エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂

第1回:エンタテイメント&メディア業界の概況

  • 2023-03-03

PwC Japanグループは2022年12月15日、メディア関係者を対象に、VR空間上でセミナー「エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂―新たな競争環境におけるイノベーションと成長―」を開催しました。当日はPwC Japanグループの各法人からそれぞれの領域のプロフェッショナルが登壇し、業界のトレンドやNFTビジネス、メタバースに関する今後の展望ならびに課題について講演しました。本連載ではこれから数回にわたり、その様子をご紹介していきます。

第1回となる今回は、PwCコンサルティング合同会社 Strategy& パートナーの森祐治による、エンタテイメント&メディア業界の概況についてお届けします。ここではグローバルと日本におけるエンタテイメント&メディア業界の動向について解説しています。

グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック

本イベントは、PwCが提供する「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」の内容に基づいて開催されました。

「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」は、消費者および広告主が時間とお金をどのように消費しているかをまとめたオンラインデータソースであり、52の国と地域におけるエンタテイメント&メディア業界の14のセグメントについて、それぞれ過去5年間の実績と今後5年間の予測データ、およびその動向についての定性的な情報を提供しています。

PwCグローバルネットワークのプロフェッショナルが、毎年このデータソースを基にレポートを作成しており、レポートではその年の特徴的なトレンドをハイライトしています。2020年は「COVID-19により前倒しで訪れつつある新たな世界」、2021年は「パワーシフト」、そして2022年の今回は「断層と亀裂」をメインテーマとして取り上げました。

エンタテイメント&メディア業界のトレンド

グローバルの動向

全世界のエンタテイメント&メディア業界の総収益は、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で低下し、成長率はマイナスとなりましたが、2021年には前年比10.4%の大幅増加となり、それ以前の水準以上まで復活しています。

そして、2022年から2026年にかけての年平均成長率は4.6%になると予想されており、2026年には2.93兆米ドルへ成長し続ける見通しです(図表1参照)。

図表1:エンタテイメント&メディア業界の総収益と成長率(2017~2026)

各セグメントの年平均成長率を見ていくと、「VR・モバイルAR」「インターネット広告」などのデジタルメディアに関するセグメントの成長率が非常に高くなっています(図表2参照)。特に、昨今話題のメタバースとも密接に関連する「VR・モバイルAR」は23.8%という成長率が予想されます。他にも「インターネット広告」や「ビデオゲーム・eスポーツ」も全体の成長を牽引すると考えています。「映画」は、デジタルメディアというわけではありませんが、高い年平均成長率を示しています。これは「映画」がCOVID-19による落ち込みが特に大きかったセグメントであり、その反動で、回復が結果として高い数値となって表れています。

一方、既存メディアは全体として成長率が低く、一部ではマイナス成長となっています。既存メディアは、その規模は依然として大きいのですが、相対的にみると全体に占める割合は小さくなっていくものと予想されます。

デジタルメディアと既存メディアの間にあるセグメントについては、「屋外広告」はデジタル化への移行が進み、「音楽・ラジオ・ポッドキャスト」はネットによる配信が増えてきているなど、主にデジタル化の追い風を受けて成長していくと予測しています。

図表2:セグメント別年平均成長率(2021~2026)

収益変化について見ると、世界的に「広告収益」が増えていくと想定されます(図表3参照)。

広告収益の増加の大部分はインターネット広告が占めています。テクノロジーの進展や消費者行動の変化が進む中で、広告の役割も変わってきており、従来のマスメディアを通じた画一的な広告から、個人にあった内容を提供するパーソナル広告など、広告手法の多様化が進んでいます。こうした変化により広告そのもののビジネス上での位置づけが変わる中で、その重要性が高まり、また活用範囲も広がってきました。その結果として、こうした広告収益の増加が起きていると推測されます。

図表3:消費者・広告・インターネットアクセス別収益(2017~2026)

次に、エンタテイメント&メディア業界の内部構造の変化を見ていきます。

「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」では、エンタテイメント&メディア業界に関連した消費者行動、ビジネスモデル、競合企業、規制において生じている変容および分岐を、地殻変動になぞらえて「断層」「亀裂」と表現しています(図表4参照)。

