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脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーや蓄電池を活用するDER(Distributed Energy Resources:分散型エネルギーリソース)の取り組みが進んでいます。また、その潮流の中で分散型バリューチェーンへの移行が進み、新たなビジネスチャンスが生まれようとしています。
成長市場であるDER領域とその制度は、どのように変化し、どのような課題があるのでしょうか。過渡期を迎えている電力市場の今とこれからについて、DERプラットフォーム事業を手がけるE-Flow合同会社にお話を伺いました。
参加者
E-Flow合同会社 社長
川口 公一 氏
E-Flow合同会社 事業推進本部長
南 洋充 氏
PwCコンサルティング合同会社 Energy & Utilities パートナー
中谷 尚三
PwCコンサルティング合同会社 Energy & Utilities シニアマネージャー
竹内 大助
※対談者の肩書、所属法人などは掲載当時のものです。
(左から)竹内、南氏、川口氏、中谷
竹内:PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、DER領域における事業計画の策定、事業性の評価、VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)システムなどに関わる支援をしています。また、DER市場を一緒に開拓していくパートナーとして、貴社とはさまざまな情報や知見の共有を行ってきました。
国内のエネルギー市場では、DERへの注目度がますます高まっていますね。
川口氏:そうですね。電力業界全体の動向として、まず供給面では、再エネの拡大に伴って火力を中心とする既存電源の稼働率とJEPXでの卸取引の価格が同時に低下しています。また、再エネの導入が急速に進んでいることに伴い需給上の制約が生じており、2023年度は1Q(4~6月)だけで昨年1年間の再エネ出力抑制日数を超過するほどになりました。これまでの大規模電源を中心とした一方向の電力供給から、負荷側も含めた双方向・相互作用的なものへと、電力需給の在り方も大きく変わってきていると感じています。このような流れの中、DERへの注目や取り組みの重要性がますます増していると認識しています。
竹内:需要側である企業などではどのような変化が見られますか?
川口氏:需要側では、頻発する需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰に伴ってDR(Demand Response:需要応答)の活用による収益化の関心が高まっています。また、ここ数年は再エネのオンサイトPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)ニーズが高まっていましたが、自社に設置する屋根載せ型などの設備のみでは限界があり、最近は敷地外でのオフサイトPPAニーズが急速に拡大しています。
蓄電池については、すでに大規模な系統用のものに関して各種補助金などの支援策が整備され、設置・運開に向けた動きが活発化していますが、家庭用蓄電池やEVなど小規模のリソースについても制度整備が進みつつあります。特にEVはこれから急速に普及していく可能性があります。制度づくりの動向に注目することが重要ですし、そこにビジネスチャンスが生まれる可能性も大きいと考えています。
E-Flow合同会社 社長 川口 公一 氏
PwCコンサルティング合同会社 Energy & Utilities パートナー 中谷 尚三
中谷:このような変化の中で、E-Flowは2023年に設立され、関西電力をバックボーンとする機動力のある組織として立ち上がりました。
川口氏:会社設立のきっかけの1つは、2024年度から始まる容量市場です。現在の調整力公募と異なり、DRを行うことで生み出される電力量(kWh)を事業者自身で取引する必要が出てきたことです。それ以外にも、非FIT再エネの増加に伴う再エネアグリゲーションニーズの高まりや系統用蓄電池の急拡大など、従来型のDRリソースとは異なる多様な分散電源の急速な拡大が見込まれる状況となりました。また、系統用蓄電池について、昨年、関西電力でも他社と共同で和歌山県紀の川市で事業参入することが決まり、われわれが運用します。
一方で、このように分散電源の拡大が見込まれる中で、多様な分散型リソースを運用し、市場取引などを行える事業者は現状それほど多くないのではないでしょうか。そのような背景から、分散型リソースの運用に特化した新会社を設立することとなりました。
