シリーズ:経理財務業務のDX

【第1回】DX経理の必要性の概論

  • 2023-11-05

1. はじめに

社会の急速なデジタル化やコロナ禍によるおける顧客の行動変化、新しい生活様式の浸透などを受けて、あらゆる事業や機能においてDXの推進が求められています。しかしながら、企業の経理部門の多くは「DXの効果が不明確である」「IT投資を説明できない」「DXを考える人手がいない」などを理由にDXに着手できず、従来の経理業務を継続しています。

本稿では、DXが求められる背景や高度化が進む経営、ビジネス環境の変化を踏まえながら、経理部門に寄せられる期待や、そのあるべき将来像について解説します。その上で、会社の競争力強化や企業価値向上に貢献するデジタル化された次世代経理への変革(DX経理)の必要性について論じます。

2. DXの全体像

2-1. DXとは

DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略であり、経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 と定義しています※1

DXは単にITシステムやツールを導入して終わりというわけではありません。データとデジタル技術を活用した経営全体の変革(トランスフォーメーション)を指します。

2-2. DXが求められる背景

企業を取り巻くビジネス環境は目まぐるしく変化しています。これまでの経営姿勢では、競争力の低下による収益性の悪化、コンプライアンス違反、労働環境の悪化など、企業の持続可能性に関わる多くの問題に直面するリスクが高まっています。このような状況を乗り越えるためにDXの推進が必要になっています。

  1. テクノロジーの急速な進化
    デジタル技術の進歩が非常に速いペースで進行しており、新しいテクノロジーやツールが次々と登場しています。このような状況下においては、テクノロジーを積極的に活用する競合他社に追随して、競争力を維持する必要があります。

  2. 顧客の期待の変化
    顧客はオンラインショッピング、ボイスボットによる問い合わせ、オンラインセッションといったリアルタイムで便利なデジタルサービスを求めており、ライフスタイルや消費行動を急速に変化させています。企業はこれらの顧客ニーズを満たすためにDXを推進する必要があります。

  3. 競争の激化
    デジタル技術の進化は途上国へと波及すると同時に、ビジネスのボーダレス化を促進し、グローバル市場での競争をますます激化させています。企業は効率的なプロセス、革新的な製品、迅速な市場投入を実現するためにデジタル技術を活用する必要があります。

  4. データの価値化
    数量や顧客情報などあらゆるものがデータ化され、非財務情報活用の潮流によってデータの価値が飛躍的に高まっています。企業はデータ分析とインサイトへの活用によって競争優位性を築く必要があります。

  5. 予測不能な変化
    地政学リスクの高まりやパンデミックの発生など予測不能な出来事がビジネス環境に大きな影響を与えています。企業には柔軟性を持ち、迅速な対応が可能なデジタルプラットフォームとプロセスを構築することが求められています。

  6. リモートワークとデジタルコラボレーション
    コロナ禍を契機としてリモートワークと柔軟な労働環境の必要性が浮き彫りになりました。書類を前提とした対面による仕事の仕方から、ウェブツールを使い、データを活用して場所や時間に縛られない勤務形態への転換が求められています。

2-3. DXの取り組みとは

DXの取り組みは、Digitization、Digitalization、Digital Transformationという3つの段階で説明できます※2。DXはデータ化、ビジネスプロセスのデジタル化から全社的な改革へと段階的に高度化することで企業の競争力を高める取り組みです。

  1. Digitization(デジタイゼーション)
    アナログ・物理データを単純にデジタル化することであり、紙文書の電子化やデジタルツールの導入による一部の作業工程の効率化が挙げられる。
  2. Digitalization(デジタライゼーション)
    特定の業務・プロセス全体をデジタル化して、付加価値向上や効率化、高品質化を図ること。
  3. Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
    全社的な業務・プロセスのデジタル化であり、企業や組織がデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革し、競争力を強化すること。

2-4. DXによる経営の高度化とは

このように絶え間なく変化する経営環境下において企業が持続的に成長していくためにはDXを積極的に推進し、経営そのものを段階的に高度化させる必要があります。以下の6つの経営アジェンダの観点から、DXによる経営の高度化について説明します。

  1. デジタル戦略策定
    デジタル技術をビジネス戦略に組み込み、市場変化に適応し、競争優位性を築くための戦略策定を可能にします。例えば、外部情報をリアルタイムに取得してデータを分析したり、AIを活用したりすることで、顧客期待の変化に合わせた戦略の見直しを実行します。

  2. バリューチェーンのDX
    デジタル技術の導入がサプライチェーンプロセスの透明性、信頼性、効率性を大幅に改善します。例えば、AIアルゴリズムを活用して需要予測の精度を向上させ、在庫の最適化を実現します。ブロックチェーン技術の導入によって、受発注や入出荷の取引の透明性と信頼性を高めます。また、センサーを使用した生産ラインのリアルタイムモニタリングによって生産効率を高め、不良率を低減させます。

