
第9回「グローバル原価管理を実現するために必要なデータ」
今回は「使える原価情報」として満たすべき要件のおさらいとともに、原価管理のあるべき姿を実現していくためにどんなデータが必要となるのかを考えます。
2020-03-10
前回のコラムでは、使える原価情報とするための必要なデータを紹介しました。原価改善施策まで落とし込むには、どの工程で、どの製品を作るときに、どんな要因で原価が変動しているのかを特定する必要があり、工場の現場で言えば、原材料消費量、段取り時間、加工時間といったデータがリアルタイムで把握できることが理想的であると述べました。
そんな原価算出のための生産実績データを網羅的に把握することの必要性や対応策について検討してみるのが今回のテーマです。
そもそも、すべての生産実績データを揃えるべきなのでしょうか。もちろん、実際原価計算をするにあたって、原価情報が細かく揃っていることは理想的です。しかし、全工程の受払いや生産実績の精緻なデータを網羅的に収集することは現実的ではありません。原価情報を収集する目的は、原価を正確に把握し、原価低減や価格決定につなげていくことにあります。その目的に照らすと、以下のようなケースは、実績データを収集しなくても理論値で代用することで十分と言えます。
原価算出のための生産実績データすべてを網羅することが現実的でない以上、データ収集対象を絞り込むことが必要です。ただ、自社の工場で、収集すべき項目と収集する必要性の低い項目について明確に整理されている企業は少ないのではないでしょうか。日報に記載する項目が増え、付帯作業だけが増えてしまっていたり、データは収集しても施策に生かされていなかったりといったケースはあまりにもったいないと言えます。
データ収集から原価低減までの一連のプロセスをストラテジックに回していく上で、「現場の原価低減は製造部門の責任」と任せきりにするのではなく、図表3でイメージしたように、本社部門や原価管理部門が製造部門とタッグを組んで、自社のコスト構造や原価低減の余地があるポイントを明確にしていくことから取り組み始めるべきです。大きなバラツキを生んでいる部分はどこか、ボトルネックが発生している部分はどこかを見極め、もっとも改善余地の大きいところをねらってデータ収集を進めていくことが賢明です。
原価低減施策につながる原価情報を見極め、大きな改善につながる見込みがあれば、コストをかけてでも生産実績データを収集すべきでしょう。そのコストは属人的な部分が多く、工員が都度計器を見てデータを収集する、実績値を日報に反映して記録を継続するというのが典型例ではないでしょうか。ところが、今日、センサー技術の向上を背景に、製品の品質やコストを左右するデータを、リアルタイムに、より安価に、人手を介さず正確に収集していくことが可能になってきています。生産実績データの収集におけるQCD(Quality:正確に,Cost:安価に,Delivery:リアルタイムに、高頻度で)を飛躍的に向上させ、収集すべき原価情報の網羅的な把握を一段と押し進める契機となるでしょう。このようなセンサー技術に代表されるIoT技術と原価管理の動向を次回のテーマとします。
丸山 洋一
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
今回は「使える原価情報」として満たすべき要件のおさらいとともに、原価管理のあるべき姿を実現していくためにどんなデータが必要となるのかを考えます。
原価改善施策では、どの工程で、どの製品を作るときに、どんな要因で原価が変動しているのかを特定する必要があります。原価算出のための生産実績データを網羅的に把握することの必要性や対応策について解説します。
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