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2023年12月7日に「犯罪収益移転危険度調査書」(以下、調査書)の令和5年版が発表されました。調査書とは、犯罪収益移転防止法に基づき、毎年警察庁が犯罪の動向やリスクの高い取引などを規定して公表している資料です。どのような改正がなされたか、今回の更新のポイントについて解説します。
【犯罪収益移転危険度調査書とは】 犯罪収益移転危険度調査書とは、事業者が行う取引の種別ごとに、マネー・ローンダリングなどに悪用されるリスクを、日本の視点から、警察庁/国家公安委員会が中心となって評価した結果をまとめた資料です。 日本では、FATFの新「40の勧告」およびG8行動計画原則において、「自国における資金洗浄およびテロ資金供与のリスクを特定、評価すること」や「各国がリスク評価を実施し、自国の資金洗浄・テロ資金供与対策を取り巻くリスクに見合った措置を講じること(リスクベース・アプローチ)」が要請されたことを踏まえ、2014年12月、「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」が公表されました。その後は2014年の犯罪収益移転防止法の改正により新設された犯罪収益移転防止法の規定に基づき、2015年以降は毎年、犯罪収益移転危険度調査書が作成、公表されています。 |
令和5年版の調査書の構成・骨子は令和4年版から大きく変わっていません。マネー・ローンダリング/テロ資金供与に関する主体は3種類、前提犯罪も8種類であり、令和4年版と変わりません。高リスク類型の取引形態、顧客属性も不変です。国・地域に関しては、ミャンマーが追加されましたが、これは、2022年10月に実施されたFATFの措置の追認であり、想定された変更です。また、資金決済法の改正・施行(2023年6月)により、ステーブルコインを扱う電子決済手段等取引業者が認められ、高リスクの商品・サービスとして追加されましたが、現時点で日本に当該事業者は存在していません。一部で既知の項目の追加がなされたということで、全体の骨子は前年と概ね不変といえます。
【図表1:調査書目次と主な記載事項・変更点など】
| 項目 | 主な記載事項 | 追記等 | ||
| はじめに | 経緯・目的 | 経緯・目的、調査・分析結果の概要 | FATF勧告対応法追記 | |
| 1 | 危険度調査の方法 | ガイダンス、本危険度調査 | リスク要素、評価プロセス、調査に用いた情報 | |
| 2 | 我が国の環境 | 地理的環境 | 北東アジア地域にある島国 | |
| 社会的環境 | 人口減少、高齢化 | |||
| 経済的環境 | 世界3位の経済規模、国際金融センター | 経済制裁措置関連国に関する疑わしい取引件数 | ||
| 犯罪情勢等 | サイバー犯罪の増加、テロの脅威の継続 | |||
| 3 | マネー・ローンダリング事犯等の分析 | 主体 | 暴力団・特殊詐欺の犯行グループ・来日外国人犯罪グループ | 特殊詐欺をめぐる近年の犯罪情勢 |
| 手口 | 前提犯罪(窃盗・詐欺・薬物犯罪等8種類を列挙) | ランサムウェアに関するマネロン等 | ||
| 疑わしい取引の届出 | 業態別の届出受理件数、捜査等に活用された情報数 | |||
| 4 | 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度 |
取引形態 | 非対面取引・現金取引・外国との取引 | |
| 国・地域 | イラン・北朝鮮・ミャンマー | ミャンマー追加、FATF加盟停止:ロシア | ||
| 顧客属性 | 反社会的勢力・国際テロリスト・非居住者・PEPs・実質的支配者が不透明な法人 | 国際テロリスト/非営利団体のテロ資金供与への悪用リスク | ||
| 5 | 商品・サービスの危険度 | 危険性の認められる主な商品・サービス | 預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス | 電子決済等取扱業者等、特殊詐欺緊急対策プラン |
| 電子決済手段等取引業者が取扱う電子決済手段 | 新設 | |||
| 暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産 | 暗号資産を巡る国際的動向 | |||
| クレジットカード事業者 | セキュリティ対策強化に向けた検討状況 | |||
| 保険会社等が取り扱う保険、金融商品取引業者等及び商品先物取引業者が取り扱う投資、信託会社等が取り扱う信託、法律・会計専門家など | 高額電子移転可能型前払式支払手段(更新) | |||
| 6 | 危険度の低い取引 | 危険度を低下させる要因取引 | 資金の原資が明らかな取引・国又は地方公共団体を顧客等とする取引等 | |
| 今後の取組 | - | 所管行政庁・特定事業者の今後の取組 | ||
※網掛けは留意すべき変更があった項目。太字は重要な追加、新設。
(出典)警察庁「犯罪収益移転危険度調査書(令和5年)概要版」(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk_gaiyou2023.pdf)を基にPwC作成
令和4年版の調査書は、FATF第4次相互審査にて指摘された事項や相互審査結果公表後に日本政府から発表された「行動計画」に沿った改訂に主眼があったとみられましたが、令和5年版の調査書は、FATF対応に関する法改正等を反映した変更は一部にとどまっています。一方で、実際に急増している犯罪(例:特殊詐欺)など社会情勢、国際情勢の変化に伴う改訂が主体となっており、金融機関等の犯罪抑止の実効性向上を図ろうとする意図が感じられます。