  3. 経営管理/コーポレート機能のDX
    経営管理やコーポレート機能は、積極的にデータを活用する経営モデルに転換しつつあります。例えば、データ分析ツールやBIプラットフォームの導入により財務データをリアルタイムに可視化すれば、マネジメントは収益性やコスト管理に関するインサイトを迅速に得ることができます。また、データの収集とAIの活用をリアルタイムに行うことによってリスクをモニタリングすれば、その発生を予測することが可能となります。これにより、予防的な対策を講じることができます。

  4. 人材・組織・カルチャーのDX
    DXは組織の進化に多くの側面で貢献し、従業員の生産性やスキルの向上、労働環境およびカルチャーの変革を促進します。具体的には、リモートワークオプションやクラウドベースのコラボレーションツールを採用することで、従業員に柔軟な職場環境を提供し、また遠隔地からの採用を可能にします。また、オンライントレーニングやeラーニングツールを通じて、従業員のスキルを向上させたり、イノベーションの文化を醸成したりできます。

  5. DX実現に向けたITプラットフォームの整備
    DXの実現に向けては、ITプラットフォームの整備が不可欠です。クラウド化、データレイクの設置、データ連携などの環境の整備のほか、BIツール、RPA、AIなど小規模または簡易なテクノロジーを組み合わせることで、柔軟性と拡張性を持つIT基盤を整備します。また、セキュリティとプライバシーに対する強力な対策を組み込むことができます。

  6. デジタル技術を活用した新規ビジネス/事業の推進
    新たなビジネスモデルの創出を促進し、デジタルプラットフォームやデータを活用した新たな収益源を開拓する機会が生まれます。例えば、製品からクラウドベースのデータ収集し、運用状況をモニタリングすることで、サービス収益を増加させます。また、デジタルのエコシステムを構築し、メーカー、加工会社、小売業者などが参加し、データ共有と価値共創を促進できます。

以上のことから、DXとは「ビジネス環境の目まぐるしい変化に対応し、データとデジタル技術を活用する戦略を策定することでバリューチェーン、コーポレート機能、人・組織・カルチャー、ITプラットフォームを改革し、新規事業創出を促進して、競争優位性の確立や企業価値の向上を図ること」と言い換えることができます。

3. 経理部門への期待とDX経理の将来像

3-1. 企業を取り巻く環境変化と経理部門への期待

このように企業がDXを推進し、経営を高度化するなかで、経理部門は競争優位性の確立や企業価値向上に向けて経営を支援する組織へと変革することが求められています。

  1. ビジネス環境の変化への対応
    顧客行動が変化し、競争が激化する経営環境のなかで、経理部門にはデータ分析と予測モデリングを活用することで、ビジネスのデータドリブンによる意思決定を推進し、マネジメントに対して戦略的なアドバイスを提供するアドバイザーとしての役割を果たすことが期待されています。

    経理部門はマネジメントを支える組織として、従来の財務資本だけではなく非財務資本を活用することで、企業の持つ無形資産の価値を強化する必要があります。さらに無形資産を活用して企業価値の向上につなげるストーリーを発信し、中長期的な価値創造に対する市場の期待を高めることが、これから重要な役割になっていきます。経理部門は単なる財務数値の作成責任者・管理責任者というだけではなく、無形資産という経営資源と、社会・環境を含むステークホルダーを統合的に管理し、価値創造経営をサポートすることが求められています。

    また、新たなビジネスモデルの創出やグローバル競争の激化によるM&Aの増加に伴い、新規会社・事業における組織再編や、スキームづくりにおける法規制の与える影響の評価などに際しても、経理部門は戦略的なアドバイザーとしての役割を果たすことが大いに期待されています。

  2. 法規制環境の変化への対応
    予測不能な変化に関して、ステークホルダーへ積極的に情報発信し、対話を行うことの重要性が増しています。経理部門は透明性のある財務報告をタイムリーに提供することで、IR活動に貢献する必要があります。

    また、デジタル化によって、法規制変更やビジネスプロセスの見直しの機会が増えていきます。経理部門は会計原則や法制度要件に従った財務報告プロセスを適切に設計し、経理・財務・内部統制の観点から事業部に対して助言・指導する役割が今まで以上に期待されています。

  3. 労働環境の変化への対応
    労働人口の減少により経理人材が量と質の両面で不足しており、決算BCPリスクは深刻化しています。データとデジタル技術を活用した透明性、信頼性、効率性のある経理・決算プロセスをグループ全体で構築し、リモートワークとデジタルコラボレーションにより経理業務を変革することが喫緊の課題となっています。

