
日本の保険事業者が知っておくべき「2025年の必須課題」トップ10
日本の保険会社は競争力を維持し、グローバルに成長するために、変革を続けなければなりません。本稿では、今日の課題を乗り越えながら自ら変革しようとする日本の保険会社の2025年における必須事項のトップ10について解説します。
2022-08-22
2022年、新型コロナウイルスの感染拡大(以下、新型コロナ)が終息に向かう中で、少しずつ取り戻されつつある日本の経済活動。2022年3月21日に内閣官房からまん延防止重点措置の解除が公表され、飲食業ではかつての活気を取り戻しつつあり、また製造業を中心に業績回復の兆しが見え始めています。
昨今の経済環境はいわゆる「K字型回復(業績回復と業績低迷との両極化が広がる状態)」と評されつつも、国内経済全般が正常化に向かう背景には、給付金制度を含む政府主導の企業支援策が大きく寄与したものと考えられます。そして、こういった企業支援策自体、対面必須のものから、オンライン上で完結するものへと変化してきている傾向が見られます。
2021年9月にPwCコンサルティングが国内の中小企業に対して実施した独自調査の結果によると、「金融機関との融資に関する取引において悩みがある」と回答した企業は全体の2割程度で、現時点で資金繰りに困っている企業は想像以上に少ないことが示されました。一方、「将来を見据えた財務観点の不安があるか」という質問に対しては全体の8割程度の企業が「ある」と回答しました。
新型コロナ特別貸付低金利期間の終了、米中摩擦による生産拠点の移動に伴うコスト負担、急激な物価上昇、円安に伴う中長期的な経済への影響等、今後の経営環境を揺るがすリスク要素はむしろ増えつつある今、将来に目を向け、起こりうるリスクを単に不安視するのではなく、先手を講じて備えることができている企業はどのくらいあるのでしょうか。
本対談では、PwCコンサルティング小林英樹が、財務観点で将来に向けて企業は何を備えておくべきなのか、マネーフォワードケッサイ株式会社取締役会長の家田明氏と議論しました。
対談者
マネーフォワードケッサイ株式会社 取締役会長
家田 明 氏
PwCコンサルティング合同会社
マネージングディレクター
小林 英樹
マネーフォワードケッサイ株式会社 取締役会長 家田 明 氏
小林:
新型コロナ支援金等の措置によって企業にとっての資金調達のハードルが下がり、資金面での問題を挙げる企業が新型コロナ以前に比べてむしろ減ったという話を聞いていますが、今後の資金調達需給状況はどのようになっていくと思いますか。
家田:
企業にとって、資金繰りが永続的にうまくいくことに越したことはありませんが、国内の中小企業における資金調達需要は依然高い状況です。中小企業庁が2020年7月に公表した中小企業実態基本調査によると、国内の中小企業全体の必要運転資金は52兆円に上っています※。そのうち、金融機関からの短期借入金は33兆円に及ぶとのことですが、差額の19兆円は中小企業がなんらかの形で自ら資金調達をする必要があるのです。特に中小企業においては資金調達の約4割が親族借入という話もありますので、元来より財務基盤自体が安定しているとは言いづらいのが実態です。それらも踏まえると、10~20年前に比べても先読みが難しい経済環境の中で、これから先も資金調達に困らないと言い切るのは難しいと思います。
日本銀行に勤めていた前職時代から、とりわけ中小企業の資金繰りが不安定であることに課題を感じています。金融機関による融資は利用ハードルが高く、中小企業向けの安定した資金繰りのための抜本的な解決策は未だ確立されていないのが現実です。そのような中で、1つの手立てとして、十分な融資を受けられていない企業を対象に、利用しやすさを重視したファクタリングサービスを提供したいと考えるようになりました。
※中小企業実態基本調査(2020年7月公表)より、必要運転資金額=受取手形・売掛金+棚卸資産-支払手形・買掛金で算出。
小林:
そのファクタリングサービスは、従来のサービスとどういった点が異なるのでしょうか。
家田:
ファクタリングにはさまざまな種類がありますが、ここでは、売掛先に対して中小企業が保有している債権をファクタリング業者に売却し、資金を調達することを指します。これは担保を前提としないため、金融機関による融資とは別の資金調達手段と捉えることができます。ファクタリングサービス自体は新しい発想ではないのですが、コロナ禍を機にオンラインで完結するファクタリングサービスのニーズが一気に高まりました。従来は、原則対面による利用手続きを前提としていたファクタリングですが、オンラインで完結できることで非対面が徹底され、感染リスクゼロの状態かつ、インターネットさえあればすぐに利用できるサービスへと変化していきました。他にもオンライン型ファクタリングならではのメリットとして以下が挙げられます。
小林:
企業の社会経済活動や経営者の悩み・価値観が大きく変容するなか、融資とは別に、迅速かつ簡単に資金調達を行える方法として、オンライン型ファクタリングへの期待は大きそうですね。融資との使い分けはどのようにお考えですか。
家田:
オンライン型ファクタリングサービスは、融資の置き換えというよりは、融資の補完として資金調達の選択肢に入れておき、融資が受けられない、間に合わない、条件が悪いといったような場合にはオンライン型ファクタリングを使うことになるのではないかと思います。特に、中小企業が求める「短期・突発・少額」の資金調達ニーズに有効ではないでしょうか。そして、ある程度資金繰りや、業績が改善されたタイミングで融資に切り替えるといった使い方も今後は出てくるのではないかと思います。
かつては、金融機関と、マネーフォワードケッサイ株式会社のようなフィンテック企業は市場において対立構造で捉えられていたのですが、近年ではむしろ棲み分けと協業がうまく進んでいます。フィンテック企業はオンライン型ファクタリングサービスの提供ノウハウやそれに関するシステム開発力を持っているのですが、豊富な顧客基盤や信頼感のあるブランドというのはやはり金融機関ならではの強みです。そこで、我々の持つノウハウと金融機関の強みを掛け合わせることで、より幅広い企業に対して資金調達手段を提供し、企業間取引を活発化させることができるのではないかと考えています。