レポートにおいては、複数の断層と亀裂について紹介しています。例えば企業・セクターの領域では、パンデミック以前への回帰の期待と、将来に向けた積極的な活動の2つの異なる動きを断層として描きだしています。それ以外にも、地域間格差、メディアの消費や関わり方、技術革新、市場などの領域における断層について紹介していますので、詳細はレポートを参照してください。

図表4:断層と亀裂に関する例示

これらの断層と亀裂によって、3つの影響が生じると考えています。

  1. マーケットにおける消費者行動の変化
  2. 変化する外的環境に対応する企業の変化
  3. 市場の安定性を考える政府も含めた競争環境自体の変化

企業はこうした影響に対して、現在有する資産を活用したり、強みを生かしたりするだけでは、対応できない可能性があります。そのため、優先度の低い資産は売却するなど企業全体のスリム化を図りつつも、自社の持つ複数の資産や強みを複合的に組み合わせて収益源を多様化するような動きが目立ってくるだろうと考えています。

また資金調達についても、SPACといった株式市場からの資金調達や、エンジェル・クラウドファンディングといった形で多様化が進み、また活性化されていくだろうと考えています。同時に、調達した資金についても、クリプトなどの暗号資産も含めて多様なものが投資対象となっていくでしょう。企業はこうした新しい形の投資に対し、どのように取り組むのか、その判断が問われているといっても良いかもしれません。

一方、政府の対応としては、メガプラットフォーマーという巨大なプレイヤーのみならず、新技術にどのように対応していくのかという点において、今までにない規制のスキームをどのように作っていくかが求められています。公共利益やパーソナルデータという新たな形の個人資産を守りながら、国や経済圏自体を安定させることが求められており、これに積極的に対応しない場合は政府の信頼が大幅に損なわれると予想しています。

日本の動向

続いて、日本におけるエンタテイメント&メディア業界の動向をグローバルと比較して見ていきましょう。

日本経済全体を見てみると、グローバル全体と比較して、COVID-19からの回復は緩やかなペースとなっているようです。また経済成長そのものも、新興国を中心に急速に拡大しているグローバルマーケットと比較して、日本は低くなっています。経済成長率は、先進国は全般的にグローバル平均よりも低くなっていますが、日本はその中でも低めの数字となっています。そのためエンタテイメント&メディア業界も、基本的な傾向としては、年平均成長率はグローバルと比較して低く、そのマーケットシェアも年々低下することが予想されます。

  • 全体の年平均成長率(CAGR):グローバル4.6%に対し日本は2.4%(図表5参照)
  • 2026年の日本のマーケットシェア:対世界市場では7.5%、対アジア市場では20.6%(図表6参照)

図表5:エンタテイメント&メディア業界の総収益と成長率(2017~2026)

図表6:日本のエンタテイメント&メディア業界マーケットシェア(2017~2026)

経済全体の成長が緩やかな傾向にある日本ですが、エンタテイメント&メディア業界特有の傾向もあります。
セグメント別成長率において、「VR・モバイルAR」といった先進領域はグローバルと比較しても日本はより高い成長が予想されています(図表7参照)。日本には、新しいデジタル技術やエンタテインメントといった領域に早く飛びつく傾向のある「アーリーアダプター」と言われる層が多く存在しています。そのため「世界のアーリーアダプター」や「未来の製造国」と表現されることもありますが、このことが先進領域において日本の高い成長率をもたらしていると考えられます。
しかし、既存領域については全般的に低い成長率が予想されます。日本はアーリーアダプターの動きが活発な一方、産業構造自体の変革のペースはゆっくりとしており、重心の移動は遅めの傾向にあります。ここで紹介したエンタテイメント&メディア業界における数字でも、その傾向が如実に表れていると考えられます。

日本のマーケットは、新しいテクノロジーを活用したサービスやゲームなどにおいて世界のマーケットの中に占める割合が高く、またこれらテクノロジーに対する受容性が高い人が多く存在するため、新しい挑戦をする場所としては面白い市場と言えるでしょう。

図表7:セグメント別年平均成長率比較(2021~2026)

図表6 日本とグローバルの年平均成長率比較 (2019-2025)

次回は、業界のトレンドの1つであるNFTをテーマに、PwC弁護士法人、PwCあらた有限責任監査法人、PwC税理士法人、PwCコンサルティング合同会社、それぞれの視点からNFTビジネスの障壁と今後の展望をご紹介します。

主要メンバー

森 祐治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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