不正調査開示事例の分析

調査報告書から見る不正の傾向と考察 第2回:不正の概要と調査形態

  • 2025-03-27

はじめに

上場企業などで重大な不正が発生した場合、調査委員会を設置して事実解明を行うという実務が定着しています。PwCリスクアドバイザリー合同会社は、2020年から2023年までの間に上場企業が開示した不正行為に対する調査結果を、TDnet(適時開示情報伝達システム)などの公開情報を基に集計しました。開示された不適切事案の集計結果とそれに対する分析について紹介します。
第2回となる本稿では、発生場所・拠点および調査主体、不正発覚の経緯、不正の継続年数、調査形態を切り口として調査報告書の中身を見ていきます。

前提条件

本稿は、2020年1月から2023年12月にかけてTDNetで公表された不正行為に関する調査の開示情報を対象とし、2024年4月末時点で開示されている最終報告書やその他開示資料から読み取れる範囲で集計しています。

集計年は暦年とし、調査の最終結果の開示日を基準にしています。また、同一案件に対して複数の調査報告書が開示されている場合はそれぞれ1件として集計しました。

なお、今後の開示結果に応じて集計範囲が変更される可能性があります。

発生場所・拠点および調査主体

本稿は日本の上場企業を対象としているため、不正の発生場所は日本国内が最多で全体の91.6%(298件中273件)を占めました。日本以外では、アジア地域での発生が多く12.1%(298件中36件)でした。これは中国をはじめアジアに拠点を置く日本企業が、他の地域に比べて多いためと考えられます*1

*1 外務省「海外進出日系企業拠点数調査 2022年調査結果」

図表1:日本の上場企業における不正の発生場所

次に調査主体については、自社で発生した不正事案を自社で調査し報告書を公表したケースは約43%の128件でした。一方、子会社や孫会社などのグループ会社で発生した不正事案を親会社が調査し報告書を公表したケースは117件(約39%)、またグループ内の複数の会社にまたがって発生した不正事案を親会社が調査し報告書を公表したケースは49件(約16%)でした(図表2)。

子会社で不正が発生したとしても、その影響は自社内だけに留まらず親会社やグループ会社にも及ぶことがあります。グループ会社で不正が発生した場合の親会社の取締役が負う責任範囲については議論がありますが、グループガバナンスという観点からは、親会社のグループ会社管理は重要な課題と言えます。

図表2:不正の調査主体

不正発覚の経緯

不正発覚の具体的な経緯については、以下のとおり分類しました。各年の発覚経緯の集計結果は図表3の通りです。

【内部要因による発覚】

①業務処理統制

業務執行部門などが通常業務の中で実施している統制機能

②自白、上申

役職員が当該組織内で発生している不正行為を、上司や関係部署に報告すること

③内部監査

内部監査部、法務部やコンプライアンス部などリスクを管理する部門が実施する社内調査や内部監査、社内アンケートなど

④内部通報

役職員が当該組織内で発生している不正行為を特定の相談窓口に通報すること

⑤他社事例の発生

他社が不正行為を公表したことを契機に、会社が自主点検を実施すること

【外部要因による発覚】

⑥外部からの指摘、情報提供

外部の第三者(取引先、外部機関、顧問税理士、株主など)が会社で起きている不正行為を報告・情報提供すること

⑦当局調査(税務調査を除く)

公的機関が実施する調査

⑧外部監査

監査法人や外部機関が実施する監査(公的機関が実施する調査や税務調査は除く)

⑨税務調査

国税庁や税務署によって行われる調査

⑩報道

組織内で発生した不正行為が、新聞、ラジオ、テレビ、インターネット等で報道されること

⑪追加・確認調査

会社で調査を実施し、最終報告書の開示や適時開示がなされた後、関連する不正行為について追加で調査を実施すること

⑫内部告発(報道機関への告発を除く)

従業員らが、所属する組織内で発生している不正行為を外部の監査法人やその他機関(消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤルなど)に情報提供すること

