エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂

第2回:NFTに係る法務・監査・税務の課題

  • 2023-03-29

PwC Japanグループは2022年12月15日、メディア関係者を対象に、VR空間上でセミナー「エンタテイメント・メディア業界の断層と亀裂―新たな競争環境におけるイノベーションと成長―」を開催しました。当日はPwC Japanグループの各法人からそれぞれの領域のプロフェッショナルが登壇し、業界のトレンドやNFTビジネス、メタバースに関する今後の展望ならびに課題について講演しました。

当日の様子を振り返る本連載の第2回では、エンタテイメント&メディア業界の今後のトレンドの1つとなり得る「NFT」に焦点を当てます。PwCあらた有限責任監査法人マネージャーの加藤喜美がNFTの今後の見通しについて解説した後、PwC Japanグループの3名からNFTをめぐる課題について論じます。

登壇者

PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー
加藤 喜美

PwC弁護士法人 シニアマネージャー
柴田 英典

PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター
高島 静枝

PwC税理士法人 パートナー
西田 宏之

(左から) 加藤、柴田、高島、西田

(左から)加藤、柴田、高島、西田

※法人名・役職などはイベント開催当時のものです。

NFTとは―考えられる今後のシナリオについて

加藤:
NFTとは、Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略語で、偽造や改ざんが難しいブロックチェーン技術により、デジタルデータの唯一性を証明できるという特徴を有しています。

エンタテイメント&メディア業界では付加価値を与える要素として利用され、NFTを活用したビジネスが広まりつつあります。具体的な市場規模を見ていくと、2021年のNFTの総収益は実績ベースで278億米ドルに上っており、PwCでは今後5年間の見通しについて3つのシナリオを想定しています。

コアシナリオとしては、2022年の勢いがこのまま継続することを想定しています。ベストシナリオは、2022年後半から勢いがさらに加速し、2026年までに毎年過去最高を更新する想定です。一方、ワーストシナリオでは、2022年後半にNFTバブルが弾けて失速し、2023年には完全に崩壊するというシナリオになっています。

これらのシナリオを踏まえ、PwC Japanグループの法務・監査・税務の専門家より、それぞれの領域からNFTについて解説してもらいます。

図表1:NFT収益の3つの予測(コア/ベスト/ワーストシナリオ)

NFTに関する法的課題

柴田:
NFTに関する法的課題という視点から、3つの論点について触れていきます。

1つ目の論点は、金融規制です。

NFTに対して「金融規制が及ぶか否か」「金融規制が及ぶとして、どのような内容のものとなるか」という議論がありますが、「NFTの背後にあるものは何か」という点や、「NFTがどのような用途で使われるのか」といった点が大きく関わってきます。

つまり、「NFTについてはこの規制」というように、NFTに対して一律の規制が必ず及ぶということではありません。NFTが紐づくものや用途などを個別具体的に検討する必要があるのです。

NFTに紐づくものが何かという点を、法的観点から整理したものがオレンジの表(図表2参照)になります。

例えば、会員権やコンサートチケットがNFT化されたものであれば、その背後には、何らかの権利や契約上の地位があるでしょう。また、いわゆるNFTアートであれば、デジタルアートというデータに加えて、アート作品の利用権が紐づいている場合もあります。真贋鑑定書としてNFTが用いられるときは、「本物であると誰々が鑑定した」といった、事実に関する情報が紐づいていることもあると考えます。

一方、ピンクの表(図表2参照)は、NFTに対して適用されうる金融規制について簡単にまとめたものです。詳細は割愛しますが、図表2におけるポイントは2つです。

1点目は、オレンジの表とピンクの表は必ずしも1対1で対応していないので、やはり個別具体的に検討する必要があるという点です。特に「暗号資産」の該当性については、具体的な状況によっては判断が難しいこともあります。

もう1点は、オレンジの表とピンクの表のどちらも日本の金融規制についてのみであるという点です。NFT取引がグローバルで行われる場合、日本以外の海外の規制についても気を配る必要があります。

図表2:NFTに関する法的課題(1)金融規制

2つ目の論点は、刑法上の賭博罪についてです。

賭博罪となる要件は「偶然の勝敗により、財産上の利益について、得喪を争う」、簡単に言うと「勝ち負けを争う」ということです。なお、「一時の娯楽に供するもの」(例:食事やタバコなど、価格が小さく、すぐに消費できるもの)を賭ける場合には、賭博罪としての処罰の対象外となることがあります(図表3参照)。

ここで1つ事例を紹介します。いわゆるランダム販売(中身がわからないような形で複数のNFTを1つのパッケージとして販売する手法)について、賭博罪への該当性が議論されています。海外ではランダム販売を行いつつ、販売主体がNFTの二次流通市場・マーケットプレイスも運営するというビジネスモデルが展開されています。