中谷:市場黎明期における会社設立は先進性と先見性があり、脱炭素社会の実現において社会的意義が大きいといえます。DER分野の取り組みは会社設立以前から始まっていますね。
川口氏:はい。2016年から国のVPP実証に参画し、産業用の大規模なリソースから家庭用の小規模リソース、さらにはEVなど、さまざまなリソースを活用したVPP実証を展開してきました。また、2018年からはVPP事業のプロジェクトチームを立ち上げ、早期の事業拡大を進めてきました。そのような活動を踏まえて、現在はDRリソースを活用して需給調整市場にも参入しています。また、系統用蓄電池についても事業用として国内最大級となる蓄電所の運用に今後取り組むこととなります。
中谷:市場動向が見通しづらい状況で会社設立を判断した決め手は何だったのですか。
川口氏:先ほどもお話ししたとおり容量市場がきっかけではありますが、この市場だけであれば、事業の不確実性という点で、落札額はジェットコースターのように落差が大きい状態であり難しかったと思います。一方で、再エネアグリゲーションのニーズが高まり、系統用蓄電池市場も拡大しています。そのような変化の中で多様なリソースの運用委託に対するニーズは高く、会社設立に大きな後押しとなりました。会社設立までの期間は、具体的な検討を始めてから半年程度だったと思います。
日本の企業は意思決定に時間がかかることが多いですが、この事業分野はスピードが速いのが特徴で、市場が形成されてから参入するとレッドオーシャンに飛び込むことになります。電力会社内の一部門から新会社に移行することで、スピードにより磨きをかけることができると考えました。
中谷:関西電力グループでありながら全国規模で事業展開している点も特徴です。
南氏:各エネルギー事業者は自社の顧客向けサービスの一環としてDER事業を行っていることが多いと思います。しかしながら、それでは事業としてなかなかスケールしません。また、現行電気事業制度における「1会社1BG(発電・小売事業者)」の原則により、関西電力の中では社内の発電部門・小売部門との膨大な調整が必要となっていました。そのような理由から、私たちは関西電力とは別の会社として柔軟な運用を追求するとともに、地域にとらわれない事業展開でスケールすることを目指しました。
竹内:事業展開する地域を広げていくためには、そのための人材も必要ですね。
川口氏:はい。まずは20数名でスタートすることとなりましたが、DER市場の拡大状況を踏まえれば、今の体制で十分だとは思っていません。
また、新会社設立に合わせ、複数の地域で多様なリソースを運用することを前提に、新たな分散型サービスプラットフォーム「K-VIPs+」をAIベンチャーであるエクサウィザーズと共同で開発しました。このプラットフォームは2023年度下期から系統用蓄電池や再エネアグリゲーション事業で運用を開始する予定です。
竹内:どういったシステムなのですか?
南氏:前述した国のVPP実証への参画などを通じて得た知見やVPP事業での運用ノウハウ、過去の市場取引に関するデータを学習させた「最適運用AI」を搭載し、運用計画立案や市場応札・計画提出・DERへの指令等を、システムを使いながら少人数で実現可能にするものです。これは関西電力グループならではの取り組みで、E-Flowの強みの1つでもあります。
系統用蓄電池の運用を例にすると、電池の劣化状況や充電残量のデータをリアルタイムで把握・考慮しつつ、過去の市場取引データから導かれる市場価格予測をもとに、複数の市場を念頭に置いた最適な入札計画を立案するといった活用を考えています。
中谷:海外では、英国やドイツなどを中心としてVPPの市場規模が拡大しています。
川口氏:そうですね。私たちの感覚では、海外は日本より5年くらい進んでいます。ただ、彼らの事業が脅威になるかというと、一概にそうとも限らないと考えています。海外と日本では制度そのものや事業環境、さらにリソースの特性が異なるため、システム等のローカライズが1つの参入障壁となると思っています。ビジネスモデルや取り組み事例として参考になることも多いですが、全てにすぐに飛びつくのではなく、日本特有の環境に合うかどうかを見極めることが重要だと思います。
竹内:系統の混雑を解消するローカルフレキシビリティは技術面でも仕組みづくりの面でもDERの重要なポイントです。その点で日本特有の環境としてどんなことが挙げられますか。
川口氏:例えば、自動車では軽自動車という日本固有の車種があります。日本ではEVの普及が欧米に比して遅れていますが、軽自動車EVが出てきたことで、EVの普及が拡大すると考えています。日本は地方で軽自動車が多く走っていますし、1世帯で2、3台持っているケースも少なくありません。昨今のガソリン価格の高騰を考えると、今後も軽自動車EVは増えると予測でき、EVの普及によって地方に大きな需要と調整電源とが生まれます。
