプロジェクトについてお話いただけますでしょうか。
木村:ニュースケール社SMRの1号機となる発電所は、UAMPSがアイダホ国立研究所敷地内に建設を計画しています。この実証プロジェクトには米国のエネルギー省(DOE)が資金面で支援しています。COL(運転一括認可)申請が認可されると、2026年頃より現地工事が本格化し、2030年頃には発電を開始する計画です。
日揮グローバル株式会社 サステナブルソリューションズ バイスプレジデント 兼 原子力エネルギー本部長 執行役員 木村靖治氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員 小飯田章
小飯田:UAMPSのプロジェクトには日揮のエンジニアを送り込まれているそうですね。
木村:現在のプロジェクト進捗としては、COL向けの設計業務やコスト見積業務が進んでいます。昨年7月からプロジェクトのEPCコントラクターであるフルア社のヒューストン本社に日揮からDeputy Project ManagerとEngineering Managerの2名を先行派遣しています。今年の5月からはさらに8名のエンジニアを追加派遣して、プロジェクト業務に従事してもらっています。来年以降はプロジェクト進捗に合わせ、調達や建設のエンジニア数を増員する予定です。
小飯田:一大プロジェクトになりますね。
木村:そうですね。まずはフルア社の組織の中で、世界で誰もやったことがないSMRのEPCプロジェクトを学びたいと考えています。日揮がSMRのEPCコントラクターになるために、この貴重な実務機会を通じて多くのエンジニアの技術力を育てていきたいです。
小飯田:日本の他の企業で、現在そういった経験を積まれている会社はあまり多くないように思います。
木村:日本の原子力サプライチェーンでは2011年の震災後、実際に原子力発電所の設計や建設に携わった経験を持つエンジニアがかなり少なくなっていると聞きます。日揮の若いエンジニアたちが、米国での初号機SMRプロジェクトの経験を生かして、日本の原子力サプライチェーン復活の足掛かりを作ってくれることも期待しています。2030年以降は東南アジアや中東などでSMR発電所建設が始まると思われ、国内の原子力サプライチェーンが活躍できる市場も増えてきます。その時までに日揮もSMR発電所のEPCコントラクターとしてニュースケール社をサポートできるエンジニアを育てていきます。
小飯田:SMRを推進するにあたってどのような課題がありますか。
木村:時間がかかりすぎるとコストが高くなってしまいます。一方でSMRを初めて世の中に送り出すことになる初号機については慎重さが求められるので、その兼ね合いは課題ですね。
小飯田:ニュースケール社とのディールを木村さんはどのように進めようとされたのでしょうか。
木村:ディールアドバイザーに求めたものは、ワンチームでできる体制が組めること、短時間で極秘のミッションを遂行できることでした。最終的にPwCコンサルティングを選んだのですが、ディールを始めてからその強みを実感しました。
小飯田さんには、当社のオフィスへの駐在をするなどの要望に応えていただきました。日揮本社オフィス内に「ウォールーム」を作り、米国オフィスと毎朝、電話会議を行う態勢をすぐに組んでいただけたことは、このディールを成功裏に納められた要因の一つだと思っています。
また、PwCのグローバルネットワークを生かした対応も頼もしかったです。膨大な資料に加え、米国からはディールを評価していただきながら、現地でのニュースケール社とフルア社との交渉についてもさまざまな情報を提供していただきました。
小飯田:木村さんはサステナブルソリューションズ、原子力エネルギー本部の今後をどのようにお考えでしょうか。
木村:サステナブルソリューションズの事業では、まずは水素・燃料アンモニア、そしてSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)を当社のコアビジネスの柱の1つに成長させるミッションを担っています。国内だけではなくて海外からもすでに数多くの問い合わせをいただいています。今までオイル&ガス設備のEPCをやってきた部員のエンジニアリング技術力を、水素・燃料アンモニア設備にトランジションする動きを加速しています。また、社外から経験者の採用も行っています。
もうひとつが原子力事業です。脱炭素とエネルギー安全保障の課題を持つ国々では、再生可能エネルギー増加に伴い相互連携させる調整電源、またはベースロード電源として原子力エネルギーを位置付けており、こちらもSMR原子力発電エンジニア育成のトランジションを進めていきます。