【図表2:主な改訂箇所・内容と根拠となったFATF指摘・行動計画など】
| 改訂箇所 | 改訂内容 | 改訂根拠とみられる事象 |
| はじめに | FATF勧告対応法追記 | AML/CFT(マネー・ローンダリング/テロ資金供与防止)関連法令の一括改正を定めたもの。2022年末成立、2023年から順次施行。 |
| 第2 我が国の環境 | 経済措置関連国に関する疑わしい取引件数 | 外為法改正により拡散金融リスク評価が開始される。調査書でも制裁対応、拡散金融リスクを示したものとみられる。
|
| 第3 マネロン事犯 | 特殊詐欺をめぐる近年の犯罪情勢など | 2023年3月の犯罪対策閣僚会議で示した緊急対策プランを意識したものとみられる。 |
| 第3 マネ ロン事犯 | ランサムウェアに関連するマネロンなど | 2023年3月にFATFが公表したガイダンスがベース。国内でも多発している犯罪。 |
| 第4 危険度(国・地域) | ミャンマー(厳格な顧客管理措置適用) | ミャンマーは2022年11月にブラックリスト入りしていたが、前回調査書には反映されていなかったもの。
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| 第4 危険度(国・地域) | ロシア(FATFメンバーシップ停止) | 2023年2月にFATFは加盟停止、継続中。 |
| 第4 危険度(顧客属性) | 非営利団体のテロ資金供与への悪用リスク | 2022年から内容更新。FATF勧告8「NPO」の改正、日本のNPO管理の低評価への対応とみられる。 |
| 第5 商品・サービス(預金) | 電子決済等取扱業者など | 資金決済法改正、ステーブルコインの取扱い開始を受けた対応。 |
| 第5 商品・サービス(預金) | 特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン | 2023年3月の犯罪対策閣僚会議で示した緊急対策プランを意識したものとみられる。 |
| 第5 商品・サービス(新設) | 電子決済等取扱業者による電子決済手段 | 資金決済法改正、ステーブルコインの取り扱い開始を受けた対応。 |
| 第5 商品・サービス(暗号資産) | 暗号資産をめぐる国際的動向などについて | FATFが毎年6月に公表する調査結果、日本の「デジタル・分散型金融」有識者会議の協議状況を反映、更新。 |
| 第5 商品・サービス(クレジット) | クレジットカード/セキュリティ強化策 | クレジットカード被害急増を受け、経産省が2022年から有識者会議で協議。報告書公表、セキュリティ強化策を打ち出したことに伴う対応。 |
第5 商品・サービス(その他) |
高額電子移転可能型前払式支払手段(更新) |
資金決済法改正、高額プリペイドカードなどの本人確認強化を受けた対応。 |
※網掛けは社会情勢、国際情勢を反映した変更。
(出典)警察庁「犯罪収益移転危険度調査書(令和5年)」をもとにPwC作成
2024年4月に外国為替取引等取扱業者に外国為替取引等取扱業者遵守基準の遵守、制裁対象者対応・拡散金融対策に関するリスクの特定・評価等を求める改正外為法令が施行されます。これを受け、2023年11月、外為検査ガイドラインを再整理し、外為法令等の遵守に関する考え方・解釈および検査指針を示す「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン(以下新ガイドライン)」が制定されました(2024年4月1日適用)。併せて、新ガイドラインで対応が求められる事項の具体的な対応例などを取りまとめた「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドラインQ&A」が公表されており、今後、金融機関等に拡散金融に関するリスク評価が求められることとなります。
今回の調査書では、経済制裁・拡散金融リスクに関連する内容が大幅に追加されることはなかったですが、「主な経済制裁措置関連国に関する疑わしい取引の年間通知件数」に関する記述が追加されており、これをベースに経済制裁・拡散金融などに係るリスクの特定・評価を実施し、各社のリスク評価書に反映させることが求められていると考えられます。また、財務省は令和5年版の調査書とは別に、2024年3月を目途に拡散金融リスク評価書を制定する予定です。経済制裁・拡散金融などのリスクに関しては、兵器に利用されるリスクのある製品(デュアルユース製品)など、関連するリスクは多岐にわたるため、同評価書やFATFのガイダンスなどを参考にしたリスクの洗い出し、各社の評価書への反映も求められます。
リスク評価書への個社固有のリスクの分析・反映もより重要となります。金融庁は2024年3月を期限とした態勢整備を要請していますが、その後に関しては、整備した態勢が有効に機能しているかを検証していく方針を打ち出しています。これは、AML/CFTの運用実態の評価(有効性評価)に軸足を置くFATF第5次相互審査(日本は2028年8月に実施予定)を睨んだ対策です。
こうしたことから、リスク評価に当たっても実効性のあるリスクの特定・評価、金融庁ガイドラインで求められている疑わしい取引の分析結果のリスク評価への反映、営業地域に応じたリスクの反映など、個社の実態に即した評価が一段と重要になると考えられます。さらに、そうしたリスク評価を基にした実践的な対応と、継続的なリスクの見直しが大切になります。
各金融機関では、従来よりも一歩踏み込んだ実効性を意識したうえで、リスク評価の練度を上げていくことが必要となると考えられます。
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