⑬不明

不正行為の発覚の経緯が明確に記載されていない

⑭その他

上記以外の経緯で不正行為が発覚した

図表3:不正発覚の経緯

本稿では、不正を会計不正、品質不正、競争法違反、贈収賄、その他法令違反などの5つに分類しています(関連記事①)。集計の対象とした不正行為のうち、48.7%(298件中145件)は外部からの指摘や当局調査といった外部要因により発覚しました(図表3)。これを調査報告書の件数が多い会計不正と品質不正について着目すると次のような特徴があります。

会計不正では、外部からの指摘、外部監査や税務調査など、外部要因によって不正が発覚したケースが50%(176件中88件)を占め、内部要因によって不正が発覚したケースは40.9%(176件中72件)でした。他方、品質不正では外部要因により不正が発覚したケースは15.4%(39件中6件)であるのに対し、内部要因によって不正が発覚したケースが69.2%(39件中27件)を占めました。

会計不正は品質不正と比較して外部要因により発覚している割合が高くなっています。これは外部監査や税務調査などによって、財務報告プロセスが評価される機会が多いことに起因していると考えられます。
品質関連業務においても、当局の監査や監督が存在している場合もありますが、開発、製造から出荷、品質管理のプロセスが評価される機会は会計監査や税務調査ほど多くはありません。近年、品質不正という存在が広く認識されると共に、コンプライアンスの重要性が社会や企業および従業員にも浸透したこともあり、内部通報などにより発覚するケースが出ているとも考えられます。

全体として発覚の経緯として最も多かったのは、外部要因である「外部からの指摘、情報提供」で13.4%(298件中40件)でした。具体的には、上述の外部監査や税務調査に加え、取引等について疑義を持つ元従業員、取引先担当者等から会社へ情報提供があった、といったことが挙げられます。
2022年6月に施行された改正公益通報者保護法により、改正前より通報者が保護される要件が緩和されたことで、公益通報制度のより積極的な活用が期待される中、従業員が自社に通報しやすい内部通報制度の整備、周知および従業員教育を実施することが、会社の課題の一つとなっています。
しかし本稿の集計結果からは、会社の不正を発見するためには、会社内の声をすくい上げることに留まらず、外部の声を収集する仕組みも重要であるということが示唆されます。

(品質不正に関する詳細記事はこちらの関連記事②、関連記事③をご覧ください)

不正の継続年数

図表4:不正の継続年数

不正の種類別に平均継続年数を集計したところ、品質不正が最も長く、約23.8年でした。
品質不正では、20年以上続いていた事案も19件あり、最長で50年でした。なお、不正の開始時期を特定する資料が残っておらず、把握できる最も古い時期と開始時期として集計したケースも複数あるため、実際の平均継続年数はさらに長いと見られます。不正行為が歴代の担当者に引き継がれて行われたり、過去に不正行為に関与した者が上長となっていたりといったことが原因で発覚しにくいという面があります。また不正と認識していても、報告したことで不利益を被ったり、周囲にもみ消されたりしないかとの懸念から止められなかったケースや、会社のためになると思って行為を継続するなど、不正を許容する組織風土を長期化の原因として指摘する報告も複数ありました。
品質不正が起きる背景には、コスト削減や納期優先といった組織内のプレッシャーや、不正行為と認識せず慣行に従っているだけというコンプライアンス意識が欠如しているケースが多く見られます。また品質に対する自信が過信となり、法令等や顧客との間で決められている手順を遵守しないこともあります。

調査形態

(1)調査の主な形態

調査形態は以下の「社内調査委員会」「社内調査委員会に外部専門家を加えた調査委員会(社内調査委員会+外部専門家)」「外部調査委員会」の3つの形態に大きく分類しました。

①社内調査委員会

会社の役員(会社法上の役員(代表取締役、取締役、社外取締役、常勤監査役、社外監査役等))、従業員(執行役員、内部監査室長、財務経理部長、総務部長、コンプライアンス室長等)や会社の顧問弁護士等のみで構成される調査体制。

②社内調査委員会に外部専門家を加えた調査委員会(社内調査委員会+外部専門家)