日本においても類似のビジネスモデルを行うことが論点となっていますが、この点については業界団体がガイドラインを公表しており、一定の類型について、賭博罪への該当性が否定されています。しかし、ここでも「個別具体的に検討することが望ましい」という点は課題として残らざるを得ません。

また、もう1つの課題は、必ずしも法的なものではありませんが、どのようにNFTを利活用するかという点です。

ランダム販売の対象とされるNFTは、値上がり益、あるいは当たり枠の高額なNFTを期待する消費者が投機的に購入しているという側面もあります。しかし、上記のとおりNFTにはさまざまなユースケースがあります。ランダム販売に頼らない、ユーティリティに重点を置いた利活用の模索が期待され、今後このような利活用がより一層広がっていくと考えられます。

図表3:NFTに関する法的課題(2)賭博罪

最後の論点は、私法的な権利関係の話で、プラットフォームを越えた移転についてです。NFTの特徴として、2点触れます。

まず、技術的には、NFTはプラットフォームを越えて移転・利用が可能であり、それゆえに価値が高まります。

一方、法的観点からは、NFTに紐づく権利、例えばアートNFTでいうアートの利用権が存在する場合、「NFT」というブロックチェーン上の記録を移転しても、それをもって利用権までただちに移転できるわけではありません。利用権の移転には、利用規約など何らかの法的な合意が必要です。そのため、NFTの取引に関しては、NFTに関する権利関係を整理した上で、NFTの移転とその背後にある権利の移転とを一致させる法的な仕組みが必要になります。

特にプラットフォームを越えたエコシステムを形成するためには、共通規格の利用といった技術的な連携のみならず、法的側面からも、利用規約の統一化や業界標準の作成といった連携が必要です。どちらも1社で行うことができないものなので、業界全体で議論・協力しながら取り組みを進めていくことが重要です。

図表4:NFTに関する法的課題(3)プラットフォームを越えた移転

監査人が考える NFT のリスクと対応

高島:
監査の視点から言えば、さまざまな法的課題のある中でNFT市場に参入するのであれば、リスクを十分に理解したうえで、そのリスクに対して適切かつ十分にリスクを低減できる会社内の内部統制を整備・運用することが重要だと考えます。

また、NFTに参入するにあたっては、特に暗号資産への該当性やプラットフォームを越えた移転時にまつわる法的な権利の性質を会計上どのように記載するのか、という観点が重要です。

リスクおよび法的権利の関係に係る課題については、日本市場特有のものではありません。海外のNFT市場に参入しても、非常に重要な論点となっていますので、ご留意ください。

図表5:監査人が考えるNFTのリスクと対応

税務的にみる NFT のリスクと展望

西田:
日本のNFTの税制自体は、ビットコインに代表される仮想通貨などを想定して作られています。ただ一方で、ビットコインに関して無申告などの問題を生じさせたこともあり、原則としてNFTに関する税制は高い税率を課すなど「厳しい」作りになっています。

これらに対し、Web3で想定されているような、トークンエコノミーで利用されているガバナンストークンの場合は、アニメなどのクリエイターのコンテンツを国内にとどまらず広く販売するために発行されるものであり、ビットコインとは性質が大きく異なっています。具体的には、特定の発行者が存在したり、事業が存在したりするところが相違点として挙げられます。

そのため、ビットコインと同じような厳しい税制にせず、例えば(2022年)12月の税制改正大綱などにおいては、プラットフォーマーへの課税を軽減できないかという点も検討されています。

一方、上記のような高い税率がかけられていることにより、NFTを扱える人材やプラットフォーム自体が海外に既に流出してしまっているという問題があります。12月の税制改正があったとしても、市場の発展を考えると、日本と海外の双方の税制について引き続き検討しなければなりません。

図表6:税務的に見るNFTのリスクと展望

図表7は税制を中心に、留意事項を示しています。

先ほど日本の税制は「厳しい」という問題を指摘しましたが、NFTについて多くの「不透明性」が存在しているところも重要なポイントになります。NFTに限らず、実際のトークン・暗号資産に関する財・サービスの進歩は非常に目まぐるしく、税務当局や私たちのような税務アドバイザーの想定を超えるような財・サービスが日々生まれており、網羅的な税制を整備できていません。そのため、税務当局も最低限の考え方を示すようなガイドラインしか提供できていないのが実情です。

図表7:現状想定される税制論点

※1 国税庁,「暗号資産に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和4年12月)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/
※2 国税庁,「No.1525-2 NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525-2.htm

次回は、NFTのユースケースの広がりおよび課題解決に向けたロードマップをご紹介します。

主要メンバー

西田 宏之

パートナー, PwC税理士法人

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高島 静枝

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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柴田 英典

シニアマネージャー, PwC弁護士法人

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加藤 喜美

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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