次世代電力システムの要と目されるEVグリッド、電力・自動車業界の現在地と展望

  • 2025-01-29

脱炭素社会の実現に向けてエネルギー転換が進む中で、電化は重要なドライバーであり、電力業界・自動車業界双方にとってEV(電気自動車)の導入拡大は重要なテーマとなっています。エネルギーとEVの関わりについて、大阪大学大学院工学研究科 招聘教授で資源エネルギー庁のDRready勉強会委員などを務める西村陽氏と、PwCコンサルティングでEV・スマートグリッドのプロジェクトに携わるディレクター志村雄一郎が現状や課題、今後の展望を語り合いました。

(左から)志村 雄一郎、西村 陽 氏、竹内 大助

登場者

大阪大学大学院工学研究科 招聘教授
早稲田大学先進グリッド研究所 招聘研究員
関西電力株式会社 シニアリサーチャー
資源エネルギー庁 次世代の分散型電力システムに関する検討会 委員
定置用蓄電システム普及拡大検討会 委員
資源エネルギー庁 DRready勉強会 委員
株式会社環境エネルギー投資 アドバイザー
国立研究開発法人情報通信研究機構 Beyond5G 社会実装プロジェクト Collective Impact Executive
西村 陽 氏

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
志村 雄一郎

モデレーター
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
竹内 大助

電力業界と自動車業界を含めた
さまざまなプレイヤーの連携が不可欠

竹内:
今後はエネルギー業界と自動車業界の連携も課題の一つになりそうですね。

志村:
EVグリッドやそれを運用するデジタルプラットフォームを整備する上では、エネルギーと自動車という2つの巨大産業をどうつなげるか、特に業界をまたぐ形でのデータ連携がポイントとなります。

欧州を見ると、エネルギー業界では十数年前からシステム間をつなぐためのルール設計やインターオペラビリティ(相互運用性)の確立といった動きが起こり、自動車産業においても政府がデータ連携による新しい産業創出を打ち出すことで、データ連携の仕組みが整備されてきました。こうした下地があって、業界や企業を超えたデータや接点をうまくつなげるための仕組みが作られている。日本も欧州にならう形で、政府が旗を振りながら徐々にではありますがデータ連携を進めています。

特に現状では、EVと電力系統をつなげる際のさまざまな課題解決だけでなく、まずは全体のアーキテクチャについて考えなければなりません。日本でEVグリッドを実現するためには、連携するデータの種類やそのプロトコル、情報セキュリティや法整備など、単なるデータベースだけでないルール作りまでを含めた議論が必要なのです。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 志村 雄一郎

西村:
経済産業省のEVグリッドワーキンググループやDRready勉強会でも、議論を通じて、業界や事業者間を超えてプラットフォームやエコシステムを構築すること、また再エネの発電状況に応じた電力小売料金や再エネ余剰を吸収する際の託送料金をダイナミックに変えること、なども必要ということが分かってきました。

欧州でエコシステムの構築やデータ連携が成功した理由として、新規参入したベンチャー企業が需要家である顧客のユーザビリティを優先したことが挙げられます。便利なサービスが市場に受け入れられた結果、その事業者がプレイヤーとして、自動車とエネルギーという2つの業界をつなぐ役目を果たすこととなったのです。日本においても、前述の家庭用ヒートポンプ給湯機は「顧客のために」という力学が働いた結果、メーカー間の壁を越えて実現したわけですが、同様にEVグリッドを活用したユーザビリティに優れたサービスが登場すれば、業界間の連携もより加速していくはずです。

電力業界は規制産業であり、そのノウハウや知見を有する人は限られています。電力側の知見を持つ人とサービスを提供する起業家がチームを組むことで、業界間をつなげられるプレイヤーとなってもらいたい。

志村:
EVグリッド関連のベンチャー企業とインフラ産業である電力企業では、果たすべき役割が異なるので役割分担も明確です。その分、物事を進めていきやすいはず。EVグリッド整備における競争・協調領域を見極めた上で、協調のためには具体的にどんな機能やデータが必要となるのか、ユースケースを想定したアプローチから検討していかなければなりません。

日本でEVグリッドを確立するために、欧米型を踏襲する必要はありません。これまでの経緯や事情も違うわけで、日本における最適な形とは何か、という議論を積み重ねて、より具体的な課題を明らかにすることが求められています。

西村:
日本は製品の品質を含めて、通信やスイッチングといった基礎技術は世界一といっていいほどです。また、自動車業界には電化のノウハウが数多く蓄積されています。より良いEVグリッドの形やモノを作るポテンシャルは持っているはずです。

竹内:
PwCコンサルティングはエネルギー産業向けに規制・制度面から業務変革・DXの実現まで一貫したサービスを提供しています。最後に、産業をまたがるEVグリッドの世界を実現する上で私たちはどのような役割を果たすべきでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 竹内 大助

志村:
複雑化する社会において、産業間の連携による新たなビジネスやソリューションの創出が強く求められています。一方、既存産業はサイロ化が進み、業界やルールの壁を越えるのはますます難しくなっている。こうした壁を乗り越えるためには、上位レイヤーとしてのアーキテクチャや全体の見取り図を考えなくてはなりません。PwCコンサルティングでは、モビリティとエネルギーの連携をより具体的に考えるため、今後はコンサルティング領域にとどまらない新しい取り組みも加速していく考えです。

西村:
過去に大きな成功を収めてきた業界は、自分たちの立ち位置や事業の相対化が苦手な傾向にあります。各業界を相対的にとらえて新しい道を示すことが、コンサルティングファームの大きな役割だと思います。テクノロジーやマネジメントの高い能力を有するコンサルタントであれば企業の実務を踏まえた提案も可能で、それが実行する上での説得力となります。エネルギーとモビリティ、両者間の協調を推進してEVグリッドを実現するためにも、コンサルティングファームの活躍に期待しています。

参考文献

*1「Global EV Outlook 2024 Moving towards increased affordability」International Energy Agency, 2024年4月  https://iea.blob.core.windows.net/assets/a9e3544b-0b12-4e15-b407-65f5c8ce1b5f/GlobalEVOutlook2024.pdf

主要メンバー

志村 雄一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

竹内 大助

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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