生成AI―新たな働き方革命の波に乗る―テクノロジー最前線 生成AI(Generative AI)編(15)

知の未来図:生成AIが拓く思考の進化

  • 2024-05-15

1. 今はまだ万能ではない生成AI

PwCの調査レポート「生成AIに関する実態調査2023 秋」によると、9割近くの企業が生成AIを活用したいと考えていますが、実際業務に活用し始めている企業は3割程度に留まっています。それはなぜでしょうか。

既に世の中に広く知られているように、生成AIの出力内容は、ウェブ上の一般的な情報に基づくものであるものの、従来のITサービスのように内容を完全にコントロールできるものではありません。しかしながら、業務プロセスの自動化には企業固有の業務プロセスへ対応させることと、同じインプットからは常に同じ回答を出力するような100%の精度を担保させることが必要であり、これらが生成AIの業務活用を大きく阻む要因となっています。つまり、所定の質問に常に正しく回答することが求められるような、業務プロセスの自動化に適用させることにはどうしても難しさがあるのです。

2. 生成AIの真価は、従来のITサービスに求められるような業務プロセスの自動化ではなく、人間の思考プロセスを高速化・高度化することにある

では、どのようなシーンで生成AIを活用すれば、その真のポテンシャルを解き放つことができるでしょうか。それは、これまでのシステム開発では相対的に注目されて来なかった思考プロセスだと考えます。

従来の業務効率化アプローチにおいて、システムはインプット/プロセス/アウトプットのそれぞれが標準化可能な業務プロセスに適用されており、利用者の意思が介在し、標準化不可能な思考プロセスへの適用は困難でした。

しかし、生成AIのもつ「アウトプットをコントロールしづらい」という性質を踏まえると、この標準化が困難な思考プロセスとの相性の良さが認められます。多様なインプットを踏まえて幅広いアウトプットを生成することが求められる思考プロセスにおいては、逆に言えばあらかじめ決められた範囲でアウトプットを出力することを保証する必要がありません。加えて、生成AIは人間よりはるかに速く、多くのインプットを収集し、アウトプットを生成することが可能です。

これらの性質を踏まえると、多くの業務の標準化および自動化が進められ、業務時間の多くを思考プロセスが占めるようになった現代社会においては、思考プロセスの高速化および高度化にスコープを絞ることが、生成AI活用の勝ち筋の1つであると考えます。

3. 生成AIを使いこなすために、私たちに必要な取り組みとは

上記の仮説が成り立つ場合、これまで述べたような思考プロセスに生成AIを適用させるために私たちは何を試みるべきでしょうか。

それは思考プロセスを定義するための「暗黙知の形式知化」です。なぜならば、従来私たちがシステムを導入する際に業務を標準化したように、生成AIに思考させるためには、その思考方法を他者に伝達できるように形式知化することが必要となるからです。

形式知化にあたっては、①メタ認知を通じて自己の思考を再考するスキルと、②クリティカルシンキングを使い、自己の思考における曖昧さや飛躍を発見するスキルの2つが求められます。

まず➀のメタ認知によって、自己の思考における情報整理プロセス(どのような観点で情報を結び付け、同列に並べるか)と意思決定メカニズム(同列に並べた情報に対して、どのような観点で重みづけを行い、意思決定を行うか)を明らかにします。次に②のクリティカルシンキングにより、メタ認知によって明らかにしたプロセスやメカニズムに対して、自己のバイアスや、まだ明確になっていないプロセス(暗黙知)がないかを検証します。

この2つの取り組みを繰り返すことにより、暗黙知の形式知化が進み、思考プロセスを生成AIに担わせるためのプロンプトを作成することができます。

4. 生成AIとともに、私たちも進化する

「生成AIを使用すると、人は思考力を奪われてしまうのではないか」との懸念がありますが、実は上述のとおり高度な思考力が必要であるため、生成AIの活用を進めることで人の思考力はむしろ強化されると考えます。また、暗黙知の形式知化を通じて生成AIの品質が向上すれば、その生成AIを利用することで人は新たな気づきを獲得し、思考の幅や深さを広げることができます。

このサイクルを形成することで、どちらかが排斥されるようなことなく、ともに進化を続ける望ましい未来に行きつくことを、私たちは目指していくべきであると考えます。

執筆者

大髙 雅貴

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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芹澤 咲

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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