一方で、地方においては系統コストの回収が困難という点が従前からの課題としてありました。これは日本特有で、DER運用の最適化において押さえておかなければならないことの1つです。
E-Flow合同会社 事業推進本部長 南 洋充 氏
PwCコンサルティング合同会社 Energy & Utilities シニアマネージャー 竹内 大助
中谷:DER領域は、プレイヤーとなる事業者が増えるほど活性化します。バリューチェーンの変化をチャンスと見る事業者が多い中で、新規参入にはどのような課題がありますか。
川口氏:再エネについてはFITからの移行が課題です。FIT制度は、発電したkWhを固定料金で買い取る仕組みですので、ある意味で、適切な場所で設備をきちんと設置できれば事業が成り立ちました。しかし、FIPに移行すると、事業者は再エネの発電量を予測して、発電計画を策定・提出する必要があります。計画と実績の齟齬により生じるインバランスリスクも負う必要があります。
系統用蓄電池事業はさらに運用が複雑です。火力などと異なり、電池の発電容量は限られていますので、容量、充電率(SOC)、残量などを考慮しながら市場を選択し、入札を行う必要があります。この運用が難しく、ある意味参入障壁が高いといえます。
さらに電気事業は制度面で過渡期にあり、ルールや仕様が変わり続けています。新規参入においては、制度変化に合わせて運用やシステム等を改修していく負担も大きく、事業参入が難しいのではないかと感じます。
竹内:成長市場における協調領域と競争領域をどのように見ていますか。
南氏:前述した運用システムを例にすると、費用負担が大きいため、経済合理性という点では、設備所有者が個々にシステム投資をして生き残っていくのは難しいと思います。私たちとしては、運用システムへの資産投資、ならびに運用そのもののリスクを受け持つことで、蓄電池等設備資産を保有する事業者のリスク低減を図り、多くの事業者と連携しながらWin-Winの関係を作っていきたいと考えています。
一方で競争領域という点では、私たちは電力会社時代に培った、電源運用に関する深い知識があります。また、市場と制度の変化を継続的にウォッチしていますので、目と鼻が利きますし、リスク回避に向けた迅速な対応ができると自負しています。
竹内:市場活性化に向けて、これから取り組んでいくことを教えてください。
川口氏:DERを取り巻く制度面を中心に事業環境の変化は激しく、今後さらに多様な分散型リソースが活用可能になると考えています。E-Flow単独では市場や事業拡大に限界があるため、多様な事業者と連携を図っていくことが大事だと考えています。
また、本事業は制度に密接に関与する一方で、企業が個別に国等の関係個所へ意見提起していくには限界があります。そのため、関係する事業者に声がけをして、アグリゲータを核とする新たな事業者団体の設立を進めています。
竹内:どのような役割を担う組織なのですか。
川口氏:まずは、分散型電源は、火力や揚水といった既存電源との違いを十分に理解したうえで制度設計される必要があると考えています。現状はその認知・理解が十分ではなく、海外と比べるとDER活用のハードルが高いと感じているため、アグリ事業者の団体を通じて事業者の声を国や関係機関に届けていきたいと考えています。
健全な市場整備が進むことで、DERを活用できる市場が拡大していけば、参加する事業者の皆さまにとってもそれぞれの事業拡大につながると思います。その結果として、電力需給の安定や脱炭素社会の実現といった社会課題解決の貢献につながると考えています。
中谷:脱炭素社会の実現という点で、私たちPwCコンサルティングも持続可能なエネルギー社会づくりに貢献しようと取り組んでいます。DER市場の拡大を目指すパートナーとして、私たちにはどのような期待がありますか。
川口氏:DER分野は海外企業が先行しているため、PwCコンサルティングの国内外のネットワークを通じた情報の収集力と発信力が重要だと考えています。学者視点で欧米の状況を紹介するのではなく、市場の現状についての深い理解を有し事業者の視点に立った情報を発信できる点が、PwCコンサルティングの強みだと認識しています。
また、PwCコンサルティングのメンバーが持つ深い知見と、その知見に基づく客観的な事業性の評価は、参入する事業者に安心感を与えます。引き続き協調して、ともに市場拡大に取り組んでいきたいと思っています。
中谷:市場や事業を理解しているかどうかは重要ですね。私たちはGX(グリーントランスフォーメーション)関連のさまざまなプロジェクトを手がけ、DERについてもEV、再エネ、蓄電池などの各分野の専門家を結集して、クライアント支援や社会の重要な課題の解決に取り組んでいます。市場が拡大していくことで多くのビジネスチャンスが生まれ、それが日本の経済活性化やCN(カーボンニュートラル)を通じた社会貢献に結びつくと思っています。
DER領域について議論を交わす4人