    また、働き方の多様性を認め、従業員に対して柔軟性のある魅力ある職場環境や、ビジネス経験や専門性を深められるキャリアの選択肢を提供できなければ、適格な経理人材の確保・維持は困難になり、人材の流出につながります。

3-2. 経理部門が検討すべき論点

経理業務の過半数は事務処理であり、専門知識や経験の豊富な経理人材ですら事務処理に多くを費やされているのが現状です。経理部門は、データとデジタル技術を活用して、事務処理にかける工数を大幅に削減し、ビジネスインサイトを提供することや、コンプライアンス・統制機能を果たすことに今まで以上に力を入れることが求められています。そして、経理人材はビジネスパートナーのマインドとスキルを持った人材へと変革する必要があります。

  1. 事務処理工数の大幅削減
    大量の紙媒体によるデータ管理、膨大な手作業、表計算ソフトのバケツリレー、経験と勘による判断。これらを撲滅し、デジタル化、データ連携、データ活用により事務処理工数を大幅に削減し、経理人材の役割を付加価値業務へシフトできるキャパシティを作る必要があります。
  2. ビジネスインサイトの提供やコンプライアンス・統制に係る機能の強化
    経理人材の工数をビジネスインサイトやコンプライアンス・統制に係る機能へとシフトさせることが求められます。
    デジタル技術を活用し、予測とシミュレーションにより、迅速かつ最適な意思決定を支援します。また、企業内の大量な情報からリスクや不正を特定し、その予兆を検知する高度なガバナンスを実現します。そのためには、全社の財務数値と関連する非財務数値を含むデータを統治する必要があります。
  3. 経理人材のビジネスパートナー化
    経理人材は、データとデジタル技術を活用して、ビジネスと経営課題を探索し、分析するスキルを持ったアナリストや、経理・財務のスペシャリストとしてマネジメントや事業・機能部門に提言していくビジネスパートナーに変革する必要があります。

3-3. DXによる経理の将来像

これまでの経理業務は、現場にて販売・購買の外部証憑に基づいてデータ入力を行い、バッチ集計、表計算ソフト上のデータ加工および再入力処理を経て、経理部門が審査をしてデータ化するというものでした。また、決算時の締めで正確性や抜け漏れをチェックし、月末の役員会に向けて何度も差異分析や資料作成・報告を実施するというもので、人と時間に余裕があることを前提としたオペレーティングモデルです。

デジタル化された次世代の経理は、サービス提供面、品質面、効率面で大きく変革することが想定されます。財務データは外部情報からリアルタイムにレポート化され、マネジメントは日々自ら分析し、経理部門はデータを活用して提言します。財務データの透明性と信頼性を担保可能な仕組みが構築され、レポートから諸元までトレース可能であるため、経理部門は異常値にフォーカスすることができます。財務データの作成は自動化と効率化が進み、経理部門の業務は予想と予防へとシフトします。

  1. リアルタイム・レポーティング・アナリティクスの活用
    • 販売・購買情報を電子データで受領し、即時にレポート作成
    • マネジメントは日報をセルフサービスBIで直接確認し、担当者に分析を指示
    • 経理人材はタブレットを使い、アナリティクスにより事業・機能部門担当者へ課題の報告、改善策を提案
  2. 品質・トレーサビリティの大幅向上
    • 差異理由は分析レポートから諸元の非財務データに直接トレース可能
    • AIが異常値や例外値を検出し、リアルタイムに通知
    • データの正確性や妥当性は仕組みにより保証され、経理人材は異常や例外に対する承認や監査を実施
  3. デジタルによる予想と予防業務へシフト
    • データ連携と自動化によりミスを撲滅
    • 月次・四半期決算はバーチャルクローズされ、経理人材は自動化された業務をモニタリング
    • データ活用による予想と予防により、インシデント工数とコストを抑制

4. おわりに

DXは、単なるITシステムやツールの導入ではなく、データとデジタル技術を活用し、経営そのものを段階的に高度化する取り組みです。
経理部門は、DXによる経営の高度化と足並みを合わせて、会社の競争力強化や企業価値向上に貢献するデジタル化された次世代経理への変革(DX経理)に取り組む必要があります。
しかし、DX経理は大きな変革であり、その取り組みは一足飛びにたどり着かない長い道のりになります。経理部門は改革に向けた整備事項(プロセス、データ、システム、人材、組織)に対して包括的にアプローチしていくことが必要です。また、DX経理の将来像を目標として描き、企業戦略の優先順位やデジタル技術発展などに合わせて、段階的に進めることが重要です。

(以上)

経済産業省, 2022,『デジタルガバナンスコード2.0』

2 経済産業省, 2018,『DXレポート2(中間取りまとめ)』

執筆者

東 雅彦

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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