小林:
金融機関とフィンテック企業の協業によって、中小企業にとっては新たな資金調達手段の選択肢が生まれますね。すぐに利用しやすいということで、今後の財務的な備えの一環としてオンライン型ファクタリングによる資金調達手段はさらに利用が拡大していくと思いますが、これからのサービスのあり方として何か意識されていることはありますか。
家田:
ファクタリングサービス自体の信頼性担保です。オンライン型ファクタリングを既にご利用いただいた中小企業の方からはご好評をいただいています。ただ、偽装ファクタリングといって、売掛先が支払い不能になった時にファクタリングのユーザー企業に支払いを求める悪質なサービスも存在します。悪質なサービスによって、ファクタリングのイメージが低下することを避けるべく、オンライン型ファクタリングサービスを提供する複数社で業界団体(オンライン型ファクタリング事業者連絡協議会(OFA))を立ち上げ、ユーザーとなりうる全ての方に安心してファクタリングサービスをご利用いただけるような活動も行っています。
冒頭にありましたが、目先の資金調達はできているものの、将来に向けた資金調達対策は何もできていない企業というのは多いでしょう。そんな時に1つの資金調達手段としてオンライン型ファクタリングを利用し、突発的な事態をうまく乗り越えてほしいと思います。
家田:
このような資金調達手段が確立されるにつれ、特に製造業に特化した観点にはなりますが、サプライチェーンの上流と下流の両方を踏まえた全体的な資金の流れを把握できるようになるのではないかと考えています。企業を超えて取引全体の流れが可視化されるようになれば、オンライン型のファクタリングサービスをはじめとした資金調達手段になりうるサービスの多様化も進むのではないでしょうか。また、財務情報のみではなく、取引等の非財務情報まで踏まえた企業評価が当たり前にできるようになれば、より企業の実態に即した企業評価ができるようになるでしょう。
小林:
おっしゃる通りですね。企業活動の健全性を図る意味での指標としては、国内でいえば製造業が主軸となっていることを踏まえつつ、サプライチェーン領域に注目していくべきではないかと考えます。受発注情報や製品情報等いわゆるサプライチェーンに関連する情報が電子的なデータとして収集されるようになれば、金融機関宛の企業間取引情報の開示や提供、金融機関によるサプライチェーン情報を元にした融資判断がしやすくなり、国内の企業間取引の円滑化・活性化および可視化を目指せるのではないでしょうか。
データ駆動型の社会は徐々に築かれつつありますが、このような社会の実現に向けたポイントは、大企業のみならず中堅・中小企業も含めた全企業を対象に捉えることです。財務情報だけではなく、サプライチェーン情報や昨今注目が集まるESG情報といった非財務情報を活用した経営や事業が可能となるようにPwCとしても支援していきたいと考えています。また、データ駆動型の社会を実現させるためには、社会全体でデータを流通・利活用できる「場(=プラットフォーム)」を提供する企業が必要になってきます。
今後は、資金調達の面だけではなく、社会経済活動全般において企業同士ないしは企業と金融機関・行政機関がデータで繋がり、資金繰りを超えて企業のコストダウンや売上アップに直結するような民間サービスや行政サービスが提供されるでしょう。データありきのサービスの利用を通じて、中小企業の事業も徐々に安定し、ひいては経済全体の活性化に繋がっていくのではないかと考えます。
そして、既にデータを流通・利活用できる「場(=プラットフォーム)」の提供に向けた準備を進めている企業や、社会インフラとも捉えられる「場(=プラットフォーム)」の存在を前提に活動している業界団体は国内外に出現しています。このような企業や業界団体が共通して掲げるビジョンは、「データを収集し、繋げ、可視化し、現状の経営課題を解消すること」です。
2021年に、サプライチェーン情報を中心にデータで繋がる世界観の実現時期について、PwCコンサルティングが大企業を中心に尋ねたところ「2-3年以内」と回答した企業が7.5割、「5年以内」と回答した企業が2.5割で、「1年以内」「実現しない」という回答がなかったところを見ると、既に大企業は企業同士がデータで繋がる社会の実現を現実的なものだと感じていることが分かります。世界全体でデータを流通・利活用していこうとする動きがある中で、国内でもデジタル庁創設に見られるように、官民連携でデータ駆動型の社会の実現を目指しています。今の私たちに必要なのは、組織の垣根を越え、一丸となってデータで繋がる世界を多方面から創り上げることなのです。(小林)
※対談は2022年3月に実施しました。
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HRテクノロジーに対する投資は堅調であり、2020年時と比較して増加しています。近年、生成AIなどのテクノロジーの発達も著しく、今後全ての業務領域でシステム化が進むと考え、人事施策と連動したテクノロジーの活用がより必要となってくることが予測されます。
AIブーム、テクノロジーとビジネスモデルの継続的なディスラプションに伴い、テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)分野のM&Aは2025年も活発に行われる見込みです。
金融サービス業はマクロ経済情勢や地政学的緊張による不確実性に引き続き直面しているものの、メガディールの復活とディール金額の増大に伴い、2025年にはM&Aが活発化するとの楽観的な見通しが広まっています。
井上 真以子
アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社