①の社内メンバーに会社と利害関係を持たない外部専門家が加わった調査体制。

③外部調査委員会

調査対象会社と利害関係のない外部専門家のみで構成される調査体制。いわゆる日弁連ガイドライン型の第三者委員会*2が含まれます。

調査形態の選定は、基本的には調査対象会社の判断に委ねられますが、不正の内容、発生金額や範囲、経営者関与の有無、株主や投資家等の利害関係者や社会への影響度合い等を勘案して決定されます。
調査報告書の調査形態を見ると、「外部調査委員会」が最も多く約58%(165件)を占めています。また「社内調査委員会+外部専門家」は約24%の68件、「社内調査委員会」は約18%の50件と、最も件数が少ない結果となっています*3(図表5)。
また、経営層*4および監査役(以下、経営層等とする)が不正に関与した事案(134件)においては、約93%にあたる125件で「外部調査委員会」もしくは「社内調査委員会+外部専門家」が設置されており、調査形態の独立性を担保しようとする意図が窺えます。
なお、本稿はTDNetで公表された上場会社の事案を集計対象としており、上場会社では多数のステークホルダーの存在や社会的影響度を考慮した結果、より独立性・中立性が確保された調査体制が求められるケースが多いということも背景にあると考えられます。特に経営層等の関与が疑われるような事案は、調査体制が経営層等から独立して中立的な立場で調査を行う必要があるため、多くのケースにおいて社内調査委員会以外が選択されています。

*2 2010年12月17日改訂 日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」 https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/100715_2.pdf

*3 本レポートが対象とした調査報告書(計298件)のうち調査形態が不明の15件を除く。

*4 本稿における経営層とは、取締役、執行役、執行役員を指します。

図表5:不正の調査形態

また、図表6は、各調査形態がどの不正分類の調査を実施したかを比較したものです。ここからは、すべての不正の種類において、外部調査委員会による調査がほぼ過半数を占めていることが読み取れます。これは、結果を公表する前提で行う調査では、独立性や専門性が担保されやすい外部調査委員会の形態が選ばれやすいためと考えられます。また、不正の種類によって特定の調査形態が選好される傾向は見られない結果となっています。

図表6:各調査形態における不正の分類

(2)各調査形態における委員の構成

調査委員会の構成員は、多くの場合、弁護士や公認会計士が選任されます。特に「外部調査委員会」「社内調査委員会+外部専門家」が設置された事案の78%で弁護士が委員長に選任されています。また、公認会計士の調査関与も目立ち、「外部調査委員会」「社内調査委員会+外部専門家」が調査形態となった事案の約62%で委員長または委員に選任されています。

一方、「社内調査委員会」では、調査対象会社の役員(代表取締役や監査役など)が委員長を務めることが多くなっています。ただし、社外取締役や顧問弁護士が委員に選任される事例も複数あり、社外ステークホルダーの視点を調査に取り入れようとする姿勢が見られます。

(3)調査補助者

調査補助者は、当該事案の内容や調査委員会の意向に応じて選任されます。調査補助者の人員は事案ごとに大きく異なり、数人程度から100人超が関与するものまであります。
調査委員と同様、調査補助者も弁護士や公認会計士が選任されることが多い一方で、調査対象会社の役員やコンプライアンス担当部署、外部有識者(大学教授や元検事など)が補助者として調査に関わることもあります。
また、不正調査におけるデジタルフォレンジックの活用が浸透しつつある中、デジタルフォレンジック調査のノウハウを有する専門家が加わる事案も多くなっています。

執筆者

那須 美帆子

パートナー, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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平尾 明子

ディレクター, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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満行 毅

シニアマネージャー, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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山本 せかい

マネージャー, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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山上 雄也

シニアアソシエイト, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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フォレンジック通信

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グローバル経済犯罪実態調査2022 ―外部犯行者による不正の増加

本調査は、2022年に実施したグローバル経済犯罪実態調査の第1弾で、53の国および地域における1,296人からの回答結果を分析したレポートの翻訳版です。企業規模や業界別に見た発生率の高い不正、外部犯行者の種類、新たに台頭しつつある不正の兆候など、企業を取り巻く不正の現状について、さまざまな側面から分析しています。

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