小飯田:まずは水素・燃料アンモニア、そしてSAFが先行するということですね。
木村:そうですね。SMRを含む原子力発電プロジェクトは一般産業プロジェクトと比較すると時間がかかります。短期的には原子力所有国の欧米が先行しますが、東南アジアなどは2030年以降がターゲットと考えています。アンモニア設備EPCに携わる若手エンジニアが、その経験を原子力設備EPCに応用するというローテーションも考えていて、エンジニアがさまざまなビジネスに携わる教育プログラムの受講や実務経験ができる仕組みを提供していきたいと思っています。
日揮のエンジニアリング技術力の根底には、これまでオイル&ガスEPCで積み上げたEPCプロジェクト遂行技術を軸に、燃料アンモニアのプラントでも原子力発電プラントでも、クライアントの違い、サプライチェーンの違い、プロセスの違い、安全設計や品質保証の違い等を柔軟にプロジェクトに取り込むことができる会社基盤力と組織力があります。能力のある若手を育てながら、このサステナブルソリューションズの狙う新しい市場に先行者として参加し、売上を上げて成長させていく戦略がスタートしています。
小飯田: 5年後に原子力のビジネスはどうなっていると思われますか。
木村:私が任されている原子力は、予測の難しいカテゴリーですが、こうあってほしいという思いはあります。
まず、原子力発電所の需要がグローバルに高まる中で、日本企業がしっかりとプレゼンスを発揮すること。4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の閣僚声明では原子力は、再生可能エネルギーを強くサポートするベースロード電源と表現されています。また、先進国で原子力発電所が老朽化してきていることを踏まえると、今後、さらに新しい技術を活用した原子力発電所を作っていかなければならなくなります。
そして、旧来の化石燃料による発電を再生可能エネルギーだけで代替することは困難で、大量の電力を安定的に供給できる原子力発電のサポートが必要だということも理解されるようになってきました。
小飯田:経済産業省が安全性が確認された原子力発電所の再稼働への取り組みを進めるといった動きも出てきました。
木村:そうですね。2021年にニュースケール社に出資した当時は、周りを気遣いながらの出資でした。当時の日本には、原子力を口にすることもできない雰囲気がありました。私たちが出資することで、この厳しい状況の中で、またはそれを乗り越えて、業界として何とか次のステップへ行こうといった機運になっていればうれしい限りです。
小飯田:出資を支援させていただくなかで非常に驚いたのが、貴社の意思決定の速さでした。ニュースケール社やフルア社から、明日までに回答が欲しいというような話があったときに、木村さんがマネジメントにご相談し即座に意思決定されるといったことがありました。国内ではこれほど速い意思決定ができる企業はあまりないと感じます。
木村:意思決定が速かったことにはいくつかの理由がありました。一つは現社長のFarhan Mujibが中心となって私と一緒にディールを引っ張っていったことで、自ら米国側と交渉し、日本側の本社マネジメントの承認を得る、そのスピード感は、私も驚くほどでした。もう一つは、PwCコンサルティングと「ワンチーム」を作ったことで、毎日入ってくる新しい情報が、経営判断をサポートしてくれたことでした。短時間に何をしなければならないかという要素を組み立ててディールが進められたことが大きかったと思います。
小飯田:私たちもお役に立てたことをうれしく思っています。本日はありがとうございました。
中部電力パワーグリッド株式会社のシステム部長佐藤 雅弘氏をお迎えし、安全・安心を守るインフラ産業のシステムに対するこれまでの取り組みや今後の見通しなどについて、PwCコンサルティングの上席執行役員パートナーである立川 慎一がお話を伺いました。
脱炭素社会の実現に向けて、DER(Distributed Energy Resources:分散型エネルギーリソース)の取り組みが進んでいます。過渡期を迎えている電力市場の今とこれからについて、DERプラットフォーム事業を手がけるE-Flow合同会社にお話を伺いました。
日揮グループの一員である日揮グローバル株式会社は、小型モジュール式原子炉の技術開発を行う会社への出資を行い、原子力事業への取り組みを積極的に進めています。同社の木村靖治氏に、今後の事業の見通しや、出資案件におけるPwCコンサルティングの支援などについてうかがいました。
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